東方生還記録   作:エゾ末

43 / 115
十三話 呆気ない国譲り

 

 

「……」

 

 

 軍事国家、大和。天津神。国取り。一つだけでも深く聞きたい事を一度に教えられたおれの頭は軽くショートする。

 天津神ってなんだ? ていうかそんなのが国取りしてるってどういうことだよ。神様は神様同士仲良くすればいいのに。

 

 

「じゃ、ちょっと使者の話聞いてくるから。生斗はここでゆっくりしてなよ」

 

「ああ、わかった」

 

 

 出来れば大和の民がどんな奴なのか拝みたいが、なにも無しについていくのは駄目だろう。

 国に関わる重大なことなのに余所者のおれがついてきて何かやらかしでもしたら目も当てられない。

 

 

「今は東風谷が対応していますのでお早く」

 

「わかった」

 

 

 そう言って諏訪子とミシャグジは早々に部屋から出ていく。

 

 

「お前は行かなくて良かったのか?」

 

「私ですか? 客の前にいきなり現れたら驚いて失禁する可能性があるので行きませんよ」

 

 

 失禁って……翠が急に出てきてもうわっ、なんだ? 程度しか驚かないぞ。

 

 

「さて……」

 

「あれっ、なんで立つんですか? 寝るっていってたのに」

 

「国取りの使者がどんな面なのか拝んでやろうと思ってな」

 

 

 あいつらの立ち会いに参加する気はない。奥から除く程度だ。

 ほら、やっぱりいくつになっても好奇心って湧くもんだろ?

 思いたったが即実行。諏訪子の後をつけるため、おれも部屋から飛び出す。

 

 

「おい、なんで翠までついてくるんだよ。二人だとバレるだろ」

 

 

 が、おれの後ろに金魚のフンの如くついてくる翠。なんだこいつ、おれに行ってほしくないってか、ツンデレってか!

 

 

「私も見に行きたいです。この国に害を及ぼす存在を拝んでやります」

 

「なら別の方向から行け。二人同じところにいたら物音とかが煩くなるだろ」

 

「ここから応接間までの道は一本しか無いんですよ。それに私が物音を立てるなんてへまするわけないじゃないですか」

 

 

 ていうかそもそもこそこそする必要があるのか疑問なところなんだが、用心に越したことはない。

 

 

「さっ、行きますよ。使者暗殺作戦決行です!」

 

「はい!? 何故にそんな物騒な話になった?!」

 

 

 殺害なんてしたらそれこそ戦争に発展するぞ。

 諏訪子だって戦争まで発展はさせたくないはず。今回の使者をどう対処し、切り抜けるかがこの国の命運を決めるといっても過言ではない。

 それにおれが大和の使者を見たいのにはもう一つ理由がある。

 それは___

 

 

「あっ、翠先に行くなよ!」

 

「しっ! 静かにしてください!」

 

 

 くっ、翠だって充分すぎるほど煩いくせに……

 そういえばおれ、この家の構造なんて全然知らないから、こんなちょっとした迷路を一人で行ったらさ迷う結果になりそうだ。

 静かにするのなら翠についていった方が確実に応接間に行けるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「あれっ、ここを曲がって……やっぱり違いますか」

 

「……」

 

 

 寝ていた部屋から出て十分、おれと翠は無駄にいりくんだ廊下をさ迷っていた。

 

 

「お前を信じたおれが馬鹿だった」

 

「し、仕方ないじゃないですか。私だってここに来たの数年ぶりなんですから」

 

 

 それでも数日間はこの屋敷にいたんだろ。その間に思い出しとけよ。

 と返そうとしたが、言ったところで聞きたくもない言い訳をされるだけと分かっていたので目だけで訴えかけておく。

 

 

「ミシャグジの一匹でも見つけられればいいんだけど」

 

「あっ、ミシャグジ様の数え方は柱ですよ。本人の前で匹だなんて数えたら怒られますからね」

 

「そりゃあ器が小さいこったな」

 

 

 苦笑いをする翠を横目に、おれはこれからどうするかを考える。

 どうする……一旦外に出てこの神社の関係者を探すか、戸越から一部屋ずつ聞き耳を立てていくか___

 

 

「ふざけるなっ!!」

 

 

 と、ここから然程遠くない部屋から怒号と共に爆発音が響き渡ってくる。

 誰だ、今の声。女っぽい声だったが諏訪子の声ではなかった。

 ミシャグジ達は総じて皆ドスの聞いたワイルドボイスだし……

 

 

「あの声は早恵ちゃんですね。行きましょう」

 

「あの声早恵ちゃんなの!?」

 

 

 中々の低い声だったぞ。あんな可愛らしい声音なのに……

 

