灰の大狼は騎士と会う   作:鹿島修一

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アストルフォきゅんは好きです、アポの中でも大好きです。

えっ?新撰組の一番組組長?知らない人ですね(血涙)

はいそうです、爆死しましたけど何か?
別に財布片手にコンビニ行こうなんて考えてませんよ、本当だよ?


第15話

黒く暗い森の中を光が駆けた。

月の光を反射させて宛かも輝いている様に見えたのは小さな飛来物、真っ直ぐに脳天を目標にして突き進んでくる。

 

 

ブンと空気を裂く剣が振るわれた。

飛来物、矢が私の視界から消え失せると同時に隣に立つアルトリウスが腰を屈めた。

 

「邪魔な弓使いは私がやろう」

「任せるよ」

 

地面が爆ぜてアルトリウスが前に飛び出す、行き先は矢が飛んできた方向。微かに見える四つの眼光からして確実に2人誰かがいる事が分かる。

 

ファリスの象徴とされる帽子が見えた。

 

 

「私も余裕が無いから、ごめんね」

「大丈夫です。任せてください」

「行くよ、マシュ!」

 

 

その返事を聞いて私も地面を蹴る。

森の中に見える多数の赤い光を頼りに敵へと近づいて剣を振るう。

 

キィンと鉄が打つかり、一回二回と同じ様に鉄の音が木霊する。

 

「そん、なんでぇ!」

 

力任せに剣を叩きつけると彼は片手に持つ紋章の盾で巧みにいなしてくる。そんな身体で、そんな姿でも技量が少しでも残っている事が余計私の頭を沸騰させる。

 

あの時、不死院で目を覚まして貴方が居ないことに安心した。死体の姿も見えないから無事に進んでいたと信じていた、そう思いたかった。

 

私の生き甲斐を作った騎士、私の為に黒騎士を数人相手にして散って行った者が目の前にいる。

 

肥大した身体に千切れたサーコートが絡み、鎧が無くても誰かは分かる。

 

名前すら知らない私に救いの手を差し伸べたアストラの上級騎士、目の前に立つのは彼だったモノだ。

 

 

「ーーーーっ!?」

 

 

目の前の異形がバックステップを踏んだ事で私との距離が離れる、その瞬間を逃さずに駆け抜けた雷が木々を薙ぎ倒す。

 

咄嗟に転がって無かったら今頃は私の身体に穴が空いていた、そんな事を思う前に飛び出して来た姿に顔が歪む。

 

 

「オレノ、オレノタイヨオオオオオオォォォ!!」

 

声帯がおかしくなっているのか、濁った叫びをあげて私を殺そうとしてくるのは太陽の戦士。

頭の肥大と共にバケツの様なヘルムが悲鳴を上げたのか、ヘルムが割れて其処から血に濡れた異形の肉がはみ出していた。

手書きなんだと言っていた鎧の太陽だけが彼に寄り添う様に張り付いている。

 

「ーーーーっ!」

 

剣もタリスマンも捨て去った異形の爪が振るわれる。

咄嗟に盾を滑らせて爪をパリィ、異形の身体がグラつく姿を見ながら後退する。

本当ならその隙を突いて楽にさせたいのだが出来ない。構えすら見せずに手に剣をぶら下げる異形に、太陽の異形。

 

そして戦闘音を聞きつけて来た異形達が私を囲む。

 

1人、2人ーーーなんて物では無く10人。

 

私の判断は早く、逃げ道を作る為に盾をしまい手の中に小さな火を灯す。

 

一度だけ火を握る様に掌を閉じ、ユックリと開いていけば燃え盛る炎が森の中を照らした。

 

混沌より生まれた原初の炎、イザリスの魔女達が使う呪術の到達点の一欠片。

ドロドロとした火が地面に滴り落ちると地面が焼けていき、その火を地面に叩きつけて解放した。

 

周りに人がいれば阿鼻叫喚であっただろう、地面からは嵐の様に混沌の火が噴き上がる。

 

 

『混沌の嵐』

 

 

病み村にいる師に教えて貰ったイザリスの呪術の一つであり、魔術を修めていない事と、使用可能な奇跡が少ない事で必然的に修めている呪術へと選択が傾いた。

 

噴き上がった火に触れた異形からその嵐に巻き込まれていき、僅かでも生存本能を持ち合わせていた異形だけが一目散に火の範囲から逃げて行く。

 

