捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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第88話

 突然お泊まりイベントが発生したわけだが、もちろんそんな準備はできていないので、晩御飯の食材と一緒に色々と買いに行くことにした。

 

「八幡君、晩御飯何食べたい?」

「……いかにも料理できる風な言い方だが……大丈夫か?」

「できるよ!私、高校生だし、和菓子屋の娘だし!」

「どれも料理ができることとの因果関係が見出だせねえよ」

「大丈夫大丈夫!アイデアなら沢山あるから♪」

「やめろ。不安にさせるような事言うな」

 

 あからさまな失敗フラグがたてられるのを何とか阻止しながら、カレーの材料をカゴに入れていく。これなら多分大丈夫だろ。

 

「はい、これも!」

「はいはい……てか、これお菓子じゃねえか。昼にケーキ食っただろ」

「甘いものは別腹なんだよ?」

「そ、そうか……」

 

 別腹ならいいかー。別に変なフラグたってないし?何ならこのままいくら食べても太らないキャラを確立して欲しい。

 自分に言い聞かせるように頷くと、穂乃果が体をぴったりくっつけてきた。

 

「……歩きにくいんですが」

「いいじゃん、少しくらい。それに……」

「?」

 

 言い淀む彼女に首を傾げると、俯いたままポツリと声が漏れた。

 

「……なんか新婚さんみたい」

「っ……あ、ああ」

 

 いきなりそういうこと言われると、幸福度がカンストして、頭おかしくなりそうだから、心の準備をさせて欲しいんだが……無理か。

 

「ええっと……そこのジャガイモ取って。……あなた♪」

「…………」

 

 ……まあ、こういうのも悪くない……いや、むしろいい。すごくいい。

 

「チッ、ボッチのクセにもうすっかり新婚気分かよ。てか、何でここにいるんだよ」

 

 それはこっちのセリフなんだが。

 

 *******

 

 無事に買い物も終わり、家に帰り、調理を始めると、どちらも覚束ない手つきではあったけど、何とかカレーを作り終えた。大丈夫。オリジナルな味付けなんかはしていない。

 

「ふぅ……実は私、料理の才能あるのかも」

「……じゃあ、食うか」

「あ~!無視したぁ!」

 

 いや、だって中途半端に自信を与えたら、後々面倒なことになりそうだし……。

 

「あぁ、大丈夫才能ある才能ある。自信持っていいぞ」

「なんかテキトーすぎるよ~!」

 

 穂乃果の戯れ言を聞き流しながら、とりあえずカレーを一口食べてみた。

 

「あっ……美味い」

「じゃあ私も食べよっと♪……ん~、美味しい!」

 

 とりあえず初めての共同作業は上手くいったようだ。

 何故かじんときていると、穂乃果がこちらに手を伸ばしてきた。

 

「御飯粒ついてるよ?」

 

 彼女は米粒を一つ俺に見せてから、それをパクっと口に含む。

 そしてドヤ顔を見せた。

 

「ふふん、まだまだお子様だね~」

「…………」

 

 俺は彼女の頬についた米粒を取り、口に含む。

 

「ふふん、まだまだお子様だねー」

「…………」

 

 その後、カレーを食べ終えるまで、どちらも頬を紅くしたまま無言になった。 

 

 


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