東方生還記録   作:エゾ末

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㉜話 一つ目の約束

 

 

「綿月隊長が妖怪を退治しなければならない理由は分かってます。そして、それが月の民として当然の認識であることも」

 

 

 霊力剣を両手に二本、背後には十本の霊力剣を生成させながら、おれは綿月隊長へと歩を進めていく。

 

 

「歩を進めるを止めろ、熊口君。これ以上は戻れなくなるぞ」

 

「もう手遅れですよ」

 

 

 綿月隊長に反抗することが何を意味しているのかなんて、想像は容易い。

 だが、おれはそもそもが犯罪者。月に行ったとて、碌な対応がされることがないことも分かっている。

 

 

「紫、頑張ったな。お前を育てた身として誇らしいよ」

 

 

 元々、楽して月に行こうとは思っていない。

 綿月隊長をボコボコにしてでも行く予定だった。

 その予定通りに動くまで。

 

 

「後はおれに任せてゆっくり休んでくれ」

 

「ぜ……い"……」

 

 

 どんな理由があれ、それが例え此方に非があったとしても、紫をこんなにまでした綿月隊長を到底許すことはできない。

 

 

「君と紫君の関係性は知っている。だが、分かってくれ。私の立場で犯行を示した妖怪を見過ごすわけには___」

 

 

 綿月隊長の言い分は分かってる。分かってるんだ。

 でもよ。それを割り切って許せたら_____それはもう親失格なんだよ。

 

 

「おらあぁ!!」

 

「ぐおおっ!?」

 

 

 綿月隊長に向け、跳躍したおれはそのまま飛び膝蹴りを繰り出した。

 腕で防御する綿月隊長。しかし勢いを殺しきれずに、遥か彼方へ吹き飛んでいく。

 

 

「(この力は!!)まさかくま_____」

 

「!!」

 

 

 そのまま楽に吹き飛ばせ続けるのも勿体ない。

 おれは吹き飛ばされていく軌道へ先回りし、飛んできた綿月隊長を空へと蹴り上げる。

 

 

「ぐああ!!」

 

 

 天高く上がった綿月隊長に向け、おれは後ろに待機させていた霊力剣並びに、爆散霊弾を五発放つ。

 

 

 

 空中で巻き起こる大爆発に、木々は根本から吹き飛ばされ、残った草木は爆炎により焦土と化す。

 

 

 周りに被害を与えないようにするために空中で爆発させたのに、相変わらず凄い威力を出すな。

 

 _____流石は()()()()の力だ。

 

 

「はあ! はあ! はあ!」

 

 

 流石は世界を滅ぼす力を持つと言われる潮盈珠と潮乾珠。

 

 爆心地にいた綿月隊長の周りには水蒸気を大量に発生させつつも、湧き続ける水流により守られていた。

 幸いにも先に発射した霊力剣は命中していたが、その後の爆散霊弾は大量の水流を発生させて防ぎ切ったってとこか。

 

 やっぱり、()()()()()()()()()一筋縄じゃいかないな。

 

 

「……分かった。これはいわば善意と善意の押し付け合い。だから戦争と比喩したのか」

 

 

 綿月隊長もどうやら状況を理解してくれたらしい。

 その方がありがたい。

 幾ら綿月隊長が善意でおれを説得しようとも、貴方が輝夜姫を追いかけようとする限り、そして紫を手に掛けようとする限り、おれが引き下がることは決してない。

 

 

「私は君を気絶させてでも連れ帰る。無論、輝夜姫と永琳も連れてな」

 

「おれ()()なら幾らでも歓迎しますよ」

 

 

 水流を解除し、おれの前に降り立つ綿月隊長。

 やはり、いつ立ち合ってもこの人の圧倒的な威圧感には慣れない。本人は至って仲間想いの気の良いおじさんなんだけど。

 

 

「熊口君。戦う前に一つ断っておくことがある」

 

「なんですか」

 

「どこまでも優しい君は、私にすら遠慮するかもしれないから、一応な」

 

 

 余程余裕があるらしい。

 おれが心配する心配をしてくれるなんて、大分舐められてるな。今のおれに、あの綿月隊長相手に手加減する余裕なんてあるものか。

 

 

「これは仮死の腕輪だ。どんなに致命傷を受けても、仮死状態で絶命することはない。私達月の民は皆これを装備している」

 

「……だからなんですか」

 

「存分に打ち込んできたまえ。お互いの信念のぶつかり合いだ。遺憾無く、全力で、それでいて純粋に、命一杯やり合おうじゃないか」

 

 

 こんな状況にもかかわらず、笑みを溢す綿月隊長。

 ……結局この人も戦闘狂か。

 どうしておれはいつも戦闘狂共とばかりエンカウントしてしまうのか甚だ疑問だが、こればかりは仕方ない。

 

 おれにはおれの、為すべきことを為すために自ら戦場へ身を投じているのだから。

 

 

「後悔しても知りませんよ。自分でも今の力を上手く制御できる気がしない」

 

「望むところだ!」

 

 

