捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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第9話

「……な、なあ、高坂」

「何!?」

「その……手は離してくれてもいいんだが……」

「え?あ!」

 

 高坂は急に立ち止まり、ぱっと手首から手を離す。本当に今気づいたと言わんばかりの反応だ。いや、これはそういう演技なのか……だとしたら、その手は桑名の焼き蛤です!ぐらいに気を引き締めなければならない。

 

「ごめ~ん、つい……」

 

 彼女は苦笑しながら頬をかき、何事もなかったように「こっちだよ!」と駆け出した。

 その背中を追う俺の手首には、細い指の温もりがはっきりと残っていた。

 

 *******

 

 3分もしない内に、目的地に辿り着いた。

 店の前には人だかりができていて、ライブの開始を今か今かと待ちわびている。

 高坂は見つからないよう、店の脇の細い路地に入り、俺もそれに続いた。

 

「着いた~!」

「……結構、人がいるんだな」

「あはは……まだ学校のクラスメートがほとんどだけどね」

「いや、それでもすごいんじゃねえの」

 

 仮に俺が路上ライブをしたところで、クラスメートは一人も来ない自信がある。いや、もしかしたら戸塚は天使だから来てくれるかも。そして、お情けで奉仕部の二人が。ただ、それを奉仕部の活動と言われたら、心に痛手を負っちゃうけど。

 

「ほ~の~か~?」

「ぎくっ!」

 

 怒気を孕んだ声に、高坂がビクンと跳ねる。

 声のした方を見ると、長い黒髪が特徴的なμ'sのメンバー……確か園田さんだったか……が、腕を組んで、高坂を睨んでいた。

 

「まさか、リーダーが集合時間に遅れてくるとは……一応、理由を聞きましょうか。まさか、寝坊ですか?」

「ね、寝坊じゃないよ!ちょっと忘れ物しただけだもん!」

「よりたるんでます!準備は前日のうちに済ませなさいといつも言っているでしょう!」

「うぅ……」

 

 うん、正論すぎて反論の余地がない。

 

「海未ちゃん、あまり怒らないであげて?」

「ことり……」

 

 店の中から出てきたのは、特徴的なサイドポニーが目立つ……南さんか。北だっけ?東だっけ?西だっけ?とボケるのは、サムいので止めておく。

 

「ほら、海未ちゃんも笑顔笑顔♪」

「もう……ことりは穂乃果には甘いんですから……ん?」

 

 園田さんの目が、高坂のすぐ後ろにいる俺に向く。

 

「穂乃果……後ろにいる方は貴方の知り合いですか?」

「あ、うん!千葉から来てくれた比企谷八幡君だよ!」

「……ど、どうも」

 

 噛まないよう、注意をしながら会釈する。挨拶に関しては雪ノ下から鍛えられている。あと毒舌に対する耐性とか。

 園田さんは意外そうに首を傾げた。

 

「千葉?穂乃果は千葉に知り合いがいたのですか?」

「知らなかった~」

「この前、知り合ったんだ!たまたまウチにお菓子買いに来てくれた時に」

「「…………」」

 

 園田さんと南さんが、俺と高坂を見比べている。これはあれか。査定のお時間か。

 なんて事を考えていたら、二人が俺に笑顔を向けてきた。

 

「穂乃果のお友達でしたか、私は園田海未です。穂乃果とは幼馴染みで、その……一応、μ'sのメンバーです」

「同じく幼馴染みの南ことりです。μ'sのメンバーで、衣装担当です。今日は来てくれてありがとう」

「……あ、ああ、どうも」

 

 お礼を言ってくる二人の美少女から、華やかな笑顔を向けられるという、かなり不慣れなイベントに戸惑いながら、再び会釈する。変な愛想笑いだけは浮かべないよう、唇を引き締めた。

 そこで、また扉が開いた。

 

「海未、穂乃果は来たかしら?」

「あ、絵里ちゃん!」

 

 中から出てきたのは、鮮やかな金髪と宝石のような碧眼が特徴の、絢瀬さんだったか……。

 

「まったくもう……また、ちこ……く……」

「絵里ちゃん?」

 

 何故か絢瀬さんの視線がこちらに向かって固定されている。あと心なしか頬が紅い気がした。

 

「ハラ……ショー……」





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