捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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第76話

「もうっ!だからノックしてって言ってるじゃん!」

「したわよ~。そしたら返事がないんだもん」

「そうだよ。ていうか、普通に考えてあんなシーンに遭遇するなんて思わないじゃん」

「ね~」

「ね~」

「むむむ……」

「…………」

 

 高坂一家(父を除く)が睨み合う中、俺は一人頭を抱えていた。

 …………めっちゃ恥ずかしい!!

 マジかよ、どこから見られてたんだ……恥ずかしすぎて聞けねえ!!

 

「二人共、どこから見てたの?」

「「大好きのところから」」

「ほぼ全部じゃん!」

「…………」

 

 聞いちゃったよ……てか、そこから見てたのかよ。むしろ、何故俺達は気づかなかったのか……。

 

「と、とにかく!二人共出てってよっ、八幡君も恥ずかしそうじゃん!」

「はいはい」

「お姉ちゃん、後で詳しく聞かせてねー」

「言わないよっ!」

 

 パタンと襖が閉じられ、再び二人きりになる。

 思ったほどの気まずさはなく、それ以上に胸の奥から何かが沸き上がってくる高揚感とか、頬が緩みそうになるのを抑えるので精一杯だった。

 穂乃果はしばらく襖の方を向いていたが、やがてこちらに向き直り、上目遣いで見つめてきた。

 

「えっと……その、いきなりごめんね?」

「いや、謝らなくていい。何つーか……本気で嬉しかったし……」

「そっか……ふふっ、私も嬉しかったよ……ありがとう」

 

 その言葉に、再び手を重ね、お互いの存在を確かめ合う。

 これまでと接触とは違い、お互いがお互いの気持ちを知っているので、そこに焦りや迷いはない。ただ、今はこうしていたいていう真っ直ぐな想いだけだ。

 

「八幡君……」

 

 彼女が手を握り返し、その手の感触がさらに強く伝わってくる。

 そして、そのままそっと口を開いた。

 

「えっと……もう一回言って欲しいな」

「……何を?」

「……イジワル」

 

 俺の返事に、彼女はぷくっと頬を膨らませ、ジトっと見つめてきた。さすがに誤魔化すことはできないらしい。

 もう一度言うために、深呼吸してから気持ちを整えた。やばい。わかりきっていたことかもしれないが、穂乃果が可愛い……あれ?こいつ、こんなに可愛かったか?可愛すぎてキラやばな上に何て言うかやばい。

 

「…………だ」

「聞こえないよ~」

 

 穂乃果はさらに顔を近づけ、目を潤ませている。いや、お前も大概イジワルじゃねえか。

 俺は穂乃果の手に込める力を強め、今度こそはと口を開いた。

 

「……俺は……お前の事が、好きなんだけど……」

 

 何とか言い終えると、彼女は返事を俺の耳に直接吹き込んできた。

 

「うん、私も大好きっ♪」

「っ!!……ちょっとは加減しろっての」

「や~だっ。ようやく言えたんだもん。あ~、緊張してたからお腹空いちゃった。八幡君もおやつ食べよ?」

「あ、ああ……」

 

 いきなりいつも通りな台詞を吐く穂乃果に、ふらりと肩の力が抜けていくが、まあこれがこいつらしいところなんだろう。

 とりあえず……今日俺達は両想いだということを知った。

 

「食い終わったら勉強するぞ」

「えっ……」


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