「ん、ここは……?」
目が覚めると、見覚えのある純和風な部屋にいた。
あれ……おれ、命を使い果たして死んだんじゃなかったっけ。
それにおれの身体……さっきまでの瀕死の身体とは打って変わって五体満足で傷1つない。服装もあの血だらけの隊服ではなく、あの世界に行ったときに身に付けていたドテラ、黒T、ジーンズになっている。
まさか……戻された、のか?
「お、起きたか」
「あっ、神」
其処にいたのはこちらも見覚えのある顔と声、しわくちゃな顔で神様っぽい杖を持っていて、額と頭のとの境が分からないくらいハゲが進行している。
「今わしに対して失礼なこと考えていなかったか?」
「いや、全然…………ではないです」
「正直すぎるのも罪と言うことを自覚しなさい」
どうせ嘘ついてもばれるんでしょうよ、神なんだし。
「ともかく、どうじゃ? 皆を救った気分は」
「はぁ……全然優れませんよ」
「まあ、最後の最後で死んだしのう」
「……」
おれが死んだことはどうでもいい。皆が無事なのかが心配で気分は優れてないんだ。
「自分のことよりも仲間の心配か。つくづく変わった奴じゃ」
「仲間の安否を心配するのは当然のことでしょう?」
「普通人間は他者より己の身の方が可愛いものなのじゃよ」
「?」
「まあ、心配しなさんな。君の知り合いは全員無事じゃよ。皆君が月に来なかったことに悲しんでいたがの」
「……そうですか」
そうか、皆無事だったのか……良かった。おれの死は無駄じゃなかったってことか。
しかも皆、おれのことで悲しんでくれるなんて嬉しい限りだ。
……あれ? 前にも同じようなこと思ったような。
「んじゃ、この話は置いといて」
「おれとしてはまだ聞きたいことが山ほどあるんですが……」
転送装置は壊れたのかとか、時限爆弾はどうなったとか……
「まあ待ちなさい。その事も追々話すから。」
「はあ……」
さっきからナチュラルに心読まれてるんだけど。なにこの神、おれにプライバシーの権利はないってか。いっそこのことため口で話してやろうかな。
そう心の中で愚痴っていると神がゴホンと咳を鳴らしながら睨みつけてくる。
あ、ため口はするな、ですか。はい、わかりました。
「……ごほん。取り敢えず、おめでとうといっておこう。君は試験に合格した」
「は?」
試験? 合格?
「本当に君が転生するに相応しい人間なのかをの」
「それってどういう……」
「わかっとるじゃろ。あの戦況の中、君がどういう行動を取るかによって、これからの君の処遇は決まっていたんじゃ」
処遇って……まさかあれ、試されていたのか?
「そうじゃ。もしあのとき、尻尾を巻いて君が月に逃げていたら、即座にここに肉体を戻して地獄に叩き落としていた。が、君はそれをしなかった。それどころか己の命が尽きるというのに、躊躇わず人を救うために使った。
満点じゃ。花丸をやってもいいほどにな」
「は、はぁ……そりゃどうも」
「ただ、自己犠牲が過ぎるのは看過できん。もう少し己を大切にしなさい。少しぐらいなら利己的に動いても誰も文句はいいやせん」
結構利己的に動いてたと思うんだけどな。
「因みに、もし君があの世界に転生しなかった場合の運命を説明すると、2日目以降あの国に滞在していた殆どの者が死んでおった。君がいつも心の中でゴリラと罵っていた者も含め、君の知人のほぼ全てがな。依姫とやらはどちらにしろ無事だったようじゃが」
「ま、まじですか」
おれ、中々凄いことしてたんだな……あのときは国の皆を助けたいと思う一心だったからそんなこと考えてなかった……
「しかも君の仮定していた事の殆どは的中しておる。途中わし、君が予知者に目覚めたのかと思ったぐらいじゃ」
「あれ、それってつまり……」
「君の仮定つまり、あの戦争の黒幕、女の子が令嬢であること、そして大妖怪の自爆によって核爆弾の誘爆。全てその通りじゃ。ただ1つ、ツクヨミ様がどうしてしんがりを買ってでたのかについてのは外れていたがの」
