東方生還記録   作:エゾ末

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21話 経験不足は自業自得

 

 

 ツクヨミ様と別れ、急いで第二陣のいる壁まで来たおれは、絶賛絶句していた。

 

 

「な、なんだこの量……綿月隊長はどうしているんだ!?」

 

 

 妖怪達の群勢が国の壁を壊そうとかなりの数が押し寄せていた。

 取り溢したじゃ言い訳にならないほどの数の妖怪がうちの隊員らと戦闘を行っているが、はっきりいって此方が明らかに劣勢だ。壁にもヒビが入り始めている。

 まだ空を飛んでる妖怪らは対処しきれてはいるが……

 

 

「依姫! 依姫は何処だ!」

 

 

 この状況で依姫はどうしているんだ? あいつのことだ、ここで呆気なくやられるということはまずないだろう。

 

 

「熊口部隊長!」

 

「お前は……◎○部隊長!」

 

 

 おれの呼ぶ声に反応したのは依姫ではなく、おれと同じ階級の部隊長だった。

 

 

「熊口部隊長、貴様の部隊は何処にいるのだ!」

 

「そんなことは後だ、依姫は何処だ?」

 

「そんなことだと___なに、綿月副総隊長を探しているのか。あの方は今、第一陣の様子を見にこの先にいるぞ。今はこの場の指揮は私に一任されている。そんなことよりお前____」

 

「ありがとよ!」

 

「なっ!? 待て熊口部隊長!!」

 

 

 マジかよ……あんな妖怪の群れの中、突っ込んで第一陣のいるところまで向かったって言うことかよ……

 まあ、空の方は大分空いてるからいけないこともないが。

 

 くそ、依姫までも彼方の方に行ったか。

 まあ、おれも最初から彼処まで行くつもりだったから問題はないか……いや、あるな。

 この二陣のところでこの量だ。もしかしたらもう第一陣は…………

 考えるのはよそう。あのゴリラと精鋭部隊だぞ、そんなまだ10分程度しか経っていないのにもう全滅なんてあり得るわけがない!

 

 そんな事を思いつつおれは空を飛び、妖怪の群れに突っ込む。

 

 

「ぎゃぎゃぎゃぁぁぁ!!」

 

 

 気色悪い奇声をあげながら襲いかかってくる百足型妖怪を霊力剣を生成して切り捨てながら持てる限りのフルスピードで空を滑空する。

 

 流石に多いな。今のおれの霊弾じゃ雑魚妖怪を撃墜させる程度の威力しか出せないし、中堅の妖怪はおれの霊弾を無視して攻撃を仕掛けてきやがる。

 

 

「死ねえぇぇ!」

 

「くっ!!」

 

「ぐぎゃぁぁ!?」

 

 

 突っ込んできた人型の妖怪の突進を体を捻らせながら避けつつ、その回転を利用しながら斬りつける。

 手応えはあった。今のは致命傷ものだな。人型を斬るとき気色悪い感触がするからな。斬るとき少し嫌悪感が生まれるから、たぶん斬れてる。

 そう自己完結しながらおれは見向きもせず霊弾をばらまきながら飛び続ける。

 

 

「まだか……」

 

 

 そんなに第一陣と第二陣との距離は空いてないはず。それに妖怪の数がどんどん増えてきている。

 もうすぐなはずだ。ていうかどれだけ妖怪いんだよ! 居すぎだろ! 軽くこの国の人口越えてるんだけど!

 

 

「「「「キイイィィィヤアアァァァア!!」」」」

 

「うるせぇ!!」

 

 

 次は団体で遅いかかってきたか。

 大勢でかかってきてもらった方が此方としてもありがたい。

 そう思いながらおれは()()に爆散霊弾を生成し、固まって襲ってきた妖怪共に着弾させる。

 

 するとそこにいた妖怪らの中心ぇ大爆発が起き、無惨に四肢が吹き飛び胴体は跡形も無くなる。

 我ながら恐ろしい威力だ。

 並の中堅妖怪でも一撃だな、これは。

 それを霊弾を作るのと同じぐらいすぐに生成出来るようになったおれ、最強だな! ははは!

 

 ……うっぷ、流石に妖怪共でも四肢がバラバラに吹き飛ぶ光景を見たら吐き気が……

 笑って誤魔化しは出来なかったようだ。

 

 

「……うわ、汚っ……ってゴリ……綿月隊長!」

 

 

おれの顔に何者かの肉片が飛んできたため、その方向を見てみると、綿月隊長が妖怪の顔面を蹴りで吹き飛ばしている姿が目に映った。

 

 いかんいかん、いつもの癖でゴリラって言いかけてしまった。

 ……ってそれどころじゃない!

 おれから少し離れた場所で綿月隊長がボロボロになりながらも戦っている。しかも一人で。

 精鋭部隊はどうしたんだ?

