灰の大狼は騎士と会う   作:鹿島修一

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父アルトリウス。
母キアラン。
息子?シフ。

そんな風にしたい、したい・・・

気が付いたらランキング載ってました。ありがとうございます。


第4話

最近、アルトリウスが居ない代わりにオーンスタインが俺の元に訪れる。

彼はその都度俺に武器を渡して相手をさせる、何やら思う様な物でもあるのだろうと何も言わずに付き合ってはいたが毎回最後はオーンスタインが過剰なまでの攻撃で俺から戦意を削ぎ落としていく。

 

あれは果たして俺をからかっているのか、それとも本当に負けず嫌いなのか何方だろうかと思いもしたが、そんな事は如何でも良いと結論が出たので考えない事にする。

 

毎回の様に木を粉砕して城に戻って行くオーンスタインを眺めて、今度からは木を粉砕しない様に言わなくてはと思う。このペースだと裏庭が禿げ上がってしまう、オーンスタインが裏庭に来る度に木を一本粉砕するとは思わなかった。

いや、毎回違った所をプラプラ歩いている俺が悪いのだが。次回からは武器を振る場所を確保しようなどと思いながら視線を移動させると後ろからヒョイと持ち上げられた。

 

少し驚きながらも、触る手の感触を確かめて。はて、誰だろうかと頭を悩ませる。

ゴツゴツとした手であり、手甲の感覚では無いとなるとオーンスタインでは無い。そも彼はこんな事はしないだろう。

 

むう、本当に誰だろうかと思いながらプランと持ち上げられた身体を揺すってみればアッサリと解放された。

誰かと後ろを振り向いて固まる。

 

絶句とは正にこの事を言うのだろう、髭を蓄えて如何にもな服装と頭の王冠がその人物が誰なのかを教えてくれる。

この城の主人である大王グウィン。

流石に大王が来るなんて思いもしなかった俺はその場で固まって暫く呆然としていたのだが、頭を触られた事で我に帰った後、どうすれば良いのか分からずに取り敢えず伏せていた。

 

犬で言うお座りだと不敬に当たるかと思いこれなら頭を下げてるんじゃないかと思いながら、お座りの状態で頭をググっと下に下げる。

 

「ハッハッハ!良い良い、頭など下げんでも良い」

 

あ、大王が俺の考えを見透かしたと思いながら頭を上げて楽にする。

お座りすら崩して疲れましたと伏せをしながら、そんな意味を込めた視線を向けるや大王はキョトンとした顔をして笑いだした。

 

「お主、中々肝の座った狼だのう。名前はなんと言う?」

 

シフ、地面に名前を書くとこれまた和かな顔をする。

 

「シフか。良い狼だな、それとも賢いのはその人間の様なソウルだからか?」

 

一瞬何を言ってるか分からずに固まって、今の言葉をちゃんと復唱する。つまり、この王様は俺の魂が見えてるのか。

 

「獣に人が混ざった様なソウルをしておる。一目見て興味が出ての、足を運んでしまったわ」

 

だけど、正直俺にはソウルなんて物は見えないし自分がどんなソウルなのかも分からない。

だからこそ特に頓着する事も無くて俺は自然体でいられる事が出来た。

ソウルとやらが変わっていても俺には関係の無い事である、そのソウルとやらが一体俺の身体になんの影響を与えるのかもまた不明。なら考えなくても良い。

 

大王は暫く俺の事を眺めていると、思い出した様に俺の頭を撫でてから去って行く。余り時間的な余裕も無かっただろう。

 

それにしても、俺の事を見るために態々裏庭にまで来るなんて変わった大王様だと考えて身体を起こす。

 

もう少し陽当たりの良い場所に居たくなったのだ。何故か太陽を感じていたくなった。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

夜になると裏庭は昼間とは違った姿を見せる。

森の中の植物達が不思議な光を出して虫を集める所もあれば、光る植物も月の光も届かずに真っ暗な所もある。

 

木の隙間から差してくる月の光に照らされる灰の様な銀の様な体毛の狼がむくりと起き上がると歩き出す。

 

彼は腹を空かせているのだろう、昼頃とは違い獣として歩き始めていた。

眼はこの森を確りと映し出し、鼻は遠くの物を嗅ぎ分け、瞳がギラギラと輝いている。

 

これからやるのは狩りであり、日頃から研がれ続けた牙はこの森の中で彼に勝てる獣は居ない。実質この森の中の頂点はシフだった。

 

しかし、そのゆっくりと歩く狼を後ろから抱きかかえる者がいた。

 

「くふー」

 

急に掴まれたからなのか口からは知らずの内に可愛らしい声が漏れ、今からやる気を出していた所を邪魔されたからなのかその姿は何処か落ち込んだ様にすら見えた。

 

「すまない、だから落ち込まないでくれ」

 

 

後ろを向いて見れば見慣れた様な服装の女性が立っていて、誰かと臭いを嗅いでみても該当する人物が出て来ずに首を傾げていると。

頭を撫でられる、そして漸くこの女性が誰だか分かったのであった。

キアランは仮面を外しており、それに気が付かずに誰だか分からなかったのだ。前回は顔を隠していたからね。

 

兎に角キアランだと分かると身体を揺らして地面へと戻してもらう。腹が減っているのもあって何か食いたい気分の方が強かったのだ。

 

「む、何処へ行くんだ?」

 

キアランは前回会った時のシフとはかなりの違いを見せる狼に少し驚き、一体何をするのか気になって歩幅を合わせてシフの後を追う。

 

 

 

