とある休日。俺は電車に揺られながら、いつもの景色を眺めていた。最早すっかり見慣れてしまったので大して面白味はないのだが、それでも秋葉原の街が近づくにつれ、自然と胸が高鳴ってしまう。
「ふむ、八幡よ。我のもう一つの居場所が近づいてきておる」
そういやあいつ……ちゃんと起きれたのだろうか。
「ヒッキー!ほら、あれスカイツリーだよ!めっちゃ高くない!?」
彼女の顔を思い浮かべると、同時にあの夜触れた温もりが鮮明に甦り、心が奮える。
「由比ヶ浜さん。あれはスカイツリーじゃなくて東京タワーよ」
……いや、落ち着け。今日はライブ当日だから、恋人としては応援に集中を……
「さーちゃん、みて!あのたてものすっごいおーきいよ!」
「け、けーちゃん!静かにしなきゃダメでしょ?」
……どうしてこうなったのだろうか。こんな大所帯で移動とか俺らしく……
「八幡、どうかしたの?元気なさそうだね」
「いや、全然平気」
今元気出た!たまには団体行動大事だよね!!
まあとにかく、今日はもう紹介の必要すらないこのメンバーと共に秋葉原へ向かっている。どうやら穂乃果が何人かに連絡して、それが広がったようだ。俺よりこのメンバーとコミュニケーション取れてるんじゃなかろうか……。
俺が一人でうんうん頷いていると、小町が肩をつついてきた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。安心していいよ。ちゃんと穂乃果さんと二人きりになる時間は作るから」
「……いや、別に……てか、ライブ終わった後にそんな時間あるのかよ」
「穂乃果さん、大丈夫って言ってたよ?お兄ちゃんが聞いてこないって不満そうにしてた」
「……いい景色だな」
「誤魔化さないの。まったくもう、まだ照れが残ってるなんて……」
「ほっとけ」
いや、これでも結構考えた末での選択肢なんだよ?あとお兄ちゃん、結構踏み込ん……ではないかもしれないけど、前よりは積極的になったんだよ?
とはいえ、それを口に出すのは恥ずかしいので、俺は窓の外に目を向けたまま、彼女の笑顔を頭の中に思い浮かべた。
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「よしっ!皆、気合いいれていくよっ!」
「穂乃果ちゃん、気合い入ってるにゃ♪」
「ふふっ、ええ顔しとるやん」
「そ、そうかなあ?えへへ」
やっぱり見てくれる人がいるっていいなあ……よし、今日も全力を出しきろう……ん?
私は腰回りに違和感を感じる。あれ?何だろう、これ……ことりちゃん、サイズ間違えたかな?
……いや、気のせいだよね!緊張してるだけかも。
私はもう一度気合いを入れ、ライブ前最後の準備に取りかかった。