今日も今日とで剣術指南。
と、言う訳にもいかず、今は夜勤で屋敷を巡回をしている最中だ。
定期的に藤原さんとこに修行に行ってる穴埋めとしてやっていることだが、何分やることがない。けれどもサボって素振りでもしている間に侵入でもされたら溜まったもんでもないので、仕方なく巡回という名のランニングを続けている。
「はっはっはっ」
まあ、正直霊力探知である程度侵入者ぐらいは見つけられるんだが、無駄に広い屋敷一帯の全てを把握とまではいかない。
なので動いている最中でも霊力探知の練度を落とさないようにする修行も兼ねて巡回をしているところだ。
今の所は順調。
この状態で侵入できるやつはそんなにいないんじゃないか。
「はっはっ…………まじか」
と思った矢先、正門から少し離れた塀の上辺りで一人分の霊力が探知された。
門番は何やってんだ。あっさり塀を登られてるじゃないか。
また輝夜姫の求婚者か? それともお爺さんの財産目当ての盗人か。
それはどうでもいいが、侵入されたからには対処しないと。
「おいそこ、勝手に塀を登ったら……」
「!!」
侵入者はまだ塀の上から降りておらず様子を窺っているようなので、急いで現場についたおれは言葉を詰まらせた。
何故かというと、その侵入者がまさかの知り合いだったからだ。
「妹紅、お前何してるんだ」
「せ、生斗……」
塀にぶら下がったまま降りれなくなった妹紅。
恐らく予想より高くて降りるのが怖くなったんだろう。
こういうのって上った時は気付かないもんだよな。
「わ、理由は後で話すから、助けて」
「……」
妹紅も何か事情があってこんな事をしているんだろう。
そんなことはある程度付き合いのある人間なら誰でも気付くことだろう。
でもだな。不法侵入は不法侵入。立派な犯罪行為だ。子供だからって容易に許すわけにもいかない。
「え、えっ、なに?」
「妹紅、悪い子はお仕置きだ」
「え"っ"」
苦渋の決断ではあるが、おれは心を鬼にして無防備となっていた妹紅の脇腹を擽り倒した。
「!! っひゃふっ! ひゃっは、や、やめて!」
「馬鹿。そんなすぐ止めたらお仕置きにならないだろ」
「お、お仕置き、にひっ、もげげ、限度が、あるってば!」
「ほらほら、大声出すと門番に見つかるぞ」
「んんっ!」
涙を浮かべながらも紅い眼で必死に訴えかけてくる妹紅だが、あと二十秒は決して止めないぞ。
「(落ちる! 落ちる!!)んん〜っ!」
「あと十五秒」
正直妹紅がぶら下がってる高さはそんなに大した事ない。
ぶら下がってる妹紅のつま先から考えてもせいぜい二メートルぐらいだ。
落ちたとしても頭から着地しない限り大事に至ることはないだろう。
「五、四、三」
「も、もう」
「二、一」
「むり!」
「零____よっと。よく頑張ったな」
ギリギリで時間制限内を耐えきって落ちてきた妹紅をキャッチし、ゆっくりと玉砂利の上に置く。
「はあ、はあ、はあ……へ、変態!」
「変態って、お前なぁ。妹紅お前は事情があってこの屋敷に侵入してきたんだろう。そんな中で口で説教したって響かないのは分かりきってんだよ。だからといって知り合いを役所に突き出したり痛みで教育するのはおれの性に合わない。そうなったらもう、擽りしかないだろ」
「他にも選択肢あったでしょ!」
「そんなに大声だしたら門番起きるぞ」
「うっ」
結構大声だしてるのに一向に門番が確認に来ない辺り、確定で寝てるな。二人いた筈なのに何やってるんだが。
「まあ取り敢えず事情聞いてやるから、そこでちょっと待ってろよ。ちょっと寝てる門番ぶん殴って外の見回りさせてくるから」
「知り合いを痛みで教育するのは性に合わないんじゃないの」
「成人は別だ」
「ええ……」
さっきまでサボってたんだ。多少おれの巡回を任せても問題ないだろう。
少し面倒だが、この可愛い侵入者の言い分を聞いてやるとするか。もし下らない事情だったら、今度の剣術指南に参加させよう。
ーーー
「で。なんで私の部屋なわけ。眠いのだけれど」
「不法侵入とはいえこんな夜更けに男の部屋に女の子を連れ込むわけにはいかないだろ。今度また干し魚買ってやるから許してくれ、な?」
「要らない」
優雅に睡眠を取っていた紫の部屋へと妹紅を招き入れ、座布団に座らせる。
さて、まずは何から話すかね。
「妹紅貴女、こんな夜更けに独りでここまで来たの」
おれが投げかけるより先に、紫が妹紅に質疑を飛ばす。
それ、おれが言いたかったことなんだけど。
「……うん。日中は屋敷の者に止められたから」
「夜は危険極まりないからもうやめろ。今日は偶然大丈夫だったようだけど、試し斬りにと女子供を標的に辻斬りする輩や人攫いが出回ってるんだぞ」
「生斗の言う通り。非力な貴女では格好の餌食でしかないわ」
「……」
あー、いかんいかん。
説教はもうするつもりはなかったが、つい流れで言ってしまった。油断するとすぐ説教臭くなるのは歳の取り過ぎた弊害かもしれない。これじゃあ妹紅は擽られ損だ。
「……はあ、それで。なんで妹紅はこんな暴挙に出たんだ? 紫だって妹紅が考えなしにこんな事をするなんて思ってないだろ」
「ええ、まあ」
「……」
さっきの説教が響いたのか、俯いたまま押し黙る妹紅。
その姿は年相応で、普段の背伸びした姿はどこにもない。
「……あの女に、文句を言いたくて」
「あの女……?」
「輝夜のことね」
おれよりも早く紫が事態を把握し、輝夜姫の名を出す。
「変な期待を持たせたから、父様が可怪しくなった」
「可怪しく? ちょくちょく行ってるが、そんな様子は見られなかったけど」
変な期待とは、輝夜姫が藤原不比等に対して、次回作に乞うご期待と打ち切り漫画でよくある煽り文のような返しをされたことを言っているのだろう。
それが藤原不比等を可怪しくした?
