捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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第12話

 

「私ね、明日から合宿なんだ!」

「はあ……」

 

 金曜日の夜。普段なら明日からの休みに備え、のんびり読書でもして、英気を養うところだが、今は何故か高坂からの電話に付き合わされていた。

 電話越しに響いてくる声は異様に弾んでいて、こいつなら周りから元気を分けてもらわずとも、元気玉を放てるんじゃないかと思えてくる。

 

「比企谷君、元気ないね。どうしたの?」

「いや、お前がよすぎるんだよ。つーか、何でわざわざ俺に報告してきたんだ?」

「だって、ヒデコもフミコもミカも電話出ないんだもん」

「俺は代わりかよ。いや、いいんだけどさ……」

「そうだよ。代わりとかじゃないよ。ただ、比企谷君ならヒマかなって……」

「フォローするふりをして、さらにダメージを与えてくるな。ショックのあまり、うっかり寝落ちしそうだ」

「え~!もう少し話そうよ~!まだまだ寝かさないよ~」

「……だから、そういうのが誤解を、いや、こいつはこういう奴だった……」

「?」

「まあ、あれだ……合宿はどこ行くんだ?」

「海!」

「広すぎて特定できねえ。とりあえず脊髄反射で会話すんのやめろ」

「あはは、それほどでも~」

「ほめてない。この流れでそんな勘違いできるのは、お前か野原しんのすけくらいだ。合宿所とか使うのか?」

「真姫ちゃんの家が別荘持ってて、そこで合宿するんだ♪」

「別荘で合宿……リア充かよ。まあ、頑張れ。応援してる。お休み」

「応援雑っ!しかも明らかに会話を終わらせようとしてる!」

「ふああ……」

「そんな嘘っぽいあくびしないでよ!いいこと教えてあげるから~」

「?」

「私達、千葉の別荘に行くんだよ」

「はあ……」

「振り出しに戻った!」

「いや、リアクションに困っただけだ。ほら、千葉に来るって言われても、お前以外まともに話したことないし」

「そう言われればそうかも。ちなみに、比企谷君の一番好きなスクールアイドルは?」

「優木あんじゅ」

「…………え?」

「とμ's」

「……本当かなぁ?」

「本当だっての。つーか、明日早いんじゃないのか?」

「あ、そうだった!まだ準備ちっとも終わってない!比企谷君、付き合ってくれてありがと!おやすみ!」

「……忙しい奴だな」

 

 俺はしばらく通話の途切れたスマホを眺めていた。

 ……動画でも見るか。μ'sとA-RISEの。

 

 *******

 

「水着かぁ……これでいいよね。って何でこんなに悩んでるんだろう、私……」

 

 何故か頭の片隅には、彼の顔がちらついていた。

 ……ダイエット、しとこうかな。


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