東方生還記録   作:エゾ末

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今回は短めです。


十四話 無謀な作戦

「諏訪子様正気ですか!?」

 

「我々はどうなるのです! 統括者である諏訪子様がいなくなったら我々はこれからどうすれば……」

 

「私がいなくなるわけではないでしょ」

 

「しかし! 衰退するのは必然です!」

 

 

 諏訪子の発言に猛抗議しているのは、消火活動を終えたミシャグジ達だった。

諏訪子の言い分を聞いて尚ミシャグジ達の抗議は鳴りやまず、少ししてキレた諏訪子が神力全開で脅して黙らせたが。

 

 

「ほう、そこの巫女とは違って話の解る御方ですね」

 

「なにを!」

 

 

 使者はその場で納得したように笑い、諏訪子に向かって歩いていく。

 

 

「私がこの国に来る道中の森、大戦があった後のように荒れ果てていた。折られた木々はまだ新しかったのをみても、我等が知らぬ間にこの国で大戦を終えたばかりなのだろう」

 

「それって熊口さんが……」

 

「そ、そんなに荒れ果ててたの?」

 

 

 大戦があった後のようにって……恐らく、というか絶対おれと幽香が戦った森のことを言ってるよな。

 そうかそうか。そんなに酷いことになっていたのか……後でちょっと見てこよう。

 

 

「戦を終えたばかりでこの国の者達も疲弊しきっている。そんな状態で我等が大和の国とは到底渡り合えない。

 それを見越した降伏なのでしょう、洩矢の神」

 

「多少違うけど、見立ては間違ってないよ」

 

 

 あ~、読めたぞ、諏訪子の魂胆。

 

 

「諏訪子、自分を犠牲にしてこの国の皆を護ろうって考えてるのか」

 

 

 自己犠牲の精神か。人のこと言えないが馬鹿なこと考えるよな。

 

 

 

「……私がいなくても、信仰の対象がいなくなるわけではないし、大和という強大な盾があればこの国も安泰でしょ。これが一番効率的に国の存続に繋げられることなんだよ」

 

「諏訪子様、生憎私は諏訪子様以外信仰するつもりはありません!」

 

 

 早恵ちゃんの叫びも首を横に振って拒絶し、近づいてくる使者の方を向く諏訪子。

 ……これまでは自分ばかりがしていたから気付かなかったけど、自己犠牲をされているのを見ていると、ただただ悲しい気持ちになる。

 月に行った皆も同じ気持ちだったのだろうか。

 

 

「この事は大和の尖兵である神奈子様に伝えておきます。それでは、私はこれで」

 

「待って。遠路はるばるここまで来たんだ。一日ぐらいここで休んでいったらどうだ。生斗、あんたの家大きいんだから一人ぐらい泊められるよね?」

 

「えっ? ああ、いいけど」

 

「ありがたき御言葉。実は少し疲れが溜まっておりましてな。甘えさせていただきます」

 

 

 なんかスムーズに話が進んでいくな。

 こうもあっさりなのか。こんなにも呆気なく国を明け渡されるものなのか。

 と、拍子抜けな状況を傍観していると、視界の端にいた筈の早恵ちゃんが居なくなっていることに気付いた。

 首を振って辺りを確認しても早恵ちゃんの存在を認識することはできない。

 あれ、早恵ちゃんの奴、一体どこへ___________

 

 

「……!」

 

 

 何か嫌な予感がする。これはよく戦闘中に相手を見失ったときと同じ感覚だ。

 おれの目線上にいないということは__

 

 

「上か!」

 

 

 そう上空を振り向くと、そこには使者に向かって物騒な御札を投げる瞬間の早恵ちゃんが映った。

 

 

「避けろ!」

 

 

 と言っても何事か理解していない使者。くそっ、そりゃ知らない奴にいきなり言われて反応してくれる奴の方が少ないか。

 

 

「なに言ってんの生斗、いきなり大声出して」

 

 

 諏訪子が声を出しているうちに早恵ちゃんから御札が放たれ___

 

 

「いいから! 二人ともそこから離れ……あれ?」

 

 

 早恵ちゃんから御札が放たれてない?