また良からぬことでも画策しているのだろうか。
「公務以外で人が話しかけても上の空だし、貢物らしき工芸品が屋敷中に散乱するしでめちゃくちゃだよ!」
「「あ〜」」
駄目だ。完全に骨抜きにされてるじゃないか。
おれが話す時は特に変とは思っていなかったが、あれは公務中だったからか。あまり屋敷をウロウロしていた訳では無いが、確かに変な置物とか廊下に置かれてたな。
「だからはっきり言ってやれって文句言いに来たんだ! あの性悪女に!」
「だからと言ってな。脈無しと断言されたらそれこそ藤原さん荒れると思うんだが」
「そ、それはそうだけど……」
それにしても妹紅、相変わらず輝夜姫のこと嫌ってるな。
半年ちょっと前に行った草原散策に何故か付いて来た輝夜姫と妹紅が大喧嘩して大変だった。おれも二日酔いで何回か吐いてたし。あの時は本当に紫と妖忌には申し訳ないことをした。
「最初は荒れるだろうけど、何れは元に戻る。濁した今の状態ではいつまでも粘ついた悪循環が続く。と言いたいのよね」
「そ、そうそれ!」
紫が言いたいことを代弁し、少し晴れやかな顔をする妹紅。
それで済むのなら正直そうした方が良いとおれも思う。だが_____
「……駄目だ。それでも輝夜姫に会わせるわけにはいかない」
しかし、そう単純な話ではない。
「輝夜姫は嫁入り前で、本来家中の者以外は見通りすることは出来ない」
「顔は見なくても、話だけなら!」
「それに妹紅は侵入者だ。お爺さんの許可はまず下りないし、おれの独断で会わせるのは以ての外。つまり不可能だ」
「うぐっ……」
淡々と、妹紅の無理難題の要求を拒否する理由を説明する。
これ以上は不要だ。妹紅が知る必要はない。
「……」
可哀想だが、諦めてくれ。
妹紅の要求が通るとは思わないが、万が一がある。会わせるわけにはいかない。
「生斗の、分からず屋」
少し、ただ少し、瞳に涙を浮かべながらそう呟く妹紅。
その後間もなく立ち上がり、トボトボと紫の部屋を後にする。
「……はあ、紫。すまんが藤原邸まで頼む」
「起こされた上に送りまで私にさせるなんてね」
「仕方ないだろ。今おれが付き添っても逆効果だ」
「ほんと、もう少し言い方があったでしょうに。今度干し魚以外でご馳走して頂戴ね」
「りょーかい」
やれやれと立ち上がり、部屋を出ようとする紫。
「あっ、ちょっと待ってくれ」
「何よ」
しかし、おれは制止の声を上げる。
「
「………………分かってるわよ」
大人の事情は妹紅は分からなくていい。
あいつは知らぬまま今の状況に甘んじてほしいんだ。
「それじゃ、今度こそ行くわね」
「頼む」
は〜あ。眠いけど、また巡回に戻るとするか。
考えるの疲れたし基礎体力作りの続きでもしようかね。
当作品の原作キャラの中で一番印象に残っている人(神)妖
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八意永琳
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綿月依姫
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綿月豊姫
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洩矢諏訪子
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八坂神奈子
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息吹萃香
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星熊勇儀
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茨木華扇
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射命丸文
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カワシロ?
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八雲紫
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魂魄妖忌
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蓬莱山輝夜
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藤原妹紅