灰の大狼は騎士と会う   作:鹿島修一

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最後の方は賛否分かれる。
個人的には有りだとおもう、何処かにある幸せが好き。

最近ずっとガウェインを使ってた為ランスロットと間違えました。本当にごめんなさい。


その後のお話し 学園編(後編)

「それでさー」

「えー、駄目じゃん!」

「授業参観とか恥ずいわ」

「俺は母親が来るんだよなぁ」

 

休み時間、それも授業参観前の教室の中では男女が好き勝手に雑談していた。

後ろには既に少人数の母親の姿が見えるが、その母親を知る人物達は心なしか視線がブレていた。

 

「ねえ、マシュちゃんは親とか来るの?」

「いえ、日本にまでは来ないと思います」

「そうなんだ。立花はマシュちゃんの親知ってるんでしょ、どんな人だったの?」

「えっ、良い人達だよ」

 

そんな中でも友達になった女の子達にマシュが質問をされているのが多い。授業参観という事で自然と話題が自身達の親の話題になりマシュにも矛先が向いたのだが、そもそもの話しマシュの知る人物達は皆カルデアに居る為に日本に来る事は殆ど無い。

だからこの手の話題は曖昧な表現で濁して話せば自然と生徒達は妄想を繰り広げるのである。

 

「おい、マシュちゃんのお母さんってどんな人だと思うよ?」

「俺が思うに、マシュちゃんみたいに守ってあげたい系」

 

そして男子は男子で変な妄想で鼻の下を伸ばすのである。

マシュちゃんは守ってあげたい系、分かるには分かるが本来は守る側なのである。

そんな話も苦笑いで返すマシュの姿はとても可愛らしく、年相応の女の子だと分かる。

 

「立花って一年間外国だったんでしょ。母親とかどうなの?」

「何時も通りだよ、そんな事で何にも変わらないよ」

「だよねー」

 

まあ、立花が家に戻った時は身体の心配よりも先に頭を撫でられてカルデアで粗相をしなかったかを確認されたのだけども。

マシュを連れて来てだったから父親の発狂具合は凄かった、今ではマシュにデレデレである。

なんだ、実の娘を放り出してなんだこの父親。そのお小遣いを私に下さいとは一体何度思った事か。

いつか母さんに怒鳴られるぞとは心の中での言葉だ。

 

 

その時、教室の後ろのドアが音を立てて開いて。生徒達は今度は誰の親だとチラリと顔を向ければ優香の姿があり、藤丸の所かと元に戻ろうとした所でとんでも無い会話が耳に飛び込んで来た。

 

「ほら、入って下さい。マシュちゃんも喜びますから!」

「いや、しかしだな」

「では私が入ろう」

 

優香の声を飛ばして1番目は女性、2番目が男性だった。

 

「ほら、シフさんも!」

「良し、行こう」

 

「・・・・ふぁっ!?」

「ーーーえっ?」

 

マシュが呆然とした様に目を開き、立花に関しては驚き過ぎて膝を机に打ち付けて悶えている。

そして周りの生徒は2人の反応からしてマシュの親御、しかも父母どっちもだと!? と驚愕しながら一目、いや脳裏に焼き付けるのだと言わんばかりに視線が集中する。

 

しかし、マシュと立花からしてみれば堪ったものでは無い。立花は幻聴だよと空気に話かけ始まる始末である。

マシュは心の中で親、えっ、アルトリウスさんが!?と逆の意味で驚愕のものである。

 

「ほら、マシュちゃん驚いてますよ!?」

 

立花の横で小さく息が漏れるのが聞こえる。

これは落胆からではなく、何か信じられない物を見たと言う吐息の漏れだと察する。

 

教室のドアを超えて現れた長身のイケメン。

正に外国人のカッコいいと思われる要素を詰め込んだ様な若者。流れる様な銀髪、優しそうな目つき、そんな騎士の様なーーーいや騎士が教室に入って来たのだから。

こんなイケメンは中々いない、サーヴァントは見慣れた物だがこの時代でこの手の騎士然とした理想のという物をど真ん中から貫いていく男性はお目にかかれないだろう。

それもまさか学友の親御さんだとは到底思えない。

男でさえ一瞬息を呑むほどの事であった。

 

 

その次に現れた絶世の美女。

象牙の美しい髪を三つ編みにして後ろで縛る女性。少しツリ目で強気そうな顔立ちに、スーツという出で立ちは正に至高の美女。道端を歩けば誰もが二度見する程の物である、一部の男子は何処と無くイケメン度が上がった気がする。