それでも焼き殺せたのは僅かに5人、残りの5人は皆覚えのある武器、或いは鎧の一部がある。

 

カタリナの騎士、アストラの上級騎士、太陽の戦士、大沼の呪術師、青い鎧の剣士。

 

 

嵐が消えてしまう前に息を整えてから指輪を付け替える。

森の奥を見るとアルトリウスが奮戦しているのが分かる、貴方の力を借りよう。

手甲の下で狼の指輪が嵌められた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

薄暗い森の中で忙しなく目線を周囲にやってから位置を動き続ける。

 

「マシュ、少し下がるよ」

「了解です!」

 

周りにいる腕の長い異形の位置を確認してから少しだけ下がる、囲まれない為に度々動き続けながらの戦い。

幸いな事に異形一人の能力は其処まで高くない事でマシュにも自分にも擦り傷一つ無い。

 

「やああっ!」

 

マシュの盾に殴られた異形が吹き飛び木に身体を打ち付ける、腕が後ろを向いているにも関わらず直ぐに立ち上がり再び走ってくる所にガンドを撃ち込んで援護を繰り返す。

 

ダメージが無い訳でも無い、辺りを見渡せば何処か身体の向きがおかしい異形の姿も見える。

痛みが無いのか、それとも痛みすら凌駕する何かがあるのか。そう考える前にマシュに指示を出して移動を続ける。

 

元人間だと思いながら此方の殺傷能力の低さに冷や汗が垂れてくる、せめて此処に3騎士クラスの誰かが居てくれればと考えて頭を振る。

今此処に頼れる戦力の内2人の援護も期待出来ない、寧ろ彼等の方がキツイだろう。

 

 

「先輩っ!?」

「ーーーッ!?ごめんマシュ!」

 

 

少しだけ集中が切れたのか自分を狙っていた異形に気がつく事が出来なかった所をマシュに助けられる。

頭を切り替えながら森の中を見渡すと一部から火の手が上がる、激しい音を立てながら木々を燃やしている。

 

 

何かあったのか、その炎に異形の注意が向いた所にガンドを撃ち込むと直ぐにマシュが殴りつけ、地面に転がった異形を押し潰す。

ようやく一体、今ので僅かに出来た穴を抜けながら体制を整えて仕切り直そうとした所で新しく異形が1人加わる。

理不尽な程の人海戦術。今までは頼りになる複数のサーヴァント達がいたが今此処に居るのはマシュだけ。

マシュの事は信頼しているし、これ程頼りになる後輩もいない。だけどそんな物を嘲笑うかの様な数の異形がその首を擡げて此方を見ている。

 

兎に角、堅実にして大胆にこの状況をどうにかしないとね。

 

 

何時もと変わらぬ顔を少しだけ険しくしながら何か無いかと周りを見渡して、走り出した。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

暗い森の中に隠れる様に弓を持った異形が逃げて行く。その様に無性に悲しくなる、恐らくは人間の時の様な行動をして闇に紛れようとしているのだろう。

皮肉な事に赤く光る眼光のせいでその異形は逃げ続けても私が見逃す事は絶対に無かった。

 

無言で大きく一歩を踏み出して刺突を繰り出す。

異形は咄嗟に腰辺りに手を掛けてから大剣を受け止めようとするが、肝心な剣が腰に下げられていない事でアッサリと腕を両断して身体を半分に分ける。

 

異形になっても劣らない弓の腕、近寄られても咄嗟に剣を掴もうとした柔軟性はさぞや名のある弓師だったのだろう。

だが、安心して眠れ。もう闇が君を追い掛ける事も無い。

 

赤かった眼から光が消えて何も言わぬ屍になった事を確認して直ぐに他の異形をと思い辺りを見渡して、視線が止まる。

 

月を背にしながら堂々と歩んでくる2人の異形、立ち振る舞いからして相当な物だろう。湾曲した刃を持つ大剣、無難なクレイモアを持つ異形。

 

二体が静かに剣を構えた所で、後ろを振り向いてソレを両断する。

残念、心からそう思う。彼等が人間だったなら私は致命傷を受けていたかも知れない。

倒れた異形はキアランの様に表に出ない暗殺者だったのだろう、それでも異形の姿で気配を消し切れていなかった。中途半端故に違和感を与えて勘付かれてしまう。人間だったのなら、私は後ろに気づかなかっただろう。