 

「って、なんで翠、早恵ちゃんの声だってすぐわかったな」

 

「…………し、親友でしたから当然ですよ」

 

 

 あっ、こいつ、何回か早恵ちゃんを怒らせたことあるな。

 目がめちゃくちゃ泳いでる。

 

 

「ほら、そんなことより早く行きましょう!」

 

「お前、はぐらかすの下手だよな」

 

「なんのことですか?」

 

 

 ……まあ、いいか。こんなことより早恵ちゃんの怒りの原因が何なのか知りたい。

 

 確か爆発音はこの廊下の角を右に曲がった部屋辺りから聞こえてきてたよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 おれ達が爆発音のした部屋に辿り着き、そこで見た光景は、あまりにもツッコミどころが多過ぎて思わず呆けてしまうほど混沌としていた。

 

 

「だから言っておる! 我等の傘下に入ればお主らの神も消滅せずに済むのだぞ!」

 

「それでも衰退するのは目に見えている! そもそもあんたらなに偉そうに国を譲れだ、無礼にも程があるだろ!!」

 

 

 まずは部屋、爆発音がしたからもしやと思ったが、やはり爆発が起こった跡地のように床が焼き焦げている。

 しかしまだ火が消しきられておらず、イチ◯ツの化身達が慌てて消火活動を行ってはいるが、まだ消火までには時間がかかりそうだ。

 諏訪子はその火に飲まれた部屋の真ん中で顎に手を当て、考え込む形で固まっており、その姿からは正座した『考える人』と思わせるような静止っぷりだ。

 

 そしてこの火事の当人であろう早恵ちゃんは、使者であろう男と外に出てイチャイチャしてる。

 

 

「早恵ちゃんが私以外でデスマス口調じゃなくなっている!? これは相当怒ってますね」

 

 

 それにしても、ほんと驚いたな……いや、これまで敬語ばっかり使ってた子が声を大にして叫び散らしているなんて驚かない方が可笑しいか。

 それともう一つ驚いたのが神の信仰事情について早恵ちゃんが知っていたことだ。

 神の殆どは人の信仰を糧に存在する想像の具現化だと、ツクヨミ様から教わった。ツクヨミ様は元々から神とのことだが、神の半数以上はその場合で生まれるらしい。

 あれ、もしかして諏訪子の言っていた天津神やらなんやらってそれが関係しているのだろうか。

 ……とにかく、信仰が源とする神がそれを失えばどうなるか。

 答えは簡単、消滅する。早恵ちゃんはそれを分かっていたから怒っているのだろう。自分の信仰する神を殺せと言ってるようなもんだからな。

 傘下になれば信仰も大和の方に流れて諏訪子は衰弱する。そうなれば更に立場を失って信仰は薄れていく。

 おれはその負の連鎖を危惧していた。国譲りはそれほどハイリスクな事だ。

 まさかそこまで考えて怒っているとしたら、これからの早恵ちゃんの事を見直さないとな。これまでずっとアホな子かとおもってたし。

 

 

「それにしてもあの使者凄い美男子ですね」

 

「ああ、憎たらしいことにな。顔面ぶん殴ってやりたい」

 

「おい、そこの二人! 手が空いてるのなら消化を手伝ってくれ!」

 

「嫉妬ですか? 見苦しいですよ」

 

「うるせぇ、お前にモテない人間の気持ちがわかってたまるか」

 

「む、無視……だと!!」

 

 

 女友達は結構いるとはいえ、いまだにおれは彼女いない歴=年齢だ。

 ほんと、何がいけないんだか。こんないい男をほっとくなんて。

 

 

「さっさと帰れ! 此方は譲る気なんて更々ない!」

 

「いいのか!? 戦になるぞ!」

 

 

 早恵ちゃんは……うん、あれだな。理解した上で馬鹿なことをしちゃう中々質の悪い子ってことがわかったな。

 使者を襲うなんて宣戦布告しているようなものだ。

 もし戦争になるとしても準備期間というものがあるのとないのでは天と地ほどの差がある。力量差があるのなら尚更だ。

 相手は国攻めを得意とする戦闘集団。そんな連中に策無しで突っ込んだって無駄に墓場を増やすだけだ。

 

 

「止めた方がいいんじゃないか?」

 

「いや、何気に使者も早恵ちゃんの攻撃をすべて避けてますし、まだいいんじゃないですか? もう手をつけた時点で手遅れですし」

 

「まずは火を止めろぉ!

