捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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第87話

「あぁ~よく寝たから体が軽いっ♪」

「そうだな。続きは帰ってから寝れば……」

「八幡君?」

「いえ、冗談です」

「まったくもう~、はいっ」

 

 穂乃果は頬を膨らませながら、手を差し出してきた。

 俺はそれをほんの少し慣れた気分で握りしめた。

 

 *******

 

「そういや、次はどこに行くんだ?」

「ん~……わかんないっ」

「そうか」

「あれ?てっきりツッコミが入るかと思ったのに」

「まあ、あれだ。全部お前に決めてもらってるから、文句を言うつもりはないし、それに……」

「?」

「…………なんつーか……こ、こうして、お前と一緒にいれればいい」

「えっ……八幡君、珍しいね。なんかあった?大丈夫?」

「いや、真っ先にそのリアクションかよ……」

「あはは、だって意外すぎるんだもん!八幡君がそんなに素直なんて」

「ま、まあ、そこは否定しない」

「……だからこんなに嬉しいのかも」

「そっか。なら、よかった」

 

 *******

 

 しばらく話しながら歩いたり、目についた店に入ったり、CDショップで互いに好きな曲を教え合ったりしていると、あっという間に時間は過ぎた。

 そして、陽も傾き始めた頃、俺は穂乃果を家まで送り届けた。

 

「……じゃあ、また今度」

「う、うん、送ってくれてありがとう、またね」

「…………」

「…………」

 

 どちらかが背を向ければいいだけなのだが、動けずにそのまま立ち竦む。

 ……まさかデートの別れ際が、こんな名残惜しい気分になるとは……考えたこともなかった。

 正直にいえば、まだ一緒にいたい。

 だが、ここは俺から……

 

「あれ?お姉ちゃん達、何してるの?」

「わわっ、びっくりしたぁ……」

 

 突然現れた……といっても家から出てきただけだが……高坂妹が不思議そうに自分の姉と俺を交互に見ている。

 

「あっ、比企谷さん、こんにちは」

「……こんにちは」

「ゆ、雪穂、あの、こ、これはその……何と言いますか……」

「ん?あぁ、そういうこと…………ええっ!?」

 

 姉の挙動不審な様子を見ただけで何かを察したのか、高坂妹は慌てて姉の肩を掴み、揺らしまくった。

 

「お、お姉ちゃん、マジ!?マジなの!?」

「な、何が~!?」

「とぼけないで!比企谷さんと付き合い始めたんでしょ!?」

「そ、そうだけど!大声出さないでよ、お父さんに聞こえちゃうっ」

「はあ……今日デートだったのか、どうりで心ここにあらずなわけだ」

「?」

「お姉ちゃんは昨日デートの事で頭いっぱいだったから忘れてるだろうけど、今日からお父さんとお母さんは旅行だよ」

「……え~~!?ウソ!?」

「ウソじゃないよ。だから今日は自分で晩ごは……あ、そうだ」

 

 何かを思い出したように携帯を取り出した高坂妹は、一旦家の中へと戻った。

 

「……どうかしたのか?」

「さ、さあ……」

 

 数分経ってから出てきた高坂妹は、ちょっと大きめの鞄を持っていた。

 

「雪穂?それ……」

「お姉ちゃん、私、亜里沙から呼ばれちゃって、今から行ってくるね。多分お泊まりするから」

「ええ!?ゆ、雪穂っ」

「いいから、いいから。私の事は気にしないでいいから」

「…………」

 

 自分から電話していた気がするが、気のせいだろうか?

 すると雪穂は、俺に悪戯っぽい笑顔を向けた。

 

「それじゃあ、ごゆっくり♪」

「え?あ、ああ……」

 

 高坂妹は軽やかな足取りで、あっという間にいなくなってしまった。

 ……おい、これってまさか……。

 状況を理解した上で穂乃果に目を向けると、彼女は頬を紅くして、上目遣いで見つめてきた。

 

「……あの……とりあえず、上がってかない?」


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