修学旅行から帰った翌日。俺は秋葉原を訪れていた。えっ、修学旅行最終日?何事もなく終わりましたが何か?
とりあえず、ちょうど日曜日だったので、さっさとお土産を渡そうと思い、穂むらを訪ねることにしたのだ。
穂乃果は昼間から暇らしく、その流れで何故か勉強を見ることになったのが唯一の誤算だが……。
店の扉を開けると、高坂母がつまみ食いをしていた。
「っ……あら~比企谷君、いらっしゃい」
「……ど、どうも」
すぐに営業スマイルを作れるあたりは流石というべきか。でも口元にあんこ付いてますよ~。
「穂乃果なら自分の部屋にいるから……大丈夫、今日は聞き耳たてたりしないわ」
「…………」
それを言われたところでどうしろと……しかも、厨房の辺りからまたドス黒い気配が……。
とりあえず気づかないふりをしておき、「お邪魔します」と呟きながら靴を脱ぐ。
すると、今度は居間の方から声が聞こえてきた。
「こんにちはー比企谷さん」
「……おう」
目を向けると、パーカーにトレーナーというラフな格好で柔軟体操をしている雪穂がいた。
彼女はチラリとこちらを見てから、口を開く。
「お姉ちゃん、二階で漫画読んでダラダラしてると思うので、比企谷さんからも何か言ってやってくださいよ」
「い、一応、善処する……」
わざわざテレビを見ながらストレッチとか……この美意識の高さ、二階で漫画を読んでいるであろう穂乃果に見習わせてやりたい。いや、待て。仮にもスクールアイドル全国一を狙うグループのリーダーだぞ?きっとダラダラしているように見せかけて、こっそりダンスの練習とか……。
俺は穂乃果の部屋の扉をノックした。
「は~い、どうぞ~」
「俺だけど……」
「ええっ!?は、八幡君!?ちょ、ちょっと待っ、あ痛っ!!?」
何やらでかい物音が……てか、何だ今のリアクション、俺が来る時間を間違えてるかのような……。
とりあえずドアを開けてみる、とそこには……
「あっ……」
「…………」
まず目に入ったのは床に派手にずっこけた穂乃果。
続いて俺を驚愕させたのが、床に脱ぎ散らかされた制服、出しっぱなしの漫画、落書きだらけのノート等々……高坂妹の言葉以上にだらけていた。
彼女は頬を赤くしながら、気まずそうに口を開く。
「は、八幡君……おはよう」
「お早くねえよ。もう昼なんだが……」
俺の言葉に、穂乃果は「うぐっ」と声を詰まらせたが、すぐに呑気な笑顔を見せた。
「あはは、八幡君早すぎだよぉ。2時からって言ったじゃん」
「いや、お前からのメールには12時って書いてあるんだが……」
再び彼女は「うぐっ」と声を詰まらせた。しかし、また呑気な笑顔を見せる。めげないな、こいつ。
「あはは、八幡君、修学旅行どうだった?」
「いや、その誤魔化し方無理あんだろ……せめて起き上がってから言えよ」
仮に約束二時間前だとしてもだらけすぎだろ。俺と変われよ。
……しかし、何故だろうか。
こいつの顔を見たら、ついほっとしてしまった。
俺は笑いが漏れるのを堪えるように口元に手を当てた。
すると、起き上がった彼女は子犬みたいに、たったかと駆け寄ってきた。
「八幡君、お土産はなぁにっ?」
「…………」
こいつのあまりにいつも通りな様子もそれはそれで複雑なのだが……
「……とりあえず、部屋片づけるぞ」
「はい」