「いやでもそれ、ちょっと考えればわかることでしょ?」
「まあ、確かにそうじゃが……あの場でそう冷静に考えられるのは相当なことじゃよ」
「……なんか、やけにおれの事褒めますね。何か裏があるじゃないですか?」
「いやいや、別にやましいことはない。純粋に凄いと思って言っておるんじゃ。わしでも普通、君のような行動、とれないからな」
「ふぅん」
……まあ、神がおれの機嫌を窺うような事する必要なんてないしな。
「あ、ああ、そういえばあと1つ、疑問に思ったことがあるんじゃが」
「なんですか?」
「何故、女兵士に皆へ『少し遅れる』なんて言えと言ったのじゃ? あのとき既に君、死ぬ覚悟が出来ていたじゃろ」
「あー、あれですね。あれは皆を悲しませたくないからですね」
「ほう?」
「1度前に自爆して死んだことがあるでしょ? あのときの依姫達の顔をもう、してほしくなかったんですよ。それにほら、おれ、命が複数あるってあいつら知ってるでしょ。だからもし月に行けなかったとしても生きてる可能性があるって思わせられるじゃないですか」
「……そうか」
後、女兵士が食い下がってきそうだからってのもあったけどな。
「だが、実際君は死んでるがな。もしその事が発覚した場合、もっと悲しませる事になることは忘れないように」
「はい、わかってます」
まあ、そうだよなぁ。悪いことをしてしまったかもしれない。
そういえばおれ、このあとどうなるんだろうか。そしてここに呼ばれたのもよくわからない。ただおれを褒めるためだけにここに来させたんじゃあるまいし。
「まあ、余談はこのへんにして……花丸100点の君に、選択肢をあげよう。実際これが本題じゃ」
「選択肢?」
「君が今、気になっていたことじゃ___
またあの世界に転生するか、それとも君のいた元の世界に帰るか。そのまま死んで転生の輪に潜るか。
この選択肢をな。本当はこれ、特例なんじゃぞ? この選択肢、君が死んでいなかったらのものだったんじゃから」
「え……」
元の世界……っておれが17年間暮らしていたあの世界か?
「あれ、ちょっと待ってください。元の世界って事は、神は満足したってことなんですか?」
前にそう手紙で書いてあった。戻してくれるってことはつまりそういう言うことなんじゃないだろうか。
「いや? ちっとも」
「はい?」
「言ったじゃろ、これは試験だって。君が試験に合格した時点でこの選択肢は元からする予定だったんじゃよ。嘘ついてすまんかったの」
「あ、そっすか」
そうか、そうなのか……元の世界に帰るか、それとも今の世界でまた生き返るか。
いや、これ。迷う必要なんてあるのだろうか?
「今いる世界にまた転生させてください」
____『少し遅れる』。
本当はただの虚言だったが、それを事実にすることが出来るかもしれないんだ。
その約束を守るためにも、おれはまたあの世界に行く。
それにもう、元の世界よりこっちの方が長く生きてるしな。
「ほう、これはまた、予想通りの回答じゃの」
「そうでしょうね」
神も分かりきっていたというような顔をして、にやりと口端を吊り上げた。
「……あいわかった! それではまた君をあの世界へと転生させよう! 次は今回のような特例はないから気を付けるんじゃぞ!」
「は、はい」
そして神は満足そうな笑みをしながらおれをまた転生させてくれると宣言してくれた。
よし、また永琳さんや皆と会えるぞ!
「よし、そうと決まったらペナルティを申し付けるとするかの!」
「はい?!」
と、おれがあの世界に転生できることに喜んでいると神がそんな事を言ってきた。
ぺ、ペナルティてなんで!?
確かに罰則を与えられるような事はしたけど、さっきの雰囲気的にないでしょ、普通!
