「チッ、またかよ……ボッチのくせに」
いや、いきなりお前の台詞からかよ。ふざけんな。てか本当に誰なのか、いい加減に決着をつけたいところだが、今日はデート中だから、見逃してやるとしよう。
「そういや、行き先は秘密って言ってたけど、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」
「うんっ、でもその前に……」
穂乃果はこちらに手を差し出し、照れくさそうに笑った。
「手……繋ご?」
「あ、ああ、わかった……」
俺は彼女の手を握り、慌てて歩幅を調節する。いかん。このままじゃリードしてもらいっぱなしになりそうだ。これまで誰かと何処かへ行く時に全て他人任せにしてきたツケがこんな場面で回ってくるとは……あっ、よく考えたら誰かと出かけた経験がそんなにありませんでした。てへっ!
どうやら今日は流れに身を任せろということだろうか。じゃあ……
「……今日は任せた」
「いきなり今日を丸投げされた!?まあ、いいけど……今日は任せてよ!」
穂乃果はどんと胸を張った。決して大きくはないものの、形のいい……
「ど、どこ見てるの!八幡君、やらしい!」
「……いや、ち、違……」
何か言い訳を考えていると、穂乃果はこちらへのジト目を和らげ、ギリギリ聞き取れるくらいの声で囁いた。
「……私以外、そういう目で見たらダメなんだからね?」
「…………」
唐突な甘い言葉に、耳が蕩けてしまいそうな気分になる。あれ?ほ、本当に蕩けてないよな……てか、何だこれ、可愛すぎやしませんかね?
穂乃果も、自分で言って恥ずかしくなったのか、目的地まではしばらく無言になってしまった。
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「つ、着いたよ!」
ようやく恥ずかしさやら何やらが薄れてきたところで、目的地に到着した。
その建物は、パッと見は洒落た洋風の、いかにもリア充という雰囲気の店だが、それより……
『カップルで挑戦!スイートマウンテンケーキ!!』
店の扉にでかでかと貼られたチラシに目がいってしまう。
「おい、これ……」
「さ、入った入った♪」
店内はそこそこ賑わっていて、少し女子の割合が高いが、デート中だからか、いつものような変な緊張感みたいなのも感じることはない。
店員に案内された席に座ると、穂乃果がすぐに目的の商品を注文した。
「スイートマウンテンケーキ一つお願いしま~す」
「はい、かしこまりました!」
マジか。本当に頼みやがった……。
店員さんが去ってから、俺は穂乃果に声をかけた。
「……大丈夫なのか?」
「えっ、何が?」
「いや、ほら……お前、スクールアイドルなんだし。体重とか……」
「体重……ああ、大丈夫!昨日たくさん動いたから♪」
「そ、そうか……ならいいが……」
別にフラグじゃないよな?いや、今時こんな珍しいフラグがあるわけが……。
色々危ない気はしたが、ケーキを待ちわびる彼女の幸せそうな笑顔を見ていると、俺は何も言えなくなってしまった。