妹ルートは…   作:サプリボンド

4 / 6
4話

 

「――もしもし、お母さん?私、夏奈子だよ」

 

「うん、今片付けが終わったところだよ」

 

 

「…やっぱり不自然じゃないかな?」

 

 

「…うん、わかったよ」

 

 

「そうかなぁ…うん、頑張るね。それじゃあまた」

 

 

 

 

「…よし!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――朝。

空腹で何時もより早く目が覚める。

そういや、昨日はろくに食ってなかったからな。

 

「コンビニ、行くか」

 

春と言ってもまだ少し肌寒く、ベッドから出るのは気が進まないが腹が減っては青春できぬ。

マンションのすぐ近くにあるコンビニへ行くため、意を決して布団を捲る。

 

 

「んんぅ…」

 

「…」

 

何も見なかった事にしよう。

お兄ちゃんは妹なんて見てないし、知らない。

パジャマがはだけて少しエロティックな感じになってるけど別に興奮なんかしてない。

決して、年下らしい慎ましやかな胸に可愛らしさを感じているわけではない。

そもそも家族であり、妹だ。

お兄ちゃんが妹に欲情するわけがないのだ。

 

「…んぁ」

 

「…」

 

そう、別に興奮もしてないし欲情もしていない。

これは単なる妹の成長を確認するという作業。

兄としての仕事、義務なのだ。

ただただ、胸が触りたいという邪な気持ちは一切無い。

言い訳のように聞こえるがこれは全て真実だ。

 

それに、俺の布団に潜り込んできたのはそっちだ。

ということで、触る――

 

 

「…えっち❤」

 

 

「んなっ、ちげーしっ!!起こそうと思っただけだしっ!!」

 

「んー、お兄様もそういうお年頃ですものね♪」

 

 

伸びをしながら俺を馬鹿にする妹。

このアマ起きてやがった。

 

うはっ、スゲー恥ずかしい奴じゃん俺!

妹に男心弄ばれてめちゃめちゃ動揺してんじゃん!

童貞丸出しだわ!

 

イカン、寝起きで頭が回ってなかったとは言え妹に手を出したら終わりだぞ、しっかりしろ俺!

ここは兄としての威厳を保つために余裕を見せるのだ!

 

「そんなことより朝飯何がいい?何でも作れるぜ!」

 

 

決まった。

妹に料理を作ってあげる兄、大人だぜ。

 

 

 

「もう用意してありますよ♪」

 

 

完敗だ。

さっきは何でも作れるぜ!とか言ってしまったけど、何でも売ってるコンビニで買ってくるだけだ。

本物の手料理には敵わない、無念。

 

 

「どうぞ、召し上がれ♪」

 

「え」

 

「食べないのですか?お兄様の大好きな《コンビニ弁当》」

 

 

「コンビニ弁当かよぉーっ!!」

 

 

そこは、手料理でしょうがっ!!

女の子としてどうなの?将来彼氏とかにコンビニ弁当とか出しちゃったらもう振られちゃいますよ。

クソ、前言撤回だ。

コイツの料理スキルは俺と同等かそれ以下と見た。

ここであったかご飯とお味噌汁とか出てきたら好感度も急上昇だったのに、惜しいな沙羅ちゃん。

まぁそれでも昨日の件でプラマイゼロだけどな。

 

 

「ジーッ」

 

おっと、考えが顔に出てたか…いや、俺が食べるのを待っているだけか。

 

 

「いただきます」

 

「はい、召し上がれ♪」

 

 

だから、お前作ってねーだろ―――。

 

 

 

 

 

 

 

なんだかんだ言って結局コンビニ弁当を完食。

途中、調子に乗った妹が「あーん」を要求してきたが、すっかり目が覚めた俺には効果がない。

その後も妹を無視し続け学校へ行く準備を終える。

 

 

「そんじゃ、先に行くから戸締まりよろしくな」

 

「ちょ、待ってください」

 

 

それは無理だ。

俺には昨日から一緒に登下校する仲になった(多分)人がいるからな。その人はこの扉の向こうで待っているであろう…事を願う、頼む!オープンザドア!

 

 

「お、おはよう珠己くん」

 

「おはよう儘田さん」

 

 

イェェェェーーーイッ!!

隣に住んでる少し照れ屋な巨乳美少女との甘酸っぱい青春ルートキターーーッ!!

妹に邪魔されないうちにさっさと行こうぜ!