 

 

「綿月隊長!」

 

「誰だっ! ……熊口君か!」

 

 

 彼方も此方に気づいたようだ。

 器用にも妖怪の腹を殴り、吹き飛ばしながらこっちに近付いてくる。

 

 

「何故君がここに? それに用事は済んだのか」

 

「はい、おかげさまで……それより精鋭部隊と依姫は?」

 

「ああ、依姫なら後ろの方で戦ってくれている。

 精鋭部隊は…………」

 

 

 と、俯く綿月隊長。

 ……まじかよ、精鋭部隊全滅したのか。

 ていうか綿月隊長、俯きながら妖怪を屠って言ってるよ。

 そのせいで落ち込んでいるのかどうかよくわからないんだけど。

 まあ、おれとしてはあまり精鋭部隊とは関わった事がないからさこまで落ち込みはしないが。

 

 

「そうですか。いつの間にか抜かしていたんですね」

 

「それじゃあ私の質問に答えてくれ。何故君がここに_____」

 

「綿月隊長!」

 

「なんだ…………!!」

 

 

 綿月隊長がおれに問いかけようとした瞬間、地上の方からとてつもなくどす黒いオーラが伝わってきた。そのオーラは周りの者を絶望に叩き落とすには十分過ぎるほどの効力を持っており、霊力で多少耐性のあるおれですら息が詰まる感覚に陥る。

 

 この感覚は…………あのときの鬼と同じ! しかも一匹じゃない!

 

 

「漸く大将のおでましってところか」

 

 

 お、おいおい、綿月隊長、いくら大妖怪相手に互角以上に戦えると言っても、複数いる大妖怪相手には分が悪いんじゃないのか?

 

 

「熊口君、君は今から依姫の所に行って援護をしてくれ」

 

「まさか、一人でやるつもりですか?」

 

「私以外に止められる者がおらん。はっきりいってやりたくないが、やらねばならんのでな」

 

「まさか……」

 

「依姫を___私の娘を、頼むぞ」

 

 

 そう言って綿月隊長はどす黒いオーラが発せられている地上まで、雑魚妖怪を蹴散らしながら降りていく。

 

 馬鹿だろ……死ぬつもりでしょ、あの言い方。

 

 

「____ああもう! そういうのは全部おれが受け持ってやるって言おうとしたのに!」

 

 

 もういい、綿月隊長らを国の中まで避難させてから使おうとしたが、こんな異常事態、作戦通りにいかないのは当然だ。

 

 今、おれの()()()を使うしかない!

 

 

 

 切り札。と言えば聞こえは言いが、実際はただの自己犠牲だ。

 

 

 _____命を糧にする。

 

 

 漫画とかでよくある命を代償にして絶大な力を手にする諸刃の剣的な裏技。

 

 その命を捨てるような行為だが、おれは幸いにも今、7つの命がある。

 多少は無駄にしても大丈夫な身体にはなっている。

 ま、無駄ではないが。有効活用、といった方が適切か。

 

 まあ取り敢えず、7つの命のうち、5つの命を消費するように念じてみる。

 やり方はよくわからない。だが、おれの能力だからなのか不思議と出来るような気がする。

 

 

「…………!!」

 

 

 妖怪の攻撃を避けながら念じていると、一瞬だけ視界がブラックアウトし、年に一度みる蝋燭が5本、火が消えるのが確認できた。

 

 これは……成功したってことなのか?

 

 

「うぉ、ごふぉ!?」

 

「うわ、なんだこいつ、いきなり血を吐きやがったぞ!?」

 

 

 成功したと思った瞬間、全身にこれまで感じたことのないような痛みが走った。

 それに物凄い吐き気。吐いてみると、それは大量の血だとわかった。

 手足が痙攣し、空を飛ぶこともままならず、そのまま落下していく。

 

 や、やばい……こんな無防備な所を見せたら、妖怪達に…………

 

 

「あ、れ……?」

 

 

 襲われると思っていたが、その予想に反して妖怪達の動きは固まっていた。今のところ、襲われる様子はない。

 

 

「はぁ……うぐっ……あ、く……」

 

 

 痛みが収まらない。

 そうか、そうだった! こんなことに気づかないなんて……

 おれの身体が、命7つ分の力に耐えきられていない! 簡単に言えば許容重量が十キロ程度の器に一トンを重りを置くようなものだ。

 命を代償にすると絶大な力を手にいれることができる。

 しかし、その力を抑えられる程大きな器がおれにはない。

 小さい器にはその分の物しか支えることが出来ない。

 その容量を越えた物を無理矢理置こうとしたらどうなるか?

 当然、耐えきれずその器は壊れてしまう。

 

 今のおれがそんな状態だ。容量を越えた力を手にいれようとしたせいで、身体が壊れかけている。

 

 こういった場合の対処法はわからない。

 

 

「んぐあっ!?」

 

 

 地面に落ちたおれは変な声を出し、そのついでにまたも吐血する。

 痛い、痛い……こんな状態じゃ、戦うなんてままならな_____

 

 

「わ、たつき、隊長?」

 

 

 落ちた先は、あのどす黒い妖気を発していた所だったらしい。

 漏れだしている妖気を隠しもしない、4体の大妖怪が、ボロボロになった綿月隊長をサンドバッグのごとく殴り付けていた。

 

 

「ああ? なんだこいつ、死にかけじゃねぇか」

 

「ん、だがなんだその霊力の量は!?」

 

「死にかけとは運がいい。殺そうぜ!」

 

 

 そんなことを言っている大妖怪共。

 まさか、あんなやつらなんかに呆気なくやられたって言うのかよ、綿月隊長……

 

 

「うっ……ぐ!!」

 

 

 なんとかして立ち上がる。こんな状態になったのは、実験を怠ったのと自分の許容量についてよくわかっていなかったからだ。

 言うなれば自業自得。この立つのがやっとの状態で戦うしかない。

 全身を常に殴られているような感覚がし、肩も大量の重りを乗せられたように上がらない。

 足も殆ど上がらない。飛べるかどうかも定かではない。

 

 だが、やるしかない!

 

 

「父上! 熊口君!?」

 

 

 この声は……依姫?

 

 


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