「勿論ペナルティはあるじゃろ。実際はもうそのままあの世に行くはずだった君の魂をまた呼び戻したんだから」
「くっ……」
……仕方ない。これは甘んじて受けるしかないな。折角救ってもらった命なんだ。少しぐらいの罰は受けるつもり___
「内容はというとな____能力の劣化じゃ!」
「却下で。他のをお願いします」
「君に拒否権なんぞない。甘んじて受けなさい」
いや、だって能力の劣化て……これから生きていくなかでそれは中々キツい。せめてこれから何かしろとかのミッション的なやつが定石だろ。
「そんなもの、わしに通用するとは思わんことじゃ」
また勝手に心を読んでんじゃないよ……
「では、劣化内容を説明しよう____」
神の言った『生を増やす程度の能力』の劣化内容はこの3つだ。
・命の増える周期が5年から20年へ
・寿命ができる(60年)
・寿命がくると2日間仮死状態になる
かなり劣化されました。せめてこの3つのうち1つにしてほしかった……
「神の鬼! あんたはあの八つ当たりしてきた鬼と同類だ!」
「なっ!? 神に向かってなんて口を叩いておる!! 無礼じゃぞ!」
「そういえばあんた、なんでおれの頭にグラサンをつけたんだよ! せめて取れるようにしろよ!」
「なぬぅ! 自分だってそのグラサン気に入っておるくせしてよく言いおるわ!」
「ぐっ、確かに……いやでも取れないのはおかしいだろ!」
なんだかイラついたので神に対して文句をいうと、なんか口喧嘩に発展した。
まあいい、これまでのこの神のしてきた理不尽に対する文句を全部吐いてやる!
因みにこの口喧嘩は30分近く続いた。
ーーー
「さて、能力の劣化も終わったことだし。もうそろそろ転生させるとするかの」
「……はい」
結局口喧嘩は神が劣勢と感じ取ったのか、神の鉄槌(物理攻撃)を食らわしてきて無理矢理終わることになった。
現在、おれの頭には大きなたんこぶができている。頭がかち割れたかと思った……
流石は神といったところか。老けてたから舐めてかかっていた……
ていうか何故かグラサンを取ってくれなかった。何故か、本当に何故か。
「あ、そういえば2つ言っておくことがある」
「なんですか?」
「今このまま転生させるとこれから物凄い間、人間のいない生活を強いられることになるから、ちょっと時代を弄らせてもらっといた」
「なんですかそれ!?」
物凄い間ってのがどれくらいなのかはわからないが、人一生分以上あるってことは神の言い方的にわかる。
「それともう1つ、わしが転生させるのは地球であって月ではない。故に君が転生しても君の知る友人とは会えない可能性がある。それでもよいか?」
「ふっ、愚問ですね。なんとしてでも会いますから、その心配は要りませんよ」
「やけに自信ありげじゃの。なにか策でもあるのか?」
「いいえ? まったく」
「聞いたわしが馬鹿じゃった……」
おれに月へ行くような技術なんて持ってるわけないじゃないか。
持っていたとしても材料がないしな。
「それじゃあ、そろそろ転生させようかの」
「さっきとほぼ同じこと言いましたね」
「いいんじゃよ、そんな細かいことは気にするんじゃない」
さて、転生させる場所は地球であって月でない。
つまりまた一から始まるといっても過言ではない。
でも、それでいい。
あの世界にいれば、またあいつらに会えるかもしれないのだから。
「んじゃ、健闘を祈るよ」
「あ、ちょっと待ってください」
「……なんじゃ?」
「また転生するってことはまた生存率40%のハードルを越えなければならないということですよね?」
「そうじゃが」
「もしおれが残り60%に引っ掛かった場合、命1つでなんとかなりますか?」
「いんや、ならんよ。君の能力は魂を改造して作ったものでの。その魂から新しく肉体を構築しておるんじゃが、転生に失敗した場合、その魂すらも抹消されるからそのまま君という存在は消滅する」
「転生やめます。一生此処にいます、これからは宜しくお願いしますね」
「さっさと行けい」
「おわっ!?」
すると前に転生したときと同様、おれの足下に穴が開いた。
一瞬驚いたが、すぐに冷静になる。
ふふ、今のおれは空を飛べるんだ。こんなもの飛べば落ちることは……
「ぶべっ!!?」
と、宙に浮こうとした瞬間、おれの頭にタライが落ちてきた。
只でさえたんこぶの出来ていた頭部に落ちてきたので、予想以上の激痛がおれを襲い、空を飛ぶことをやめてしまった。
そのせいで、おれはそのまま穴に落ちていき、そしておれの意識はプツっとTVの電源が切られるように失った。
「これからもわしを楽しませておくれよ。彼のような人間は珍しいからのぅ」
生還記録の中で一番立っているキャラ
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熊口生斗
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ツクヨミ
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副総監
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翠
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天魔