妹ルートは…   作:サプリボンド

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5.5話

 

休日。

この世の中において大抵の人間が大好きな日。

この日を迎えた者は究極の自由と解放感を手にすることが出来る。

勿論、学生であり帰宅部である俺も例に漏れずそうである…はずだった、だったのだが――

 

「朝ですよー、起きてくださーい」

 

 

布団を剥ぎ取ろうとする何者かによって俺の自由は奪われようとしている。

 

「折角の休日を寝て過ごすなんて勿体無いですよー」

 

 

嫌だ、やめろっ!

恋人のいない学生の休日は、お昼過ぎまで寝ると決まっているんだ!

 

「…仕方がありません、お望み通り永遠に眠って――」

 

「起きましたっ!ハイ~ッ!」

 

 

休日に寝てたら包丁で刺されて永眠とか、冗談キツいぜ沙羅ちゃん。

思わず伊東さんみたいになっちゃったよ。

 

「では、朝ごはんにしましょう」

 

 

あぁ、スルーですか。

別に気にしてませんけど。

 

「「いただきます」」

 

 

我が家の朝の定番メニュー、ご飯、味噌汁、焼き魚のセットを向かい合って食べる。

妹の入学当初はバタバタしていた毎日だったが、最近ではもうすっかり落ち着いてきている。

しかし、目の前に居るのが妹ではなく他の女の子(美)だったらと何度思ったことか…もう慣れたが。

 

…いや待て、それでいいのか?いや良くない。

妹と何時でも一緒の生活に慣れてしまっていた自分が怖い、妹の洗脳か…このままでは気が付いたらシスコンになってしまっていた!なんてオチになりかねんぞ。

 

彼女だ彼女!

彼女を作って青春するために高校へ来たのだろう、珠己よ!

すっかり落ち着いてしまった日常に流されて、人生最大の目的を見失うところだったぜ。

 

 

「…」

 

 

よし!俺の自由を奪う妹を睡眠薬で眠らせることに成功した今、俺が高校に進学した理由を二度と見失わぬようにこれまでの人生とともに思い返すとしよう―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

灼熱の太陽が眩しい夏真っ盛りな季節に桜田家の長男として生まれた俺こと珠己。

生まれも育ちも東京で、根っからのシティボーイ。

父は有名企業の社長で母は専業主婦、妹が一人の四人家族でとても裕福な家庭だった。

当時の俺は自分で言うのもなんだがイケメンで金持ち、頭も良くて運動神経抜群だったので滅茶苦茶モテたし、人気者だった。

もーモテすぎて毎日がバレンタインみたいな感じだったね!ははっ、イケメンジョークさ。

そんな順風満帆な人生を送っていたある日、いきなり引っ越しをすることに。

突然のことに驚き、母親に理由を聞いたが何も答えてくれなかった。

しかし小六の俺はアホではないので直ぐに察した。

妹は…言わずもがな。

そうして俺の小学校卒業と同時に母親の実家へ。

名字も御子柴に変わり、中学に通い始めたのだが…酷い。

何が酷いのかというと、女子のレベルだ。

何様のつもりだ!とか言われるかもしれないが、実際にこの状況を目の当たりにすればそんなことは絶対に言えない。

都会だとか田舎だとか全く関係なく、全国平均を大きく下回っている。

俗に言う下の下のげ――

 

とにかく、絶望した。

中学生になったら初めての彼女ができ、人生における青春の酸いも甘いもそこで学ぶのだと思っていた俺にとってここは地獄だった。

毎日が妖怪大戦争だなこれは、イケメンジョー…

取り敢えず中学は諦めて高校で彼女を…とか一瞬思ったが、まず近くに高校が無い。

この地域に住む人々は中学卒業と同時に実家の仕事を継ぐため、高校には行かないようで高校は全て無くなったそうだ。

また、他所の地域の高校に行くとなるとお金と時間が凄くかかる。

両親が離婚して貧乏まっしぐらな俺に選択肢は初めから無かったのだ。

俺はこのまま妖怪退治…ではなく、のんびり農業をして生きて行くのだと決心した。

 