さて、食事の確保でもしようかと身体を起こしていた所にキアランが現れたのだが。

このまま食事の確保を行う事に決定する、四騎士らしいから血生臭い物は慣れている筈だ。アルトリウスですら動揺せずにいたのだから大丈夫。

 

狩りは得意だ、まだ狼達の群れの中に居た頃は身体も小さく貧弱な俺は生きる為に一つだけやって居た事がある。気付かれずに逃げる事だ、山の動物達は強く狼といえども逆に食われる事があった。だから、必死になって隠れもした、必死に生きようとしていた。

 

そんな事があったのは昔の事で、今は標準的な狼より大きいくらいの身体。狩りをするのに支障をきたす身体でも無いし、兎程度なら気付かれずに確保する事が出来る。

それ程、気配を読み難くする事が出来た。無様に逃げていた時の物が狩りにも使えるとは皮肉な物だ。

 

まあでも、キアランには勝てる気がしなかった。

今でも後ろを窺う様にして見れば確かに姿はあるのだ、前を向いていると後ろにキアランがいる事を忘れてしまいそうになってくる。

森の中だと言うのに物音一つ立たず、背後の空気は何時もと変わらない森の空気だ。

視覚と感覚的な物が一致せずにキアランの幻でも見たのだろうかと脳が錯覚しそうになっていた。

 

凄まじいの一言だ、是非とも俺の前を歩いて欲しい。後ろに気が回ってしまい集中出来ないのだ。

 

 

そんな事を思っていると前方に兎を見つけた。

巣穴の近くなのだろうか穴の近くでキョロキョロと見回している所を見つけて、伏せる。

その様子にキアランも察してくれたのか話す事なく木の陰にピタリと身体をくっつけて動かない。

 

この時俺はキアランを見返したいと思っていた。前回マトモに狩りも出来ないと言われていたからだ。

そこで、木々に爪を突き立てて俺は木に登っていく。パラパラと木屑が落ちる事なくスンナリと差し込まれる爪で木を登り気が付いた。

 

もしかしたら兎の所まで届かないかも知れないと。兎の所まで届かずに逃げられるかも知れないと思うと素直に狩りをすれば良かったと今更ながら思う。

全ては遅い事、何方にしろこのまま降りたら気付かれそうなのでこうなればやるしか無い。

 

深く食い込む爪を少しだけ抜きながら、俺は森の中を跳んだ。

 

パラパラと音を立てた木屑を兎が見るがその時には俺は上、視界の範囲から逃れて気が付かないままに兎の頭が潰れた。

 

ギリギリ前脚が兎まで届いて良かったと思いながら、兎に噛み付いて肉を口の中に入れていく。

 

「見事な物だな。本当にお前達は似た者同士ではないか」

 

似た者同士、アルトリウスと俺の事を言っていると気がつくと首を傾げる。

はて、俺とアルトリウスの似ている所なんてあっただろうかと。似ているなんて毛色くらいな物だ、それでも色が似ているというだけで俺の体毛は白に近い灰色。アルトリウスは銀だ。

暗い所だと分かりにくいが、太陽の光が当たるとその違いは一目瞭然。それに狼と似ているなんて言われたらアルトリウスの奴が少し可哀想だ。

 

しかし、そんな事すら今の俺は言えない。

言葉が話せないのは、不便だと久し振りに感じた。何処が似ているのか聞くことも出来ず、あの優しい騎士に似ていると言われた嬉しささえ言葉に出来ない。

 

人と、話したい。

一方通行な物ではなく、ちゃんと話しをしたい。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

私はシフとアルトリウスが似ていると言った。

似ている所など、少しの時間を過ごしただけで見つかった。最近だとオーンスタインと話す時もシフの話を聞く。

 

オーンスタインと私が彼等を似ていると思うのはどんな所か。

彼等は基本的に何処か抜けている。騎士としての彼は厳格な厳しさと優しさを持つのに、普段はそんな事は無い。シフは普段警戒心なんてない様な物だ、でも狩りの時は違った。

彼等は同じ剣技を使うと言う。オーンスタインからはそう聞いている、その経緯を聞くと苦笑してしまったのは覚えている。オーンスタインも顔には笑みがあった。

なんでも槍はてんで駄目な様らしいが、剣になると銀騎士より良い動きをするそうだ。

アルトリウスの奴も槍は駄目だったな、普通の剣も素手でも大丈夫なのに槍ばかりは使えない。

そう言えば、アルトリウスとシフが会った時。シフはダークレイスから馬車を護ろうとしていたと聞いた、アルトリウスが話してくれた。

 

可笑しい位に似た者同士だった。

 

「どうかしたのか?」

 

シフは、私の事を見上げながらジッとしている。

兎を食うでも無く、吠える事も地面に文字を書くでもなく見つめられている。

何かを不思議そうに見る様な目で私の事を見て、ゆっくりと顔を上げて私よりも更に上。月を見上げた。

 

そしてシフは遠吠えをした。

 

唐突に吠えるシフに驚きながら、シフの事を見ていると気が付いた事がある。

まるで泣きそうな顔をしている、狼だから確信が持てないのだがその顔は泣きそうで、悲しそうな目だ。

 

 

ポタリと、シフの顔に雫が降った。

それはツーっと流れていき消えるが、まるでシフが泣いている様でもあった。

 

何に悲しんでいるのか、何を泣きそうなのか全く分からなくても。私は確かにシフをどう慰めてやるか考えていた、狼だと言うのに。

 

 

 

まあ、でもーーー先ずは此処を離れよう。

 

半ば強引にシフを抱きかかえて私は歩いた。

シフは何も言わず、拒まずにキアランの腕の中で大人しくする。

 

 

そんな2人は強くなり始める雨から逃れる様に城の中へと入っていった。

 




母は優しい

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