東方生還記録   作:エゾ末

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タイトルやらかした感があります……


五話 男の象徴

 

 

 よくよく思えばこの世界には神やら妖怪やらが普通に存在している。

 そんなファンタジーな世界だというのに幽霊が存在しないなんて断定は出来ない筈なのだ。

 だというのにおれは浅はかな考えに身を委ね、幽霊屋敷で居眠りをした。

 その結果、おれは取り憑かれてしまいという馬鹿な結果を招いてしまった。

 自業自得と言えば確かにそうだろう。入る直前に早恵ちゃんからもいるかもしれないという予兆は聞かされていた訳だし。

 しかし流石にこんなに簡単に取り憑かれるなんて普通考えられるだろうか。

 

 

「熊口さ~ん、旅人って言ってましたけど一体何処から来たんですか? 是非これまでの冒険譚を聞かせてください」

 

 

 まあ、結局その考えも浅はかな考えなのだけれど。

 でも仕方ないじゃないか。おれだって人間だ。一番良い選択肢を当てられないときだって多々ある。

 そもそも何故何も知らない奴と行動を共にしなければならないんだ。勝手に取り憑くし、人のこと聞いてくるくせに自分の素性は言わないし。後者は確かに言いたくない過去だということは早恵ちゃんから聞いた話から察することが出来る。

 しかし相手の了承も得ずに取り憑くなんてちょっと無作法ではないだろうかーー取り憑きますよーといって取り憑く幽霊なんていないだろうけどな!

 

 

「聞いてるんですか? 外のこと教えてくださいよ」

 

「……翠、今夜中だということを理解して物を言え」 

 

 

 こんな夜中に人が寝ているにも関わらず話しかけてくるこの幽霊はやはり無作法だ。親が村長だかなんだか知らないが、もう少し礼儀というものを学んでほしい。

 

 

「なんですか、まさか私を脅してるんですか? ……あっ、まさか襲う気なんじゃ! やはり男は欲の獣です!!」

 

「おい、次騒いだら縄で縛って外に放り出すからな」

 

 

 おれは睡眠妨害されるのが大嫌いだ。これ以上睡眠の邪魔をされたら大きいと評判の熊さんの堪忍袋も限界値に達してしまう。

 

 

「よくただの人間なのに大口叩けますね。分かってるんですか。私は幽霊なんですよ。生きている人間とは計り知れない力を有する術を持っているんで____いたたたたたっ!!!? なんですかこの怪力は!?」

 

 

 生きている人間を下に見ているような発言に苛ついたおれは、ベッドから覗かせている翠の顔、正確には両方のこめかみに指をセットしてそのまま強く握りしめた。勿論、霊力で強化した手で。

 

 

「この感じ……霊力! ま、まさか熊口さんもこの力を操ることが……って痛い痛いごめんなさいやめてください~!」

 

「あまり調子に乗らないように」スッ

 

「は、はい……」

 

 

 翠が謝罪したので、仕方なくアイアンクローを解除する。

 余程痛かったのか翠はそのまま踞り、掴まれていたこめかみを優しく擦っている。

 

 

「まさか、熊口さんも霊力を操ることが出来るなんて……もしかして昔神職でしたか?」

 

「いや、全然。これは……修行して手に入れた力だ」

 

 

 修行……懐かしいな。訓練生のとき小野塚達とよくしたっけ。思い出す光景はどれも皆が頑張ってる中、部屋でゆったりとしてる姿ばかりだけど。

 

 

「自力でなんて凄いですね……」

 

「だろ? おれもこの霊力操作については頑張ったんだよな。ほら見てみ、こんなものも生成できる」

 

 

 そう言っておれは霊力剣を生成して翠に渡す。

 

 

「へぇ、霊力でこんなことも出来るんですね。勉強になります。それが熊口さんであることには少し不服ですが」

 

「何が不服だ。承服だろ……ていうかなにしてんだおれ、寝ようとしてるのに話題作りなんてしてしまうなんて」

 

「良いじゃないですか。そのまま朝まで話しましょうよ。私話すの好きですよ」

 

「おれは眠いんだよ」

 

 

 早く寝て明日に備えなければ。明日の予定はないが、もしかしたら何か仕事を頼まれるかもしれない。備えあれば憂いなしだ。

 それに普通に眠たいのも理由に入る。

 

 

「あっ、翠お前が取り憑くの止めてくれたら今日一日話し相手になってもいいぞ」

 

「ならいいです。お休みなさい」

 

 

 良いのかよ。引くところはちゃんと引いてくるんだな。呪い云々を盾にしてぐいぐい来ると思ったんだけど。

 

 

「それでは明日、おそらく諏訪子様の配下がくると思いますので早めに起きてくださいね」

 

「諏訪子の配下が来る? なんでお前がそんなこと知ってるんだ」

 

「秘密です。まあすぐに判ると思いますが」

 

 

 結局この後ちょっとした会話をしたのちに寝ることになった。

 翠は寝るときにおれの中へと入ってきたので妙な感覚が再発し、あまり熟睡できなかったけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 妙な感覚のせいであまり寝付けなかったおれは、早朝に気分転換にと外で水を汲みに行っていた。

 

 

「はあ……」

 

 

 水道がないってこんなに不便なんだな。水の補給方法が川か井戸しかないだなんて。

 ベッドは硬いし暖房器具もない、電気と水道も通ってなければトイレもボットン便所の劣化版みたいのでかなり臭うし……はあ、前の世界に戻りたい。

 