 命三つ。

 元々催し物の際に使用した一つに加え、更に二つ消費した今の状態。

 違和感が凄いが、意外にもなんとか耐えられる。

 これなら、戦闘中に限界が来ることもないだろう。

 

 おれに残された命は残り二つのみ。

()()()すれば月に行く際に丁度良いぐらいの穢れとなるだろう。

 

 後はこの化物_____綿月隊長を倒すのみ。

 

 勝てるビジョンは沸かないが負ける気も毛頭ない。

 

 ビジョンが沸かないのなら、無心で戦え。

 

 勝機ってものは思考と工夫の末掴み取るものだが、時には気まぐれに此方へ来たりもする。

 

 それを全力で掴み取る。

 

 それまで、是が非でも倒れてたまるものか。

 

 

「かかってこい、熊口部隊長。全霊を持って迎え撃つ!」

 

「あの時のような、一矢だけじゃ終わらせませんよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 境界を超え、四半刻という須臾のようで永遠にも感じる運命の時間が始まる。

 転移場所からは既に遠く離れているが、それでも尚私と永琳は綿月隊長からの追手から逃れるべく歩き続ける。

 

 

「永琳、そろそろ教えてくれても良いんじゃない」

 

「姫、今は口よりも脚を動かしてください」

 

「話しながらでも脚は動かせるわ」

 

 

 永琳が私達の周囲にジャミングを施しているため、月からの監視の目は届いてはいない。しかし、下手に騒ぎ立てたり霊力を使用すればその限りではない。

 

 私が気になっていたのは二つ。

 熊口様に施した施術と、大人しく境界を潜った理由。

 

 

「……はあ」

 

 

 何か喉まで出かかっていたようだけれど、下手にここで拒否し続けても時間の無駄だと判断した永琳は深い溜め息をつく。

 流石は永琳。私が自身の危険を省みず駄々を捏ね始める事をよく理解している。だけど、主人の眼前で溜め息をつくのは従者としてどうかと思うの。

 

 

「生斗には、私の持つ()()()()を与えました」

 

「あっ、思い出した。前に実験で玉兎に使用していた志那都比古の御力を利用した薬物よね」

 

「そう。副作用として短時間の意識の混濁に、激しい頭痛が引き起こるけれど、それのみ。それで必要な情報をインプット出来るのだから破格の代物でしょう」

 

 

 でも、神の力を借りなければならない。

 それが最大の難所だけれど、それさえ目を瞑れば永琳の言う通り破格の代物なのだろう。

 

 

「そんな貴重な薬を、私が合図する前に生斗に使ったってことはやっぱり」

 

「ええ。()()()()()()()()()()()()ですもの。敵対しようがしまいが、この機を彼は見逃さない。私はそれの補助をしたまでです」

 

 

 永琳も分かっていたのね。

 熊口様が月へ行こうとしていたこと。

 

 

「本当は射すつもりはなかったんですよ。でも姫、余りにも帰りたくなさそうにしてたから……」

 

「えっ、私ってそんなに顔に出てたの」

 

「長年の仲ですので。それでいて彼も彼で覚悟を決めた雰囲気を出していたでしょう。あれ、最初から綿月司令と戦う算段だったでしょう」

 

「あ、足止めするって熊口様が言っても聞かなかったからだからね! 私だって本当はあんな危ない目には遭わせたくはなかったんだから」

 

 

 実際、作戦会議の時に私は何度も反対した。

 少なくとも永琳と共闘すべきだと。

 それでも彼は譲らなかった。大丈夫だと。

 私と永琳に手が及ばないように。そして、月への帰還を拒絶する私達に気を遣わせないために。

 

 

「分かってます。だから施術したんです。少しでも綿月司令と渡り合えるように」

 

 

 あの短い時間の中で全てを理解し、その上で行動に移していた、ということよね。

 流石は月の頭脳というべきか。状況判断能力もずば抜けている。

 

 

「永琳はほんと、なんでもお見通しなのね」

 

「ええ。二人の事は誰よりも理解しているつもりですから」

 

 

 淡々と、恥ずかしげもなく森林の獣道とも呼び難い悪路を進みながら話す永琳。

 熊口様は兎も角、私ですら見抜かれていたなんて……嬉しいような、恥ずかしいような。

 

 

「(あと15分ってとこね。正直、ここまで時間を稼いでくれていれば、後は私と永琳でもなんとかなりそうだわ)」

 

 

 熊口様達の助力は嬉しい誤算であっただけで、元より私と永琳であの場を制圧するつもりであった。

 それだけの力を今の私達は有している。

 それでも彼等の助力を拒なかったのは、私の我儘でしかない。

 

 紫には野心がある。もしその手が月に及ぶのなら、彼女は月へ行くかもしれない。しかしそれは自殺と同義ともとれる行為。そうなる前に知ってほしかったのだ。月へは手を出さないほうが良いと。

 

 そして熊口様には、早くこの地に帰ってきてほしかったから。

 月の使者と戦闘を交えれば、回復しつつある印象をまた悪くしてしまうことだろう。それを私のどす黒い感情が願っていた。月へ行ってしまえば、もしかしたら帰られない状況が出てくるかもしれない。それでも熊口様に帰る意志があれば、きっとこの地へ帰ってこられる。

