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それでは今回もよろしくお願いします。
「……な、なあ、高坂」
「何!?」
「その……手は離してくれてもいいんだが……」
「え?あ!」
高坂は急に立ち止まり、ぱっと手首から手を離す。本当に今気づいたと言わんばかりの反応だ。いや、これはそういう演技なのか……だとしたら、その手は桑名の焼き蛤です!ぐらいに気を引き締めなければならない。
「ごめ~ん、つい……」
彼女は苦笑しながら頬をかき、何事もなかったように「こっちだよ!」と駆け出した。
その背中を追う俺の手首には、細い指の温もりがはっきりと残っていた。
*******
3分もしない内に、目的地に辿り着いた。
店の前には人だかりができていて、ライブの開始を今か今かと待ちわびている。
高坂は見つからないよう、店の脇の細い路地に入り、俺もそれに続いた。
「着いた~!」
「……結構、人がいるんだな」
「あはは……まだ学校のクラスメートがほとんどだけどね」
「いや、それでもすごいんじゃねえの」
仮に俺が路上ライブをしたところで、クラスメートは一人も来ない自信がある。いや、もしかしたら戸塚は天使だから来てくれるかも。そして、お情けで奉仕部の二人が。ただ、それを奉仕部の活動と言われたら、心に痛手を負っちゃうけど。
「ほ~の~か~?」
「ぎくっ!」
怒気を孕んだ声に、高坂がビクンと跳ねる。
声のした方を見ると、長い黒髪が特徴的なμ'sのメンバー……確か園田さんだったか……が、腕を組んで、高坂を睨んでいた。
「まさか、リーダーが集合時間に遅れてくるとは……一応、理由を聞きましょうか。まさか、寝坊ですか?」
「ね、寝坊じゃないよ!ちょっと忘れ物しただけだもん!」
「よりたるんでます!準備は前日のうちに済ませなさいといつも言っているでしょう!」
「うぅ……」
うん、正論すぎて反論の余地がない。
「海未ちゃん、あまり怒らないであげて?」
「ことり……」
店の中から出てきたのは、特徴的なサイドポニーが目立つ……南さんか。北だっけ?東だっけ?西だっけ?とボケるのは、サムいので止めておく。
「ほら、海未ちゃんも笑顔笑顔♪」
「もう……ことりは穂乃果には甘いんですから……ん?」
園田さんの目が、高坂のすぐ後ろにいる俺に向く。
「穂乃果……後ろにいる方は貴方の知り合いですか?」
「あ、うん!千葉から来てくれた比企谷八幡君だよ!」
「……ど、どうも」
噛まないよう、注意をしながら会釈する。挨拶に関しては雪ノ下から鍛えられている。あと毒舌に対する耐性とか。
園田さんは意外そうに首を傾げた。
「千葉?穂乃果は千葉に知り合いがいたのですか?」
「知らなかった~」
「この前、知り合ったんだ!たまたまウチにお菓子買いに来てくれた時に」
「「…………」」
園田さんと南さんが、俺と高坂を見比べている。これはあれか。査定のお時間か。
なんて事を考えていたら、二人が俺に笑顔を向けてきた。
「穂乃果のお友達でしたか、私は園田海未です。穂乃果とは幼馴染みで、その……一応、μ'sのメンバーです」
「同じく幼馴染みの南ことりです。μ'sのメンバーで、衣装担当です。今日は来てくれてありがとう」
「……あ、ああ、どうも」
お礼を言ってくる二人の美少女から、華やかな笑顔を向けられるという、かなり不慣れなイベントに戸惑いながら、再び会釈する。変な愛想笑いだけは浮かべないよう、唇を引き締めた。
そこで、また扉が開いた。
「海未、穂乃果は来たかしら?」
「あ、絵里ちゃん!」
中から出てきたのは、鮮やかな金髪と宝石のような碧眼が特徴の、絢瀬さんだったか……。
「まったくもう……また、ちこ……く……」
「絵里ちゃん?」
何故か絢瀬さんの視線がこちらに向かって固定されている。あと心なしか頬が紅い気がした。
「ハラ……ショー……」
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