捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

10 / 120

 感想・評価・お気に入り登録・誤字脱字報告ありがとうございます!

 それでは今回もよろしくお願いします。


第10話

 

「絵里ちゃん?どうしたの?」

「……はっ!い、いえ何もないのよ?何も!あはは……」

「そう?顔赤いよ?」

「それより良い天気ね。心が洗われるようだわ。ハラショーよ」

 

 絢瀬さんは、何故か少し離れた場所でラジオ体操を始めた。クールなイメージが先行していたが、実は元気キャラとかなのか?スマートに、でも可愛く進んじゃうのか。

 

「ほら、比企谷君。絵里ちゃん、とっても綺麗でしょ?」

「あ、ああ……」

「はぅあっ!」

 

 今度はピーンと身体を伸ばして、高く跳ね上がった。あんな動きラジオ体操にあったっけか?あと制服のスカートでそんなジャンプはしないほうがいい。視線のやり場に困るから。いや、見えてないよ?そもそも見てないし?

 

「絵里……どうしたのでしょう」

「うん……」

「じゃあ、比企谷君はステージ前で待ってて!絶対にいいライブにするから!」

「……ああ」

 

 高坂に頷くと、ラジオ体操を終えた絢瀬さんが正面に立った。鮮やかな碧眼に射竦められ、普段ならすぐに

 

「比企谷君」

「あ、はい……」

「自己紹介が遅れたわ。絢瀬絵里でしゅ……よろしく」

 

 今、この人噛みましたよ?しかし、それをツッコむことを許さないような優しすぎる微笑み。

 

「……どうも」

「よろしく」

 

 お互いに軽く会釈して終わりかと思いきや、絢瀬さんは、しっかり手を握られていた。しかも両手で。

 ひんやりした感触に右手を包み込まれ、言葉もまともに出せないくらいに緊張する。

 

「…………」

「絵里ちゃん!早く準備しようよ~!」

「チカっ!わ、わかったわ。それじゃ、またね」

 

 絢瀬さんは控え目に手を振り、中へ戻った。

 あっという間に取り残された俺は、ぽつんとその場に佇む。

 ……あれっ、これもう帰っていいんじゃね?

 すると、狙い澄ましたようなタイミングでドアが開き、ジト目の高坂がぴょこっと顔を出した。

 

「比企谷君!!帰っちゃダメだからね!!」

「お、おう……」

 

 いきなり出て来んなよ。びっくりするだろうが。

 つーか、思考回路読まれてんのかよ。

 

 *******

 

 ライブは大盛況の内に終わった。

 メンバー全員がメイド服姿という材木座が喜びそうな衣装な上、伝説のメイド・ミナリンスキーがメンバーということもあり、メイド喫茶の客もファンに引き込んでいた。もちろん、彼女達のパフォーマンスの魅力があってこそなんだろうが。

 見るもの見たし、特にやることもないので、帰ろうかと駅方面へてくてく歩いていると、背後から足音が近づいてきた。

 

「ひ、比企谷君、待ってよ~!」

「…………」

「無視!?」

「……いや、気づかなかっただけだ」

「嘘だ!今、体がピクッて反応してたもん!」

 

 余計なところで鋭いのね、この子は。

 振り返ると、メイド服姿のまま飛び出してきたらしい彼女は、全速力で走った事など、ものともせずに微笑んだ。

 

「も~、何も言わずに帰っちゃうんだもん!お礼くらい言わせてよ!」

「いや、別に……っ」

 

 さっきの絢瀬さんみたいに不意打ちのような握手。

 しかし、さっきと決定的に違うのは……

 

「……なあ」

「…………」

 

 自分から握手をしたはずの高坂は、握り合う二つの手を、不思議そうな目で見つめていた。その瞳を見ていると、何ともいえない気分になる。おい、何だよ。手汗すごっとか思われてんじゃねえかと、不安になっちゃうだろ。

 俺の視線に気づいたらしく、高坂がばっと手を離す。

 

「ご、ごめんごめん!」

「いや、大丈夫だが」

 

 え、何?マジで手汗凄かったとか?

 不安がこみ上げている俺に対し、高坂は平然と距離を詰めてきた。

 

「肩にゴミが……きゃっ!」

 

 躓いた高坂がこちらに転んできた。

 幸い真正面だったので、咄嗟の反応でも両肩を受け止めることができた。

 そして、彼女の額がこちらの胸にこつんと当たった際に、柑橘系の爽やかな香りが弾け、ふわふわと鼻腔をくすぐった。

 すぐに心拍数が上がり、緊張やら何やらが極限に達する。

 しかし、彼女はそうでもないのか、目をぱちくりさせていた。だから、そのリアクションやめてくれよ……汗臭いのかと思っちゃうだろうが……。

 

「おい、高坂……」

「あっ、ごめんごめん!大丈夫?」

「いや、こっちは……つーか、戻んなくていいのか?」

「あっ、そうだった!じゃあ、またね!」

 

 嵐のように過ぎ去った彼女の背中を見て、触れられた肩の熱が妙にこそばゆく感じる。気を緩めると、そこに甘やかな何かを探してしまいそうだった。

 やっぱり…………あいつは苦手だ。

 

 *******

 

「……手、おっきかったな」

 

 海未ちゃんやことりちゃんとは違い、たくましさがあり、少し固い。

 比企谷君に受け止められた時も、似たような感覚がした。

 お父さんに似てるけど、どこか違う。

 ……何だろう、この感じ。

 私はよくわからないまま、走って皆の元へ戻った。

 





 読んでくれた方々、ありがとうございます!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。