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それでは今回もよろしくお願いします。
「絵里ちゃん?どうしたの?」
「……はっ!い、いえ何もないのよ?何も!あはは……」
「そう?顔赤いよ?」
「それより良い天気ね。心が洗われるようだわ。ハラショーよ」
絢瀬さんは、何故か少し離れた場所でラジオ体操を始めた。クールなイメージが先行していたが、実は元気キャラとかなのか?スマートに、でも可愛く進んじゃうのか。
「ほら、比企谷君。絵里ちゃん、とっても綺麗でしょ?」
「あ、ああ……」
「はぅあっ!」
今度はピーンと身体を伸ばして、高く跳ね上がった。あんな動きラジオ体操にあったっけか?あと制服のスカートでそんなジャンプはしないほうがいい。視線のやり場に困るから。いや、見えてないよ?そもそも見てないし?
「絵里……どうしたのでしょう」
「うん……」
「じゃあ、比企谷君はステージ前で待ってて!絶対にいいライブにするから!」
「……ああ」
高坂に頷くと、ラジオ体操を終えた絢瀬さんが正面に立った。鮮やかな碧眼に射竦められ、普段ならすぐに
「比企谷君」
「あ、はい……」
「自己紹介が遅れたわ。絢瀬絵里でしゅ……よろしく」
今、この人噛みましたよ?しかし、それをツッコむことを許さないような優しすぎる微笑み。
「……どうも」
「よろしく」
お互いに軽く会釈して終わりかと思いきや、絢瀬さんは、しっかり手を握られていた。しかも両手で。
ひんやりした感触に右手を包み込まれ、言葉もまともに出せないくらいに緊張する。
「…………」
「絵里ちゃん!早く準備しようよ~!」
「チカっ!わ、わかったわ。それじゃ、またね」
絢瀬さんは控え目に手を振り、中へ戻った。
あっという間に取り残された俺は、ぽつんとその場に佇む。
……あれっ、これもう帰っていいんじゃね?
すると、狙い澄ましたようなタイミングでドアが開き、ジト目の高坂がぴょこっと顔を出した。
「比企谷君!!帰っちゃダメだからね!!」
「お、おう……」
いきなり出て来んなよ。びっくりするだろうが。
つーか、思考回路読まれてんのかよ。
*******
ライブは大盛況の内に終わった。
メンバー全員がメイド服姿という材木座が喜びそうな衣装な上、伝説のメイド・ミナリンスキーがメンバーということもあり、メイド喫茶の客もファンに引き込んでいた。もちろん、彼女達のパフォーマンスの魅力があってこそなんだろうが。
見るもの見たし、特にやることもないので、帰ろうかと駅方面へてくてく歩いていると、背後から足音が近づいてきた。
「ひ、比企谷君、待ってよ~!」
「…………」
「無視!?」
「……いや、気づかなかっただけだ」
「嘘だ!今、体がピクッて反応してたもん!」
余計なところで鋭いのね、この子は。
振り返ると、メイド服姿のまま飛び出してきたらしい彼女は、全速力で走った事など、ものともせずに微笑んだ。
「も~、何も言わずに帰っちゃうんだもん!お礼くらい言わせてよ!」
「いや、別に……っ」
さっきの絢瀬さんみたいに不意打ちのような握手。
しかし、さっきと決定的に違うのは……
「……なあ」
「…………」
自分から握手をしたはずの高坂は、握り合う二つの手を、不思議そうな目で見つめていた。その瞳を見ていると、何ともいえない気分になる。おい、何だよ。手汗すごっとか思われてんじゃねえかと、不安になっちゃうだろ。
俺の視線に気づいたらしく、高坂がばっと手を離す。
「ご、ごめんごめん!」
「いや、大丈夫だが」
え、何?マジで手汗凄かったとか?
不安がこみ上げている俺に対し、高坂は平然と距離を詰めてきた。
「肩にゴミが……きゃっ!」
躓いた高坂がこちらに転んできた。
幸い真正面だったので、咄嗟の反応でも両肩を受け止めることができた。
そして、彼女の額がこちらの胸にこつんと当たった際に、柑橘系の爽やかな香りが弾け、ふわふわと鼻腔をくすぐった。
すぐに心拍数が上がり、緊張やら何やらが極限に達する。
しかし、彼女はそうでもないのか、目をぱちくりさせていた。だから、そのリアクションやめてくれよ……汗臭いのかと思っちゃうだろうが……。
「おい、高坂……」
「あっ、ごめんごめん!大丈夫?」
「いや、こっちは……つーか、戻んなくていいのか?」
「あっ、そうだった!じゃあ、またね!」
嵐のように過ぎ去った彼女の背中を見て、触れられた肩の熱が妙にこそばゆく感じる。気を緩めると、そこに甘やかな何かを探してしまいそうだった。
やっぱり…………あいつは苦手だ。
*******
「……手、おっきかったな」
海未ちゃんやことりちゃんとは違い、たくましさがあり、少し固い。
比企谷君に受け止められた時も、似たような感覚がした。
お父さんに似てるけど、どこか違う。
……何だろう、この感じ。
私はよくわからないまま、走って皆の元へ戻った。
読んでくれた方々、ありがとうございます!