 

 

「学校、一緒に行こうか」

 

「うん!」

 

今日もいいおっぱいだ―――。

 

 

 

 

 

 

「珠己くん昨日はごめんね、急に逃げたりして」

 

「大丈夫、全然気にしてないよ」

 

昨日はそれどころじゃなかったし…。

だけど今は安心して登校出来る、妹の朝の準備の遅さには定評があるからな。

 

 

「良かった…。珠己くんがお隣さんだなんて知らなかったからビックリしちゃって」

 

「あれ、そうなの?」

 

「うん、前々から部屋は借りてあったんだけど実際に帰るのは昨日が初めてだったから…」

 

「あー、そーだったんだ」

 

前に住んでたお隣さんは挨拶無しで出ていったのかよ。てか、気付けよ俺!

 

「どうしてこのタイミングで一人暮らしを?家が凄く遠くて通うのが大変とか?」

 

「えっと、私の家母子家庭でね、今まではお母さんと二人暮らしだったんだけど、最近お仕事が忙しくなって会社に泊まることが増えて…」

 

「うん」

 

「私を一人にしておくのは危ないから、学校から近くてセキュリティもしっかりしたこのマンションに住みなさいって、過保護すぎるよね?」

 

「そうだったんだ、凄くいいお母さんだと思うよ」

 

ウチのマミーと交換したいくらいだよ。

 

 

「そーかなぁ」

 

 

「そーだよ。それだけ儘田さんのことが可愛くて大切なんだよ」

 

 

「ふぇ!?かわ可愛い?」

 

 

うおいっ、何その反応スゲー可愛い!!

《可愛い》という単語にだけ反応しちゃったんですね、そのタイプね!

美少女が可愛いと言われて(今のは勘違いだけど)恥ずかしがってるところいーねっ!!

あぁ、これぞ俺の求めていた青春だ!

これから儘田さんとの輝かしい日々が俺を待っているのだろう―――

 

 

「おにぃーちゃぁーーんっ!!自転車忘れてるよぉーーっ!!」

 

 

「ダハッ」

 

 

ドゴンッと背中に重い衝撃を受け、俺の体が宙を舞う。

しかし甘い!前回り受身で地面から顔面を守る!

スタッ、俺の顔面は守られた。

 

 

「ごめーん、ブレーキ壊れてたよー」

 

「あははー、わざわざありがとなー」

 

 

沙羅ちゃーん?ちょっとやりすぎじゃないかな?

自転車で兄を轢くってあり得ないよ、事故だよ。

それに忘れたんじゃなくて、今日から儘田さんと一緒に登下校するために徒歩通学なんだよ。

置いていかれたのがそんなに悔しかったのか、ごめんごめん謝るから許して。

あと、お兄ちゃん呼びはグッドだけど、顔が笑ってないぞ。

 

 

「ところでお兄ちゃん、そこの人は?」

 

「あぁ、儘田さん。クラスメイトだよ」

 

「儘田夏奈子です、よろしくね…えーと」

 

「沙羅です」

 

「よろしくね、沙羅ちゃん」

 

「はい、よろしくです」

 

 

はぁ、何か妹から儘田さんに対して凄い嫌悪感を感じるがスルーだ。

そして人前ではそのキャラなのね。

 

「取り敢えず学校に行こうか」

 

「はい」

 

「そうだね」

 

 

妹が俺と一緒にぶっ飛ばした自転車を拾い学校へ。

このあとの会話は特に盛り上がることもなく、妹の機嫌も悪くなり次第に無言になっていった。

あぁ、俺の青春タイムを返せ…。

 

 

 

 

そして学校に到着。

一年生は午前中でお帰りなので妹にはすぐ帰るように命令し、我がクラス2-Aへ。

 

 

 

「ごめん、朝から変なもの見せちゃって」

 

「ううん、大丈夫。むしろ羨ましいかも」

 

「羨ましい?」

 

「うん、私一人っ子だから仲の良い兄妹って少し羨ましいの。きっと毎日楽しいんだろうなぁ~」

 

「いたらいたで色々面倒だけどね」

 

「その面倒も一人っ子からしたら羨ましいんだよ~」

 

「そうかな~?」

 

「そうだよ~」

 

 

なんて、他愛もない話をしながら学校での一日が始まっていく。

一年の頃に高校の範囲は楽勝で終わらせてあるので、授業は座っているだけでOK。

休み時間は隣の儘田さんとお喋りをする。

ああ、今俺は自由を実感してる。

 

 

そんなこんなであっという間に昼休み。

 

