東方生還記録   作:エゾ末

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十二話 交差する思い

 

 

 大妖怪が近辺で出たということで国中大騒ぎとなって数日、漸く事態が沈静化してきたこの頃に、とある来訪者が洩矢の国へと近づいていた。

 

 

「なっ、何故ここまで森が荒れ果てておるのだ……」

 

 

 その来訪者が、洩矢にまた新たなる嵐を呼び込もうとは、今の段階では国の者は誰一人として想像もしなかった___

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 二度寝から目覚めたおれは、目の前にいた翠から何故かいきなり十字を極められてしまった。

 突如として起きた出来事。おれが起きて五秒程度の時間差で翠が飛びかかってきて腕を極め始めたのだ。

 そんなのに反応できるはずもなく、為す術なく腕を極められたおれは一瞬で理解する。

 

 

「(あっ、これ、完全に極ってるやつだ)」

 

 

 完璧に極められた関節技を抜けられるのは圧倒的に力に差がある以外にはまず外すことはできない。極められた腕から感じる、女の腕力とは思えない凄まじい力でおれの関節を逆に曲げようとしてくる。

 これ、おれより力強くない? 折られないようにするので手一杯なんだけど……

 

「い゛た゛た゛た゛た゛た゛! やめて!? なんで起きて早々関節極められなきゃいけないの!? おれなんか悪いことでもした!!?」

 

 

 心の中では悠長に考えてはいるが、実際はほんとにキツい。さっきですら寝起きにイチ◯ツみせられたのにお次は右腕を折られるんですか。

 なに、おれの寝起きをそんなに深い極まりないものにしたいのかここの連中は!

 

 

「よっくもまあ二度寝しましたね! どれだけ私に手間をかけさせるんですか!」

 

「はあ!? 二度寝の何が悪いって言うんだよ!!」

 

「その二度寝から貴方三日も起きなかったんですよ!」

 

「三日!?」

 

「だから私が態々また起こしてあげたんです! 感謝しなさい!」

 

「関節極められながらじゃ感謝もしようがない!!」

 

 

 みしみしと嫌な音が腕から聞こえてくる。

 起こしたってただ揺らしたとかそんな程度のことだろ。それで関節技かけられるなんてこっちからしたらたまったもんじゃないぞ。

 

 

「さ、騒がしいと思ったら早速やっちゃってんの翠……」

 

「諏訪子! 助けてくれ!」

 

 

 戸が開かれ、恐る恐るといった感じに顔を覗かせてきた諏訪子に助けを求める。

 諏訪子には少々の恨みがあるが今はそんなことを言ってる場合じゃない。ほんとに腕を折られてしまう。

 

 

「ね、ねぇ、少しは労ろうよ。まだ生斗の傷は完治してないんだよ」

 

「大丈夫です! 少しの運動なら大丈夫な程度に治しましたから!」

 

「そういう問題じゃないだろ!?」

 

 

 そういえば抵抗してるときにあまり痛みが生じてないけど、これは翠が治してくれたってことなのか?

 

 

「本気で! 本気でこれ以上やったらわたくしの右腕が曲がってはいけない方向に曲がってしまいますから!

 翠様どうかお止めくださいお願いしますからぁ!」

 

「翠、流石にもう止めな、生斗は恩人だよ。自分の誠意を馬鹿にされたからってむきになり過ぎ」

 

「……っ」

 

 

 諏訪子の指示に不本意ながらもおれの腕を放す翠。

 うぅ、ギリギリだったな……折れてはいないが筋が無理矢理伸ばされて痛みが残っているけど。

 

 

「な、なんだ翠、おれお前に何か嫌なことでもしたのか? したのなら謝る」

 

「いいですよ、その事は謝らなくて。夢の中の事ですから。そもそも身に覚えのないことで謝られたところで納得出来ませんし」

 

「お、おう……」

 

 

 夢の中での事……駄目だ、光に吸い込まれたこと以外何も思い出せない。

 

 

「生斗、翠を許してあげて。ちょっと鬱憤がたまってるだけだから」

 

「折れなかったから別に大丈夫だよ。おれにも比があったようだし___それよりも諏訪子さん」

 

「なに?」

 

「おれに何か言うことあるよね?」

 

 

 一難去ったからこそ言える。ミシャグジに膝枕&耳掃除というやられている側からしたら罰ゲーム以外の何物でもないことをさせてきた。しかも寝起きだったから驚愕も含めて倍はショックが大きかった。

 何をそれぐらいでむきになるかと思われるかもしれない。

 

 だが考えてみろ。心地の良い目覚めに頭部が完全にイチ◯ツの形をした怪物に膝枕をされていたんだぞ。

 膝枕をされていたんだぞ。

 ひ ざ ま く ら をされていたんだぞ!! 永琳さんにもしてもらったことないのに!!!

