ゲーセン通ってたらBBに私の財布がブレイクされました、でも安心してくれ!
既に並んでいる手元に四つの林檎カード
「ねえマシュ。やる事ないね」
「はい。私達の出番はなさそうです」
目の前で鎧を着込んでレイピアを持った亡者がアルトリウスの大剣によって両断されるのを眺めて、右を向くと仮面を着けたキアランさんが銀色の短剣を亡者に突き刺している。そしてリンクスはロングソードを亡者の腹に捻じ込んでいる姿が見える。
何やら手振りでサインを出しているリンクスと頷くキアランさんが教会の中に入るとキアランさんは直ぐに姿を消していた。
「なんか、疎外感が・・・」
「そうですね」
アルトリウスは動かなくても良いのかと視線を向けると腕の長さを測る様に何も持たない左腕を伸ばしていた。これは駄目かなと教会の中を覗いていると、鉄が打つかる音が聞こえる。
何事かと教会の中を見ればリンクスが大盾を持った騎士と相対している、しかし何やら動きがおかしい。
「誘導、かな?」
「君は中々の眼をしているな、未来でもやはり物騒なのか?」
「いや、私達が特殊なだけだと思うよ」
「そうなのか」
ジリジリと後退する様に動くリンクスが止まって、大盾の騎士の上からキアランさんが降ってくる。
そのまま騎士の頭に金色の剣を突き刺して離れると、リンクスがトドメとばかりに騎士の身体に剣を捻じ込むのが見えた。
少しだけ、容赦の無さが怖いよ。
さも慣れているかの様に死骸を蹴って退かす姿に顔が引き攣りながらアルトリウスの先導で私達も教会の中に入る。
「リンクス。これから何処に行くの?」
「そうだね。一先ず昇降機を動かしてくるから待っててね」
教会の左奥に確かに昇降機の様な物が見えて、どうやって動かすんだろうと少しだけ興味があったのだけど。
昇降機の窪みを踏み付けた瞬間にゴロリと転がって扉が閉まる前に昇降機から離脱してきた。
「あんな動かし方なんですね!」
「アレは絶対に違うよ、マシュ」
「そ、そうなのですか?」
まさかそんな動かし方をするとは思ってもいなかったから驚く、昇降機ってそんな物だっただろうか?いや絶対に違うよ!
「それじゃあ着いてきてね」
今度は逆の出口へと歩くリンクスがまた腕を動かすとキアランさんと一緒に飛び出して行った。
「凄いですね、手の動きで分かるんですか?」
「いや、私にも分からないぞ?」
「アルトリウス分かってなかったの!?」
どうやらあの手の動きが分かるのはリンクスとキアランさんだけの様だった。
てっきりアルトリウスも分かるのだとばかり思っていたら意外な事にそんな事も無かった。
「せめて目を合わせてくれないと分からないな」
「あっ、目が合うだけで分かるんだ・・・」
「いや、分からないぞ。流石に仮面と兜越しから目なんて見えないさ」
「・・・どっちなのさ」
なんなんだろうアルトリウスって、私がそんな事を思っていると外に飛び出した二人が顔を出した。
外には亡者が三体転がっていた、
「ねえ、なんでハンドサインなんてしてるの?」
「はんどさいん?魔術師の暗号か何か?」
「えっ、さっき手を動かしてたよね?」
「いや、ただ手振りで表してるだけだよ。分かるよね?」
まさかの返しだった。まさか私達が分かる事前提でやっていたなんて思わなかったよ。
「き、キアランさんは分かったの?」
「分からんのか?」
「うむ、分からないな」
「アルトリウス、お前もか・・・」
どうやら手振りで合図みたいなのをしている様なのだけど分かっているのは二人だけだったみたいだ。
キアランさんはアルトリウスの事を見ながら呆れた様な感じだった、此処に来てアルトリウスのキャラが大分私にも分かって来たよ。
腕はあるけど何処か天然入ってるんだね。
「この先は森か?」
「アルトリウスからしたら、少し入りにくい所だよ」
「私か?いや、こんな森は記憶に無いのだが」
「貴方が死んだ後の事だよ」
「・・・そうなのか」
私には分からないけど、キアランさんは何処か感傷に浸っている様な感覚がある。何かを思い出す様に辺りを見渡して、小さく変わったと呟く。