カッコよく見せたいと本能がもっと輝けと囁いていた。

女子は何歳なの、何歳なの!? と悲鳴を上げている者や、胸部を見て其処でも負けたと絶望に打ちひしがれる者もいた。

 

 

そして最後に入ってくるのは灰色の髪を流したアルトリウスと瓜二つと言えそうな男性。

この時点で立花はお腹いっぱいだった、この後の質問攻めを一体どう躱してマシュの負担を減らすかを必死に考えている所だった。

マシュは学友から肩を掴まれガクガクとゆさぶられて声も出ていない。

 

一気に騒めく生徒達は話しながらも3人から目を離せないでいた。

 

「榊さん。こちらキリエライトさん御一家です!」

 

そして優香はと言えば教室の騒めきなど何のそのと知り合いに3人を紹介し始める。なんだかんだ言って一番度胸があるのは優香かも知れない。

 

「は、はは初めまして!榊 京香です!」

 

授業参観を見に来た面々はまさかこんな美形が来るとは思ってもいなかった、というか誰が予想出来ようか。正に俳優も顔負けの美形が目の前にいて緊張しないはずも無い。

 

「アルトリウス・キリエライト。お願いしよう」

「で此方が!」

「キアラン・キリエライトだ」

「そしてマシュちゃんのお兄さん!」

「シフ・キリエライトだ。宜しく頼む」

 

それはハイテンションで紹介をさせて行く優香の顔は満面の笑みである。

 

「私の自己紹介は問題無かったか、キアラン?」

「大丈夫だ、ア、あ、あなた……」

「それは良かった」

 

あなたーーそう呼んだキアランは頬を赤くしながらそっぽを向きながら答える。

 

「おい、榊」

「なんだ田中」

「鼻血、出てんぞ」

「・・・マジで?」

 

その仕草に男子は撃沈、余りの衝撃に榊息子とその他は鼻血を垂れ流していた。いそいそと止血しながらも脳内に刻まれた理想郷は鮮明に残ったままだった。

 

そしてこの呼び方だが、ダ・ヴィンチの仕業である。

日本に詳しく無いキアランをあの手この手で騙し、日本ではこう呼ぶのだと教えた。ただの悪ふざけであり、本人はとても楽しかったと言う。

まんまと騙されているキアランはそれはもう恥ずかしい、なんせアルトリウスを夫婦の様に貴方と言わなければならないのだから。

だけどキアランも満更でも無いので何も問題は無いのです。

うん、彼女はアルトリウスとの夫婦の様な関係は問題がないので大丈夫なのだ。

 

3人が居るだけで教室の中は不思議な空間に包まれた。誰もが時間を忘れて、その存在に魅入っていた。

しかし、その時間も終わりを告げる鐘が鳴り響く。

 

 

キーンコーンカーン!

 

首に別れでは無く授業の始まりである。

その瞬間、生徒達の顔付きが変わった。チャイムという合図が彼等を現実に引き戻したのだ。

 

ドアの開く音、教師が何の気負いも無く入室して来た。

 

「はい。授業始めます・・・」

 

教師柿崎は教室に入った瞬間、その光景に驚愕した。

教師生活10年間のベテランである柿崎はその空気に呑まれる事なく、教壇に立った。

 

今までにない程に真剣な生徒達を見て、漸くその更に後ろに立つ存在感に気がつく。

まるで絵画から飛び出て来たかの様な美しい3人の存在、彼等がこの教室を支配していると直ぐに見抜いた。

異様なまでの緊張感、何処か納得しそうな自分を立ち上がらせる。

 

何故納得する、納得など出来るはずも無い。

これ程真剣な生徒達に、自分が応えずにどうすると言うのか。そして同時に怒りに燃えた。

この場所で、この教室(聖域)を、支配するのは彼等では無い。この場所でだけは誰にも負ける事は出来ない、我等教員の空間なのだと教師の本能が吠える。

そう、この空間を支配して良いのは今は俺だけなんだと。

 

瞬間、生徒達は柿崎の様子を見た。

アレは違う、俺達の知っているメガネ柿崎では無いのだと理解した。

 

「「ーーーっ!?」」

 

生徒の息を飲む音が聞こえる。心なしか柿崎のかけるメガネの奥の眼光が鋭くなり、髪の毛も逆立って見えた。

 

「ほうーーー」

 

小さく、美しき銀の男の口が開いたのを柿崎は聞いた。

そうか、そう言う事か。俺と言う教師を、その姿を見たいのかと理解してしまった。

柿崎の頭の中には今日やる筈だった授業の内容は既に無い、自分の出来る全力を持って評価を得てみせよう。

 

眼鏡を指で押し上げる。

 

「これよりせんそーーー英語の授業を始める。今日は教科書を使わず実践的なリスニング英語をする。私が君達に話し掛けるから、君達は自分の思った通りの言葉で返して貰う。理解出来なかったら直ぐに言え、フォローに回ろう」

 

いまこの教師何を口走りかけた、しかも口調変わってるし!

