灰の大狼は騎士と会う   作:鹿島修一

16 / 24

ガチャは悪い文明(確信)
舞ったのに出ませんでした、舞教辞めます。
私はこれから梶田教に改宗します、フリー素材様この私に慈悲の手を!



第16話

橋を越えたその先は暗い森とは打って変わって幻想的だった。

深淵でより暗く濡れた森の奥だと言うのに、暗さを感じない異常。

月が照らし、その灯りを吸収する様に草木が発光し、誘われた虫が飛び回る。

 

何も変わらない王の庭。

彼等はその森が異常だという事に気がつくのに少しだけ時間を要した。

 

その風景に感嘆しながら歩いて、夜でも光る森に幻想されて漸く気がつく。その更に奥、一つの墓場へと続く扉の奥から光が漏れて来ない事に。

 

最初に気が付いたのはリンクスだった、紋章に護られた加護の扉が暗い事を。

 

いや、僅かに開いた扉の奥から漏れる黒に塗り潰されそうになっていた事に。

 

 

それでも今更止まろうとする者は此処にはいない。

例え心が折れそうでも事を選ばなかった者達は静かに足を進めた。

不思議と皆何も話さない、僅かな足音と、場違い感を感じさせる鳥のさざめきが辺りを包む。

 

静かな、それも何か異変が起きているだなんて考えも湧かない様な空間が彼等に癒しを与えていた。

 

リンクスはその心を鎮めて、アルトリウスは穏やかな時間を思い出していた。

 

そうして己の心に問い掛ける、人理焼却とは?

重ねてきた行いを焼却され、存在さえも燃やされそうな未来を。本当の意味では当事者ですら無い彼等。

ある意味では当事者な彼等は心に訴える。

 

狼騎士は遠い誓いに、自分が死ぬ事は一向に構わなかった。積み上げてきた物と護って来た者達が自分を肯定する、そんな事があったから己の身などーーー。

 

薪の王は思う、皮肉にも生きたいなんて思いは遠くに忘却した。自分が見付け出した使命では無い、与えられた仮初めの使命を果たしたとしても、辿って来た道は全て自分で決めた事だった。諦める事は何度も出来た、それでも歩み続けた道を否定出来る事など出来ない。過去も未来も誰であろうと、自分の行いを抹消する事はさせない、その為なら自分はーーー。

 

胸に秘めた思いは誰だって違った、当たり前だ。人が全員同じ使命と思考持つ事などありはしない、それでも目的が重なる事は多々ある。

その有り難さを、温かさを感じられた瞬間は何度もある。

 

今も集まった4人が同じ思想を抱いてなんていない、バラバラだ。それでも手を取り合う事は出来る、ならこの尊い思いすらも消え去るなんて事はさせてはいけない。

 

 

カツンーーー

 

 

蹴られて跳ねた石が橋の下へと落ちていく、暗い場所へと落ちていくソレに自分の姿を投影した者はいなかった。

 

 

その扉に2人が手を添えた。

彼等がやるべき事だと立花は自然に思い立ち何も言わない、リンクスが剣を持たぬ左手を右扉に添えて、アルトリウスが何も持たない右手を左扉に添えた。

 

鏡合わせのその姿、闇に生きた人間と、光に生きた神族がその姿を合わせて扉を押した。

 

ギギィ、重い金属の音が不思議と綺麗にさえ思えた。

 

 

 

 

 

「ーーーっ」

 

 

誰かが唾を飲み込んだ。

それは誰なのか、誰も問う者はいない。

それよりも目の前の姿に唖然となる。

 

広場の中央に聳える墓。

周りを朽ちた刀剣が囲い真ん中に巨大な黒い大剣が埋まる墓場と、其処しか映すことの無い月の光が異色を放つ。

 

それ以外に何も無い、此処が深淵の出所の筈なのに其処には何も無い。

 

辺りを警戒しながら墓まで歩いて、鼻をつまむ様な鉄の匂いが漂って来る。

リンクスが真ん中の大剣に手を伸ばしてーーー

 

 

「誰だ、友の物に…手を出そうとする、のは?」

 

 

途切れ途切れで弱々しい声、若い男の声であり、今にも倒れそうなのは声からでも分かる。

 

墓の裏側、まるで縫い付けられる様に刀剣で身体を貫かれている髪の長い男が座っていた。

 

 

 

まるで闇と光を混ぜ合わせた様な灰色の髪を持ち、灰色の鎧を纏った男だった。

そして、男の腹部を貫く大剣がアルトリウスの携えた大剣と瓜二つである事に気が付いた。

 

「悪い事は、言わない。今すぐにひきか、えすーーーー」

 

ゆったりと瞼を開いて、忠告と共に吐き出された言葉は彼等の顔を見ると固まる。

 

「君はーーー」

 