 その一端でもいいから、彼にはこの地へ帰る理由を作りたかった。勿論私の存在が帰る理由であればそれが一番だったのだけれど。

 

 私では熊口様の一番にはなれない。

 女の勘ってものなのかな。彼には常に誰かを待つ影があった。

 ……いや、そもそもが推しの一番になろうなんて余りにも烏滸がましい感情か。

 もしかしたら、私が余計なことをしなくとも、熊口様は帰ってきてくれるかもしれない。

 でも、可能性は多いほうが良いじゃない。

 

 

「姫、御手を」

 

「うん、ありがと」

 

 

 険しい急斜。

 先に登った永琳が私に手を差し伸べる。

 彼女の手を握り、もう片手で地を押しながら登り切る。

 

 

「手を汚すなんて、この地に来た初めの頃以来ね」

 

「これから一杯汚れるからね。文句は言わないでくださいよ」

 

「私が決めてたことなんだから、文句なんて自身の覚悟を侮辱するような行為、言うわけ無いでしょ」

 

「ふふ、どうだか」

 

 

 手についた土を払い、また歩を進めていく。

 これから先は私にとっても初めての世界。正直ワクワクが止まらない。

 折角の自由なのだ。今は兎も角、今あるこの状況を楽しむことにしようかしら。

 

 

「月の追手を払えたら、まずはお宝探しにいきましょうよ。ねっ、永琳!」

 

「また突拍子もなくそんな事を言って。何かアテはあるんですか?」

 

「ん〜、先ずは貴公子達の言っていた物から行ってみるのもいいかも。蓬莱の珠の枝とか」

 

「姫の名の由来となった山に生えた樹木の枝のことですね。勿論、場所は把握していますよ」

 

「それじゃあつまらないからヒントだけ出してよね」

 

 

 もしかしたら旅の途中で紫とまた出会えるかもしれない。

 それにまだ知らない面白い色んな人達とも。

 

 

 そんな楽しみに胸を膨らませつつ、永琳とこれからの話をしながら悪路を進んでいく。

 

 

 都で過ごしてきた日々。その中で関わってきた人々。其々が別の方向へこれからの人生を歩んでいく。一期一会とはよく言ったものよね。

 

 今はただ私の人生を夢中に歩みましょう。

 

 

 いずれまた、その一期に交わるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「やるな、熊口君……!!」

 

「はあ、はあ! 余裕、ですね!」

 

 

 満月が監視する夜空の元、宙に浮いた状態で綿月隊長の拳と生斗の霊力剣が三度衝突する。

 

 潮盈珠と潮乾珠により発生した数十にも及ぶ水柱。それら全てを間髪入れじと生斗に向かって放たれる。

 

 

「ふんっ!」

 

 

 それを難なく爆散霊弾にて対処。

 二人のいる場所に届くことなく水柱は霧散する。

 

 しかし、それで終わる程綿月隊長の攻撃は甘くない。

 潮乾珠が再度反応し、霧散した筈の海水が再度集結。水球となって先よりも勢いを増して生斗に襲い掛かる。

 

 

「!」

 

 

 その水球も、今の生斗が生成した霊力障壁を前にしては崩壊していくしかない。

 

 

「まだまだぁ!」

 

 

 水球の再構築。

 生斗を囲むように海水が障壁沿いに展開されていく。

 

 

「(圧縮か)」

 

 

 障壁を囲んだ水球が徐々に面積を狭めるように圧縮されていき、障壁にヒビが入る。

 

 

「(このままじゃ潰れる)!」

 

「この程度じゃ終わらんぞ!」

 

 

 綿月隊長が障壁の前まで肉薄し、重厚な障壁を硝子の如く割り捨てる。

 

 

「(馬鹿力が!)!!」

 

 

 支えをなくなった障壁は瓦解し、海水が勢いのまま生斗の眼前まで迫りくる。

 

 だが、生斗は打開策を既に講じていた。

 

 

「ぬっ!?」

 

 

 自身に膜を張るように霊力を纏い、綿月隊長まで特攻を決行。

 水球の膜を見事破り、綿月隊長の鳩尾へ深く霊力剣が突き刺さる。

 

 だが、深追いはしない。

 生斗はあえて追撃せず、綿月隊長の胸を蹴って距離を取る。

 

 

「ぐふっ! が、がははは、よく分かったな熊口君」

 

「丸分かりですよ。急所に受けて焦りましたか」

 

 

 遅れて綿月隊長の両腕が、生斗を掴みかからんと空を切っていた。

 捕まればその時点で戦いは終わっていただろう。

 それを逸早く察知した生斗も化物であるが、それよりも人間の急所を諸に突かれているにも関わらずそれを意に介さない綿月隊長に、思わず対戦相手である生斗も溜め息を吐く。

 

 

「とことん人間辞めてますね」

 

「君がそれを言うか」

 

 

 霊力剣を引き抜き、筋肉を膨張させ傷口を塞ぐ。

 