 

 

「え? あっ、そうだよね。え~っと……ありがとう?」

 

「は?」

 

「え?」

 

「なんでありがとうなんだよ。他に言うことがあるでしょうが、ほら!」

 

「他にって……(まさか物を要求してるの?) よし、わかった、(これまでの謝罪も含めて)土地をあげる。それで手を打って」

 

 

 土地あげるってそんなに悪く思ってるのか?

 

 

「ならなんであんな陰湿なことしたんだよ!」

 

「(あんなこと? まさか疑ってたことの理由を……)仕方ないことだったんだ。この国を護るためにしたことなんだよ」

 

「この国のため!?」

 

 

 膝枕をさせることがこの国のため!?

 

 

「そうだよ、だから私はあんたを試した」

 

「他に方法あるだろ!?」

 

 

 なんで膝枕を試すんだよ! しかもミシャグジで! もっと適任者とかいたはずだ! ほら、そこの生意気な怨霊やお茶目な巫女とか!

 

 

「うん、生斗の言うとおりだよ。もっと他に方法があったんだ。それなのに……」

 

 

 そう言って顔を伏せる諏訪子。

 どんだけ膝枕させたことで後悔してるんだ。過剰すぎだろ……

 

 

「ほんとにごめん、生斗。あんなことはもうしないから」

 

「お、おう。やめてくれると助かる」

 

 

 深く頭を下げる諏訪子に、さっきまで声を大にして興奮していた自分が馬鹿らしく思えてくる。

 

 

「なんだか物凄い勘違いが偶然噛み合った気がします」

 

「翠、それはおれも思った」

 

 

 話が一段落したところで、おれはあることを思い出す。

 

 

「そういえばほんとに全然痛くなくなってるな……」

 

 

 今おれは胡座をかいている姿勢だ。二度寝する前は頭や腕を上げるだけでも激痛が走って身動きがとれなかったのに、今では関節を極められた右腕以外はほぼ通常時と変わらないぐらい違和感がない。

 

 

「それはもう、私の霊力は質が良いですから。治るのも早いに決まってます」

 

「ふぅん」

 

 

 翠の霊力がどう作用しておれを治したかは知らない。普通は他人の霊力を自分の体内に送ると大変なことになるからな。

 大体は体内の霊力が過剰な反応を起こすか変に混ざりあってで霊力の暴走が起きる。

 まあ、つまり身体の中で爆散霊弾が爆発するような感じだ。

 霊力の質が近かったりと運が良ければ回復に繋がるけど……まさか、

 

 

「なあ、もしかしておれの体内にお前の霊力流した?」

 

「はい」

 

「まじかよ!? 変に混ざりあったりして危なかったんじゃないのか!」

 

「あっ、大丈夫です。私が熊口さんに取り憑いたことによって熊口さんの霊力の質が私よりに変わりましたから。感謝してください」

 

「はっ!?」

 

 

 質が変わったって……つまり質が変わったってことなのか!?

 

 

「大丈夫なのかそれ! 何か身体に影響とかは……」

 

「それも問題ありません。私が取り憑いている限りでは大丈夫です」

 

「翠が取り憑くのをやめたら?」

 

「身体の保証は出来ません」

 

「全然大丈夫じゃなかった!?」

 

 

 てことはつまり翠が取り憑くのを止めたら繋がりが消えて霊力が暴走するかもしれないってことか?

 くそっ、解らない。突然霊力の質が変わった奴なんてこれまで見たことないし……

 

 

「まあ、つまりは熊口さんは黙って私の指示に従っていればいいってことですよ」

 

「諏訪子、今すぐこいつを成仏してくれ」

 

「翠……」

 

 

 ほら、流石に諏訪子も呆れ顔になってるぞ。

 ほんと、翠のやつ他人の迷惑を考えていない。

 

 

「あっ、そうだ! 生斗、お腹空いてない?」

 

「ん? いや、そういえば全然お腹が空いてないな」

 

 

 寝ている間どうやって栄養摂取してたのかわからないが、今は腹は満ち足りたかのようにいっぱいだ。

 

