「……やっぱりいいな、京都……戸部、おみくじは高い所に結ぶといいらしいぞ」
「えっ?……っし!海老名さん、それ貸してみ?」
「……うーん、ヒッキーがいつもより元気だ」
「あはは、きっと楽しみにしてたんだよ」
由比ヶ浜と戸塚が背後で何やら話し込んでいるが、ちんたらしている暇はない。こちとらとにかく動くしかないのだ。
すると、由比ヶ浜が袖をちょんちょんと引っ張ってきた。
「どした?」
「ヒッキー、本当に私に何か隠してない?」
「……何でそう思うんだ?」
「やっぱりいつもと違うもん。前向きすぎっていうか……」
「ちょっと何言ってるかわかんないんですけど」
「何がわかんないの?って違う違う!やっぱりヒッキーのテンションがおかしい!」
「……そう疑うもんじゃねえよ。まあ、あれだ。トラベラーズハイってやつだ。よくあるだろ」
「トラベラーズ?えーっと……そっかぁ、じゃあ仕方ないかぁ」
「……ああ、仕方ない」
適当な横文字に騙されてくれるとは……由比ヶ浜がアホの子な事に初めて感謝したぞ……将来変な男に騙されないか心配だ。
まあ、今は別の心配を抱えているのだが……。
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その日の夜……。
「ヒキタニ君、はいこれ」
「……おう、助かる」
「本当にいいの?」
「別に……これが一番手っ取り早いだけだ」
「そ、そうなんだ……でもね、ヒキタニ君」
「?」
「何なら思いきりハマってもいいんだよ!?ウェルカムトゥザニューワールド!」
「……用済みになったらすぐ返す」
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「姫菜と何か話したのか?」
「お前には関係ねえよ。それよか、お前の望みは変わらないことでいいんだな?」
「ああ……できれば君には頼みたくなかったんだが……」
「……俺もやりたくなかったよ」
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楽しい時間ほど過ぎていくのは早く、あっという間に告白の時を迎えた。
戸部はやたら緊張していて、それを誤魔化すように同じグループの奴らに話しかけていたが、色々と無駄にさせてしまうと思うと、少し申し訳ない気持ちになる。
さて、俺も腹を括りますかね。
……何故かはわからないが、あいつが知ったらどんな顔をするだろうかなんて考えてしまった。
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「……っくし!」
「穂乃果ちゃん?」
「あはは、ごめ~ん。誰か噂してるのかな?」
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告白の場所に選んだ竹林の小径は、妙な緊迫感に包まれていた。てか戸部、そわそわしすぎだろ。
「ヒッキー、何その紙袋?」
「ああ、何でもないから気にすんな。それよか来たぞ」
予定時刻より少し早めだが、俺達とは反対側から海老名さんがやってきた。
その瞳はどんより暗く、戸部を全く見ていない気がする。
小径を挟んで向こう側にいる葉山もそれに気づいているのか、どこか冷めた表情をしている。
戸部はそんなこと気づいていないのか、勇気を振り絞って彼女と真っ直ぐに向き合い、言葉を絞り出していた。
「あ、あの……俺……」
「…………」
……よし。
一人首肯した俺は……紙袋を抱えながら飛び出した。