 

「君達も、そろそろ眠ると良い」

 

肩に担いだ大剣にもう片手を添えて飛び出す。

私の剣に技量は言う程無い、竜相手に技量なんか関係ないのだから伸ばすべきは鱗を粉砕する力と速さ。だが私が剛の剣しか振らぬと思うのは勘違いにも程がある、私は騎士の頂点に立つ4人の1人。

技量にだって長けている。力と速さと技量が加わった彼は途轍も無く強い。

 

 

「ズェア!」

 

渾身の力を持って掬い上げられた大剣が容易く相手の剣を上に弾き、上段から振り下ろす。

刹那に進路上にクレイモアを差し込まれるが関係なく振り下ろせば、ゴキリと異形の腕が曲がる。

だが目的としていた異形はその刃から逃げる事ができ、大剣が轟音と共に大地に突き刺さる。

 

行動は早く、大地に突き刺さる大剣を支柱にして前方へと飛び上がると同時に大剣を地面から抜く。

着地、同時に反転して腕の折れた異形へと躍り出る。

 

 

 

その動きは人間では無く、獣に近い。

一度攻めると決めたら様子見も無い、とことん自分のペースへと引き込んで読み合いなんてさせる気すら無い圧倒的な攻め。

一度も止まらずに剣を振り下ろし、一秒とてその場にいる事なく大地を蹴り付け、力を弱めた瞬間に身体を粉砕する圧倒的な力。

 

 

数秒過ぎる毎に異形の何処かがへし折れ、潰され、遂には無意識の内に握っていた己の武器さえも手放した。

 

地面に転がった異形は無意識に頭上の月へと手を伸ばした、立ち上がる為なのか失った物を思っての事だったかは自分ですら分からない。ただ遠い昔にあった気がするモノに手を伸ばしたかったからなのかも知れない。

 

頭上の月に人が映り込み、暗い銀色の騎士が迫ってきて、終わりを迎える。

 

 

「眠れ、安らかに」

 

 

もう一体、湾曲した大剣を持った異形は形振り構わずにアルトリウスの攻撃を凌ぐ。時には転がり、異形とは思えない程の生き汚さを見せつける。

 

それも此処までだ、罅の入った大剣ごと異形を叩き切ろうとした時ーーー遥か後方から叫びが聞こえた。

 

 

「あるとりうすぅうぅうううううっ!!!」

 

 

 

私の真後ろに短刀を持った透明な異形と、最早そっちにしか目が行かない橙色の髪を持った少女。

何をトチ狂ったのか少女が物凄い速さで飛んで来ていてーーーゴツンと鈍い音がした。

 

何が起きたのか一瞬理解すら出来なかったが身体は勝手に動いた、後ろの異形へと直ぐに大剣を叩き込んで頭を抑えて呻く立花を右手で持って抱え上げる。

 

 

「すまない、どうやら助けられてしまった様だ」

「う、うん・・・」

 

相当な衝撃だったのだろう頭を抑えて顔を上げそうに無い、目の前の異形を睨みつけながらどうしたものかと悩む。

流石に人を抱えて戦う訳にもいかないだろう。

 

「せんぱーいっ!?」

 

それにマシュ嬢も合流してしまった様だ。

別に合流するのは一向に構わないと私は思うのだが、タイミングが非常に不味かったと言えよう。

 

一箇所に固まった私達に群がる様にどんどんと増える異形を相手に流石の私も冷や汗が頬を伝う、立花を抱えている状態で激しく動く訳にもいかない。

かと言って盾を持たない私が防戦一方になるのは無理がある。

 

リンクス殿は魔女の火を使った辺りから姿も見えていない。ジリジリと立ち位置を変えていると背中にマシュ嬢の背中が打つかる。

 

「非常にマズイです!」

「マズイなーーー」

 

立花を地面に放置なんて以ての外、打開する事が出来ないだろう現状にーーー彼は現れた。

 

 

 

「ーーーーい!」

 

遠くから聞こえる怒鳴り声、遠いからか余り詳しくは聞こえて来ないが誰かが近付いて来ている。

 

「貴様等デーモンだろう!もう少しやる気を見せろ!!」

 

その怒鳴り声は更に近づき、その声に首を傾げる。

デーモンだと思われる金切り声が少しだけ可哀想になってくる。

 

