失踪と言っても過言ではない期間更新が途絶えていましたが、これからまたちょくちょく更新予定です。
相変わらず亀更新となりますが、宜しくお願い致します。
「七……八…………」
___型の見直し。
妖忌との戦いで浮き彫りとなった課題の一つだ。
今のおれでは、十戦やって一回勝てれば御の字のレベルではあるが、何故か運良く二回とも引き分けという形で済んでいる。
霊力と地理をフルに使っての素、剣術のみで活用した一生分の力。
一生分の力を霊力込みで使えればまだおれに分があるのだろうが、それでは駄目だ。
彼奴は一戦目の時よりも更に強くなっていた。
悠長に構えていたら、ただでさえ指先で少し触れられるぐらいの差が、今度こそ二度と届かなくなる。
「九……七十……一…………二」
型を元に敵の動きを予測し、どう捌くかをイメージする。
イメージを広げ、人間の可動域を越えた動きにも対応する型を前の型からの変動のうちに決め、実行する。
下手すればただただ変な形で木刀を構え、力が入らず相手の剣戟を受け止めることができなくなる。
これまでの経験則をフル活用し、七十二までの幾通りの不規則な剣戟に対応を可能とした___________が。
「っつぅぅ……七十二が限界か」
おれ自身が生成した霊力剣が、おれの横腹を軽く掠める。
「…………はあ、はあ、はあ……はぁ」
流石に自身で霊力剣で不規則に動かしながらの型の練習は身体だけでなく脳にもくる。
型の練習が終わるとともにおれは尻餅をつき、これまでに疎かにしていた息を整え始める。
「もう夕方か」
おれは怪我のリハビリという体で都からそう遠くない杉林で修行に勤しんでいた。
先程までは木々から差し込んでいた陽気が、今では赤く染まり、夜の訪れを示していた。
『熊口様は……月の民から拒絶されているのですから』
「……」
修行中は忘れられていたのに、一息ついた瞬間にこれか。
もうあれから一月は経つというのに、どうしても輝夜姫のあの一言が頭から離れない。一時期は吹っ切ろうとしても、粘りつくように脳にへばり付いてくる。
輝夜姫に急かして真相を聞くこともできない。おれが焦って事を起こせば、輝夜姫の身にも被害が及びかねないからだ。
真相を知るのは輝夜姫のタイミング、来たるべき時期が来るのを待つしかない。
だからこそ落ち着かない。
じっとしていると自然と貧乏揺すりが出てきてしまうぐらいには。
「おうおうアンチャン。独りでいるなんて不用心だなぁ」
修行の合間、月のことについて思い耽っていると、後ろからそんな声が聞こえてくる。
___追い剥ぎか。
よくもまあ、ご親切に口上してくれるとはね。確実性を取るならまず頭に一発入れてからすればいいものを。
取り敢えずまあ、良い憂さ晴らしだ。
気配からして後ろに二人、辺りの木の陰に五人。
だいぶ身体の調子も戻ってきたところだ。先程の修行の成果、実戦で試させてもらおう。
「取り敢えず身ぐるみ全部剥がせてもらおうか」
「……こんな汗だくの服が欲しいのか」
「服が目的じゃねぇよ。お前の
「___はあ?」
「脚がガクガクになっても、ヒィヒィ喚いてもやめねぇからな」
「久し振りの玩具が手に入るぜ」
「え、えぇ」
いかん、思わず尻を両手で覆ってしまった。
おいおいまじかよ。そういうのって普通年若い女子にすることだろう。
正直普通に殺されるよりも嫌かもしれない。
あれか? 森の中を護衛もつけずに女子一人が出歩く事なんて滅多にいないから、男に走ってしまったパターンか?
