灰の大狼は騎士と会う   作:鹿島修一

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ちょっとシリアスの書き方が分からないです。
本当に申し訳ない。

と、言うわけでシリアスは苦手なのでサクッとウーラシールは終わらせます。



第6話

夜が明け、朝になる。

太陽の差し込む執務室の机で腕を組み、顔を歪める大王はギシギシと己の顎に力を入れた。

 

何時間待ったのか、待てども待てども彼の望んだ人は終ぞこの執務室に訪れる事は無かった。

 

「馬鹿者・・・。危なくなれば退けといったであろう」

 

約束の時間に王の刃が訪れる事は無かった。それはもう、致命的に状況が進んだ事を意味していた。王の刃が帰れない状況など少ない、ましてやあの王の刃が見つかったとしても逃げ帰れなかったなど信じる事は出来ない。

 

王は最悪の結果を想定して、決断を下した。

 

「誰か居らぬか!?」

「ーーー此処に」

 

大王の呼び掛けとあらば、直様姿を現した者は帰らなかった王の刃と同じ衣服を纏うも仮面の造形が異なっていた。

 

「アルトリウスを呼び出せ、今直ぐにだ」

「承りました」

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

俺が狼になって何年が経っただろうか。

裏庭が広いと思ったのは幾分か昔の事であり、今となっては僅か数時間で裏庭を走り回る事が出来るほどに成長した。

過去の仲間達にはアルトリウスと同じ程の狼もいた、そう考えると俺はまだまだ成長するのだろう。大きくなった時にこの森がどれ程小さくなるのかを考えると少しだけ楽しみになる。

成長を実感出来るとは良い事だ。

 

 

食料を胃の中に押し込んだのは数時間前であり、日課となっていた剣の素振りでも始めようかとオーンスタインと鍛錬をした広場に辿り着く。

今や此処だけが森では無く広場になったのは何時だったか、オーンスタインが来る日も来る日も木々を粉砕し続けた事を思い出すと少しだけ寂しくなる。

 

あれは何時だったか?

オーンスタインが俺に剣を渡してくれた。アルトリウスの大剣と同じ材質に委託の剣を態々城の鍛治師に造らせて俺に与えてくれた。

多分彼からの卒業祝いの様な物だったのだろう、それ以降オーンスタインが裏庭に槍を持って訪れるのはメッキリと減ってしまった。

それでも時折来るのだが。

 

広場に突き刺さった剣を引き抜くと何処か誇らしく思う時があると同時に、責任感が俺の心に現れる。

オーンスタインやアルトリウスもこんな気持ちなのかも知れない。

この剣は特殊な物であり、それを授かった俺は特別な者だと思うと身体に力が張り詰める。

敬愛する者から信頼と共に渡されたのだと思うと無様な格好は出来ないと身が引き締まる。

 

ああ、オーンスタインもアルトリウスもそうなのだろう。

特別な地位に武器を与えられ、それと同時に大王からの厚い信頼を寄せられる。銀の騎士達も同じだ、そう考えるとこの身が狼である事が残念になる。

もしも人間だったなら、神族なら、俺は躊躇わず大王に仕えたのかも知れない。それとも又考え方が違うのか。

そんなはずは無い、だって俺には誇り高き友がいるのだから。力を貸したいと思うのは必然だろう、其処に種族など関係は無い。

 

 

ifの話だと切り捨てて、身体を動かす。

鍛錬するにしてもただ素振りしているだけでは足りない、技術もある。なら更にその先を行きたい、目の前に投影するのは黄金の騎士。

 

誰よりも厳格に、誰よりも速く駆け抜ける黄金の雷。

オーンスタインを想定する。想定出来るほどに彼とは武器を交わし合った。うん、それも又誇らしい。

 

そう考えると目の前の幻影の彼に叱咤された様な気がする。

 

ー俺を前にして余裕があるのか?