 まだまだ戦いは終わらない。

 

 そう言わんとするように、綿月隊長は手を前に出し、ファイテングポーズを取る。

 

 

「熊口君。君に一つ問いておきたい事がある」

 

「なんですか。時間稼ぎなら大歓迎ですよ」

 

「なあに一つだけだ」

 

 

 一呼吸置くかのように発せられた綿月隊長からの質疑。

 それは彼がずっと抱え続けてきた疑念である。

 その疑念とは既に結論付けられた内容であり、今更掘り返す必要性は皆無な代物。

 

 だとしても、本人の口から聞かねばならない。いいや、言わせたいのだ。

 

 

 

「君が月移住時にしたあの独断行動。あれは私が不甲斐なく倒れ伏したから、仕方なく起こした行動なのだろう」

 

「……」

 

 

 幾らその場の情報により暫定できる内容とはいえ、生斗本人の意思とは限らない。実際生斗ならやりかねない。だがしかし、それを肯定してしまえば彼は犯罪者として成立してしまう。

 

 綿月隊長は一縷の望みを掛けて、自身に責任の一端があるとして生斗に答えてほしかったのだろう。

 

 

「……そんな話ですか。月の人達も、状況判断だけでも簡単に分かるような内容でしょうに」

 

「君の口から聞きたいんだ」

 

 

 言い辛そうに頭を掻く生斗。

 生斗も綿月隊長の質問の意図を理解していた。

 質問の仕方からしても、綿月隊長は生斗の罪を少しでも軽くしてくれるよう計らっている。

 

 そんな彼に甘えるのも良いだろう。

 

 けれども、生斗が取った判断は_____

 

 

「綿月隊長は関係ありませんよ。おれはおれの意思で、皆を救うにはこれが最善だと思ったから動いたんです。誰かの尻拭いのために動いたわけではありません」

 

「……そうか」

 

 

 _____自らの罪を甘んじて受ける。

 

 本心をありのままに吐露し、助け舟を自ら引き離す生斗。

 そんな彼の姿に、綿月隊長は悲しみながらも、胸の奥から熱いものが芽生えていた。

 

 

「本当に、君って奴は『漢』だな」

 

「この期に及んで助け舟を出そうとする『漢』には言われたくありませんよ」

 

「がははは! それじゃあこれは、『漢』と『漢』のぶつかり合いってことだな!」

 

「むさ苦しいんでやめてもらえますか」

 

 

 再び、二人だけの戦争が始まる。

 

 

 

 肉薄した生斗の剣戟に、腕を強化して受ける綿月隊長。

 妖忌程の圧はない。しかし、一つ一つの剣技には本命ですら次の手への布石に使われる。頭で考えれば考えるほど術中に嵌まるそれは、脳筋に見えて頭を使って戦う綿月隊長にとっては、手数で押されるよりも圧倒的に相性が悪かった。

 

 

「っツ!!!」

 

 

 袈裟斬りを繰り出そうとする生斗に対し、起こりを読んだ綿月隊長は腕橈骨筋で受けようとするも、直前に霊力剣が消失。来るはずだった衝撃がいつまでも来ない事に瞬きよりも短い隙が生まれ、気付けば生斗の剣戟は一文字斬りへと変化していた。

 最小限の動きで腕を畳み防御しようと試みるが、剣戟を放ったはずの生斗の左手には又しても霊力剣は消失しており、完全に虚を突かれた綿月隊長は為す術なく既に右手に生成されていた霊力剣により左鎖骨を斬られてしまう。

 

 

「(何が本命で何が布石なのかが分からん!)はあ!!」

 

「うぐっ!!」

 

 

 鎖骨を斬られれば普通左肩から先はまともに動かすことが出来なくなる_____筈なのだが、綿月隊長はお構いなく左手で生斗を平手打ち、遠くへ吹き飛ばす。

 

 何度も言う。綿月隊長に、常識は通じない。

 

 直ぐ様吹き飛ばされた状態から立て直し、生斗は綿月隊長へ肉薄する。

 

 

「(ここだ!)!」

 

 

 潮乾珠が反応し、地面に浸透していた海水が次々と槍の形状として生斗に襲い掛かる。

 

 

「食らいませんよ!」

 

 

 生斗は永琳から潮盈珠と潮乾珠の弱点を知らされていた。

 その弱点は三つ。

 一つは紫達が実行していた接近戦での使用制限。二つ目が、潮盈珠で発生させた海水しか操れないこと。

 そして最後、二つの珠は発動時に淡く光り、その際にコンマ一秒のみ、間隔が空く。

 

 以上三点の弱点から、生斗は初めから地面に浸透していた海水に注意を払い、発動のタイミングを見計らっていた。

 

 

「やはり凌ぐか!」

 

 

 低空飛行へと行動を移し、木々の隙間を縫いながら追尾性能を有した水槍の猛攻を凌いでいく。

 水槍の威力は勿論の事木々をいともたやすく貫通する程であり、盾としては到底扱えない。

 

 けれども隠れ蓑にはなる。

 

