消化不良を起こしたらしい綺羅さんと別れ、二人だけで秋葉原の街をとぼとぼ歩く。さっきのアレやコレもあり、口数こそ少ないが、居心地の悪さはない。むしろ、この歩幅で歩くのにも最近慣れてきた自分がいて、不思議な居心地のよさがある。
「そろそろ帰るか」
「ええっ!?まだメロンパン食べただけだよ~、しかも考えてることとセリフが合ってないし……」
「いや、何をすりゃいいのか思いつかなくて。別に面倒くさいとかじゃない」
「口にするのが既に怪しいよ!どうせだから、その辺り見ていかない?……あっ、べ、別に八幡君と一緒にいたいとかじゃないんだからねっ!」
「……どこのテンプレツンデレだよ」
テンプレすぎて一周回って感心して、ドキッとしてしまうじゃねえか……やはりシンプルイズザベスト。
「ツンデレとかじゃなくて、休日はいつも引きこもってるって小町ちゃんも心配してたよ?」
「ああ……色々あんだよ」
俺としては、お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ!とばかりに、休日はだらだらして小町の手料理を食べるだけにしておきたいのだが……。
「全然色々じゃないじゃん!」
「だから地の文を読むなっての……」
「じゃあ、ちょっとだけ付き合ってよっ。こっちこっち!」
「ちょっ……いきなり引っ張るなっての……」
まあ、何だかんだこいつと過ごすうちに、少し自分から変わるのもいいんじゃないかと思えてきた。
……実際に変わってからじゃないと打ち明ける気にはならないが。
*******
穂乃果に強引に連れ込まれたのはゲームセンターだった。久々の騒がしい音に大して驚きもないのは、μ'sのライブのおかげだろうか。
彼女は最初から狙いをつけていたのか、真っ直ぐ目的の筐体へと進んでいく。そこに待ち受けていたのは……
「よしっ、ダンス勝負だよ!準備はいい?」
「頑張れー」
「八幡君もやるの!ほら、早く!」
まさかのダンスゲームである。
この手のゲームは人目を憚りたい俺からしたら、絶対にやりたくないジャンルのゲームだが、既に穂乃果が俺の分もお金をいれているので、逃げることもできない。
……どうやらやるしかなさそうだ。とはいえ……
「っと……あれ?」
全然タイミングが合わない。
リズム感以前に慣れてない人に対しては、かなり優しくないゲームのようだ。
そのままあっという間にゲームオーバーになってしまう。
申し訳なさと恨みがましい気持ちで穂乃果を見ると、彼女はまだテンポよくステップを刻んでいた。
「ほっ……ほっ……」
その横顔は生き生きとしていて、本当に楽しそうだ……けれど、ミニスカートでぴょんぴょん跳ねるのはやめてくれませんかねえ……。
俺は周りから見られないよう、さりげなく彼女の後ろに移動し、首から下はなるべく見ないようにした……なるべくだよ?
やがて曲が終わり、穂乃果はこちらにVサインをしてくる。
「へっへーん、どう?すごいでしょ♪」
「……ああ」
無意識のうちに頷いてしまう。
一番ずるいのは、自分の得意分野でゲーム対決をするちゃっかりさより、その無邪気な笑顔だと思った。