アルトリウスが尋ねる前に、男の瞳から雫が溢れ出して。さも嬉しいのだろう、笑った。

 

「は、ハハハーーー。そうか、そういう事なのか。なんて偶然なんだろうなぁ」

 

いっそ狂った様に笑みを浮かべて、手を伸ばした。

 

ぶち、ぶちぶちーーー。

 

噴き出した赤い花に、マシュと立花の顔が曇る。

それを無視する様に突き立つ剣が肉を引きちぎり、上へと上がる毎に身体から血が沸き立った。

 

「漸く、声が届いたなーーー友よ・・・」

 

弱々しく紡がれた言葉と共にヒタリとアルトリウスの兜に手が添えられる、愛しい者を触る様に、掛けがえない者を手繰る様に。

壊れ物を触る様にして撫でて、失くした者を触る様に弱々しい手にアルトリウスの手が添えられる。

 

 

「ああ、シフ・・・。そんな姿で、何を、誰を待っていたんだ・・・」

 

自信に満ちた声は弱く、泣きそうな声が漏れる。

何故と疑問が浮かんで、誰がと怒りが湧いて、私はと自責の念が浮かび上がる。

シフの言葉が分かる、誰を待っていたかなんて問う前に答えが出ていた。

 

「勿論、友の事を。それにーーー」

 

チラリともう1人、リンクスの方を向いた瞳がその答えを物語っていた。

 

 

「ああ、もう来たのかーーー」

 

 

そう痛々しくも嬉しそうな笑顔から一転、目を開いて、腹部に刺さった大剣を抜いて起き上がろうとし始める。

狼の様な唸りと、ギチギチと音を立てる刀剣を無視して立ち上がろうとして力なく墓に寄り掛かった。

諦めた様な顔と、希望に満ちた様な顔が合わさって複雑な顔だった。

 

そしてなんで起きようとしたのか、分かる。

 

ヒタリ、ヒタリと近寄ってくる足音が聞こえてくる。

足音は2つ、何方も水の跳ねる様な音が鳴っていた。

 

「アルトリウス」

「うむ」

 

リンクスの言葉で立ち上がり、シフを守る様にして立ちはだかる。

 

 

ひた、ひたーーー。

 

足音が近くなり、暗闇から顔を覗かせた。

 

それは黒く染まった大狼、黒い大剣を持ったアルトリウスの様な騎士。

 

 

その姿を知っている2人の顔が驚愕に歪む。

カルデアの2人が、シフを振り返った。

 

 

「諦めろ半身」

 

半身?

その言葉に疑問が浮かぶ。

 

「断るぞ半身。俺の望みはコレじゃない」

墓に寄り掛かったシフが強く言い放つ。

弱々しかったのが嘘の様に強く、怒りに満ちた声だ。

 

「又串刺しにするぞ?」

「断ると言った!俺の望みはこんな物では無い!」

 

周りの者達を置き去りにして話は進む。

人と獣の二面性を持った者達がお互いの顔を怒りに染めた。

それでも獣のシフがシフに手を出さないのは、同一の存在だからであろう。

 

 

「俺の願いは友の眠る所を護る事だ!深淵などーーー」

「今更そんな言葉を吐くのか貴様は!?私を止めなかった貴様にそんな言葉を言う資格などあるものか!」

「ーーーっ!?」

 

獣のシフの言葉でシフの顔が酷く歪んだ。

まるで聞きたく無い事を聞かされている様に。

 

 

「そら見た事か。貴様は深淵が飛び出て来るまで私と同じだったでは無いか、目先の者に目が眩んで走るのは人間らしいな!?」

「お、俺はーーー」

「分ったなら私の元に来い。それで穴が塞がり、深淵の魔物は完全にこの時代に定着出来る」

 

 

嘗てグウィン大王はシフのソウルを見て獣と人のソウルを混ぜた様な物と例えたがある意味間違いであり正解。

あの時は確かに混ざりあっていたのだ、互いの思想と思考が同じで思う事も1つであった。

何処から違えたのだろうか、人の思考が一瞬だけ深淵を覗いた時からだった。

 

リンクスという未来の者を見て過去への干渉を思考に入れてしまった、そこから2つに別れた。

一匹は寂しさから過去への思いを加速させて、1人はそれに同意してただ過去を求めてしまった。

 

少しだけ考えれば分かる事に気付かず、1人が気づいた時には全ては遅かった。

 

過去へと、それもアルトリウスに会うために1つだけどうしても忘れてはならない事、深淵の魔物。

あの時代に干渉するなら深淵の魔物が出て来る事を失念していて、一匹はそんな事はどうでも良いと願ってしまった。

 

1人と一匹でシフとして完成した願いは1人が離れた事で不完全になり、過去への干渉は不確かで不完全なままだった。

ほんの切っ掛けがあれば過去への穴は閉じてしまう様な不安定、完成させるには又シフに戻らないといけない。シフになって始めてその願いが正しく行われる。

 

