捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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第93話

「助けてよ、八幡くぅ~ん!!!」

「……どうした?」

 

 ハロウィンライブが終わった日の夜、いきなり電話をかけてきたかと思えば、まさかのSOS。しかし、いくら「助けてよ、ドラえも~ん!」みたいなSOSを出されても、こちとら四次元ポケットは持っていない。

 まあ、それでも自分の彼女だ。最善は尽くそう。

 

「……なんかあったのか?」

「太っちゃった!」

「…………」

 

 俺にはどうにもできなさそうだ。

 

「そうか。そういや今日のパレードの衣装なんだが……」

「スルーしないでよっ。ピンチなんだよ~」

「ピンチはほーら……」

「チャ~ンスだと~♪……って話を逸らしてる場合じゃないよ!本当にピンチなんだよ~」

 

 電話越しに泣きついてくる穂乃果の声を聞きながら、俺は彼女に感じていた違和感について、ようやくそれが何なのかがわかった。

 そう。彼女は少し太……ふくよかになっていたのだ。

 

「……そうか。なるほどな」

「何一人で納得してるの!?とにかく助けてよ~!」

「……いや、ダイエットするしかないだろ」

「ううぅ……そうだよね。八幡君、明日から一緒に頑張ろうね」

「おい、さりげなく巻き込むな。こちとら最近運動始めてから体重減ったんだよ」

「ウソっ!?八幡君の裏切り者~!!」

 

 むしろお前があれだけのトレーニングをこなしていながら、体重が増加することのほうが不思議なんだが。

 ……いや、待て。

 よくよく思い返してみると、あちこちにフラグは立っていた気がする。あの日食べたアレとか、この前食べたアレとか……確かに食ってる時は心底可愛かったけれど、本当に止めておいたほうがよかったのかもしれない。

 だとすれば、俺にも責任はあるだろう。

 

「ふぅ……でも仕方ないよね。私の体だし。私自身がやらなくちゃ……」

「……穂乃果」

「ん?なぁに?」

「……一緒に運動するか」

「えっ……」

 

 穂乃果は驚いたような声を漏らした。

 

「まあ、あれだ。俺にも責任がないわけじゃ……「ちょっ、ちょっと待って!一緒に運動って、その……私達にはまだ早いんじゃないかな!?あはは……」おい」

 

 まあ、この子ったらいつの間にかこんな耳年増になっちゃって!そんなんじゃタイトル変わっちゃうでしょ!

 俺は一瞬だけあんなことやこんなことを想像してから、話を続けた。

 

「まあ、その……俺もできる範囲でお前に合わせて運動は増やすし、今度の休み……そっちに行くから一緒にジョギングでもするか」

「…………」

「穂乃果、どうかしたか?」

「ありがとうっ、八幡君!!」

「っ!」

 

 びっくりしたぁ……。

 

「やっぱり八幡君は優しいね!大好き!」

「そ、そうか……」

 

 いきなりそう言われると、ものすごい照れるからやめて欲しいんだが……まあ、悪くないですね、これは。

 こそばゆい気持ちになっていると、穂乃果が躊躇いがちに話しかけてきた。

 

「でも、本当に大丈夫?最近忙しいのに……」

「別に構わん。少し運動量が増えるだけだし。それに、今のメニューも慣れてきたから、そろそろ増やそうと思ってたところだしな」

「八幡君……」

 

 正直、強がりである。だが、それを悟られぬように平静を装った。

 上手くいっただろうかと、彼女の様子を窺っていると、すぐに元気な声が届いた。

 

「私、頑張るね!!」

 

 こうして、二人三脚(?)のダイエットが始まった。

 

 


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