 ___って駄目だ駄目だ、弱音なんて吐いてどうする。

 何のためにおれはこの世界に留まったんだ。

 あいつらとの約束を守るため。それなのにこのぐらいの不便に耐えられないでどうする。こんなものちょっと生活が面倒になっただけのこと、簡単に適応してや___

 

 

『熊口さ~ん、なんでこんな朝早くから動いてんですか。見た目通りにだらけといてくださいよ。私眠いんです』

 

 

 おい、見た目通りとはどういう意味だ。そこのところ詳しく教えてもらおうか。

 

 

『そのままの意味です』

 

 

 よし、翠よ出てこい。お前の発言及びおれの決意の瞬間を邪魔した分の報いを受けさせてやる。

 

 

『嫌ですー、ずっと熊口さんの中で罵詈雑言言いますー』

 

 

 あ、そっちがその気なら心の中で自制していたありとあらゆる下ネタ解禁すんぞ。

 

 

『知ってますー。熊口さん隠せてると思ってるようですけど全部丸聞こえでしたからー。あんなことやこんなこと考えてるド変態だってこと取り憑いて一日目で理解してましたー』

 

 

 煩せぇ! 男は皆変態なんだよ! 分かったらその口閉じてくださいお願いします!!

 

 

『やっと身の丈を弁えましたか』

 

「(……後で出てきたら絶対とっちめてやる)」

 

『……聞こえてますよ』

 

「おっとすいませ……あっ」

 

 

 翠との会話(念話?)をしていたせいで視界が疎かとなり、それにより石に躓いて転んでしまった。

 

 

「いってぇ……」

 

『熊口さん、ドジですね』

 

 

 ……なんか翠と関わり始めてから良いことが全然ないんだけど。なに、この子もしかして疫病神なんじゃないの。

 ま、まあ水を入れる壺は割れてないようだから最悪な結果ではない。おみくじで言えば大凶よりましな凶ってところだな。

 

 

「大丈夫か……?」

 

 

 転けたときに腰を痛めたので腰を擦っていると、後ろから聞き慣れない男の声が聞こえてきた。

 んっ、男の声? それなら確実に初対面だ。未だにおれ、交流あったの女しかいないし。

 その疑問を解消するため、おれは後ろを振り向く。

 するとそこにいたのは____

 

 

「そ、存在モザイク……!」

 

 

 頭部が完全に男の象徴になっている全身真っ白の怪物が手を差し伸べていた。

 

 み、翠、こういうのが人を驚かせる姿だ。ちゃんと見習えよ。

 

 

『嫌です。流石にあれは無理です』

 

 

 その我儘のせいで人を脅かす事が出来ないんだ。この人を見ろ、生き地獄にも耐え抜いて人を脅かそうとしてたんだぞ。

 

 

『いや、別にこの方は人を驚かせようとしてこんな姿をしているわけではないと思いますよ……』

 

「何を呆けておる。早く捕まれ」

 

「あ、うん、ありがとな」

 

 

 血管の飛び出た腕に捕まるのに少々躊躇ったが、折角の相手の親切を足蹴にするわけにもいかないので、ありがたく捕まって引き上げてもらう。

 

 

「お主は確か熊口生斗であったな。何故こんなところに?」

 

「またおれの名前を……これだよこれ、水汲みに行ってる途中だよ」

 

 

 おれの名前を知っているということはつまり諏訪子と何かしら関係がある奴なのだろう。まあ、こんな化物染みた奴が普通に生活してるとは考えづらいしな。

 

 

「そうか、私も丁度お主に用があってここまで来ていたのだ」

 

「おれに用事?」

 

『あっ、この人が昨日私が言った諏訪子様の遣いの者です』

 

 

 そうか、こいつが……危なかったな。寝起きでこの姿見たら絶叫してたかもしれない。

 

 

「諏訪子様がお主をお呼びだ。至急神社へ向かってくれ。水汲みは私が引き受けよう」

 

 

 男の象徴はそう言うとおれから壺を受け取る。

 

 

「わかった……でも水汲みした後でもよくないか?」

 

「諏訪子様は急ぎの用だと言っていた。なるべく早く行った方がよかろう」

 

「ん、そうなのか?」

 

 

 おれに急ぎの用事……なんか嫌な予感しかしない。ただでさえ怪しい呼び出しに存在モザイクが言ってるんだ。怪しさは2倍どころか2乗はされてる。

 

 

「お主に拒否権はないのだぞ?」

 

「なんで疑ってるのわかった!?」

 

「顔に出ておったぞ。とてつもなく嫌そうな顔でな」

 

 

 そんなにおれ、顔に出てたのか……ポーカーフェイスを貫いてるつもりだったんだけど。

 

 

「じゃあお言葉に甘えて水汲みしてもらうけど、毒とか変なもの入れるなよ?」

 

「入れるか、戯けが」

 

 

 はあ……それじゃあ行くとするか。

 

 一体諏訪子の用事とは何なのか。もしかして妖怪退治とか? ははは、流石にそんなことはないか。まだおれは諏訪子達の前で力を見せたことはない。それなのに妖怪退治をさせるなんてただただ鬼畜だ。もしおれが普通の人間並みの力しかなかったら死ぬからな。

 だから妖怪退治はありえない。

 まあ、気楽に構えよう。力も見せてないから危険なことをさせられるということはないだろうし。

 たぶん、お食事しようとかそんなところだろう。

 

 なんかとてもフラグを立てた感が歪めないけど、見事へし折られますように!

 

 

『熊口さんの嫌な予想は的中するのであった』

 

 

 煩せぇ翠! 不吉なこというんじゃない!

 

 

生還記録の中で一番立っているキャラ

  • 熊口生斗
  • ツクヨミ
  • 副総監
  • 天魔

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