捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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第72話

「……やっぱりいいな、京都……戸部、おみくじは高い所に結ぶといいらしいぞ」

「えっ?……っし!海老名さん、それ貸してみ?」

「……うーん、ヒッキーがいつもより元気だ」

「あはは、きっと楽しみにしてたんだよ」

 

 由比ヶ浜と戸塚が背後で何やら話し込んでいるが、ちんたらしている暇はない。こちとらとにかく動くしかないのだ。

 すると、由比ヶ浜が袖をちょんちょんと引っ張ってきた。

 

「どした?」

「ヒッキー、本当に私に何か隠してない?」

「……何でそう思うんだ?」

「やっぱりいつもと違うもん。前向きすぎっていうか……」

「ちょっと何言ってるかわかんないんですけど」

「何がわかんないの?って違う違う!やっぱりヒッキーのテンションがおかしい!」

「……そう疑うもんじゃねえよ。まあ、あれだ。トラベラーズハイってやつだ。よくあるだろ」

「トラベラーズ?えーっと……そっかぁ、じゃあ仕方ないかぁ」

「……ああ、仕方ない」

 

 適当な横文字に騙されてくれるとは……由比ヶ浜がアホの子な事に初めて感謝したぞ……将来変な男に騙されないか心配だ。

 まあ、今は別の心配を抱えているのだが……。

 

 *******

 

 その日の夜……。

 

「ヒキタニ君、はいこれ」

「……おう、助かる」

「本当にいいの?」

「別に……これが一番手っ取り早いだけだ」

「そ、そうなんだ……でもね、ヒキタニ君」

「?」

「何なら思いきりハマってもいいんだよ!?ウェルカムトゥザニューワールド!」

「……用済みになったらすぐ返す」

 

 *******

 

「姫菜と何か話したのか?」

「お前には関係ねえよ。それよか、お前の望みは変わらないことでいいんだな?」

「ああ……できれば君には頼みたくなかったんだが……」

「……俺もやりたくなかったよ」

 

 *******

 

 楽しい時間ほど過ぎていくのは早く、あっという間に告白の時を迎えた。

 戸部はやたら緊張していて、それを誤魔化すように同じグループの奴らに話しかけていたが、色々と無駄にさせてしまうと思うと、少し申し訳ない気持ちになる。

 さて、俺も腹を括りますかね。

 ……何故かはわからないが、あいつが知ったらどんな顔をするだろうかなんて考えてしまった。

 

 *******

 

「……っくし!」

「穂乃果ちゃん?」

「あはは、ごめ~ん。誰か噂してるのかな?」

 

 *******

 

 告白の場所に選んだ竹林の小径は、妙な緊迫感に包まれていた。てか戸部、そわそわしすぎだろ。

 

「ヒッキー、何その紙袋?」

「ああ、何でもないから気にすんな。それよか来たぞ」

 

 予定時刻より少し早めだが、俺達とは反対側から海老名さんがやってきた。

 その瞳はどんより暗く、戸部を全く見ていない気がする。

 小径を挟んで向こう側にいる葉山もそれに気づいているのか、どこか冷めた表情をしている。

 戸部はそんなこと気づいていないのか、勇気を振り絞って彼女と真っ直ぐに向き合い、言葉を絞り出していた。

 

「あ、あの……俺……」

「…………」

 

 ……よし。

 一人首肯した俺は……紙袋を抱えながら飛び出した。

 

 


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