 

「これも翠がやったのか?」

 

「ふっ」

 

「その笑い方からしてほんとに翠がやったの?」

 

「そんなわけないじゃないですか。買い被りすぎです」

 

「ならなんで笑ったんだよ!?」

 

「なんとなくです」

 

「紛らわしい!」

 

 

 翠の仕業ではないということは誰がおれの腹を満たさせていたんだ。

 

 

「あっ、そういえば……」

 

「どうした諏訪子。思い当たるふしでもあんのか?」

 

「いつも日が暮れる頃にミシャグジ達が未知の物体を持ってこの部屋に続く廊下を歩いていっていたような……」

 

「えっ、なにそれ怖い」

 

 

 なになに、未知の物体ってなんなんですか。怖いんだけど。ミシャグジ達は集団でおれに何をしたって言うんだ。

 この事は後で詳しく問い詰めなきゃいけないな。

 

 

「ま、まあ身体に異常はないようだし大丈夫なんじゃない?」

 

「諏訪子、お前には分かるか? 寝てる間に男の象徴にかこまれながら未知の物体で何かされている恐ろしさを」

 

「想像しただけでも吐き気がするね」

 

 

 おっと、吐き気を催すほどとは。

 諏訪子とミシャグジとの間に何があるのかはわからないが、ミシャグジは諏訪子のことを様付けしていた。ということは諏訪子は格が上ということだ。

 だというのに配下に吐き気を催すのはどうかと思うんだけど。

 

 

「まあいいか、この事は後にしておこう」

 

「それもそうだね___じゃあ他に何かしてほしいこととかはない?」

 

「いや、特にないな。眠気と身体の違和感が若干残ってるけど」

 

「そう、それじゃあもう二日間はここで安静しているといいよ」

 

 

 お、優しいお言葉。此方としては願ったりな事だ。今の発言はつまり、二日間ここでだらけていても許されるってことだろ。

 

 

「それじゃあお言葉に甘えて一眠りしようかね」

 

「うん、それがいいと思うよ……と、その前に。

 翠、ちょっとお茶でも注いできてくれない?」

 

「は、はあ、わかりましたが、まだ話すつもりですか?」

 

「うん、生斗がまた寝る前に聞きたいことがあるからね」

 

「聞きたいこと?」

 

 

 諏訪子がおれに聞きたいこと……大体のことは話したと思うし、他に気にかからせるようなことはないと思うけど___あ、そういえばあったな。

 

 

「なんだ諏訪子。そんなに気になってたのか」

 

「理解したみたいだね」

 

「ああ、でもまさか諏訪子が興味を持ってくれるとは思わなかったな」

 

「それはね」

 

「ん~、でも諏訪子の場合これより伊達の方がいいと思うんだよな。無理に掛けると子供感が増すだけだし」

 

「……えっ?」

 

「といってもこの時代にこの素材なんてあるかな。鼈甲を使えばなんとかなるとおもうけどまずおれ鼈甲をどうやって入手するかも分からないし……」

 

「ちょっと待って。生斗何か勘違いしてない?」

 

「んっ? グラサンのことを気になってるんだろ?」

 

「的外れもいいとこだよ」

 

 

 あっ、違ってたんですね。

 やはり諏訪子もグラサンの良さを分かってないあまちゃんって事か。

 

 

「なら他に何があるんだ? 諏訪子が知りたがってる事ってのは」

 

「月読見と生斗の関係のことだよ」

 

「ツクヨミ様と、おれの?」

 

「あんた、よく心の中で月に行ったという連中との思い出していたそうじゃん」

 

「えっ、なんでそれを……おい翠、こっちを向け」

 

 

 まじかよ、翠のやつおれの心の中で考えていたこと諏訪子に言ってたのか……ちょっとまって、てことはあんなことやそんなことまで___

 

 

「お茶いついできますね」

 

「逃げるな、まて! お前まさか全部言ったんじゃないだろうな!」

 

 

 おれの制止の呼び掛けも聞かず部屋から逃げる翠。あいつ、後でたっぷりと問い詰めてやる。特にごく稀に考えている邪なことについて!