駄目だ、寒気が止まらん。
「ごめんな。おれ、そんな趣味はないんだ」
「げへへ、おめぇの趣味なんか関係ねぇぜ」
「使い潰してやんよ」
もしかしたら労働での意味を履き違えているだけかもしれないと淡い期待をしていたが、今の問答の限りガチモンのようだ。
数百年生きてきて初めての出来事で流石の熊さんも驚きを隠せません。
おれの鍛錬する姿があまりにも魅力的過ぎてやばいフェロモンを撒き散らしてたのがいけないのかもしれないな。
「……丁度良いか。おれも大分溜まってきて気持ち悪くなってきたところだし、発散させてもらおうか」
「まっ、まさかテメェも!?」
「あ、いや、違う……」
しまった。今の言い回しだと此奴等と同じ目的に聞こえてしまう。
おれが言いたいのは一生分の霊力が溜まりつつあって、生活に支障をきたしてきたから放出するって意味だから。
だからその、尻を守るような素振りはやめてくれ。
意外と体力使うし、霊力放出は加減が難しいから身体強化に全振りするか。恐らく物足りないだろうが。
加減を間違えて多量の霊力を放出すると目立つうえ、最悪おれらがいるこの山自体が吹き飛びかねない。
この状態ならば霊弾一つで常人ならば軽く頭が吹き飛ぶレベルに威力が底上げされるのだ。
_____何故そんなことが分かるのかって?
……そりゃあな、生きてりゃ色々あるもんさ。
「んじゃ、さっさと処理して都に帰るとするか」
そしてこれも色々の一つ。
此奴等も生きるので必死___かは分からないが、追い剥ぎーー山賊は元は農奴等の生まれつき社会的弱者である者が主だ。
その社会での重税に耐えかねた者や犯罪を犯して追放された者。
中には可哀想な奴はいるが、おれを標的にしたことが運の尽きだな。
おれは善人ではない。
自身の命を脅かすのであれば誰であろうと容赦しないし、此奴等は色々と終わっている。
他者に危害を加えることに愉悦を感じるような奴を生かしておく道理はない。
「最後の情けで痛くしないでやるから、掛かってきな」
「やっぱりお前もそうなんじゃないか!」
「なんだよ、仲間じゃねぇか」
「……ち、違う」
あっ、駄目だ。言い方的にまた勘違いされてる。
おれはただやむを得ない理由で追い剥ぎやってる奴もいるだろうからまとめてスパッと終わらせるつもりだったのに、なんか汚くなってしまった。
やめろ! おれの発言に対して汚した解釈するな!
結局、なんだかんだで戦意が削がれたので二度と山賊しないよう叩きのめす程度で済ませてしまった。
あいつら、ボコボコにされたあとも皆尻だけは守ってやがった……!!
ま、まああれだけ懲らしめてれば少しは改心するんじゃないだろうか。
次もし出くわしたときに改心してなかったらそれこそあいつらの運の尽きってことで。
「結局、全然霊力発散できなかったな……」
ーーー
「どうか! どうかかぐや姫を一目見せてはくれませぬか!」
「嫁入り前でありますゆえ、ご容赦くださいまし!」
屋敷の門前には、ありとあらゆる階級の貴族で溢れかえり、我ぞ我ぞと私宛に拙い恋文や見窄らしい贈り物やらと、私の気を引こうと躍起になっている。
「流石貴公子の開いた催し物。宣伝効果抜群だわ」
屋敷の出入り口からさほど遠くない一室。
隣で優雅に茶を啜る紫を横目に、私はやる必要もない琴の習い事に興じていた。
「顔を見たこともない相手によくやるわよね〜」
「御室戸秋田って氏族のお墨付きだからじゃない?」
御室戸秋田___一応私の名付け親であり、面識もある。
月の連中の工作だかなんだか知らないけれど、私の本名と同じ名をつけてくるなんて、最初に聞いたときは吹き出しそうになったわ。
いや、そんなことより____
「ねぇ、熊口様はいつ帰ってくるのよ〜。熊口様成分が足りなくて今には餓死しそう」
何の因果か、これまで探し求めてきた御方が地球に降ろされてまもなく再会できた。
幾度も幾度も幾度も幾度も、彼に逢いたいと願っていた。
衛星探知を用いて六万三千五百七十二年と三ヶ月探しても見付けることができなかった。月の技術の結晶である最先端の衛生探知機を用いても、だ。
結局は捜査は打ち切られ、以降は私がくすねた霊力探知機で個人的に行方を追っていたが、成果は得られなかった。
だが、彼と再会したときに解った事がある。
霊力の質が変わっていたのだ。
誰かから干渉を受けたからか、とにかく普通ではありえない事だ。相性によっては霊力を分け与えたりすることは可能だが、他人の霊力の質が変わるほどなんて、それこそ一極分の確率で相性が合わなければ己の身体を蝕む事態になりかねない。
きっと止むを得ない事情があったのだろう。
古代都市の爆発に巻き込まれた際とかに異常変化が起きたりしたのかもしれない。
結果、その事もあって私が月に降りるまで見つけることができなかったのだ。
けれども、霊力の質が変わっても尚、彼と再会した際は一目で熊口様であることを理解することができた。
あまりにも唐突過ぎたせいで、想いが溢れて奇声を上げて気絶してしまった程だ。
ほんと、熊口様の知り合いから半ば強引に手に入れた写真を集めたプロマイドを毎日眺めていた甲斐があったわ。
「門前にあれだけ見てくれだけは良い男達が揃っ てるのに、贅沢ね」
「どこがよ。あんなの、熊口様のグラサンにも遠く及ばないわ」
「それは相当なほど低いわね」