もしかしたら生前来た事があるのかも知れない場所なのかな。
「アルトリウス、この先にはシフがいる。シフがな、いるんだ」
「そうか、其処にいるのかシフ?」
小さく呟かれた言葉は私の耳には入ってこなかった。
アルトリウスとキアランさんが歩き始めて、私達も着いて行こうと歩き始めるのだが。リンクスだけが足を止めていた。
「どうかしたの?」
「うん、少しだけ怖くなった」
それは一体どんな怖さなのか。
顔は見えないけど雰囲気が寂しそうと言うか、とても複雑だ。
私は何も言えずに歩き出すリンクスの後ろを着いて行く事しか出来なかった。
なんでそんな寂しそうなのかと聞きたい気持ちは確かにあった、でもそれは他人に踏み込み過ぎてるのでは無いかと止まった。
「リンクスさん、寂しそうでしたね」
「うん。そう、だね」
でもきっと何時か、話してくれる事があるかも知れない。少なくとも私が聞き出すのは違うのだから、聞いてはいけないんだなと感じた。
ーーーーーーーーー
私は怖い。
あの森の中に大狼がいなかったらと思うと、アルトリウスとキアランに合わせる顔が無い。
いや、私は既に一度この手でシフを……。
そう考えると今直ぐにでもこの胸の内を曝け出したいと思うも、そんな事を言える筈も無かった。
「止まれ!」
階段を下って行く内にアルトリウスの声で足が止まる。
何かあったのかと思い剣を握る手に力が篭り、そう言えば何時も聞こえる打鉄の音が聞こえてこない事に気がつくとアルトリウスを押しのいて階段を降りる。
「アンドレイさん・・・」
何時も其処に居たはずの気持ちの良い鍛治師の爺さんの姿が其処には無かった。
爺さんの待っていた槌が落ちていて、剣や盾が散乱している。
そして何よりも目を引くのがーーーー
「何ですか、この泥?」
少しだけ水っぽい何かを引き摺った後の様に森へと続く深淵の泥。
「アルトリウス」
「ああ、私なら心配はない。今は人間だ、深淵の泥に侵される事は無い」
契約の指輪が無くとも、アルトリウスは動くだろう。神族でありながら深淵の泥に抗う事の出来た精神力を持つなら大丈夫だろう。
だが心配なのはアルトリウスでは無くて、神族であるキアランだ。
「リンクス、アノール・ロンドは健在なのか?」
「竜狩りが守護していると思うよ」
「キアラン。お前はアノール・ロンドに行くのだ、この事をオーンスタインに伝えてくれ。行き方は?」
「センの古城。1つ上の所から伸びる橋の先にある古城、その頂上の広場にある光に触れればガーゴイルが運んでくれるよ」
さっき確認した古城の門は開いていた、なら誰かが先にアノール・ロンドまで行っているのかも知れない。
「聞いたな、直ぐに行動に移せ。王の刃の務めを果たす時だ」
「汝等に太陽の加護を」
キアランの行動は早く、私達に言葉を残すと直ぐにその姿が消えて行く。
王の刃、その凄まじさを今此処で理解した。
竜を落とす巨人、竜狩りの黄金騎士、闇狩りの狼騎士、そして隠密に長けた王の刃達。
四騎士の中でも異端、対人に特化された暗殺集団の筆頭、もしも彼女と相対する事になれば私は気づく事も無く首を落とされるのだろうと思うと恐ろしささえ感じてくる。
王の刃達は異形を狩るのでは無く、人型の敵に特化された騎士達。
正に四騎士と呼ぶに相応しい力を4人が持ち合わせている。
改めて心強さを理解できた。
「あの、この泥はなんなんですか?」
ああ、そう言えば分からない事だらけだなと思ってアルトリウスの方を見ると彼も頷いてくれた。
「私達も余り詳しくは分からない。昔から深淵と呼ばれているんだよ」
「深淵?」
この反応を見るに、未来ではこの深淵が無いのが分かる。
それだけでもホッとする、こんな物は本来あるべきでは無いのだから。本質が人間と同じだとしてもだ。
「詳しくは話せないから大まかな事だけ言うね。嘗て魔術で栄えた街を1日で壊滅までさせた魔物が棲む領域を深淵と呼ぶとしよう。深淵は其処にあるだけで人に害を及ぼすんだ」
「どの様な害でしょうか?」
害、と言ったけど果たして害なのかすら分からない。神族からしてみれば確かに害になる、でも人間からしてみたら如何なのか?
