『μ's』
全てのスクールアイドルのパフォーマンスの後、派手な演出と共に、その名前がスクリーンに表示された。
そして、一瞬の沈黙の後に、割れんばかりの歓声が会場を満たす。
「ヒッキー、すごいよ!穂乃果ちゃん達、一位だよ!全国優勝だよ!!」
「あ、ああ……」
由比ヶ浜に背中をバシバシ叩かれながら、俺は拍手を送り続けた。まさか本当に優勝するとは……。パフォーマンス後の観客の反応からして、もしかしたらと思っていたが……。
「お兄ちゃんお兄ちゃんっ!お義姉ちゃん、すごいね♪」
「あ、ああ……」
小町も首にしがみついてきて、喜びを分かち合ってくる。さりげなく呼び方がお義姉ちゃんになってるのはこの際置いとこう。
「八幡っ、皆すごいね」
「……ああ。本当に」
「はっはっは!よくやった!誉めてやろう!」
「材木座うるさい。つーか、いたのかよ……」
こうして最高の歌の余韻を、俺はしみじみと味わっていた。
……おめでとう、穂乃果。
*******
数日後……
「八幡く~ん!」
「……おう」
穂むらの前まで行くと、掃き掃除をしていた穂乃果が手を振ってくる。今日も元気がいいのはいいけど、集めた葉っぱが風に流されてるぞ。
「わわっ、もう……」
「箒もう一本あるか?」
「はいっ、これ♪」
すぐに出してくるあたり、俺が手伝うのは決定していたのか、まあ別にいいけど。
落ち葉をせっせと掃き集めながら、ひとまず彼女に話を振ってみた。
「そっちはもう落ち着いたのか?」
「うん。昨日でスクールアイドル雑誌からのインタビューも終わり。なんかライブの時より緊張しちゃった」
笑いながら語る穂乃果は、どこか満たされた表情をしていた。
あのライブの後、すぐにボランティアの仕事に戻ったので、直接話をするタイミングがなかった。そして、それからもスクールアイドル雑誌からの写真撮影やインタビューやらで、中々会えずにいた。
ようやく……といっても2、3日しか待っていないが。
まあ、特に何も変わりないみたいなので、安心した。
「八幡君、どうしたの?……も、もしかして、私に会えなくて寂しかったとか?」
「……優勝おめでとう。あとお疲れさん」
「無視した!?……でも、ありがと!」
「一応一区切りついたな」
「そうなんだけどね~、明日からまた忙しいんだぁ……」
「まだなんかあるのか?」
「うん。卒業式が……私、生徒会長だから」
「この支配からの……」
「卒業♪……って、話逸らさないでよ!ていうか、八幡君も生徒会長だから、準備があるんじゃないの?」
「ああ。俺はスピーチの原稿は二月の内に終わらせたからな。あとはこれを機械的に読み上げるだけだ」
「き、機械的に読むんだ……なんか想像できちゃうな」
「想像できちゃうのかよ……よし。これで掃除終わり」
「手伝ってくれてありがと。すぐお茶入れるねっ。その後どっか行こうよ!」
「ああ、そうだな」
いくら原稿だけ書き上がっていても、明日から俺も卒業式の準備で忙しくなる。しかし、それさえ終われば後は春休みだ。受験勉強もあるが、その合間に何度かはゆっくり会う機会もあるだろう。
この時はそう思っていた。
しかし、卒業式当日……。
「は?……ニューヨークでライブ?」