 生斗は薙ぎ倒されていく木々により発生した土煙と共に霊力を最小限にまで抑え、雑木林の中へ潜む。

 

 

「(泥濘るませた海水を使ったツケが出たな)」

 

 

 平手打ちの際に地面へと叩きつけていれば、地面に浸透させていた海水を使って生斗を拘束できていたであろう。

 これは完全に綿月隊長の失策。

 追尾性能を有した水槍も、綿月隊長自身が操っているものであるため、本人が知覚出来なければその意味を持たない。

 

 

「(隙を見て爆散霊弾を叩き込む!)」

 

 

 生斗の勝機は、最大火力である爆散霊弾による綿月隊長の無力化。

 自身でさえ受ければただでは済まない代物でも、仮死の腕輪を填めている綿月隊長であれば死ぬことはない。そもそもそんなものが無くとも、綿月隊長ならばまず大丈夫であろう。

 

 _____だから百発叩き込む。

 

 大妖怪ですら消し炭になるレベルの圧倒的火力で応戦する。

 

 

 既に仕込みは出来ている。

 

 木々を使い避けながら生斗は、ダミーとして霊弾を各地に最遅速度でばら撒いていた。

 

 その霊弾は分裂を繰り返し、数を増やしていく事により、霊弾の発生箇所の特定を防ぐ役割も担っている。

 

 

「(物量で攻めてこい。綿月隊長ならそれができる筈だ)」

 

 

 生斗は綿月隊長が潮盈珠を使用し、大波による圧倒的物量によるゴリ押しを狙っていた。

 

 その際により発生する視界の隔絶。

 そこを突く。

 

 

「随分とかくれんぼが好きなようだな」

 

 

 予想通り、潮盈珠を発動させた綿月隊長の頭上には、約23k㎡ある都を覆い尽くすのではないかと錯覚する程の巨大な水球が作り出される。

 月を喰らいし水球からは、淡い光が乱反射し雑木林に降り注ぐ。それに生斗が生成した霊弾の光により、一つの小さな宇宙が広がっているかの如き、ある種の神秘的な光景が広がっていた。

 

 

「見え見えだ。熊口君」

 

 

 生斗の思惑_____水球による物量によるゴリ押し。

 それを見抜いていた綿月隊長は、既に策を講じていた。

 

 

「がっ!?」

 

 

 水球から降り注ぐは、先にも見せた無数の水槍。

 その一本一本が、霊力探知に引っかかった生斗の霊力を貫いていく。

 

 次々と消滅していく霊弾。

 あらゆる障害物を塵と化す悪魔の雨。

 

 その魔の手は生斗にも届いていた。

 最小霊弾と同じだけ霊力を抑えていた生斗の右肩を水槍は貫いていたのだ。

 

 

「……ふぅ……ふぅ……」

 

 

 水槍が肩を貫き、激痛が生斗を襲い掛かる。

 今にも悶え、叫び声をあげたい気持ちをぐっと堪える。

 

 

 そんな中、遠くでは至る所で爆発が巻き起こり始めていた。

 

 

「爆散霊弾か」

 

 

 生斗が予備案として待機させていた爆散霊弾に水槍が貫いていたのだ。

 

 水球がそのまま落ちてきた場合と綿月隊長が降りてきた時の案_____誘爆による連鎖爆撃。

 

 水球が落ちてきた時には、爆発による水球の崩壊させる際にも使えた有用案であったのだが、綿月隊長の絨毯攻撃によりその案も水泡に帰する。

 

 

「(これは……)」

 

 

 そして生斗は、漸く己の失態に気が付く。

 綿月隊長に自身の策を看破された時点で、反撃に出るべきであったのだ。それを既に破綻した策、潜伏による奇襲を無意識に縋っていた。

 潜伏したことによって齎されたのは、視線切りとして利用価値のあった森林の破壊のみ。

 

 

「くそっ!!」

 

 

 自身に憤慨しながらも、生斗は己を中心に広範囲障壁を展開。

 一時的に槍の雨の猛攻を凌ぐ。

 そう、一時的にでしかない。

 

 

「そこか!」

 

 

 霊力を使用したことにより、綿月隊長に探知され、水槍の密度を障壁へと向ける。

 

 忽ち障壁は崩れ、水槍が生斗へと襲い掛かる_____が、充分に距離は取れている。

 

 

「はぁ、はぁ……真っ向勝負と行きましょうか、綿月隊長」

 

 

 広範囲に障壁を展開したのは、爆散霊弾の被爆範囲から逃れる為であり、水槍を凌ぎ切るつもりなど毛頭なかった。

 

 本命は、爆散霊弾による正面突破。

 

 これまで、自身すら巻き込むほどの被害範囲とで多用してこなかった生斗の必殺技。

 霊力の塊が強い衝撃を受けると爆発に似た現象が起きる事を利用し、霊力を粒子化させ、それを膜を張って撃つという単純に見えて扱いが非常に困難な技である。

 

 膜の硬さ、霊力の質、粒子の量。

 この条件下で初めて高火力の爆発が起きる。

 これが一つでも欠ければ、ただ霊力が霧散するだけの代物となるのだ。

 