本質たる闇を怖がる事なく受け入れて、本能のままに行動する事ができる。中途半端に闇と光に触れてしまった人間には理解出来ない人間の本質。
だけどあの姿が幸せかと言われたら、それは違うのだろう。
「ソウルの変質が起きる」
「ソウル、魂の事なのでしょうか?」
「簡単に言うと深淵が身体を侵して回る、内側から身体を作り変えられるんだよ」
絶句とはこの事か、兜も付けない2人の顔には嫌悪感が強く滲んでいる。まあ、話を聞くだけでもそうなるのは分かっていた。
私も身体の中にたんまりと深淵に侵された事があるから分かる、身体を巡る気持ちの悪い感覚と笑いそうになる顔が身体と心が引き剥がされて行くのを感じる。
幸いなのは不死人だった事か、躊躇わずに自死を選択出来たのだから。
「私達は行くけど、君達はどうする。此処まで連れてきてあれだけど、来ない方が良いと思う」
誰も好き好んで顔見知りを殺したいとは思わない、それに貴重な善性を持った人間。私の心を軽くしてくれた人達なのだから。
それでもーーー
「私達も行くよ」
「どうしても?」
「絶対に」
何処かそう答えるのは分かっていたのかも知れない。
この人ならきっと、退かないとは分かっていたのだけれどね。やはり進んで危険な所に行かせたくは無いーーーーそう思える自分はまだ、人間なのだと理解できるし。
この心も忘れたくは無いのだから。
「君達は、私が必ず護ってみせると誓おう。人間は私達が守護してみせるとも」
「大丈夫だよ。自分の身は自分で守るから!」
「ーーーそうか」
いま兜を外せばアルトリウスの顔は笑顔であろう事が直ぐに分かった。とても、喜ばしい声色をしている。
ああ、忘れていたとソウルから1つの指輪を取り出して立花に渡す。
「気休めだけど、少しは役に立ってくれる筈だよ。絶対に外さないで」
「ありがとう」
少しだけ錆びてしまったいるし、契約も切れている指輪ではあるが。深淵への耐性はまだ健在、無いよりはマシな程度だけどね。
「死んでも大丈夫な私が先頭を歩くから、警戒しながらついてきて」
私の言葉に苦虫でも潰した様な顔をする2人に苦笑しながら歩みを進める。不死である私の死をそんな様に見てきたのは彼女達が初めてだろう、不死となってから。
記憶が穴だらけではあるのだけど、誰も私の死を思いはしなかった。
だって一度死んだ程度では何も起きないと分かっているし、私も他の不死が亡者となれば容易くその身体に剣を突き立てられるのだ。
だけど、うん。他人に私の死をこうまで思われると目の前で死ぬのは申し訳無くなってくる。
塔から森へと足を踏み出した途端に一度足が止まる。無意識の内に恐れが首を擡げて自分の身体を縛りつけようとしてくる。
ハアーーー、溜息を1つ吐いたらその歩みを進める。
怖くてこれ以上歩きたくは無い、勝てる見込みが無い、戦いたく無い。そんな事を何度も思ってきた過去が自分の足を止める事を阻止してくれる。
何時もならば不思議な草から光が漏れて足場を照らし、樹人が擬態しながらその道を阻むのだが道端には2つの足の着いた草木が倒れて動かない。
そして明かりは上から差し込む月の光だけが辺りを照らして行く、時間も空間もおかしくなったロードランでしかあり得ない光景が其処には広がる。
