捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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第3話

 

「よかった、よかったぁ~♪」

 そう言いながら、パン女は饅頭を頬張る。

 仕事中にいいのだろうか、というツッコミもどうでもよく、とても美味しそうに食べるその姿に、危うく見とれそうになった。隣にいる戸塚と、少し離れた場所にいる材木座も僅かに頬を赤く染めている。

「「「…………」」」

「あ、これは、その……味見だよ味見!」

 俺達の視線に気づいたパン女はあたふたしながら言い訳をした。間違いない。絶対にこいつは無意識に男を死地に送り込むタイプだ。

 そうしている内に、店の奥から女の人が現れ、その背後で仁王立ちになる。怒り顔だが綺麗な人だ。20代後半くらいだろうか。

「……ほ~の~かぁ~!」

 怒気を孕んだ声にパン女はビクッと跳ね上がり、恐る恐る振り返る。

「あ、お母さん……」

「あんたは何を堂々とつまみ食いしてんの!お客様の前で!」

 どうやら母親のようだ。

 パン女は震える手をわたわたさせ、必死に言い訳を頭の奥から搾り出しているようだ。由比ヶ浜も似たような動作をするので、こいつももしかしたらアホの子かもしれない。

「こ、これは味見だよ!」

「朝から合計7個は食べたでしょう!?」

「ごめんなさい~!」

 俺達に対して使った言い訳も全く効果がなく、パン女はがっつり叱られた。

「まったく……次やったらお小遣い3割カットだからね!」

「さ、3割……はい……」

 3割か……容赦ねえな。俺だったらストを起こして学校に行かないまである。

 一通り説教を終えると、母親の方が、大人の魅力が漂う穏やかな微笑みを向けてきた。

「ごめんなさいね。ゆっくり選んでいってね」

 そう言って照れ笑いをしながら、奥へ引っ込んでいった。

「ふう……あ、ごめんなさい。お恥ずかしいところを見せちゃったね……」

「いや、別に……」

「じゃあ、私はお仕事に戻るから!……っとと!」

 慌てて移動しようとしたせいで足がもつれ、俺の右腕に捕まってくる。腕をきゅっと握る感触と、淡い柑橘系の香りが漂ってきた。 

「ご、ごめ~ん……」

「あ、ああ……」

「……大丈夫?顔、赤いよ?」

 だからそうやって覗き込んでくるからだろうが。

 その探るような視線から逃れる為に無理矢理話を逸らす。

「バイトじゃなかったんだな……」

「うん、そうだよ。私、ここの娘なの!それと……」

 カウンターに戻って、ピンク色のパソコンを持ってきた。画面に目をやると、『lovelive!』というカラフルな文字が目に入り、何やらランキングみたいなものと、幾つかの動画が表示されているのがわかる。……仕事はいいのだろうかというツッコミはまた飲み込んだ。

「私、今スクールアイドルやってるの!μ'sっていうグループで活動してるんだ♪」

「スクールアイドル……」

 戸塚が耳慣れない単語を反芻しながら、画面を注意深くじっと見る。もしかして戸塚もアイドルやりたいのだろうか。なら俺が徹底的にプロデュースしてやるしかないか。やればできるって765プロも歌ってたしな。

「どうしたの八幡?」

「俺の事はプロデューサーって呼んでくれ」

「な、何の話?」

 いかん。妄想の世界に入り込んでしまった。

 材木座からもドン引きの目で見られながら、再び画面に目を戻す。

 そこにはプロと遜色ない、というには無理があるのかもしれないが、ちゃんとアイドルらしい衣装に身を包み、目の前にいる時とは全く違う雰囲気を身に纏った『スクールアイドル』がいた。

 

 





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