何故最先端の衛星探知機が見つけられなかったのか未だに不明だが、今はそんなことはどうでもいい。
今はもう、熊口様が御側にいるという事実だけでもう胸が一杯よ。
「ずっと気になってたけど、なんで輝夜はそんなに生斗の事好いてるのよ。一度命を助けられたからにしては異常じゃない? あまり貴女の前で言うべきではないのかもしれないけれど、傍から見てもそんなに魅力的な人には見えないのだけれど」
「二度よ」
「えっ?」
「私は二度熊口様に命を救われたの。いや、救われたという点で言えばもう数え切れないわ」
「……どういうこと?」
膨大な刻の中、娯楽の少ない息の詰まるような環境の中、永琳からたまに聞かされる昔話が楽しくて仕様がなかった。
なんて愉快な人なんだろう。なんて格好いいんだろう。なんて優しい人なんだろう。
そう想いを馳せている一時は、時間を忘れられた。
だから他者から見れば地獄とも取れる捜索も一人で続けられた。途中から地上の民の生活を見るのも楽しくてついでみたいになってしまったけれど。
あまりにも永い悠久の中、私はある意味彼を利用してきたのだ。
理想を高めすぎたりしていた点はあるが、それでも今の熊口様は私にとって____
「ま、この話はいいでしょ。ってことで琴はおしまーい!」
「あっ、こら! まだ終わらせないわよ」
「紫ばっかりまったりしてて狡い! 紫膝枕して!」
「あーもう……」
紫も甘えさせてくれるし、熊口様はいるし、お爺さん達も優しいしで、今が最高の環境であることは間違いない。
あーあ、こんな日がいつまでも続けばいいのに。
「輝夜姫! こんなにも殿方から恋文や贈り物が来ておりますぞ! って何を寝転がられておられるのですか!」
と、寝転がりながらな欠伸をしているところに、大量の塵を抱えたお爺さんが障子を開けて入ってきた。
これから休もうって時に間が悪いこと。
「……父上。申し訳ありません……少々目眩がしておりまして、紫に無理を言ってお暇を頂いておりました」
丁度今とっている体勢は、回復体位に似ているため、言いくるめられればあたかも本当に体調が悪いように見せられる。
「ややっ、そうだったのですかな。紫殿、姫は大丈夫なのでしょうか」
「……」
ジト目で私の顔を見る紫。
お願い合わせて! と言わんばかりにウィンクを連発する私。
紫は更に眉間に皺を寄せはしたが、一度小さなため息をついて____
「目眩は恐らく稽古のやり過ぎでしょう。少し休憩させればすぐに良くなるわよ」
と、意図を汲み取って援護をくれる紫。
やっぱり持つべきは友ね。なんだかんだ言って紫は助け舟を出してくれる。
「そ、そうでしたか! それなら安心しました。今日はもうお休みになられてください。話は通しておきます故」
そう告げると大量の塵を抱えたまま、この部屋を後にするお爺さん。
「やったわね! 紫!」
「貸し八つ目ね」
「げっ、そんなにあったかしら」
「これでも大分譲歩した方よ」
今日の稽古が全部無くなった事に歓喜する束の間、紫の貸し量の多さに項垂れる。
一日に何回か頼み事しちゃってるし、紫の言う通りかなり譲歩をしてもらっての八つ目なのだろう。今の他にも稽古の教官を紫に代わってもらったり、熊口様特製の笛貰ったり……そういえば密談の件もある。
果たして、紫に借りを返すことはできるのか不安になってきたわ。
当作品の原作キャラの中で一番印象に残っている人(神)妖
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八意永琳
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綿月依姫
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綿月豊姫
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洩矢諏訪子
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八坂神奈子
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息吹萃香
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星熊勇儀
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茨木華扇
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射命丸文
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カワシロ?
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八雲紫
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魂魄妖忌
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蓬莱山輝夜
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藤原妹紅