この教室内でも平常な立花は教師の言葉に驚き、そしてこれから始まるであろう全力のリスニング英語に冷や汗を流す。

直様隣に座るマシュへとアイコンタクトを取り、有無を言わさずに要求を通す。そしてマシュも立花のサポートに全力を尽くす事を決意した。

 

「それと、会話の内容は黒板に書く。ノートに取り分からない単語などは直ぐに聞くと良い」

 

「あっ、筆箱忘れた・・・」

 

異様な雰囲気の教室に、その言葉は直ぐに届いた。

 

(何をやっているあの馬鹿は!)

(誰でも良い、奴にペンを!?)

 

教師柿崎は直ぐに動いた、此処で怒鳴る事は簡単だがそんな醜態を見せる訳にはいかない。表情を動かさず、静かに近寄り胸ポケットからペンを取り出す。

 

「私のを貸そう。終わったらかえす様に」

「はいっ!」

 

教壇へと戻り振り向く際に一瞬だけアルトリウスを視界に納める。

 

(反応なし。この程度は序の口、その視線を私に釘付けにして見せよう)

 

柿崎は刹那的に視界に、それも自然に納める事でアルトリウスに察知されずに盗み見る事に成功した。教師として10年間磨き上げたチラリズムの集大成、英雄すら見逃す一瞬の刹那を柿崎は掴み取った。

 

(余り無茶は出来ん、しかしーーー)

 

英語の教師として、立花を視界に納める。

この空白の一年、彼女は外国に居たではないか。丁度いいいしずーーー標的にさせて貰う。

 

そして真っ先に立花へとロックオン、内心でニヤリと笑った。

 

「藤丸。今から私は君に英語で話し掛ける、君の思う答えをそのまま答えてくれれば良い。聞き取れない、意味が分からなければ直ぐに言う様に」

「分かりました」

「では、ーーー。ーーー ーーーー、ーーーー?」

 

そして生徒達は驚愕して冷や汗を垂らした。

柿崎が話しながら高速で黒板に書き込んでいる事ではない、それよりも根本的な問題だった。

 

((野郎、やりやがった・・・))

 

聞き取れない?意味が分からない?

違う、そうじゃない。生徒達の心は其処では無い。

 

((そんなの習ってねぇぞっ!?))

 

そう、この男は難しいとかそんな問題ではなく。

一段階過程をすっ飛ばして行きやがったのだ、生徒からして見れば無理難題も良いところ。

表情には出さず、苦渋の趣で立花へと視線を投げる。

 

「・・・ーーー ーーーーー ーーー」

 

しかし立花はそれでもその問いに完璧に答えてみせた。

 

正確にはポーカーフェイスを貫きながら隣に座っているマシュの口元を見ている。

英語など話す機会も其処まで無かった立花がそんな事を出来る筈も無く、ならどうやって答えるか。

この一年、色々な事をマシュと共に歩んできた。それは時に楽しく、悲しく、最も濃い一年だったとこの先も言う事が出来るほどにだ。

そして共に歩んだパートナーだからこそ出来る、その一がコレだ。

 

読唇術。相手の口の動きで何を話しているかを理解する高度な技術であり、これから先どんな事があっても読み取れるのはきっとマシュの唇だけだろう。

 

その瞬間を覗き見た後ろの席の生徒はペンを落として背もたれに寄り掛かった。

 

(俺には、あんな事出来ねぇ。立花、お前がマシュちゃんのNo.1だ)

 

この胸に秘めた淡い恋心を、捨て去る時が来たのだ。

俺には、俺には釣りあわねぇ。マシュちゃんも、御家族も、どうか立花と幸せにな?

 

1人で勝手に納得して勝手にグッバイ恋心と感傷に浸ってはいるが、女の子同士だぞ?