 諏訪子様もそこで考え込んでないで何とかしてくださいよ!」

 

 

 無数に放たれる御札を変な舞いで避けていく使者。背中に青銅の剣を背負ってるのによくあんな動きできるな。

 服装は弥生時代風の貫頭衣っぽいが、妙にヒラヒラしていて、回るごとに袖の無駄に長い部分が派手に舞っている。

 

 

「話の通じない小娘だ! そちらがその気なら此方にだって手があるのだぞ!」

 

「ふん、さっさと貴方の首を切り落として大和に送りつけてやる!」

 

 

 さらっと恐ろしいこと言うな……

 それじゃあこの国を襲った妖怪が翠にしたことと同じだぞ。

 それとも、無意識にそれが最も残酷なみせしめだと思い込んでしまったのか。

 

 

「流石に止めよう。このままじゃどちらも只では済まなそうだぞ」

 

「はあ、じゃあ私は早恵ちゃんを止めるので熊口さんは使者を」

 

「ああ、わか___熱っ!?」

 

 

 くっ、飛び火が太股にかかってきた。

 

 

「ほら! 私の言った通りにしておれば火傷などしなかったぞ! 罰があたったのだ罰が!!」

 

「あ~、ミシャグジさん、ごめんなさい。今隣にいたの気付いたわ」

 

 

 隣にいたミシャグジの存在を認識したおれはのけぞりそうになるのをなんとか我慢して冷静に対応する。

 こんな怪物が横にいたのに全然気付いて無かったなんて、それほど早恵ちゃんの豹変っぷりにショックを受けてたのか。

 

 

「熊口、貴様……」

 

 

 姿からしてあまり想像できないが、声からして何処か寂しげな様子のミシャグジ。ちょっと可哀想なことをしてしまったようだ。

 

 

「ごめんミシャグジ。これからはちゃんと構うからさ」

 

「……まずは私に敬意を持て」

 

「ぜ、善処します」

 

 

 敬意を、か。あまり敬語使うの苦手なんだよな。

 あっ! この人は! だったり職場の立場的に使わなければならない人には使ってたけど。

 因みに前者の代表格は永琳さんとツクヨミ様ね。

 

 

「ちょこまかと蝿のように舞うな!」

 

「貴様こそさっさと我が剣の錆にならんか!」

 

 

 あ~あ~目を離した間に本気の殺しあいに発展しちゃってる。使者は剣をとり、早恵ちゃんは無数の御札をそこらかしこにばらまいで御札の弾幕を形成している。

 あれはひょっとしなくても流れ弾で辺りにも被害が出るな。

 

 

「取り敢えず止めるぞ! あれ以上は危険だ!」

 

「はい!」

 

 

 翠と共に部屋から庭に出て、御札の弾幕の中を駆け抜ける。

 くっ、早恵ちゃんのやつ懐にどんだけ御札いれてんだよ!

 簡単に近付けな_____

 

 

「「「「「!!!!?!」」」」」

 

 

 弾幕を掻い潜り、少しずつ二人へと近づく最中、先程でた部屋からとてつもない力を感じたおれは、思わず足を止める。

 その愚な判断はおれだけでなく翠、使者や弾幕の根元の早恵ちゃんまでもがしていた。

 この境内を覆い尽くす圧倒的な神力の正体は少し考えれば想像がつく。

 

 

「早恵、いい加減止めな。私の国を滅ぼすつもり?」

 

「いえ! そんなつもりは……」

 

 

 ___やはり諏訪子か。背筋が凍る、まるで大蛇に身体を巻き付けられてるような不快な神力がまとわりつく。

 同じ神でもこうも神力の質が違うのか。ツクヨミ様のはこんな気色の悪い気は全くしなかった。

 恨みのこもったような、そんな人の負を現したような神力だ。

 

 

「大和の使者よ。うちの巫女が無礼を働いた。本当にすまない」

 

「全くです。洩矢の巫女は皆こうなのですか」

 

 

 抜いた剣を下ろし、鞘に納める。

 一瞬にして静まった空気の中、宙を浮き、早恵ちゃんの元へ向かう諏訪子。

 途中まで向かっていたおれと翠は、突然の状況を固唾を飲んで傍観していた。

 

 

「早恵、ほんとにごめん」

 

「えっ……」

 

 

 早恵ちゃんの元へと辿り着いた諏訪子は、何か話しているようだが、二人から少し離れた場所にいるので、全然聞きとることができない。

 何か話しているのは確かなんだ。もう少し近づいてみてみようか……

 と、思案しているうちに諏訪子は使者の方へと向き直り、

 

 

「大和の使者よ。国譲りの書状、しかと受け取った。

 こんな辺鄙な国でよければ是非差し出そう。」

 

「はっ?」

 

 

 とんでもないことを口走っていた。

 

 

生還記録の中で一番立っているキャラ

  • 熊口生斗
  • ツクヨミ
  • 副総監
  • 天魔

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。