 

 

「翠のことは置いといて、私はどうも気にかかってね。遥か遠い昔の連中との思い出が何故生斗にあるのかが」

 

「あ~……」

 

 

 翠がどこまで諏訪子に話したかは知らない。大まかにか、それとも詳細まで話したか。

 それが定かでない以上、下手な嘘はかえって墓穴を掘る事になる。

 だけど、どうしたもんか。別に本当のことを言ってもいい。実際問題おれがそれを諏訪子がどう捉えるかだった。戯言だと嘲笑うか妄言だとあしらわれるかのどれかだろう。

 しかしそれも今はその可能性は低い。諏訪子はツクヨミ様のことやおれに月の記憶があることを知っている。

 

 

「……聞いて被害妄想が過ぎるキチガイとか思わないと約束してくれるのなら言ってもいいけど」

 

「大丈夫、そんな恩知らずなこと言わないよ」

 

「そうか」

 

 

 言ってもいいか。別に隠すこともないし、諏訪子も知りたがっている。

 いいよな、いっちゃっても。本当にあのときのことを話すぞ。

 

 

「はあ、仕方ない。聞かせてやろうじゃないか。このおれの英雄譚を!」

 

 

 それからおれはいつの間にか翠が戻ってきてきいることも気付かないほど、あのときの出来事を熱く語った_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ーーー

 

 

「そこでおれは虚しく爆発に巻き込まれて月にいけなくなった____で、神によって助けられてこの時代まで飛ばされたって訳」

 

「あまりにも話がぶっとんでますね。よく諏訪子様に対してそんな子供ような嘘をつけるのかが理解できません。あっ、脳が赤ん坊並みだから仕方ないですね」

 

 

 翠の発言を無視し、おれは諏訪子の反応をうかがう。

 おれの能力のことを伏せて話したからちょっと事実と違っている部分はあるが、大体は真実を話した。

 これを聞いて諏訪子はどうでるのか……

 そんなことを考えていると早速諏訪子は咳をして口を開いた。

 

 

「ちょっと聞いていい?」

 

「なんだ?」

 

「生斗は月に皆を行かせるために特攻したんだよね」

 

「ああ、嘘のようだけど本当のことだよ」

 

「結局結構な数やられちゃってるよね。防衛戦での後陣然り、大妖怪が壁内に侵入を許したり」

 

 

 うっ、中々痛いところをついてくる。

 確かに出陣を遅らせたり何十匹も取り逃して結局壁内の奴等にも苦労を掛けさせてしまっていたかもしれない。

 

 

「まあ、その戦況下の状況によるけどさ。一ついえるのはそのときの生斗の行動は組織的に見れば最悪な行為だよ」

 

「うっ……」

 

「それを英雄譚と言っちゃってるあたりちょっと痛いですよね」

 

「……」

 

 

 二人の言葉という名の右ストレートが諸に入った。後一撃食らえば間違いなく泣くな、おれ。

 そうか、あのときのおれの行動は最悪なのか……

 己を過信した末の行動であったことは確かだ。結果幾つもの痛い目に遭った。

 だけど尚おれはあのときの行動は正しいと言いたい。兵士としては駄目でも、大切な友人達を守ることが出来たのだから。

 たとえそれを否定されてもおれはそれを間違いだと思ったりなんかしない。

 自分の決めた行動を簡単に否定なんかするもんじゃないしな。

 

 

「__ただあんたがどれだけ仲間思いかってことがわかったよ。それにその行為は個人的にはよくやったって褒め称えたいぐらいだね」

 

「えっ?」

 

 

 心の中で自分の行為を肯定していると、先程とは打って変わった発言をする諏訪子。

 おれの行動を褒めてくれたってことに正直に嬉しいが、それよりも___

 

 

「ちょっとまって。そういえば諏訪子、おれの話信じたのか?」

 

「なに、今さっきまでの話は全部嘘ってことなの?」

 

「いや、ほんとだけど……」

 

 

 おれでさえ、自分で話しているうちにどれだけ現実味のない浮世離れな出来事だったなと改めて感じていた。

 本人でさえ鼻で笑いそうな事なのに諏訪子の目は全く疑いの色に染まっておらず、まるで本当に信じているかのような真っ直ぐな目で此方を見ていた。

 

 

「確かにあり得ないと一蹴できる内容だったよ。でもあんたの話す声や目からは嘘を言ってる感じが全くしなかった。」

 

「また……」

 

「それに___私は生斗、あんたを信じると決めたんだ。もしこれが嘘で、生斗が信じた私を嘲笑おうと、決して後悔しない」

 

「諏訪子様……なにか悪いものでも食べたのですか?」

 

 

 お、おう。諏訪子の奴、急にどうしたんだ? おれの事を信じるって。

 

 