ロードランを知らない人が見たならば幻想的で美しい光景だと言うのだろう、満月に輝くその星は頭上の直ぐ其処だ。余りの近さに手を伸ばせば届くのかと思えてしまう。
そんな光景の中に潜む闇はとても恐ろしい、上を見れば何時もの森がある。だけど足元を見て見れば黒くへばり付く水が足に当たる、そして遠くからでも視認が出来てしまう暗闇に光る赤い眼光。
「ーーーッ」
背後からは唾を飲み込む様な音が聞こえる、開き切った門の向こう。
猫の魔術師が護る森は異形が闊歩する幻想も何も無い闇の世界に変わっていた。
「な、何なんですかアレは!?」
取り乱したかの様に、喉から絞り出された疑問。
マシュが思うのも当たり前だった、私だってアレを一目見て人間なのだと気付きはしなかった。
「アレが深淵に侵された者の末路だ」
「では、もしかしてアレはーーー」
「元々は人間、此処だと不死人だね」
でも、私の知ってる異形とは少しだけ違った。
その異形達の手には剣や槍が握られている。顔も肥大しているし腕も伸び切っている。
「ロートレク、レア、ソラール」
他にもいる。あの手から火を出しているのは大沼の呪術師、杖を持った魔術師、弓を持った狩人、タリスマンを握る聖女。
何れも見覚えのあり過ぎる得物を無造作にぶら下げる異形の姿を見ると、酷く心を騒つかせる。
森の中に見える赤い眼光を爛々と輝かせる異形の数は両手の指では数え切れない程だ。
嘗ての友の姿を前にして、何を思えば良いのか分からない。アレならば亡者の方が幾分もマシでは無いか。
ギチリと握られた拳から音が鳴り、一歩を踏み出すと悠々とアルトリウスも続いてくる。
それに気が付いた異形の目が一斉に集まっても、歩みを止めない。
「全員、私が眠らせてやる。纏めて来るが良い」
その言葉が戦いの合図だった。
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センの古城を僅か数分で登り終えた彼女は上から飛んで来るデーモンを見て、不細工だと素直に感じた。
焼けた皮膚でも、獣の様な皮膚でも無い。白い皮膚と赤い血管が浮き彫りになった気持ちの悪い生き物を見て咄嗟に剣を構えた彼女は悪く無い。
栄華を誇った黄金都市、神々の住まう都アノール・ロンド。
今や昔の様な賑わいも見せず、人の姿すら無い淋しき黄金都市の中を感傷に浸りながら歩を進める。
一度も忘れた事の無い道程を、城への道を歩く。
巨人達は動かず彼女を迎え、誰かの手で螺旋階段が動き出して行く。
やがて彼女が広場を抜けて城への階段に辿り着く。
ガチャーーーー。
一糸乱れずに銀騎士達が膝をついて頭を垂れる。
誰も忘れた事は無いその姿、王の刃の中でも特別な一。
優しき白磁の仮面に象牙を伴ったその姿は誰もが憧れを、羨望を抱いた四騎士の1人の帰還。
ゴゴンーーー!
音を立てて正面の門が開き中から2人の巨人兵が両脇で膝をつく。
「オーンスタイン様がお待ちです」
「わかった」
「久しいな、キアラン」
「本当にな、オーンスタイン」
黄金の竜狩りと王の刃は此処に、再会を果たした。
本編だと最終的に皆んな死んでるルートあるから問題ない