突然お泊まりイベントが発生したわけだが、もちろんそんな準備はできていないので、晩御飯の食材と一緒に色々と買いに行くことにした。
「八幡君、晩御飯何食べたい?」
「……いかにも料理できる風な言い方だが……大丈夫か?」
「できるよ!私、高校生だし、和菓子屋の娘だし!」
「どれも料理ができることとの因果関係が見出だせねえよ」
「大丈夫大丈夫!アイデアなら沢山あるから♪」
「やめろ。不安にさせるような事言うな」
あからさまな失敗フラグがたてられるのを何とか阻止しながら、カレーの材料をカゴに入れていく。これなら多分大丈夫だろ。
「はい、これも!」
「はいはい……てか、これお菓子じゃねえか。昼にケーキ食っただろ」
「甘いものは別腹なんだよ?」
「そ、そうか……」
別腹ならいいかー。別に変なフラグたってないし?何ならこのままいくら食べても太らないキャラを確立して欲しい。
自分に言い聞かせるように頷くと、穂乃果が体をぴったりくっつけてきた。
「……歩きにくいんですが」
「いいじゃん、少しくらい。それに……」
「?」
言い淀む彼女に首を傾げると、俯いたままポツリと声が漏れた。
「……なんか新婚さんみたい」
「っ……あ、ああ」
いきなりそういうこと言われると、幸福度がカンストして、頭おかしくなりそうだから、心の準備をさせて欲しいんだが……無理か。
「ええっと……そこのジャガイモ取って。……あなた♪」
「…………」
……まあ、こういうのも悪くない……いや、むしろいい。すごくいい。
「チッ、ボッチのクセにもうすっかり新婚気分かよ。てか、何でここにいるんだよ」
それはこっちのセリフなんだが。
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無事に買い物も終わり、家に帰り、調理を始めると、どちらも覚束ない手つきではあったけど、何とかカレーを作り終えた。大丈夫。オリジナルな味付けなんかはしていない。
「ふぅ……実は私、料理の才能あるのかも」
「……じゃあ、食うか」
「あ~!無視したぁ!」
いや、だって中途半端に自信を与えたら、後々面倒なことになりそうだし……。
「あぁ、大丈夫才能ある才能ある。自信持っていいぞ」
「なんかテキトーすぎるよ~!」
穂乃果の戯れ言を聞き流しながら、とりあえずカレーを一口食べてみた。
「あっ……美味い」
「じゃあ私も食べよっと♪……ん~、美味しい!」
とりあえず初めての共同作業は上手くいったようだ。
何故かじんときていると、穂乃果がこちらに手を伸ばしてきた。
「御飯粒ついてるよ?」
彼女は米粒を一つ俺に見せてから、それをパクっと口に含む。
そしてドヤ顔を見せた。
「ふふん、まだまだお子様だね~」
「…………」
俺は彼女の頬についた米粒を取り、口に含む。
「ふふん、まだまだお子様だねー」
「…………」
その後、カレーを食べ終えるまで、どちらも頬を紅くしたまま無言になった。