 

「あ、あの、この声空から聞こえる気が・・・」

「ああ、きっと頼もしい味方だとも」

「もしかして知り合いの方でしょうか?」

 

その問いに、得意げに口を開く。

 

「もう良い、貴様等強く羽を動かせ。踏み台になれ!」

 

なんとも酷い事を言うが、ああ懐かしき友の声と変わらないその物言いに安心する。

 

 

「ああ、私の知る限りもっともーーーー」

 

 

ズドンと後方から重い衝撃と鎧の音が聞こえてくる。

 

「言いたい事があるが後回しだ、お前は前を見てれば良い!」

 

「頼りになる男だよ」

 

 

土煙では隠せない黄金の煌めき、シルエットだけでも遥かに大きいその背中に一体何度背中を預けた事があるか。

 

「だ、ダレイオスさんより大きいのではないでしょうか?」

 

その大きさに驚いている様子が分かる、私も本来ならあの大きさだと言ったらどうなるのか。

 

「う〜、頭が・・・。どうなってるの?」

 

ようやく復帰した立花もオーンスタインの姿に目を開いて驚く、そう言えばキアランは何処へ。

 

その答えは上から返って来た。

 

「馬鹿なのか貴様は!?」

 

デーモンに運ばれて来たキアランが地面に降りると早々にオーンスタインを罵倒してから刃を抜く。

 

 

これで負けは無いなと安心した所で人1人抱えた人影が森の中から飛び出して来た。

 

「我等が王よ、此処は我等に任せて進んでください」

「君達はーーー?」

 

リンクス殿を腕に抱えて飛び出して来たのは特徴的な尖り兜を着け、右手に大剣、左手に変わった短剣を携えた人だった。神族よりは小さく、人間よりは大きいその人は少なからず此処にいる者達の記憶には無い。

 

未来からの来訪者。この森に根付き、深淵の化け物との関わり深く、狼の血を受け継いで来た化け物殺しのエキスパート。

 

深淵を監視する者達。

 

 

「な、何これ。どういう状況!?」

 

それはそうだ、ほんの少しだけ目を離していた隙に知らない人物?が2人増えているのだから。

 

 

「アーサー、此処は俺に任せて先に行け。待ってる奴がいるぞ」

「だがーーー」

「お前は行くんだ。それに偶には俺にやらせろ、お前に任務を押し付けていた事だし身体が鈍ってるんだ」

 

それは一体、お前からしたら何百年前の話なんだとは言えなかった。私とて話をしたいとさえ思うのだが、そんな事よりもやるべき事が残っている。

 

「任せても大丈夫なのか?」

「誰に言ってる、四騎士の筆頭が誰かを忘れたのかお前は?」

 

だが、そうだな。確かに安心してこの場を任せてシフに会いに行けるか。こんな異形だらけの中で無事なら良いのだが。

そう考えるとより早く行った方が良いのかも知れない。

 

「鈍ってると行ったの君だろうに。だが任せるよ、オーンスタイン」

「任された。それと忘れろ」

 

 

オーンスタインに背中を向けると目的の橋の間にほんの数人の異形が見える。

剣を構えた所で私よりも先に進み出た人物がいた、尖り兜の彼は私の前に立つ。

 

「祖よ、我等にお任せを」

 

まるで開戦の合図の様に腕を伸ばし、伸ばした腕の上に片手が添えられる。

そのまま数秒、腕がダラリと垂れ下がるとまるで滑る様に走り出した。

 

「ふっーーー」

 

私よりも余程洗練された完全な獣の動き、まるで狩りの様だと感じさせる動き。

 

ギャリリと短剣が地面を削り、大剣が脚を切断する。

抵抗など出来ない真下への鋭い一撃で確実に足を奪い、流れる様に飛び上がりもう一体へと飛びかかり叩き潰す。

 

止まらない、縦横無尽に駆け回るその姿はまさに狼。

足を失い暴れる異形へと短剣を差し込み、異形へと投げるとそれに合わせて襲い掛かる。

 

ほんの数分で数枚の異形を戦闘不能に追い込み、道を開いた彼は私達に一礼すると直ぐにオーンスタイン達の所へと駆けて行った。

 

 

何処か他人の様な気がしない彼に心の中で感謝を述べる。

なんでそう思ったのかは分からないが、確かに他人とは違う予感がしていた。

 

