真・恋姫†無双 魏在住の死神代行   作:ぐぎゅる

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ちゃんと書けているだろうか…⁇


第3話

 

 怪しい男(曹操視点)

 

 

 天高く、澄み切った青空が広がるこの日、一つの事件が起きた。

 私が管理している書蔵庫から、太平要術の書が盗まれた。

 太平要術の書ーーそれは、所有者が持つ望みを叶える書と言われ、太平要術の書に書かれている通りにすればどのような望みも叶う。

 ただ、所有者の望みによって書の内容も変わる。故に、危険な思想を持つ者に渡れば非常に厄介な事になる。例えば、私のような。

 実際、私も読んだ。が、私はすぐに書を閉じ書蔵庫の奥にしまいこんだ。

 私は私の望む事に他人の意図が入り込む事が許せない。

 私が望む事は多くの人手がいるし、助けもいる。しかし、それでも私の望みは艱難を極めるだろう。

 もし、太平要術の書を用いれば容易に望みを叶える事が出来るかもしれない。だが、それは私の矜持を捨て去る事と同義なのだ。

 

 自らの手で追い求め、自らの手で掴みとる。

 

 例え艱難が立ち塞がろうと、それを打ち破った先にこそ、私が渇望する望みがあるのだ。

 

 それはさておき、太平要術の書を盗んだ犯人は三人組の男である。壮年の男に太った男に背の低い男。

 共に黄色い布を頭に巻き揃いの服を着ている。

 報告には陳留郡内、または隣郡の盗賊団の一味の可能性を示唆する一文があり、私の見解も大凡同一であった。

 

「これより、我が城内に於いて盗みを働いた一味の捜索に入る‼︎」

「「「「「はっ‼︎」」」」」

 

 騎乗した兵が次々と出発する中、ふと空を流れる一筋の光を見つけた。

 

「…流れ星…⁇」

 

 それは刹那の瞬きであったが、私の目にはしっかりと焼き付いていた。

 

 漆黒の流れ星。

 

 周りを赤く縁取られたそれは、まさに凶兆をそのまま形にしたようだった。

 

「華琳様、如何なされました⁇」

「…いえ、何でもないわ。行きましょう」

「はっ」

 

 部下の言葉に短く応え、私は馬の腹を軽く蹴った。

 

  ▼

 

 捜索隊は数にして十ほどある。一部隊に三十名。それが十で三百ーーとはいかなかった。

 私の側近の部下が「華琳様の部隊が三十人では示しがつきません‼︎」と言ってきた。

 因みに、華琳とは私の真名だ。

 勿論、周りに合わせようと言う意見もあったのだが、その部下が即却下。更には周りを威嚇し始めたので、宥める為にその部下の進言を採用した。

 私自身、下らない事で時間を取りたくないという思いもあったのだが、勿論口には出さない。

 ということもあり、多方に向かった部隊の中で私が率いる部隊だけが百名と大所帯となってしまった。

 

「申し訳ありません、華琳様。姉者が無理を言い…」

「構わないわ。春蘭も心配してくれているのでしょう。まぁ、あの周りを威嚇する癖はどうにかならないかと、毎回おもうのだけれどもね」

「華琳様も意地が悪い。姉者のそういうところも理解して傍に置いておられるのでは⁇」

 

 私は応えず、ただ笑みを見せた。そしてその笑みを見た彼女も私の思いを理解して笑みを浮かべる。

 私の部下として真っ先に上がる名前がある。夏侯惇と夏侯淵である。

 二人は姉妹で、私の部隊を三十名から百名にと進言したのが姉の夏侯惇。そして、今話していたのが妹の夏侯淵。

 姉の真名は春蘭、妹の真名は秋蘭。私が幼い頃から付き従ってくれているかけがえの無い存在である。

 

「華琳様ー‼︎」

 

 遠くから、私の名を呼ぶ元気な声が聞こえてくる。行軍を行っている部隊の先頭から馬に乗ってくるのは、件の春蘭であった。

 