 強者は、生成技術難易度が結界術以上に高い爆散霊弾は効率が悪く、霊弾を撃っていた方が手っ取り早いため、試す者はほぼ皆無。

 弱者ではまず霊力を一つ粒子化させる事さえままならないだろう。

 

 故に、生斗しか扱えない。

 霊力操作に長け、怨霊に取り憑かれて変化して尚質の良い霊力。そして長年扱ってきた事による粒子の生成技術の向上。

 今の生斗であれば霊力剣と同じく息をするように粒子を発生させられるだろう。 

 

 

「まじか熊口君!」

 

 

 生斗だからこそ出来る芸当_____爆散霊弾の連続同時発動。

 無限に発生し続ける槍の雨を、少しずつではあるが押し始める。

 

 

「ぐうっ!」

 

 

 先にも言及したが、爆散霊弾は超高等技術。

 息をするように発生させられたとしても、同時に、しかも連続で生成するのは、命を使用したとしても脳への負担が大きい。

 

 綿月隊長との戦闘の中で生斗が生成した爆散霊弾はざっと四十六発。それは不発に終わったものもあれば攻撃を凌ぐ為に使われたものもある。

 

 既に、生斗がこれまでの人生で一日で使用した最大数を更新していた。

 

 鼻からは血が止め処無く垂れ落ち、視界は徐々に霞んでいく。

 

 

「はああ!」

 

 

 爆散霊弾によるゴリ押し。

 これは他に手の打ちようが無かった場合の最終手段であった。

 絨毯攻撃を受けた際、他に手はあったのかもしれない。

 しかし、生斗は最終手段を切った。

 

 近付けば一撃必殺の通常攻撃に、遠ざかれば無限に湧き出る海水。

 何れにせよ、どちらかで相手を上回り、致命傷を追わせる必要がある。そのあまりにも高すぎる牙城は生半可な攻撃ではびくともしないだろう。

 

 だから今、勝負を決めに行った。

 予備バッテリーが帰還装置の電力量を下回るまで残り七分の猶予を残しているが、端から時間切れを視野に入れていない。

 

 _____勝ちたい。

 妖忌との戦闘を経て、一層強くなった感情。

 生斗が訓練生時代から、強さの象徴であった綿月隊長。

 人格者であり、曲がった事が大嫌いな正義漢。

 

 そんな彼に、これまで抱くことさえ馬鹿馬鹿しいと切り捨てていた感情が、生斗の心が、身体が、そう強く唸っていたのだ。

 

 

「押しっ、返っ、せん!?」

 

 

 

 

 

 遠く離れた都からも大音量で鳴り響き続ける爆撃音と水飛沫。

 月とは別の光源が、都にいる住民の眼を細めさせる。

 

 

「な、何が、起こっているのだ」

 

 

 都の一角では洪水による被害の対処で慌ただしい状況でもあるにも関わらず、塩水の雨が降り注ぎ、常に鳴り続ける轟音、地鳴り等が同時多発しており、住人達はただ立ち尽くすことしか出来ずにいた。

 

 

「天変地異じゃ。これはこの都が崩壊する前兆なんじゃ」

 

「儂らは一人残らず死ぬってことなのか!」

 

 

 ある者は憤慨し、ある者は泣き崩れ、そしてある者は祈った。

 まるで神々の怒りを鎮めんとするように。

 

 

 

「が、がはは! はははは!」

 

 

 しかし、当の本人は笑っていた。

 

 圧倒的物量を持ってしても、押され続けるこの状況に。

 

 綿月隊長は、ただただ今の状況を楽しんでいた。

 

 

「来い熊口君! 君の本気を見せてくれ!!!」

 

 

 遂に、生斗の爆散霊弾が、水源を保っていた水球まで届き、次々と着弾していく。

 

 

「はあ! はあ! 行けっ!!」

 

 

 水球は弾け、洪水が地上へと襲い掛かる。

 

 だが、生斗は爆散霊弾を生成し続ける。

 綿月隊長を倒す為、はたまた先の彼の発言に応える為。

 

 いつものような妥協はしない。

 

 全力で叩き潰す。

 

 その覚悟が、生斗にはあった。

 

 

「(これが_____)っぅ!!?!」

 

 

 そして遂に、生斗の牙が綿月隊長の喉元に届く。

 

 

 襲い掛かる洪水すらも跳ね除け、一つの爆散霊弾が綿月隊長に着弾。

 その後なだれ込むように、一つ、また一つと着弾していく。

 

 

「はっ! はっ! がっ!」

 

 

 幾度となく綿月隊長のいる場所から巻き起こる大爆発。

 質量比としてC-4爆弾を遥かに凌ぐ威力の弾丸が、綿月隊長に襲い掛かる。

 

 

「(___熊口君)」

 

 

 そんな猛撃を受ける中で、綿月隊長は走馬灯のように昔を思い出していた。

 

 

「(私が君と初めて遭った時、一目で分かっていたよ)」

 

 

