捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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第22話

 

 翌日……。

 

「八幡、おはよう」

「……おう」

 

 戸塚の気遣わしげな声に、昨日のパフォーマンスの後の出来事が事実だったんだと、改めて思い知らされる。

 

「昨日、残念だったね……」

「ああ……」

「高坂さんは大丈夫なの?」

「……わからん」

 

 あの後、高坂を保健室に運ぶ手伝いはしたのだが、身内でもない俺は、その場に留まる理由がなかったので、そのまま帰宅したのだ。

 

「そっか……心配だね」

「……まあ、確かに、な」

 

 高坂の体調もそうだが、今朝になり、ラブライブのサイトからμ'sの名前が削除されたのも気になる。

 理由は想像がつくが、高坂は多分……自分を責めるんじゃないだろうか。

 ……俺が知った風な事考えても仕方ないんだが、それでも、この前の電話越しの彼女の声が……希望に満ちた響きが耳から離れなかった。

 

 *******

 

 そうこうしている内に放課後になる。

 らしくもない思考に陥った俺は、らしくもない行動に出た。

 

「由比ヶ浜」

「ん?ヒッキー、どしたの?」

「悪ぃ、今日は部活休むわ」

 

 *******

 

 目が覚める。

 熱もだいぶ引いて、だいぶ体が軽くなっていた。

 さっき海未ちゃん達がお見舞いに来てくれて……それで……。

 思い出すと、また涙が零れてくる。

 私のせいで……私の、せいで……。

 結局、私は私しか見えていなかったんだ……。

 そこで、一人の男の子の顔が浮かぶ。

 比企谷君にもかっこ悪いことを見せちゃったな……。

 

「ああ、もうっ!私のバカ!」

 

 自分で自分を叱りつけると、頭がクラッとした。あわわ……いけないいけない。

 ……汗かいたから体拭こ。

 

 *******

 

 夕陽も沈みかける頃、俺は穂むらの前に到着した。

 ……勢いで来てしまったが、女子の家に見舞いに行くなんて緊張しちゃう。だって男の子なんだもん。

 これで気味悪がられたりしたら、めちょっくなんだが……。

 

「あれ?確か文化祭で……」

 

 突然の声に振り向くと、この前見た高坂の妹らしき少女がそこにいた。

 

「……どうも」

 

 反射的に頭を下げると、その少女は何かピンと思いついたような表情になる。

 

「もしかして、お姉ちゃんのお見舞いですか!?」

「あ、ああ……まあ……」

 

 やはり高坂の妹だったようだ。ほっとしながら頷くと、彼女は丁寧に頭を下げた。

 

「私、高坂雪穂といいます。あの時はありがとうございました。お姉ちゃん、重かったんじゃないですか?」

「いや、まあ二人で運んだし……」

 

 高坂を運ぶ時は、体育教師の女性と二人がかりで運んだ。正直、肩に温もりやら柔らかさが、鼻に柑橘系の甘い香りが残っていて変な気分になるので、あまり思い出したくはない。

 考えていると、背中を押す感触がした。

 いつの間にか、高坂妹が背後に回り、背中を押していた。

 

「じゃ、会ってあげてください!お姉ちゃん、喜びますから!」

「え?あ、俺は……」

 

 *******

 

 なし崩し的に家に入れられると、高坂母が笑顔で出迎えてくれた。

 

「あらあら、お見舞い?じゃあ、早く会ってあげて。あの子、寂しがり屋だから」

「は、はあ……っ!?」

 

 な、何だ?今店の奥から、ものすごい殺気が……。

 

「どうかしましたか?」

「い、いや、何でも……」

「こっちです……って何でお母さんがついてくんの?」

「だって~、あの子に男の子のお見舞いが来るなんて初めてだもの♪あの子、どんな反応するか楽しみじゃない?」

「もう……確かにその通り」

 

 ……この二人、楽しんでないか?何を楽しんでるのかは気づかないふりをしておこう。

 先を歩き出した高坂母は、高坂の部屋と思われる部屋の前で立ち止まり、引き戸をサッと開いた。

 

「ほ~のか♪色っぽい話のまったくないアンタにお見舞いよ!」

「えっ?」

「あっ……」

「…………」

 

 そこにはベッドの上で背中を丸出しにした高坂がいた。

 

 


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