 

その通り、幻影とは言えども彼は俺の記憶に強く焼き付いた無双の騎士の1人、油断など出来る筈も無い。

 

 

ー成長した姿を見せてみろ。

 

彼が槍を構えると、その姿が搔き消える。

速い、誰よりも速く駆け抜ける彼の攻撃は正に雷の如く。気が付いた頃には轟音が身体を突き抜けていた事だろう。

 

それを余裕でも無いが剣で槍を滑らせて十字の所を利用して避ける。

こんな事も出来る様になったのだ、お前が認めてくれたんだぞ?

 

今度は俺から、そう考えて大地を駆けようとした所でオーンスタインは消えていく。

何処と無く不満げに城への入り口を指差すと幻影は跡形も無く散って行く。

想像の中でも彼は意外とお節介だな、幻影が気付いたなら俺が気付かない筈もなし。

 

嗅ぎなれた匂い、背中を預け合った友。

大剣を携えて完全武装のアルトリウスが其処から姿を現した。

城の中を歩き回るにしては物騒な物で、経験則からアルトリウスがまた城の外に出るのだろう。

俺はそれに同行し続けた、月が何回巡ったかは覚えている。此処に来てから8年だ。8年の内で何回城の外に出たかはもう覚えていない。

 

「シフ、行くか?」

 

ーーーその言葉に少なからずも不安を覚えなかったと言ったら嘘になる。

アルトリウスはこういう時に堂々として口を開く。信頼と共に出される言葉には何処と無く自信が満ちていた筈なのだが、今ほど静かに言われた事は無い。

 

「オン!」

 

それでも俺の答えは決まっている。アルトリウスが行くのだから俺も行くのだ。

その背中を護ってやりたかった、俺の背中を護って欲しい。長年連れ添った仲に不安は無かった、ただアルトリウスの為なら、俺は何処まででも着いて行けるのだから。

 

「そうか。では行こう、私の背中を任せる」

 

なら俺の背中を護ってくれ、そう言った意味の声で答える。

 

「目的地はウーラシールーーー」

 

歩きながら、今回の目的を説明してくれる。

珍しく明確に目的地が決まっている事にも驚く。アルトリウスは明確な目的があってもその目的地などは言い渡される事は無かった。

ダークレイスが出現する場所は決まってなく、度々その姿を現しては消えていくからだ。その為に探知魔術の媒体をアルトリウスは所持している。

 

「ウーラシール国内の調査及び有事の対処だが、グウィン様もその明確な事が分かっていない。何かが起きたと考えた方が良いだろう、その為の装備も幾つか渡されている。その装備が、闇への抵抗の物を見るに碌な事では無いのだろう」

 

まさかウーラシールにダークレイスが現れた?

いや、それならそんな装備が渡される事は無さそうだ。

 

しかし、それ以上を考えるには余りにも俺の知識が無さすぎた。

俺は確かにアルトリウスに着いて行きはしていたが、それ以外の事は残念ながら余り分からない。

魔術も奇跡も残念な事にその触りすら俺の知識には無いのだ、そんな俺がどうこう考えても何にもならなかった。

 

アルトリウスがいる、これ以上に心の安寧を持たせる物は俺には無い。だからきっと、今度も大丈夫。

 

何処か押し寄せる不安を振り払い、俺とアルトリウスはウーラシールを目指した。

 

道ながらにアルトリウスがウーラシールの現状を予想しながらアレコレ俺に話しながら、同じ様に自分も予想を立てながら進んでいく。

とは言っても、俺は考えているだけで残念な事に話す事は出来ないからアルトリウスの予想に対して首を縦に動かすだけだ。

ありえそうな事には縦、微妙なのは首を傾げ、無さそうなのは横へ。

 

何事も考える事が重要だ。考え無しで突っ込んでその後の事が無ければ臨機応変と言っても限界があるからだ。

 

 

「シフ、そろそろ着く・・ぞ・・・」

 

アルトリウスの言葉が萎んで行き、自分もその先に見えるウーラシールを見つめて、歩を止めた。

俺には、目の前のウーラシールが信じられなかった。

 

「ソウルの、変質ーーー?」

 

ポツリと呟かれた言葉が嫌に脳を反響する。

 