 遥か遠い記憶。

 生斗が永琳に連れられた図書館で邂逅した時の事。

 それは生斗だけでなく、綿月隊長にとっても衝撃的な出来事であった。それは_____

 

 

「(君は必ず、私を越えられると!)がはっ!!」

 

 

 _____自身を越える存在を肌身で感じられたからであろう。

 悔しくもあり、嬉しくもある感情。

 

 

 

「はあああああ!!!」

 

 

 そして遂に、綿月隊長の潮盈珠と潮乾珠は崩れ落ち、洪水として襲い掛かっていた海水が消失した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ___

 _____

 _______

 

 

 

「ぜぇ、ぜぇ、ごほっ、ごほっ……」

 

 

 膝から崩れ落ち、眼と鼻から血を垂らしながら肩で息をする生斗。

 眼前に見える地面は歪み、平衡感覚すらままならない状況。

 

 満身創痍という言葉がこれ程までに似合う"二人"はそうはいない。

 

 

「まじで、どうなってんだよ!」

 

 

 生斗の正面には、黒焦げとなった綿月隊長が立っていた。

 勿論、頭はパンチパーマとなっている。

 

 

「ごふっ」

 

 

 人間よりも遥かに耐久力のある大妖怪ですら塵も残らないレベルの多重爆撃。

 その数二十六発。

 

 

「はぁ、はぁ……ギャグ漫画の世界の住人ですか、あんた」

 

「ごふっ、ああ、自分でも驚いているところだ」

 

 

 内側から頭蓋をかち割られるように錯覚する程の頭痛と、今は地面の上にいるのか横にいるのかすら判断が覚束ないほどの平衡感覚。

 そんな状態でも、生斗はなんとか立ち上がる。

 

 

「(霊力剣……すら出せないか)」

 

「(身体の言う事が思うように聞かん。私の身体も限界が近いか)」

 

 

 己の今の状態が、全快時とは程遠いことを再認識する両者。

 爆心地でまま見られるような荒れた大地の上、覚束ない脚を震わせながら、互いが相手を打ち倒す為に歩み始める。

 

 _____最後の戦いが始まる。

 

 

「あああ!!」

 

「行くぞ!」

 

 

 力を振り絞り、綿月隊長は生斗に向かって肉薄する。

 なんの捻りもない右ストレート。

 全快時であればそんな安直な攻撃はしなかったであろう。

 勢いも速度も足り得ない攻撃を、生斗は軽くしゃがみ回避。そのまま膝のバネを利用して放ったアッパーが綿月隊長の顎に直撃する。

 

 後ろに仰け反る綿月隊長。

 しかし、それだけで倒れてくれるほど甘くはない。

 そのまま勢いをつけて放たれた頭突きによって、生斗の左鎖骨を粉砕する。

 

 右肩は水槍が貫通したことにより潰され、左鎖骨は粉砕。

 実質、生斗の両腕は封じられた。

 

 

「まだ!」

 

 

 頭突きが繰り出された直後に、生斗は回し蹴りにより綿月隊長のこめかみに大打撃を与える。

 

 

 

 _____ふわふわする。

 

 

「(意識が落ちそうなのに)」

 

 

 今にも手放しそうになる意識の中、まるで自身が空中に浮いているかのような感覚。

 それは平衡感覚が狂ってしまっているためか、それとも、意識と無意識の狭間へと迷い込んだためか。

 

 恐らくは両者。

 そうでなければ、今の状態で戦う事など、ましては反撃することなど到底不可能であったからだ。

 

 

「がははは!」

 

 

 こめかみに強い衝撃を受け、軽い脳震盪を起こしても尚、綿月隊長は笑った。

 彼にとって、気にかけていた部下の成長に、全てを引っ括めて嬉しさが勝っていた表れなのだろう。

 

 

「おらああ!」

 

 

 ふらついた状態での裏拳。

 それを生斗は左脚を畳んで防御するが、あまりの衝撃に十数メートル先まで吹き飛ばされてしまう。

 

 何度かバウンドを挟んだ後、生斗は体勢を整え、前傾姿勢で綿月隊長へ向かう。

 

 間髪入れずに攻めたてる綿月隊長。

 顔面に向かって繰り出される膝蹴りに、生斗はスリッピングアウェーの要領で受け流す。

 

 躱されても意に介さず、振り返り様に鉄槌打ちを繰り出すも、またしても躱され地面を陥没させる。

 前傾姿勢との戦闘の不慣れによってもたらされた大振り。

 地面を陥没させたことにより、一瞬の隙を生斗は見逃さなかった。

 

 

「うぐっ!?」

 

 

 綿月隊長の顎に、二度目の衝撃が走る。

 

 生斗の頭突きが、綿月隊長の脳への揺らしを延長させていた。

 

 しかし、その代償はあまりにも高く_____

 

 

「はっ、あ」

 

 

 生斗自身にも、絶大なダメージを負わせていた。

 ただでさえ脳に、対し度重なる負荷をかけていた上の頭突き。

 意識下であればまずしなかったであろう選択肢も、無意識との狭間にて半ば身体の赴くままに戦っていた生斗にとって、自身へのダメージよりも綿月隊長へのダメージを優先させていたのだ。