 

「ふっ、完璧だ藤丸。今の会話の補足を行うぞ」

 

そう言って柿崎は黒板に書かれた今の会話の全文、文法から単語の意味まで丁寧に解説していく。幾らぶっ飛んでいてもやる事をやるから何も言えない、タチが悪い。

 

その後、柿崎もぶっ飛ばし過ぎるのは良く無いと思ったのか立花に問いが来る事は無かった。至って平凡な授業は終わりを迎えたのだった。

ある種、何時もの授業では無かったが。まあ教師も生徒も良い気分転換(悪い方)にはなったのでは無いだろうか。

 

「では、授業は終わりです」

「礼!」

『ありがとうございましたっ!』

 

さっきまでの気配は一転穏やかな物になり、何時ものメガネ柿崎に戻り、やり切った顔で退出していった。

 

 

「どうでしたか?」

 

授業が終わり、アルトリウスに感想を求める優香は何処か楽しそうだった。

 

「そうだなーーー」

 

アルトリウスは一度溜息を漏らす立花と隣で励ますマシュの姿を見て、自然と頬が緩んだ。

 

「楽しそうで良いじゃないか」

 

純粋に若いのだから、人類の為では無い。こんな当たり前の生活の一端を目に出来た嬉しさと言うものがあった。

 

「そうですか、それは良かったです」

 

キアランとシフにも聞こうと思ったが止める。顔を見ればその答えも自然と出る、あんな優しそうにマシュちゃんへと笑顔を向ける2人の答えは聞くまでも無いのだろう。

 

「まだまだ他の授業がありますよ、見て行きますか?」

「「「当然だ」」」

 

そう綺麗に重なった3人の声に、今度は優香が笑った。

 

 

ーーーーーー

 

他の授業、その一部だけでもご覧頂こう。

 

 

 

「すまない、日本の体育とはどんな事を学ぶのだろうか?」

「ーーー宜しければ、やりますか?」

 

疑問を聞いてから始まる突然の誘い、そして彼等は知る事になる。

 

「待って、シフ達参加するの!嘘だよね!?」

「誘われては仕方ないさ」

 

幸いだったのは個人種目である事と対戦形式では無かった事か、それでも彼等は見せつける事となった。その圧倒的な光景を。

 

「う、美しい・・・」

「完敗だぜ」

 

その日、彼等は垣間見た。

世界のその先を、この日彼等は記憶した、世界の広さを。

 

「「フッフッフッフッ!」」

「どうやったら二人三脚でそんなに早く走れるの!?」

 

正に彼等だからこその息のあったコンビネーション、一種の美しさすら感じてしまう。ーーー二人三脚だけどね。

 

 

「科学の実験を行います」

 

PON☆

 

「いま鳴ったぞ、確かにポンと」

「私も確かに聞いた」

「静かにしろアホども」

 

 

「数学です、教科書54p開いて」

 

「駄目だ、分からん」

「私も分からない」

「悔しいが私もだ」

 

 

とまあ、この様に意外と本人達も初めての事で色々と楽しめた様子である。

 

「折角ですから外でマシュちゃんを待ちましょう」

 

優香の言葉で外でマシュを待つ事になった3人。

マシュと立花がゾロゾロと大軍を率いて出てきた時はどうしようかと思ったが、遠目から写真なる物を撮っていた。

2人は気にしなかったが、キアランは映る事なく常にアルトリウスとシフを壁にしていた。

 

 

ーーーーーーー

 

 

今日、初めて授業参観と言うものを経験しました。

どう言った物かは知っていたんですが、どうにも緊張してしまった私はマスターにどうすれば良いか聞くと、笑顔で答えた。

 

「いつも通りにしてれば良いよ、緊張しなくても大丈夫」

 

でも、あの空間の中で緊張するなと言うのは少々無理がありました。柿崎先生も何時もと雰囲気が違って、皆さんもまるで違う誰かを見ている様な気さえしていた。

 

そして何よりも、なんでアルトリウスさん、キアランさん、シフさんが居たのか。

それを聞こうとしました。

 

「あの、キアランさんーーー」

 

聞こうとして、止められた。

 

「私達は家族と言う設定になってる。私達が帰る間は付き合って欲しい」

 

その様な事になっているのかと、驚いてしまう。

 

「どうかしたかしら、マシュちゃんにキアランさん?」

「いや、何でも無い。行くぞ、マシュ」

「はい。キアーーーお、お母、さん…」

 

恥ずかしくなってしまう。

しかし、家族とはどう言う物なのか。私には分からない。

必死になって知識を掻き集めて、恥ずかしくもなりながら私は言う。

 