「これまでの生斗を見て分かったんだよ。あんたは基本的に嘘をつかない、正直なやつだって。だから信じてみることにしたよ。それに生斗だっていつまでも疑われたら気持ち悪いでしょ」

 

「ま、まあそうだけど」

 

「確かにこの人は基本的に頭の中お花畑ですけど」

 

「なあ翠。そろそろお前の頭に拳骨くらわせてもいいか?」

 

 

 折角諏訪子が真面目に話してるのに鼻を折るんじゃないよ。

 

 

「ま、とりあえずさ。これからもよろしくってことで」

 

 

 そういって右手を此方に向ける諏訪子。

 諏訪子に認められようとして頑張ったことは一つとしてないが、ありがたく認められよう。

 神から信頼を得た人間って何気に凄くないか?

 えっ、なに、お前は人間じゃないって? ちょっとなに言ってるのか分からないがとりあえず表でて話そうか。

 

 

「ああ、改めてよろしくな。なるべく諏訪子の期待に応えられるよう努力する」

 

 

 そう言っておれは諏訪子の差し出された右手を軽く握り締め、上下に振る。

 

 

「ふふ、別に答えなくてもいいよ。私はただ生斗と腹割って話せる仲になりたいだけさ」

 

「それはもうちょっとお互いを知ってからだな」

 

「それもそうだね」

 

 

 言葉を交わし、お互い軽い緩やかな笑いが起きる。

 

 

「さて、無事疑いも晴れたし、晴れやかな気分で寝られるな」

 

「そういえば寝るっていってたね」

 

 

 何故諏訪子がああも過剰に疑いの目をかけていたのかは知らない。たぶんおれが水上に急に出現したビックリ人間だったからだろう。

 だから特に深くは追及するつもりはない。

 

 

「悪かったね、邪魔して。お茶はどうする?」

 

「別に飲まないから戻していいよ」

 

「折角私が注いであげたのに飲まないんですか」

 

「だからだ。毒仕込まれてるかもしれないだろ」

 

 

 心外です! とのたまう翠だが、そう思わせるような言動をしてきたから文句は言えまい。

 

 

「まあ、これ泥水みたいな変な味しますが」

 

「飲まなくてほんとに良かったよ」

 

 

 おれの勘は正しかったようだ。

 まずこの時代のお茶がおれが知ってるお茶とはまた違っている可能性もあったし。

 

 

「んじゃ私達はおいとまするよ。ほら翠、行くよ」

 

「はい」

 

 

 そう言って二人は立ち上がり、部屋から出ようと戸に手をかけようとする。

 が、その手が戸に触れる手前、風が此方まで来るほどの勢いで戸が開けられたことによって阻まれた。

 

 

「諏訪子様! ここにおられましたか!」

 

「どうしたのミシャグジ、そんなに慌てて」

 

 

 開けたのはイチ◯ツの化身ことミシャグジ。急に目の前に現れたら普通なら絶叫するだろうその姿に諏訪子は全く動じることなく慌てている様子のミシャグジに事情を聞く。

 

 

「“大和”の使者が来ました!」

 

「!!」

 

「大和の使者?」

 

 

 大和、大和……うん、あのゴリラ隊長しか頭に浮かばないな。

 流石に違うだろう。諏訪子の驚いている反応からして大和という名の存在を知ってる様子だし、それがゴリラのことなら教えてくれる筈だ、たぶん。

 

 

「くっ、よりにもよって大妖怪が現れた時期にくるなんて……」

 

「なあ、諏訪子。大和って何なんだ?」

 

「……そうだったね。ここ最近目覚めたから生斗は大和の連中のことなんて知らないよね」

 

 

 そう言うと諏訪子は一度長い瞬きをし、一呼吸おく。

 雰囲気からしてただ事ではない感じがする。使者って言ってたからてっきり何か書状のやり取りをしてるものかと思ってたけど。

 そんなただならぬ雰囲気に唾を飲んでいると、諏訪子は長い瞬きを終え、衝撃的な事を口から言い放った。

 

 

「“大和”は数多くの天津神が暮らし、その領土を拡大のため辺りを武力で吸収する軍事大国だよ」

 

「力で吸収する……おいそれって___!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、国取りの使者が来たってことはつまり。大和は洩矢の国を乗っ取る気らしいね」

 

 

 

 

生還記録の中で一番立っているキャラ

  • 熊口生斗
  • ツクヨミ
  • 副総監
  • 天魔

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