それからの日々は、とにかく退屈で色の無いモノだった。

学校では何が起こる訳でもなく、ただただ椅子に座ってボーッとしてるだけ。

勿論、俺には霊感や特別な力など無いので妖怪の声も聞こえないし、見えたりもしない。

家にいるときもテレビを見ながらゴロゴロしたり、漫画を読んだりしてるだけ。

休日も祖父母の手伝いをして、お茶飲んで寝るだけ。

毎日が同じことの繰り返しで青春の欠片もない、お爺さんみたいな生活を送っていた。

 

そんな身も心もすっかりお爺さんになっていた俺に転機が訪れた。

離婚のショックでどっかに行っていた母から電話が掛かってきたのだ。

内容は『東京の高校に行きなさい』とシンプルな命令だった。

勿論、お爺さんな俺はお金とか手続きとか色々無理だろと断った。

しかし母は『残念、あんたが大好きだったあの子もそこに居るのにねぇ~』と過去の思い出を語りだした。

甦る初恋の記憶、甘酸っぱい青春の思い出。

そこで俺は完全に目を覚ました。

周りの空気に流されお爺さん化していたが、俺はまだ十代じゃないか!青春ど真ん中の年代、今青春しなくてどうするんだ!そう思った俺は東京の高校へ行くことを決めた。

母の口車にまんまと乗せられた感が否めないが、この際そんなことはどうでもいい!

折角のチャンスを掴むことだけを考えるのだ!

そこから俺は、失われた青春を取り戻すために死に物狂いで勉強をした。

こちらへ来てからすっかり沈黙していた息子のリハビリも夜中にこっそりやった。

勿論、JKモノでしか抜いてない。

 

そして、覚醒した俺は見事合格を果たした。

 

この異空間から一刻も早く脱出したかった俺は中学卒業と同時に上京。

新しい我が家となるマンションに到着した時にはおったまげた。

見た目は普通なのに部屋の中に入ってみたら、とにかく広い。

三年間の田舎生活の反動もあるのだろうが…高校生の一人暮らしには広すぎる2LDKだったのだ。

え、俺の価値観おかしいのかな?都会の子供たちにとっては普通なのかな?とか思いつつも夜遅くだったためその日は寝た。

次の日からは学校の準備や買い物等で大忙しだったが、久しぶりの都会にテンションあげぽよ~♪え、古い?気にしない気にしない。

都会のJKのスカートの短さに興奮したり、逆ナンやスカウトをされて天狗になったり、もー大忙しだったよ。

でも、生きてるって感じがするっ♪

 

 

そしてあっという間に高校の入学式。

そう、これこそが大本命。

俺は初恋の女の子《向井戸さん》に会うためにこの高校に入学したんだ!待ってろ、俺の青春!

そう意気込んでいたのだが、向井戸さんは見つからなかった。

クラスの女子たちを無視してまで校内中を捜し回ったのに見つからなかったのだ。

絶望、そして怒りを覚えた俺は母に鬼電した。

数十回かけたところでようやく電話に出た母に騙しやがったな!と言う半泣きの俺。

しかし母は『騙してないわよ。それよりもあんた、入試の成績が最低だったらしいわね』と痛いところを突いてきた。

さらに『こっちはあんたが特待生で入ると思ってたからその部屋を借りたのに大誤算だわ!今年は何とかなったけど、来年の学費は払えないからね』と追い討ち。

なんて無計画な人なんだと思ったが、母は基本的に嘘はつかない。

払えないと言ったからにはマジで払ってくれないのだろう。

ならば自ら金を調達するまでだと考えたが、うちの高校はバイト禁止だ。

母への怒りも学費が払えないという金銭的な問題の発生により消え去っていた。

とにかく、当面の目標が学費免除のため特待生になることになってしまった俺のスクールライフは、またもや色を失った。

 

授業が始まった最初の頃は流石に名門校に合格した者たちだけあって皆優秀であったが、暫くして学校生活に慣れると遊びや恋にかまける連中が現れる。

どこの高校でも同じことだし、高校生であるならば普通のことだろう。

俺はそんな連中を心のなかで嘲笑いながらひたすら上を目指し勉強した。

一ミリも羨ましいとは思っていないが、取り敢えず爆発しろ。

 