「行こうか」

 

私の言葉にマシュ嬢が不安そうに戦う彼等を見る。

 

「心配する事は無い。彼等は絶対に負けない」

「ですがーーー」

「私は彼等を信頼している。友がこんな所で倒れる訳が無いと、私は知っている」

 

それは無類な信頼から来る言葉だった。

言葉の端からはその信頼感が伝わり、不思議とその言葉を受け入れられた。

 

「すいませんでした」

 

そう、素直に謝る彼女に苦笑が漏れる。そんな風に素直な娘ばかりだったり良かったのに、誰かを信頼する事の出来る人間達だったなら墓を暴く事もーーーいやそうじゃ無いな。

そんな事を考えたかった訳では無いのだ、無性に目の前に立つ娘達が愛おしく感じてしまっただけなんだ。

 

 

「おい、お前はとっとと進め!何時までそんな所で突っ立ってるつもりだ!?」

 

 

これ以上怒鳴られてしまう前に進もう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に世話の焼ける奴め」

 

走っていく背中を見送って、何処か気が抜けてしまった。

こんな状況でも無ければ文句でも言ってやりたいが、どうも顔を見合わせたらそんな気持ちも無くなってしまった。

 

久しく見なかった顔だ、不思議な事に人間の様な身体だったが間違い無く嘗ての友。後はゆるりと腐って行くのを待つだけかと思っていたが、こんなに心が踊るのは何時ぶりだろうか。

 

大王がいなくなり、王女さえも消えた。

偽りの虚像を護るだけの退屈な時間で俺はすっかり腐り落ちたぞ、誰が好き好んでスモウの奴と仕事せねばならんのか。いや、構わないが彼奴は余り好かん。

 

 

「こんなものか?」

 

 

適当に槍を薙いで呟く、アルトリウスの奴が存外苦戦している様だったから如何なものかと期待していたが大して面白くも無い。

人間だとしてもこんな雑魚に苦戦するとは、鈍っているんじゃないのか彼奴?

 

群がる奴を槍で薙ぎ払うだけ、圧倒的に地力が違い過ぎている。盾で凌ごうとした異形は盾ごと吹き飛ばされていき、目の前に立つ者から次々と薙ぎ倒されていく。

速さで翻弄する必要も雷を使う事も無い、まあ雑魚ならこんなものかと自分を笑う様に顔が緩む。

 

 

本当なら、俺が彼奴の隣に立つ事はもう二度と無いと思っていた。実力でも心でも。

お前達の知らない時間で、すっかり俺は腑抜けていたんだぞ?

誰も付いてこれない強さ、対等と呼べる者がいない数百年、守る物も見失いそうな日々。

それだけの時間と葛藤が俺を弱くした、気付いてないんだろうな。鈍っているなんて言葉が俺の本心だって事が、自分でもなんでそんな事を言ったのかは分からないんだ。

 

そんな俺を、あんなに真っ直ぐと見つめて来る事に涙が出そうになるんだ。

彼奴の心も、思いも全てあの黄金に輝く時間から何も変わってはいない。何も色褪せてすらいない姿に、どれだけの俺が嬉しかったなんて分かるつもりも無いんだろう。

そういう奴だ彼奴は、後ろを見ない振り向く事をしない。

前だけを見て進み続ける彼奴に過去を思う俺の事は理解出来ないのだ。

 

 

「まあ、だがーーー」

 

その変わる事の無い姿だからこそ、俺はお前の事を信頼出来たんだろう。

今だけは、俺の心も黄金の時間に引き戻されそうになっている。だから告げよう。

 

 

バチリと雷が駆け抜けた。

 

 

「竜すら狩り殺す我が槍に貫かれたい奴は前に出ろ、貴様らの安らかなる死を持って、改めて俺の忠誠を我が大王に捧げよう!我は太陽の王に仕えし四騎士が1人、オーンスタイン!」

 

ああ、滾る。血が滾ってきた、冷たい冷血が雷によって熱く煮え返って沸騰する。

 

こんな気分は久しぶりだ、自ら槍を振り回すのは久しぶりだ。

 

そうだ、俺はこんな時間をずっと待っていたんだ!

 

 

 

 

 

暗い森の中を雷が轟き。その黄金はーーー嵐の様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




実は感想欄に不死隊の名前が出てきて冷や汗が流れてたりした。

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