 おれが目視した時には投げる直前だったというのに。

 一向に起こらない状況に疑問を感じ、おれはもう一度空を見上げると、気絶した早恵ちゃんを抱える翠が降下していた。

 

 

「どうやら、戦を起こさざるを得ない状況にしようとしていたようですね」

 

 

 諏訪子の目の前で着地して、事情を説明する翠。

 あいつ、いつの間にあんな空までいって早恵ちゃんを気絶させたんだ……ってあいつ飛べたのか!? この前飛べないって言ってたのに!

 

 

「使者を殺そうとしたってこと?」

 

「そのようです」

 

「……はあ。常々すまない、この子はあんたが帰るまで牢に縛っておく」

 

「あ、ああ、そうしてくれるとありがたいです」

 

 

 ほんと物騒だな、早恵ちゃんも。それほど諏訪子のことを信仰しているってことなのか。

 その存在を少しでも助かる方法として、戦を起こそうとしたってところか。

 

 

「今日はもう生斗の家でゆっくりしていきな。

 あっ、そういえば生斗、あんた怪我大丈夫なの?」

 

「ん? あっ」

 

 

 しまった。ゆっくり休もう作戦が……

 

 

「大丈夫なら家まで案内してあげて。彼にはゆっくり休ませてあげたい」

 

「ああ、わかった。丁度おれもそこの美男子に聞きたいことがあったし」

 

 

 別に泊めることに抵抗はない。ただおれの家だともれなく毒舌の幽霊がついてくる。

 まあ、流石に客人に対して無礼は___ちょっと待って、余所者のおれの時でさえ凄い無礼を働かれまくったから大丈夫だとは言い切れないぞ。

 

 

「大丈夫だよな!」

 

「何がですか」

 

 

 翠の方を向いて確認をとるが、当の本人はなんのことだとおとぼけの様子。

翠さん惚けるの下手くそですね。

 

 

「とりあえず、あんたも疲れただろう。おれも疲れた。

 家まで案内するからついてこい」

 

「よろしく頼む」

 

「あっ、私も行くんで中に入れてください」

 

 

 そう言って翠はピョンと背中から入っていく。

 

 

「あれ、今の女子は何処へ……」

 

「気にしなくていいよ。ほら、疲れてんだからさっさといくぞ」

 

 

 使者の背中を叩き、先へと促す。

 はあ、何事もなければ今頃夢の国に行ってたのになぁ。

 やらなきゃいけないことができてしまったせいでまだ寝られなくなっちゃったな。

 

 

「あっ、諏訪子」

 

「なに?」

 

 

 言い忘れていたことがあった。

 

 

「おれも早恵ちゃんやミシャグジと同じ、お前に消えてもらったら困る。折角友達になれたばかりなんだからな」

 

「えっ」

 

 

 今はこれだけ言っておく。

 おれだってこのまま引き下がるつもりは毛頭ない。おれは早恵ちゃんとは違うやり方で解決法を導き出すつもりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________________________

 

 

 ーーー

 

 

「うわ、ちょっと埃被ってるじゃん。掃除してなかったのか?」

 

『仕方ないじゃないですか。私は敷地内しか移動できないんですよ。したくても出来なかったんです』

 

 

 我が家に帰ってきたはいいが、部屋中埃が被っていおり、空気も光の反射で埃が舞っているのが分かる程に汚れていた。

 

 

「ちょっとごめん、そこの置物にでも座っといて。掃除するから」

 

「お主の家ではないのか? 人が住んでるにしては埃被ってるようだが」

 

「ついこの前までおれ、瀕死で諏訪子んとこの家で看病してもらってたんだよ」

 