そして迎えた中間テストの結果は二位。

恋愛馬鹿どもは軽く越えてやったが、上位のエリートたちとは僅差の争いとなった。

一位には少しばかり点差をつけられ敗れたが上出来だと思う。

このまま上位をキープし続ければ特待生コースまっしぐらだろう。

すっかり安心した俺は帰宅後、母に電話しテストの結果を伝えた。

すると母は『はあ?何で二位なの?一位を取りなさい、それも満点で!これからテストで満点以外を取ったら家賃も払わないし、高校も辞めさせて実家に帰ってもらうから!』と大激怒。

そんなの無理だと言う前に電話が切れた。

二位じゃダメなんですか、鬼ですか。

クソッ、理不尽で意味不明な要求だが、高校を辞めてまたあの地獄に戻るという選択肢は絶対に無い。

他の道も考えてみたが、このまま黙って勉強するのが一番マシだと俺は思う。

テストで満点さえ取れればあとは自由、青春し放題というわけだろう!

ならばやるしかない、輝かしい未来のために多少の犠牲は付き物だ!!

そうして開き直った俺は全てを捨て、ただただ勉強をする恐怖のマシーンと化した。

 

授業中は教科書の問題に加え持参した問題集を解き、家に帰れば母が監視のため送り込んだ自称家庭教師の田中さん(男)が用意したよく分からない教材を永遠にやり続けた。

睡眠は学校の休み時間や学校行事の時、日曜日の夜だけで連休や夏休みなんかは寝てると田中さん(スキンヘッド)に叩き起こされたりもした。

食事も寝ながら食べるという技を田中さん(デカイ)から伝授され、マスターした。

毎日毎日、来る日も来る日も、暑い日も寒い日も勉強勉強勉強勉強……そのうち死んじゃうんじゃないかというくらいは勉強したと思う。

勉強し過ぎて記憶も思い出も消し飛んだよ。

よくこんなんで知識が身に付いたなぁと思うが、実際にこのような方法で俺は一位を、満点を取り続けた。

 

こうして俺の高校生活一年目は田中さん(グラサン)と共に終了した。

無事に高校デビュー(笑)を引きずり下ろし、特待生になった俺は母にまたまた電話した。

すると『一応合格ね、浮いた分の学費はあんたの口座に振り込んどくから好きに使いなさい。それとこれからも勉強はきちんと続けるのよ、んじゃ』……おい。

 

嘘じゃん、嘘つきじゃん!

学費が払えないのも高校辞めさせるとかも全部嘘なんじゃん!

結局俺に勉強させるための脅しだったのかよ。

『冷静に考えれば分かることでしょ?あんた本当にバカね』と頭の中の鬼畜オカンが…俺氏泣いた。

違うんです、純粋なんです俺!

ママンが離婚してから出来るだけ言うことを聞いてあげようという息子の良心が働いて…もういいや。

 

何はともあれ人間に戻った俺はむーちゃんこと向井戸さんのことは母の嘘だったと諦めて、他の女の子と青春しようと決めて高校生活二年目を迎えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そして儘田夏奈子という美少女と出会い、妹が現れ色々あり現在に落ち着いたという訳だ。

 

 

長々と己の人生を振り返ってみた訳だが…

何だか悲しくなってくるよ、色々と。

青春を取り戻すために高校に入った筈なのに青春を失っている気がする。

まぁ、過ぎ去ったことは仕方が無いと割り切るしかないのだろう。

それもまた青春なのだと、あははっ♪

 

 

それに今は俺を縛るものは何もな…

 

 

「はっ!眠ってしまっていた!」

 

 

 

あったわ。

そう、我が妹ブラコンの沙羅ちゃんだ!

母に続き妹までもが…鬼畜かっ!

まぁ、この間のお弁当事件でガチ説教をしてからは儘田さんに対しては多少好意的になったが…

 

 

「お兄様!着替えてください、これからデートをする予定でしょう!」

 

 

相変わらずのブラコンだ。

デートの約束なんてしてないぞ。

だが断ったら殺されるので素直に従う。

 

 

「それでは、しゅっぱーつ!」

 

「おー」

 

 

はぁ…彼女を作るのも大変なのに妹の妨害まであるなんて人生ハードモードだぜ。

昔に戻りたい…なんて言っていられないので、まずは妹からどうにかしないとな。

 

 

『それでは皆様、カップル限定ラブラブスタンプラリースタートでーすっ!!』

 

 

まだまだ俺が望む青春までは遠いようだ。

 

 


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