陽も傾いていたので、今日はもう解散することにした。
この時間帯になると風がだいぶ肌寒くなるあたり、もう季節はすっかり秋なんだろう。もうしばらくしたら修学旅行があるし、確かラブライブの地区大会決勝もそのぐらいの時期だったはずだ。
……観に行けるといいんだが。
なんて柄にもないことを考えていると、穂乃果がぴょこんと俺の真正面に立った。
「八幡君、今日は付き合ってくれてありがとう」
「まあ、そもそも約束してたしな。別に礼を言われる事じゃない」
「でも、ありがとう……だよ」
「……そっか」
自然と笑みが零れそうになり、視線を逸らす。再び風が頬を撫でてくれるのが、少しありがたかった。
すると、穂乃果はこちらに一歩踏み込んできた。
「八幡君」
「……どうかしたか?」
彼女と目を合わせると、その瞳にはさっきとは違う何かを秘めている気がした。
そして、躊躇うように数秒目を伏せてから、また目を合わせ、そっと言葉を紡ぐ。
「私ね……変わりたいと思ってる……うーん、違うかな、変えたいと思ってる、かな?あはは、自分でも何て言えばいいかよくわからないんだけどね」
「……そうか」
変わりたい……変えたい……。
彼女が抱える思いの形は、俺とどこか似ていた。
俺は黙って彼女の言葉の続きを待った。
「だから……見ててくれる?」
「……別に構わん。どうせ暇だし……それに……」
「それに?」
「……いや、何でもない」
「え~?何なの、教えてよ~!」
「あっ、電車来たわ」
「ここからじゃ絶対に間に合わないよね!?ごまかし方がテキトーすぎるよ!」
「まあ、あれだ……こっちにも色々あんだよ」
「ふ~ん、まあいいけど。八幡君がイジワルなのは知ってるし」
「……そりゃ話が早くて助かる。じゃあそろそろ行くわ」
「うん、またね!」
俺は穂乃果に背を向けた。
距離が離れていく間、背中に視線を感じたのはきっと気のせいではないのだろう。
改札を通過してから何となく振り返ると、彼女はまだこっちを見ていた。
俺が振り返ったのが予想外だったのか、肩を跳ねさせてから、また手をブンブン振ってくる。
それに対し俺は小さく手を振り、階段を上がった。
*******
それから数日後……
「八幡く~ん……」
「どした?」
「つまんないよぉ~……」
「面白味のない人間で悪かったな」
「ち、違うよぉ!そういう意味じゃなくて!」
「ああ……まあ、確かに修学旅行先で台風ってのは運が悪かったな」
「ホントだよ~……はぁ……あっ、そういえば結衣ちゃんが言ってたよ。八幡君が失格になったって……」
「まだ人間失格の烙印を押されるほどじゃないと思うんだが……」
「だから違うよっ。体育祭で反則したんでしょ?」
「まあな」
「褒めてないよー、でも見たかったなぁ。八幡君の頑張ってるところ」
「いや、別に頑張っては……」
「ふふっ、八幡君はそういうの見せたがらないもんね」
「……そ、それより二年生不在のライブのほうは上手くいったのか?」
「うんっ、大成功だよ!凛ちゃんもドレス似合ってたし。あっ、そうそう……八幡君、今度私千葉に行くね」
「イベントでもあるのか?」
「うん。その……この前のイベントがきっかけで、μ'sの皆がドレスのモデルをやることになっちゃって……それで、撮影場所が千葉なんだよ」
「そっか。まあ、頑張れ」
「うん。だから八幡君も来てくれないかな?」
「……いや、ライブじゃないんだろ?俺が行っても……」
「それが……えっとね、実は…………」
「…………は?」