「私ね、明日から合宿なんだ!」
「はあ……」
金曜日の夜。普段なら明日からの休みに備え、のんびり読書でもして、英気を養うところだが、今は何故か高坂からの電話に付き合わされていた。
電話越しに響いてくる声は異様に弾んでいて、こいつなら周りから元気を分けてもらわずとも、元気玉を放てるんじゃないかと思えてくる。
「比企谷君、元気ないね。どうしたの?」
「いや、お前がよすぎるんだよ。つーか、何でわざわざ俺に報告してきたんだ?」
「だって、ヒデコもフミコもミカも電話出ないんだもん」
「俺は代わりかよ。いや、いいんだけどさ……」
「そうだよ。代わりとかじゃないよ。ただ、比企谷君ならヒマかなって……」
「フォローするふりをして、さらにダメージを与えてくるな。ショックのあまり、うっかり寝落ちしそうだ」
「え~!もう少し話そうよ~!まだまだ寝かさないよ~」
「……だから、そういうのが誤解を、いや、こいつはこういう奴だった……」
「?」
「まあ、あれだ……合宿はどこ行くんだ?」
「海!」
「広すぎて特定できねえ。とりあえず脊髄反射で会話すんのやめろ」
「あはは、それほどでも~」
「ほめてない。この流れでそんな勘違いできるのは、お前か野原しんのすけくらいだ。合宿所とか使うのか?」
「真姫ちゃんの家が別荘持ってて、そこで合宿するんだ♪」
「別荘で合宿……リア充かよ。まあ、頑張れ。応援してる。お休み」
「応援雑っ!しかも明らかに会話を終わらせようとしてる!」
「ふああ……」
「そんな嘘っぽいあくびしないでよ!いいこと教えてあげるから~」
「?」
「私達、千葉の別荘に行くんだよ」
「はあ……」
「振り出しに戻った!」
「いや、リアクションに困っただけだ。ほら、千葉に来るって言われても、お前以外まともに話したことないし」
「そう言われればそうかも。ちなみに、比企谷君の一番好きなスクールアイドルは?」
「優木あんじゅ」
「…………え?」
「とμ's」
「……本当かなぁ?」
「本当だっての。つーか、明日早いんじゃないのか?」
「あ、そうだった!まだ準備ちっとも終わってない!比企谷君、付き合ってくれてありがと!おやすみ!」
「……忙しい奴だな」
俺はしばらく通話の途切れたスマホを眺めていた。
……動画でも見るか。μ'sとA-RISEの。
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「水着かぁ……これでいいよね。って何でこんなに悩んでるんだろう、私……」
何故か頭の片隅には、彼の顔がちらついていた。
……ダイエット、しとこうかな。