 

一匹の隣に佇む友の姿は正にアルトリウスだ。

いや、嘗てリンクスが闘技場で打倒したアルトリウス本人、深淵に呑まれて正気も何も無いただの化け物。

そんな化け物に一匹は縋り付いた、1人は拒絶を示した。

 

それが答え。

 

 

結局は1人も望んでしまった結果がこの特異点を生み出すと言う無様、光を歩んで散って行った友の墓すらも黒く染めそうな醜態。

それだけは出来ないと抵抗を繰り返して、墓だけは呑まれる事の無い様に勤めたが結果は今の無様。

 

 

だけど、奇跡は起きた。

 

 

「もう良い、もう良いんだ。後の事は私に任せて少し休め、あのシフも私が如何にかしよう」

 

 

このロードランだからこそ起き得た奇跡。

時間も世界も入り乱れる世界だからこその奇跡、この世界では無いIF世界の薪の王を呼び寄せ、深淵に呑まれた後のもしもの可能性を持ったアルトリウスの現界。

 

魂の物質化を容易に行えたからこその偶然の産物。

 

 

「ーーー友は、私の味方では無いのか?何故なんだ、何故!?」

 

 

一匹は吠えた、動揺を隠せずに狼狽える。

何故、友が私に剣を向けるのか分からない。本気でそう思っている、いや正常な思考など既に出来てなぞいなかった。

 

深淵に近寄り過ぎた一匹が、深淵の影響を受けない筈も無いのだから。

 

 

「シフが、私の敵になったからだーーー」

 

 

様々な感情の含んだ一言は一匹の言葉を失わせた。

友が、友なら己の事を分かってくれると思っていた。そう信じていた。

何処までも連れ添ってくれる親/友だと思っていたから尚更だ。

いつ私が敵になったのだ、私はただお前に会いたかっただけなのにーーー心を埋め尽くす感情は単純に、寂しさからだった。

 

今も隣に立つ友は何も言わずに私と居てくれる、こんな時間を望むのが駄目な筈が無い。

目の前の友も、私を肯定してくれる筈だと信じてやまなかった。

 

たった1つの心の安寧、それを否定されてしまった狂狼が思う事など酷く簡単に過ぎなかった。

 

「お前はアルトリウスではない、ないのだ!?」

 

そう強く現実から逃げて自分の都合の良い所へと行きつく、だって隣に立つ物言わぬ友はあの時の様に優しく撫でてくれるんだと。

私は此処にいるじゃないかと、深淵のアルトリウスが狂狼を撫でれば落ち着き、牙を剥いた。

 

 

自分が致命的な事すらも分からないままに。

 

 

 

「私が、私と打ち合おう。恐らく君達では無理だ」

 

「私はシフの相手をするよ。君達は?」

 

 

辛くは、無いのだろうか?

言葉には出さなかったけれども立花とマシュは思ってしまう。

話を聞く限りでは、どっちも大切な者の筈なのに。あの狼も、2人の事を友と言った。あの騎士は、アルトリウス本人では無いか。

そんな者に、どうしてそんな簡単に剣を向けられるのか疑問にすら思っても時間は考えるのを諦めさせる。

 

今すぐにでも、立ち上がらなければいけないのだと。

 

「マシュは狼ーーーシフの方をリンクスと一緒にお願い」

「先輩はどうするですか?」

 

「私は、この人を治療するから」

「分かりました。マシュ・キリエライト、行きます」

 

 

事情は分からなくても護りたい物がある。

盾の少女はリンクスの隣に立った。

 

静かに顔を見合わせてから3人は歩き始める。

 

狂狼、薪の王、盾の少女は左へと向かい。

深淵の騎士、狼騎士は右へと向かう。

 

 

鏡合わせの騎士が剣を構える。

同一の存在だと言うのに構えは全く違った。

 

深淵の騎士は両手で剣を握り右肩に剣を担いだ。

狼騎士も両手に剣を握るが、半身を前に出して肩の上まで剣を上げる。

 

 

 

向き合う者達は何の合図も無く、大地を蹴った。

 

 

 

 

 

 




過去へと手を伸ばすなら深淵出てきますよね!
アルトリウス出て来ても可笑しく無いよね!
双子の人間性と言う物があってだな・・・。


今頃のオーンスタイン。

T「タイヨオオォォ!」槍ばしゅー
獅子「本当の雷はこうやって出すんだっ!」槍バシュー!

雑魚狩りオーンスタイン爆誕!

いやまあ、全力のオーンスタインが初見で負けるなんてあり得ない。後語呂が良くて思いついた、本当に申し訳ない。
オーンスタイン大好きですよ?4番目位に

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。