「あ、お母さん…。あの、手を繋いで、くれませんか?」

 

これで合ってたと思いたい。

家族とはこうするのだと教わった。

 

キアランさんは少し驚いた様な素振りをすると、小さく笑った。

 

「甘えるな、マシュ」

 

その言葉は何処か突き放された様な気がして、視線を落とす。

 

「ーーーあっ」

 

でも掌に暖かい物が当たって、視線を上げる。

 

「何をしている、行くんだろ?」

 

こっちを見ないで、私の手を握るキアランさんの顔は見えない。手を取った彼女の頬が赤くなっているのはきっと夕日で照らされている所為だろう。

 

 

ドクター、家族と言うのはこういった物なのでしょうか?

その問いの答えが返ってくる事は無い。昔にその答えを聞いているから。

 

あの時は何て答えたのか、確かーーーー。

 

「家族か、難しい質問だ。でもそうだね、血の繋がりかも知れないし、戸籍上の有無なのかも知れない。でも僕はこう考えている、家族と言うのは一緒に居て安心する存在だと、心が暖かくなる様な事だよ」

「そうなのでしょうか?」

「ははっ、きっとそうさ」

 

そうだ、曖昧なままだったんだ。あの時のドクターは困った様な顔をしていたのを覚えている。

 

「お母、さんーーー」

「どうした、マシュ」

 

じゃあ、この手から伝わる温もりは。この感動した様な感覚は、手を伸ばしたくなるこの感覚は、呼びたくなるこの感情は。

 

「あ、えっと、お父さん、お兄さんーーー」

「どうかしたのか、マシュ?」

「どうかしたか?」

 

そう言って当たり前の様に振り返った彼等を見てしまった。

その夕日に照らされながら、振り返った顔を見てしまった。手を伸ばしても居なくて、欲しかった存在が直ぐ其処にある。

 

「彼奴等に用があるのだろ、行ってこい」

「はい!」

 

当たり前の様に背中を押してくれる人が其処にはいた。

 

「ははは、どうしたのだマシュ。私に何かして欲しいのか。昔のシフの様に抱き上げるのはどうだろうか?」

 

そんな風に冗談を言ってアルトリウスさんは笑う。

彼等からしてみたら私は子供なんだろう。だから、思った事を言ってみよう。

 

「お願いします!」

「・・・・任された」

 

私の言葉に驚くアルトリウスさんは直ぐに笑顔に戻った。無邪気な顔で、先輩の様に優しい笑顔。

産まれて初めて、自分の意思で両手を大きく差し出したかも知れない。

フワリとした一瞬の浮遊感、一気に跳ね上がった目線が新鮮だった。

 

「ーーーありがとう、ございます」

「泣いてくれるな。私は頼まれれば何時でも担いでみせるとも」

「ーーーはい」

 

「俺も昔の様に」

「私には無理だ、諦めろ」

「…そうか」

 

後ろでシフさんとキアランさんがそんな会話をしているのが可笑しかった。まるでアルトリウスさんに抱えられる私を見てシフが嫉妬したみたいだった、それが本当の家族の様で。

そこで、ハッとした。そういえばシフさんも、キアランさんも、アルトリウスさんも家族では無い。血の繋がりも何も無い、それでも家族の様な暖かさを何時も持っている。

 

 

私の中で、答えが出た様な気がした。

家族と言う難解な答えが。

 

 

この瞬間が、いまこの時間がーーー家族なんですよね?

 

私はまた一つ、新しい物を見つけられましたよ、ドクター。

 

 

ーーーーえっ、ランスロットさん?

すいません、あの人を父親と思うのはちょっと。

私の中の霊基が苦笑した様な気がする。

 

 

「マシュちゃん。本当に嬉しそうね」

「うん。良かった」

 

彼等の先で、2人の親子はその光景を見て笑った。眩しい物を見る様に、良かったと心の底から。

そんな2人の笑顔は親子だからだろうか、とても雰囲気が似ている。

 

 

 

そんな2人から見ても夕日に照らされた4人の姿は、本当の家族の様に思えた。

 

「私、嬉しいですーーー!」

 

 

 




最強の守護兄妹、誕生。

そういえば誰も血は繋がってない。アルトリウスもキアランも夫婦では無い。アルトリウスとシフは兄弟では無い。
そんな家族なら、そんな彼等だからこそマシュもと思って・・・。

ごめんなさい。

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