ウーラシールへの入り口、門の前に立ち竦んでいる2体の異形。

俺はそれを見て吐き気を催した。ウーラシールの中に入ると知らなければ情け無くも怯えていたかも知れない。

肥大した頭部、長く伸びた腕に爪、変色した肌。

一目見てソレが人間だったと気が付けたのは単に、半分人間だったからだ。

2体の内の一体。

中途半端に肥大して肌色の皮が破れた様になった頭には髪の毛があった。片腕だけ伸び、もう片方は人間の腕。

その中途半端な変質が元は人間だったのだと俺達に知らせていた。

 

「行くぞ、今直ぐ楽にしてやる」

 

アルトリウスから出たとは思えない冷たい程に重たい声と共に、アルトリウスは大剣を携えて静かに歩を進めて行く。

慌てて着いて行くが、一体何が起こったのか思考がグルグルと回っていた。

 

門の前まで辿り着いても気づかないのかずっと下を向いていた。

 

「介錯はいるか?」

 

静かに異形達に語りかけると反応して頭を上げた。

 

「あー?あっ、アアァァアァァァァァァァ!!!」

 

惚けた様に声を出した完全な異形はやがて狂った様に叫び出して爪を振りかぶって、アルトリウスの大剣に裂かれた。

 

「お前は?」

 

半分人間の異形はアルトリウスと俺の事を交互に見ると、残った片目から涙を流して、襲い掛かってくる。

アルトリウスは静かに大盾で凌いだだけで、剣を振るわなかった。

 

「こ、コロジデ・・・。ガラダ、かって・・ゴク。ィガヅイタラ、ムズメ、グッテダンだ!?ゴロ、ゴロジて、ゴロジて・・」

 

言葉を紡ぐのもやっとだろう、泣きながら殺してと懇願する彼はアルトリウスを殺そうと爪を振る。

 

「分かった・・・」

 

静かに振るわれた刃で漸く止まった異形は、死んだと言うのにとても苦しそうな顔だ。

最後は苦しまずに死ねただろうか、苦しまなかったならそれが俺達にしてやれる事を出来たのだろう。

 

ギチリ、ギチリとアルトリウスの握った剣から鈍い音がした。彼はその顔を悲しみに染めているのだろう、それとも怒りなのだろうか?

俺は顎を軽く緩めている、でないと怒りで牙が折れそうだった。

 

「シフ、私は今ほど腹を立てた事は無いぞ。彼は最後、人間として死ねなかったのだから」

 

閉じられた門をゆっくりと片手で押しながら、アルトリウスは静かにウーラシールの中へと入り、俺もその後に続く。

 

ウーラシールの中にさっきの異形で溢れかえっていた。右も左も、全て目に付く所にその醜い異形の姿が目に入る。

同時に中途半端に成り切れていない者を見ると悲しくもなった、せめて意思が無くなれば辛くないだろうに。

 

「この者は・・・」

 

門を開く為のレバーには見慣れた服装の者が倒れていた。

レバーに手を掛けて開けるのでは無くて閉める方に傾けている王の刃の死骸、首に鋭い短剣が突き刺さっていて自害したのが分かる。

何故こんな所にいるかは分からないが、異形になる前に自分で死ねて良かったと思う。

 

 

異形達はやはり近寄らなければ気が付かないのか、ずっとそこら辺に立ち尽くすだけだった。

俺もアルトリウスが動かないからその場で固まっている。

 

「何か手掛かりがあるとすれば中央施設だな。確か魔術の研究は其処でしているとアルヴィナから聞いた覚えがある、其処を目指そう。道中の、異形はなるべく楽にしてやろう」

 

異形の所で言い淀んだのは彼等を化け物と呼べば良いのか人間と呼べば良いのか悩んだのだろう。

俺とて、人間と呼んでやれば良いのか分からないのだ。

 

 

俺はその言葉に頷いてアルトリウスに着いて行く。

 

 

気が付いた異形に剣を差し込んで振り返れば、アルトリウスも大剣で異形を薙ぎ払っている。

 

変質した異形を見て、何処となく不安感が募って行く。

 

ソウルの変質と言ったか。それはまさか、神族にも効くのか?

 

頭によぎった想像を振り払って俺は、剣を振るうしか無かった。

 

 

 

 

 


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