「なるほど、さてはあの森での先の戦で負った怪我だな? それにしては傷は何処にも見当たらないが」

 

「さっきの馬鹿幽霊のおかげさまでな」

 

『誰が馬鹿ですか変態邪陰湿野郎』

 

 

 おっと、三倍返しで悪口が帰って来た。

 ほんと減らず口だよな、翠って。今すぐその生意気なこめかみを強く握り締めたいところだ。

 

 

「なんと、あの方は幽霊だったのか」

 

「ああ、今も絶賛おれの脳内で毒吐いてる」

 

 

 さっさと成仏すればいいのに。

 あっ翠、雑巾って何処にあるっけ。

 

 

『そんなものありません、その小汚ない手で拭いてください』

 

 

 そしたらまた汚れるだろ。

 

 

『んー、それもそうですね。庭に雑巾がけがあります。そこから適当にとってください』

 

あるのなら最初から言いなさいよあんた。

 ……ていうか雑巾がけっていつぶりだろう。兵士時代は全自動でしてくれるお掃除ロボットがいたから全然やってないんだよな。

 

 

「私も手伝おう。見ているだけともつまらぬからな」

 

「いいよ、客人なんだから。ま、どうしてもってのなら玄関前の木の葉でも掃いてくれ」

 

「承知した」

 

 

 頷いてさっさと外へ出ていく使者。中々出来た子だな。

 そういえばなんであの使者はここを早々に出なかったのか。来て早々命を狙われたというのに。おれだったら疲れていてもそんな国で寝泊まりしようなんて考えない。さっさと安全なところへ逃げおおせる。まあ、人によるけどな。あいつがちょっと変わった奴と考えれば済む話だ。

 

 

 

『言い方的に掃除やらせる気満々じゃないですか』

 

 

 なに言ってんだ。少しでも手があった方が掃除が早く終わるってもんだろ。

 わかったならさっさとおれからでてお前も掃除手伝え。元はお前の家なんだから。

 

 

『元じゃありません。今も私の家です」

 

 

 そう言いながらおれの背中から出てくる翠。

 正直気持ち悪いから出るならこの前のように霧状になってから出てほしい。

 

 

「さっ、ぱっぱと終わらせて相手から情報を引き出しましょう」

 

「……おまえ、さらっとおれの心読んだな」

 

「いいじゃないですか、減るもんじゃないんですし______それよりも、熊口さんの考えた作戦、浅はかで成功の確率は殆どありませんよ」

 

「そんなのおれだってわかってる。でも___」

 

「やらないよりはましだ、ですよね。分かってます、だから仕方なく手伝ってあげるんですよ。感謝のあまり号泣してください」

 

 

 泣くことを強要されて泣く奴はそうはいない。

 ほんと、心を読まれるってやりにくいな。此方が思ってることを事前に知ってるからそれに適した返しをされてしまう。

 

 

「さっ、口ではなく身体を動かしてください。私は布団を干してきますから」

 

 

 とりあえず掃除を済まさなければ。埃被ったところで寝たくはない。

 まずは箒で埃を外に出して____

 

 

 こうしてちょっとした大掃除は、日が暮れる少し手前程まで続いた。

 因みに使者は超絶不器用だったみたいで、床拭きを手伝うといいながら床に水をばらまいたりしたおかげで余計に時間がかかってしまったのはまた別の話。

 

 

 




今頃言うもなんですが、
ほんとは元ネタの八坂刀売神という名にしても良かったのですが、話がややこしくなったりして分からなくなる可能性があったので、この物語の神々については元ネタとはかけ離れた感じとなっております。

あと、前作では翠は日光にあたると悶絶していたのですが、今作では家の敷地内に限り日光に当たっても大丈夫なように変更しております。

生還記録の中で一番立っているキャラ

  • 熊口生斗
  • ツクヨミ
  • 副総監
  • 天魔

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