俺の昼飯は何時もコンビニのおにぎりだ。

うちの高校には一応学食もあり、俺も過去に一度だけ行ったことがあるが二、三年生に占拠されており席が空いてなかった。

その事に食券を買った後に気が付き、廊下でラーメンを食べたのは今でも鮮明に覚えている。

それ以降、俺は教室派だ。

 

だが今日は妹から逃げることに必死で通学途中で買うはずのおにぎりを買ってない。

流石に二日連続で昼飯抜きは育ち盛りの男子高校生には厳しすぎる。

やむを得ん、地獄の食堂へ行くか…メンツも変わっているだろうしラーメン事件のような惨めなことにはならんだろう。

これを期に学食派に寝返るか…うーむ。

 

 

「珠己くん、良かったら私のお弁当…食べる?」

 

「え、いいの?」

 

「おにぎり無いんでしょ?」

 

何故それを!

あっ、昨年一年間隣の席だったっけ…。

 

「でも、儘田さんの分は…」

 

「あ、えっと、偶々今日はお弁当二つ持って来ててね、ほら珠己くん何時もお家でコンビニのお弁当とか好きなものばっかり食べてるって言ってたよね?だから栄養バランスとか考えたものを食べなきゃ駄目というか……。とにかく、食べてっ!」

 

 

「あ、ありがとう」

 

 

まさかこんな形で儘田さんの手作りお弁当が食べられるなんて。

妹にも感謝しつつ食べよう。

それではお弁当オープン。

 

「うわっ、美味しそう」

 

定番の玉子焼きや唐揚げ、プチトマト等の野菜からタコさんウインナーまでバランスの良さそうなお弁当だ!

 

「いただきます!」

 

「召し上がれ~」

 

 

こっ、これはっ!!

 

「美味しいっ!!凄く美味しいよ儘田さんっ!!」

 

 

「ホントに!?良かったぁ~」

 

 

これだよこれ!女の子の手料理というのはこういうものだよ!

見た目良し、味良し、栄養バランス良し、文句なしでしょう。星三つです!

 

 

 

「ご馳走さま、凄く美味しかったよ」

 

 

見事に完食。

今朝の妹の料理スキルの無さを見たら儘田さんがより一層素晴らしく見えるよ。

 

 

「どういたしまして、その良かったら明日も作って来ようか?」

 

「マジで!いいの?」

 

「もちろんだよ」

 

「ありがとう、儘田さん!」

 

何だこれ、高2になってからトントン拍子に事が進む。

 

幸せ気分で昼休みを終え、午後の授業へ。

と言ってもやることは隣の儘田さんを観察することだけだけどね。

今の俺は儘田さんにゾッコンだぜ!

 

 

「次の問題はー、じゃあ御子柴」

 

おっと、ご指名だ。

 

「はい、○○です。」

 

「正解だ」

 

どうですか儘田さん、スマートでしょ?

 

「チッ」

 

んな、舌打ち!?

いや違う、儘田さんじゃない…何処から?

周囲を見渡してみるが分かる筈もなく諦める。

誰かから恨みを買うような真似はしてないと思うのだがな…。

 

その後も気になりはしたが放課後になり思考をやめる。

それよりも儘田さん―――

 

 

 

 

 

帰り道、もう俺の目を見て話すようになってしまった儘田さんがふと呟く。

 

 

「何だか珠己くんって変わったよね」

 

「そうかな?」

 

俺は貴方が一番変わったと思いますよ、前の儘田さんほぼ覚えてないけど。

 

「一年生の頃はあまり人と関わらないイメージだったけど、今は社交的だよね」

 

「確かに、一年の頃は勉強が恋人だったからね」

 

「ふふっ、変なの」

 

いや冗談じゃなくてマジだから。

友達すら勉強だったからね。

 

 

「そういう儘田さんも雰囲気変わったよね」

 

それが儘田さん一番の謎だ。

今でも儘田さん他人と入れ替わってる説を疑ってる。

 

 

「う、あの頃は変に周囲から浮かないように普通にしてただけで今の私が本当の私なんだよ」

 

「へぇー、やっぱり女子って色々大変なんだね」

 

まぁ、これだけ可愛かったら嫉妬とか男子からの告白とか鬱陶しいことばかりなのかも。

 

 

「ごめん、今の嘘。本当は単純にオシャレとかファッションとか見た目に気を使ってなかっただけなんだ。でもこのままじゃダメだーって思って、春休みにお母さんから色々教わったりして…それで今の私」

 

「んなっ、へ、へぇー」

 

