翌日……。
「八幡、おはよう」
「……おう」
戸塚の気遣わしげな声に、昨日のパフォーマンスの後の出来事が事実だったんだと、改めて思い知らされる。
「昨日、残念だったね……」
「ああ……」
「高坂さんは大丈夫なの?」
「……わからん」
あの後、高坂を保健室に運ぶ手伝いはしたのだが、身内でもない俺は、その場に留まる理由がなかったので、そのまま帰宅したのだ。
「そっか……心配だね」
「……まあ、確かに、な」
高坂の体調もそうだが、今朝になり、ラブライブのサイトからμ'sの名前が削除されたのも気になる。
理由は想像がつくが、高坂は多分……自分を責めるんじゃないだろうか。
……俺が知った風な事考えても仕方ないんだが、それでも、この前の電話越しの彼女の声が……希望に満ちた響きが耳から離れなかった。
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そうこうしている内に放課後になる。
らしくもない思考に陥った俺は、らしくもない行動に出た。
「由比ヶ浜」
「ん?ヒッキー、どしたの?」
「悪ぃ、今日は部活休むわ」
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目が覚める。
熱もだいぶ引いて、だいぶ体が軽くなっていた。
さっき海未ちゃん達がお見舞いに来てくれて……それで……。
思い出すと、また涙が零れてくる。
私のせいで……私の、せいで……。
結局、私は私しか見えていなかったんだ……。
そこで、一人の男の子の顔が浮かぶ。
比企谷君にもかっこ悪いことを見せちゃったな……。
「ああ、もうっ!私のバカ!」
自分で自分を叱りつけると、頭がクラッとした。あわわ……いけないいけない。
……汗かいたから体拭こ。
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夕陽も沈みかける頃、俺は穂むらの前に到着した。
……勢いで来てしまったが、女子の家に見舞いに行くなんて緊張しちゃう。だって男の子なんだもん。
これで気味悪がられたりしたら、めちょっくなんだが……。
「あれ?確か文化祭で……」
突然の声に振り向くと、この前見た高坂の妹らしき少女がそこにいた。
「……どうも」
反射的に頭を下げると、その少女は何かピンと思いついたような表情になる。
「もしかして、お姉ちゃんのお見舞いですか!?」
「あ、ああ……まあ……」
やはり高坂の妹だったようだ。ほっとしながら頷くと、彼女は丁寧に頭を下げた。
「私、高坂雪穂といいます。あの時はありがとうございました。お姉ちゃん、重かったんじゃないですか?」
「いや、まあ二人で運んだし……」
高坂を運ぶ時は、体育教師の女性と二人がかりで運んだ。正直、肩に温もりやら柔らかさが、鼻に柑橘系の甘い香りが残っていて変な気分になるので、あまり思い出したくはない。
考えていると、背中を押す感触がした。
いつの間にか、高坂妹が背後に回り、背中を押していた。
「じゃ、会ってあげてください!お姉ちゃん、喜びますから!」
「え?あ、俺は……」
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なし崩し的に家に入れられると、高坂母が笑顔で出迎えてくれた。
「あらあら、お見舞い?じゃあ、早く会ってあげて。あの子、寂しがり屋だから」
「は、はあ……っ!?」
な、何だ?今店の奥から、ものすごい殺気が……。
「どうかしましたか?」
「い、いや、何でも……」
「こっちです……って何でお母さんがついてくんの?」
「だって~、あの子に男の子のお見舞いが来るなんて初めてだもの♪あの子、どんな反応するか楽しみじゃない?」
「もう……確かにその通り」
……この二人、楽しんでないか?何を楽しんでるのかは気づかないふりをしておこう。
先を歩き出した高坂母は、高坂の部屋と思われる部屋の前で立ち止まり、引き戸をサッと開いた。
「ほ~のか♪色っぽい話のまったくないアンタにお見舞いよ!」
「えっ?」
「あっ……」
「…………」
そこにはベッドの上で背中を丸出しにした高坂がいた。