「どうしたの、春蘭」

「部隊の前方に怪しい男を一人発見致しました‼︎」

「怪しい…か。その男の身形は⁇」

「はっ、先行して確認した兵によれば、頭髪は橙、全身黒のボロ着を着ており背には片刃の大剣を背負っているとの事です」

 

 春蘭の言う通り、かなり怪しい。

 街道を行かずにこのような荒地にいるのは、何かしら目的があり歩いているのだろう。

 だが、ただ怪しいだけ。報告を受けた盗賊一味の身形とはかなりズレている。

 しかし、ボロ着で武装しているとなると仕事にあぶれた盗賊という可能性もある。

 この可能性があるならば、見逃すわけにはいかない。

 盗賊は、国を亡ぼす悪害なのだから。

 

「華琳様、捕らえますか⁇」

「まずは話を聞きたい。すぐにその男のもとに案内しなさい」

「はっ‼︎」

 

  ▼

 

「一体何なんだよ、ゾロゾロと」

 

 件の男が苛ついた様子で言葉を発する。髪は橙、黒のボロ着に片刃の大剣。報告に間違いは無い。付け加えるなら…態度が不遜な事ぐらいか。

 男はその鋭い眼で兵たちを見渡し、春蘭、秋蘭、そして最後に私を見る。

 訝しげに私を見てから、男が口を開いた。

 

「…ま、いいか。ワリーけど、此処が何処か教えてくれねーかな」

 

 不遜、というよりもガラの悪い感じの口調に私は無意識に眦を吊り上げ、咄嗟に眦を下げる。

 見ず知らずの男の言葉遣いにいちいち感情を顕にするようでは、為政者は務まらないのだ。

 

「貴様、華琳様に対して無礼だぞ‼︎」

 

 勿論、民に対して舐められないように威厳を保つのも大事である。ただ、春蘭のように辺り構わず噛み付くのは止めて欲しい。

 

「姉者、気持ちは分かるが少し静かにしていろ。華琳様が話せない」

「む、そうか。失礼しました、華琳様‼︎」

 

 大体は、このように秋蘭が春蘭を宥めてくれる。ただ、あまりに酷い相手だと秋蘭まで抑えが利かなくなるので、その際は二人に裁量を任せている。

 そう、任せているのであって私が面倒を避けているわけでは無い。

 

「此処は兗州(えんしゅう)の陳留郡よ。貴方、このような場所で何をしているのかしら⁇」

 

 問題はここだ。

 こんな人もまず来ない荒野のど真ん中で、一体何をしているのか。

 もし、太平要術の書を盗んだ輩と仲間であるならば此処で落ち合う予定なのでは、と考える事が出来る。

 そうであるならば、男を拘束し仲間の名前から詳細な情報を引き出す手筈になっている。

 

「変な男に連れてこられたんだよ。ったく、何なんだよ一体…」

「貴方の事情は後で聞くわ。先ずは此方の質問に答えて欲しい。この辺りで頭に黄色い布を巻いた三人組を見なかったか⁇」

「…三人組⁇ あぁ、頭に黄色い布を巻いた男だったら襲ってきたから追っ払った」

「…それで、どちらに逃げたか分かる⁇」

「あっちだ」

 

 男が指を指す。その方角に向かうなら三人組は陳留郡を出て東郡に逃げた事になる。

 少々面倒だが、元々他の郡に向かう予定だったので丁度良かった。

 

「…部隊を分けましょう。半数は私と共に陳留に帰還、残りはこの辺りを捜索せよ‼︎」

「「「「「はっ‼︎」」」」」

「貴方も来てもらうわよ」

 

 私の言葉に、男は小さいため息を吐いて頷いた。

 

  ▼

 

 一護が断界から消えた数時間後。

 瀞霊廷、十二番隊管轄の技術開発局。主に涅マユリが使う部屋に数人の死神が集まっていた。

 

「…で、此処で話をするのって…何が意味あるの⁇」

「知らんヨ。そこの元死神にでも聞きたまえ」

 

 集められた死神はーー。

 

 一番隊隊長にして護廷十三隊総隊長である京楽春水。

 一番隊副隊長兼八番隊副隊長、伊勢七緒。

 十二番隊隊長兼技術開発局局長、涅マユリ。

 六番隊副隊長、阿散井恋次。

 十三番隊副隊長、朽木ルキア。

 