女ってスゲーな、そんな短い間にこんな変わるのか。

元々の素材が良かったのかお母さんが凄いのか…。

 

「でもなんでそのままじゃダメだったの?」

 

「それは……な人に…振り向いてもらうために…」

 

「なひと?」

 

「…」

 

「なひとって誰?」

 

「あっ、そういえばお醤油切れてたから買わなきゃいけないんだった!それじゃ珠己くんまた明日!」

 

「あ、ちょっ…えぇ~」

 

もう少しで家に着くというところで儘田さんはスーパーへ行ってしまった。

暗くなる前に帰るんだよと心配しながら俺は帰宅する。

これから毎日一緒に通学する約束もしてあるし、彼女とはゆっくり仲良くなっていこう。

今日は十分頑張った、ご褒美に高い入浴剤を使おうかな♪

 

 

「ただいまー」

「おかえりーお兄ちゃん!ご飯にする?お風呂にする?それともわ・た「飯」……かしこまりました」

 

 

それは妹に言われても嬉しくない。

あとキャラがコロコロ変わりすぎ、アニメの影響受けすぎだなこいつ。

今も実家から持ち込んだやつ見てたみたいだし。

 

「ご飯出来たよー!」

 

「はやっ!」

 

って、ああコンビニ弁当だからか。

 

 

「どうぞ~♪」

 

「何ッ!?」

 

眼前に広がる景色に俺は衝撃と敗北感を同時に味わった。

そこにあったのはコンビニ弁当ではなく、豪華で美味しそうな料理の数々だったからである。

肉、魚、野菜、パスタ…多すぎじゃね?

確かにどれも美味しそうだが如何せん量が多い、二人じゃ食いきれなさそうな程だ。

 

「お前、料理出来たのか?」

 

「当たり前じゃーん、お兄ちゃんのために特訓したんだよ!」

 

このブラコンめ!

仕方がないから食べてやろう!

 

「いただきまーす!」

 

 

「美味しい?」

 

「美味すぎるっ、けど何でこんなに出来るのに今朝はコンビニ弁当だったんだ?」

 

「昨日ゴミ箱漁っててコンビニ弁当のゴミばっかりだったから、コンビニ弁当が一番好きなのかと思ったの!」

 

ゴミ箱を漁ってた理由はスルーだ、ろくな答えが返ってこないだろう。

今は黙って食べるだけだ――

 

 

「「ご馳走さまでした」」

 

 

何とか完食出来た、うぅ腹が苦しい。

しかし驚いた、妹が俺よりも多く食べたからだ。

俺も大食いとまではいかないがよく食うほうだと思っていたのだがな、妹に負けるとは。

痩せの大食いというやつか、…胸に栄養は行き渡っていないようだがな…。

 

「うおっ!?」

 

パリンッと皿の割れる音が真横から…

 

「次は当てますよ?」

 

 

怖っ!!

そんなに気にしてたのか!

大丈夫だよ沙羅ちゃん、おっぱいは大きさじゃない形だ!一般論だけど…。

 

「じゃ、じゃあ風呂入ってくるから!」

 

 

スゲー殺意を感じたためお風呂に避難。

勿論、ロックはしてあるよ。

 

 

「ふはぁー」

 

 

やはり高級入浴剤は違うぜ~。

疲れがとれるしリラックス効果抜群。

 

「お・に・い…あれ、また」

 

懲りずにまた来たか。

だが昨日のような失態はしない、洗濯する衣類は浴室内に持ち込んである。

 

「パンツが無いっ!?」

 

フッ、勝った。

ゆっくり湯に浸からせてもらう。

 

 

――ふぅ、気持ち良かった。

 

ゆっくりとお風呂に入れ、満足しながら扉を開ける。

 

 

「捕まえた❤」

 

浴室を出た瞬間に前から抱きつかれる、これが妹でなければどんなに幸せだったか。

今日は結構長風呂したはずなのに、どんだけ待ってたんだよ。

そんな君にはブレーンバスター。

 

「ガハッ、ゴホッゴホッ…」

 

 

背中を強打し、立ち上がれない妹を放置し今日も寝る。

少しやり過ぎたような気もしないでもないが、沙羅ちゃんなら大丈夫だろう。

それにお兄ちゃん自転車の件、結構頭に来てたんだぜ。

大事にしてきた自転車が廃棄処分だからな、まぁこれからは徒歩通学だからいいんだけど。

明日の儘田さんのお弁当楽しみだな。

おやすみなさい。

 

 

 

「…明日こそ…は……」

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。