「……じゃ、じゃあ、行くぞ」
「うん……いいよ」
俺は体を横たえ、そっと穂乃果の太ももに頭を乗せる。ちなみに、彼女は今日ミニスカートを着用しているので、後頭部には、柔肌の感触が直に触れて、とにかく緊張してしまう。
……いや、こんなの眠れるわけねえだろ。
「ふふっ……」 「あわわ……」
「…………」
ひんやりした手にさらさらと髪を撫でられ、どこか懐かしい気分がふつふつと沸き上がる。あれ?何だこれ……
「子守唄歌ってあげよっか?」
「いや、それはいい。てか、お前のほうが疲れてると思うんだが……」
「私がしたいだけだからいいの。それで……どう、かな?」
「……まあ、その……いい感じだけど」
「そっかぁ、よかった」
「よ、よくないわよ!」
何やら騒がしい声も聞こえてくるが、それも気にならないくらいの至福に包まれていた。ずっとこのままでいたいなんて、阿呆なことを考えてしまうくらいに。
やがて俺は穏やかな眠りの世界に落ちていった。
「な、何?これから何が起こるというの!?」
*******
「…………?」
うっすら目を開けると、自分がいつの間にか眠っていたことに気づく。あれ?どのくらい眠って……!?
危うく変な声を上げそうになる。
「すぅ……すぅ……」
なんと目の前には穂乃果の顔があり、すやすやと穏やかな寝息をたてていた。
……お前の方が熟睡してるのかよ。まあ、いいけど。
ただ、この状況は少し……いや、かなりやばい。
温かな吐息がこちらの唇をくすぐり、どうしても彼女の唇を意識せざるを得ない状況になってしまっている。あと少しで、角度はあれだが唇同士が触れ合ってしまいそうなのだ。 「す、するの?しちゃうの?」
本来なら自分が動けばいいだけだが、もう艶やかな唇に目を奪われてしまい、動くことなどできなかった。
「すぅ……すぅ……んぁ?……ん?」
「…………」
どうやらお目覚めのようだ。
穂乃果は目をぱちくりさせ、自分が起きたことを確認している。その様子が可愛くて、そのまま見ていることにした。
「えっと、お、落ち着きなさい、ツバサ。これは覗きなんて品のない行為ではなく、曲作りの参考の為よ!」
……今、どっかから聞き覚えのある声がしたような?いや、気のせいか。
やがて、本格的に意識が覚醒した穂乃果と、バッチリ目が合う。
その頬は、あっという間に紅くなった。
「あわわわわ……ご、ごめん!」
「っ!い、いや、いい……」
俺達はすぐに顔を離した。
正直に言うと、少し惜しい気もしたが、ここで初めてというのはやはり違う……てか、何考えてんだ、俺は。
携帯で時間を確認すると、どうやら眠っていたのは30分くらいらしい。昼寝には丁度いい長さだ。
……こ、これが膝枕か。
「穂乃果……ありがとな」
「うん、どういたしまして。またやってあげるね♪」
「……そっか……次は俺がやってもいいけど」
「あっ、それいいかも」
どちらもまだ寝ぼけた笑顔を見せ合いながら、ゆっくり立ち上がり……
「いや、何もせんのかい!!」
「「っ!?」」
突然の大声に、二人して肩が跳ね上がる。
何事かと辺りを見渡すと、近くの茂みから謎の人影が現れた。
その人影は、最初逃げるべきかどうか悩んでいたが、やがて優雅な雰囲気を振り撒きながら、何事もなかったかのように俺達の方を向く。
「あ、あら、偶然ね。高坂さん、比企谷君」
「「…………」」
そう、謎の人影の正体は、A-RISEのリーダー・綺羅ツバサだった。
……髪に葉っぱついてんぞ。