 

 

「……熊口君、楽しいな」

 

「なにが、ですか」

 

 

 頭突きを受け、尻餅を付く綿月隊長に、共に四つん這いに倒れる生斗。

 お互い、立った状態を保てない程疲弊している証拠である。

 

 そんな中でも、お互い立つこともままならぬまま、頭突きし合う。

 

 

「がっ!?」

 

「うぅ!?」

 

 

 最早二人の眼前にいる者が誰かすら、判断出来ていない。

 けれども、二人は戦いを止めない。

 

 二人に何がそう突き動かすかなんて無粋な質疑は時として冒涜となる。

 

 _____ただ、勝ちたいから。

 

 任務の為、上に立つ者としての使命、家族の為、咎人を逃がす為。

 それぞれの思惑の下始まった戦闘であったにも関わらず、今二人の原動力となっているのは、眼の前に立ちはだかる強者に勝つ事。ただその一点に尽きている。

 

 

「はぐっ!」

 

「うあっ!!」

 

 

 綿月隊長の腕に噛み付き、それを軸にして膝蹴りを脇腹に繰り出す生斗。

 負けじと綿月隊長は生斗の蹴られた脚を掴み、地面へ叩き落とす。

 

 

「ぐっ!!」

 

 

 二度目の叩き落としをしようとする綿月隊長に対し、後頭部へもう片脚で膝蹴りを繰り出しため、敢え無く手を離してしまう。

 前方に投げ飛ばされる生斗。

 禄に受け身を取ることなく飛ばされるままに転がる。

 

 

「は"あ"、は"あ"」

 

「ぐっ、くぅ」

 

 

 幾度も脳へダメージを負う綿月隊長。常人ならばとうに脳震盪や脳挫傷等で卒倒しているだろう。

 にも関わらず、綿月隊長は首を鳴らし、戦いの意志を見せる。

 

 

 あまりにも泥臭く、そして美しい。

 先程まで頂上戦争を繰り広げていた者達が、己の体裁を投げ捨ててまで勝ちに行こうとするその執念に対し、誰が指を差して笑えようか。

 

 

「これで、最後だな」

 

「は"あ"、は"あ"」

 

 

 次に与える一撃が、お互い最後の力となろう。

 そう予見した綿月隊長がそう言い放つ。

 

 生斗は返答しない。いや、返答するまでもなかった。

 何故なら、彼もまたその事を理解していたからだ。

 

 

「ふんっ!!」

 

 

 拙い足取りで肉薄してくる綿月隊長。

 笑う脚に鞭を打ち、立ち上がる生斗。 

 

 

「来い"!!」

 

 

 己を鼓舞するように咆哮し、迎え撃つ体勢を取る。

 

 

 残り数歩まで接近する両者。

 

 

「「____!!」」

 

 

 そして遂に、決着の時が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ___

 _____

 _______

 

 

「……」

 

 

 月へ帰還する為、輝夜姫の屋敷へ歩を進めていたのは_____綿月隊長であった。

 

 腕には気絶した生斗をしっかりと抱えており、二人揃って方舟の前へと辿り着く。

 

 

「残り一分。ギリギリだったな」

 

 

 方舟のセキュリティルームにて、帰還装置を作動させる綿月隊長。

 その傍ら、仮眠ベッドへ寝かせている生斗を見やる。

 

 

「熊口君、もうすぐ皆に会えるぞ」

 

 

 綿月隊長は自身に対して生斗が刃を向けた事を恨むでもなく、これから起きる事柄を呟く。

 

 彼にとって、生斗は恨む対象ではなく、どこまでいっても仲間であり、月の民を救った英雄であったのだ。

 

 

「大丈夫だ。私と月読命様がなんとかする______だから、帰ろう」

 

 

 帰還装置の起動準備が完了し、方舟本体が動き出す。

 

 

 輝夜、妖忌、妹紅、これまで関わった人達、そして紫。

 

 誰にも別れの挨拶を言えていない。

 

 

 中には今生の別れとなるやもしれない。

 永琳にお礼すら言えていない。

 

 そんな悔む事さえ、今の生斗には叶わない。

 

 

 宇宙へ飛びゆく天の方舟。

 

 鈴の音と共に天の川を渡るそれは、無情にも美しく、都に住まう者達の眼を釘付けにする。

 

 

 

 そんな中でも、一際特別な感情で見やる者がいた。

 

 その人物とは_____

 

 

「……せ"い"と"」

 

 

 _____"ある決意をした"紫であった。

 

 

 

当作品の原作キャラの中で一番印象に残っている人(神)妖

  • 八意永琳
  • 綿月依姫
  • 綿月豊姫
  • 洩矢諏訪子
  • 八坂神奈子
  • 息吹萃香
  • 星熊勇儀
  • 茨木華扇
  • 射命丸文
  • カワシロ?
  • 八雲紫
  • 魂魄妖忌
  • 蓬莱山輝夜
  • 藤原妹紅

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