「……私、何やってるんだろう」
縁側にて、自らの行動に省みながら小望月を見上げる。
場所は熊口様の御部屋。
自作されたであろう旅道具の品々が綺麗に整頓されている。
_____その中に、男物の規格品はない。
同規格のものが三つ程ある辺り、私と紫、そして永琳の三名を意識して制作されたのだろう。
分かっていた。
このような結果になることぐらい。
恐らくあの人よりもあの人の事を想ってきた。
だから、本当は
『あの時はおれも甘ちゃんだったのは分かるよ。でも出禁はないよな! 出禁は!』
『ちょっと、飲み過ぎよ』
『でもその時豊姫さんって人がさぁ____』
熊口様のお怪我が完治されて間もない頃、紫と晩酌をされていた時の事。
盗み聞きをするつもりではなかったが、ふと耳に飛び込んできた二人の会話。
『(月の事を、話している……?)』
数億年も昔の事であるというのに、未だに鮮明に当時の事を憶え、嬉々として語る熊口様。
本当であれば、帝へ打ち明けたタイミングで熊口様へも月の関係者であることを伝えるつもりであった。
私ほどの美貌があれば帝は必ず接触を図ってくる事は明確だったし、そのお眼鏡に留まるまでの時間稼ぎもした。
月の使者が迎えに来る直前に熊口様に打ち明け、良心に訴えていれば、もしかしたらお供して頂くことはできたかもしれない。
_____でも、それでも、あの時の楽しそうな熊口様の姿を見てしまったからには、引き下がるしかないじゃない。
「はあ……」
清酒を口へ含み、味わう間もなく喉へと流していく。
月へ行けば、熊口様は必ず不幸になる。
軽ければ数千年の幽閉か即追放。
重ければ末梢。
熊口様には伝えていなかったが、彼の支持者は一定数存在する。
それこそ、今回使者団へ異例の追従する防衛総監____綿月大和もその一人。
あの総監であれば、月の権力者の反対を押し切ってでも熊口様を連れ帰るだろう。
けれども、熊口様には問題が二つある。
それは罪と穢れ。
罪は言わずもがな、穢れに関してはどう仕様もない。
熊口様の能力は自身の生命を生み出す能力。
私達月人や仙人等のような条件を満たして得た長寿ではない、世の理を超えた代物。
その生命力は凄まじい。
最早生命の塊である妖精のそれを優に越える。
何も対策されてなければ月の都は凍結せざるを得ないでしょう。
「まだ、帰ってこられないのかしら……」
月読命様ですら除ききれず、周りに漏れ出さないよう術式を施していた程だ。
しかしその手も月の地では不可能であることは本神から聞き及んでいる。
そして、今ならば
私には、それが不安でならない。
月読命様を疑うわけではないが、熊口様にとってそれは、大切な何かを失うような気がするのだ。
「……」
だとしても、熊口様は月に行くことを止められない。
彼にとっての『約束』は、ある意味命より重い。
『後で必ず行く』って、言いましたもんね。
私がその言葉が成される日をどれだけ待ち望んでいたように、月にいる熊口様の友人達も彼の帰還を待ち望んでいる。
それがもし最悪な結果になろうとも、熊口様にとっての約束が果たされるのでしたら、私はそれを全力で応援するのみ。
「あ〜、話し過ぎた_____うぇ? なんで輝夜姫がこんなところにいるんだ」
「熊口様」
喉を押さえながら襖を開け、自室へと入ってこられる熊口様。
私が勝手に部屋に上がり込んできていたにも関わらず、さしも驚かれる様子もなく布団を敷き始める。
「すまんな、ちょっと今日は紫と話し込んでて晩酌には付き合えなかった。話があるんなら明日聞くから、今日は部屋に戻りな」
「いえ、お気になさらず」
そのまま敷布団の上で横になりだす。
余程眠かったのでしょうね。確かに今は丑三つ時を超えている。
恐らくこれは昼間で起きてこられないでしょう。
「では」
「ではじゃないが」
熊口様が何故か布団に入り込もうとする私の頭を抑えてくる。
「部屋に帰れ」
「癒やしてくださいまし〜」
幾ら力を入れてもびくともしない。流石は殿方様の膂力。
お互い霊力を使用していないとはいえ、ここまで力の差を見せつけられるなんて_____
「もしかして、誘ってらっしゃいますか」
「どこをどう見てそうなるんじゃ。いいからもう寝ろ」
額に軽くデコピンされてしまった。
うぅ、痛い。
「お願いです。後生ですから」
「後生ないだろ」
中々引き下がってくれない。
私だって引き下がったのだから、熊口様も一つぐらい譲歩してほしい。
「温もりがほしいんです」
「お爺さんとお婆さんのところ行けば、幾らでも温もれるだろ。もう眠いから遊ぶのはまた今度な」
熊口様が譲歩してくれないのは正直分かっていた。
社会的立場然り、男女の貞操然り。彼から了承が出ることはないでしょう。
「分かりました。明日早く起きてくださいね」
「ああ、善処する。それじゃ、お休み」
そう言って、程なくして小さい寝息が立ち始める。
余程睡魔が襲ってきていたのでしょうね。
私が帰ることを確認する間もなく眠られてしまうなんて。
「本当に、申し訳御座いません」
熊口様の布団へ入り込み、腕を抱きしめる。
「最後に、温もりをください」
次に会えるのはいつになるだろう。
十年、百年、数千年?
それでも私なら待てる。
でも少しだけ、それまで貴方をいつでも思い出せるように。
私に手の感触を教えてください。
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次の日の朝。
私の寝相で顔面にけたぐりを受けた熊口様にこっぴどく叱られました。
ふふ、これで一億年は待っていられる。
当作品の原作キャラの中で一番印象に残っている人(神)妖
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八意永琳
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綿月依姫
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綿月豊姫
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洩矢諏訪子
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八坂神奈子
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息吹萃香
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星熊勇儀
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茨木華扇
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射命丸文
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カワシロ?
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八雲紫
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魂魄妖忌
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蓬莱山輝夜
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藤原妹紅