 そして、招集をかけたのは元十二番隊隊長にして初代技術開発局局長の浦原喜助である。

 

「どーも、皆サンわざわざおこしいただいてスミマセン」

「…浦原喜助。此処は私の部屋なんだがネ」

「まーまー堅い事言わずに。…さて、では始めさせてもらいますね」

 

 浦原の言葉と同時にモニターに断界の映像が映される。

 

「此処に来てもらったのは、これを見てもらうためです」

 

 浦原が映像を進める。変化の無い断界の映像たが、しばらくすると変化が現れる。

 

「…ここです」

「…一護、だな」

「ああ。しかし、立ち止まって何をしているのだ⁇」

「…んー、誰かと話してるみたいだねえ」

「ですが、この日穿界門を利用しているのは黒崎さんだけと聞きましたが」

 

 映像を見ながら会話を交わす四人だが、マユリと浦原は会話には入らない。

 二人の興味はこの映像の先にあった。

 少しの会話の後に一護が動くか、という刹那の間にモニターを光が埋め尽くす。そして、光が収まった断界に一護の姿は既に無かった。

 

「…これが、私が皆サンに見せたかったものです。たまたま断界の様子を見ていた局員が様子を確認、すぐに黒崎サンの霊圧探査を行いましたが…尸魂界、断界、現世に置いて反応はありませんでした」

「浦原、一護が何者かにやられたということか⁇」

「いえ、それは無いと思います。純粋な戦闘力で言えば隊長クラスか、それを上回りますから」

「じゃぁ、何かしら搦め手を使われたってのはどうかな⁇」

「可能性としては、ゼロではありません。しかしーー」

「技術開発局から詳しい原因は不明、との報告が上がっています」

 

 七緒の言葉に、浦原とマユリを除いた全員が深く考え込む。

 技術開発局で何も出なければ、実際何も無いというのが一般の考え方である。

 浦原やマユリというマッドだが超優秀な技術屋がトップに立つ組織でも原因不明となると、優秀な死神では及びもつかない所に答えがあるのが普通である。しかしーー。

 

「その調査に涅サンは⁇」

「不参加、となっています」

「なら、今度はワタシと涅サンで調査してみましょうか」

「分かりました、ではーー」

「巫山戯るな‼︎」

 

 七緒が了承の旨を示そうとした時、マユリが珍しくーーというより久しぶりに声を荒げた。

 

「私が‼︎ 浦原喜助と‼︎ 共に調査⁈ ありえないネ‼︎」

「し、しかし涅隊長。仮にも一護が行方不明になっているので…」

「そんな事知った事では無い‼︎ 私は忙しいんダ‼︎」

 

 ルキアの言葉にも「忙しい」言って口を利かない。浦原は「相変わらずッスねえ」と笑うだけ。

 マユリが浦原を毛嫌いしているのは、周知の事実である。万が一にもマユリと浦原を同列視しようものなら、マユリによるキツい制裁が待っているのだ。

 浦原はそれを知った上でからかったりするのだが。

 

「忙しいのなら…仕方ないッスねえ。ただ、私の方でも必ず原因を見つけるとは言えません。技術開発局でも無理となるとーー」

「待ちたまえ」

 

 消極的な浦原の言葉に、マユリが反応した。

 

「技術開発局の名を貶める発言は慎みたまえ」

「おや、そんなつもりは無いんスけどねえ。なら、ワタシと涅サン別々に調査しましょうか。涅サンがワタシより先に原因を見つければ、技術開発局の名も上がると思いますよ」

「…フン、ならば喜んで貴様に吠え面をかかせるとするヨ」

 

 そう言って部屋を出て行くマユリの後ろで、浦原は皆に向けてサムズアップ。皆を呆れさせた。

 

「浦原、良いのかあれで」

「いいんスよ。これで、原因を見つける確率は上がりましたからね」

「そうか…」

「じゃ、浦原くん…後は頼んだよ」

「分かりました」

 

 去っていく春水の背中を見ながら、浦原は笑みを浮かべて春水を了承の言葉で見送った。


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