灰の大狼は騎士と会う   作:鹿島修一

13 / 24
サクッとヘルカイトは攻略しちゃおうねー

そろそろシフの出番を作らないといけないな(使命感)


第13話

竜が何故強いのか?

鋭い爪があるからか、強い顎か。

人を瞬時に焼き殺すブレスか。

 

違う、竜が何故恐れられたのかはそうではない。

 

古い時代で竜と戦った彼等はその答えを知っている。それは堅さにある。

 

思い出してみれば竜達に傷をつけれたのは神族だからという理由が多い。対竜の為に作り出した弓、マトモに引けるのは力の強い神族か巨人位なものだろう。

竜の鱗を貫く雷も又1つの要因でもある。

 

ならそれが無い彼等は?

 

 

「ーーーっ!?敵ドラゴン、ダメージがありません!」

 

竜の顔を横合いに殴りつけたものの、ダメージらしい物は無い。

古代の竜と違い鱗も柔らかい飛竜とて、鱗はある。

絶対の防御を誇る物でも無いが、その鱗は人間にしてみれば途轍も無く硬い鎧にさえ見えた。

 

「ーーーお、おおおっ!?」

 

そんな中でアルトリウスが身体を大きく跳躍させると、やはり人間の身体には慣れていないのか空中でバランスを崩して飛竜の目の前に着地する。

これが神族の身体であるならば、既に決着はついていた事だろう。

古の竜では無く、飛竜ならばアルトリウスが渾身の一撃を持って剣を振るえば鱗なんて容易く切り裂く。

 

「何をしている馬鹿者め!」

 

隙を晒したアルトリウスの腕を取り、無理矢理にでも飛竜の前から退かしたのはキアラン。彼女は今だに神族ではあるが、元から余り力は強い訳では無い。

それでも人間の身体を引っ張るならば十分だった。

 

「すまない」

 

 

状況を言うと劣勢。

立花はサークルが設置できる所がない為に契約を結んだサーヴァント達を呼び出せず。

マシュは元より攻めるには向いていない。

 

この中でも戦力となり得る筈のアルトリウスは身体の調子を掴めずにさっきから動きにくそうにしている。

リンクスは不死人であるがその身体は人間、飛ぶ竜を捉えれずにいた。

 

 

飛竜の喉元が一瞬脹らみ、それを見たマシュが急いで立花を抱え上げると一目散に後退していく。

ワイバーンの出す火球程度なら盾でも防げるのだが、事前にリンクスから絶対に盾でブレスを防ごうとは思わない方が良いと忠告あったが故だった。

 

そんな2人とは違う3人はその姿を見ると真っ直ぐに飛竜へと近寄って行く。

 

3人を驚愕した顔で見ながら走るマシュのすぐ後ろを炎が踊った。

 

耳を劈く程の轟音、たった一匹の飛竜から出たとは思えない炎の壁がマシュのすぐ後ろを埋め尽くし、目を開く。

 

粘性と言えば良いのか、石橋に纏わり付いて消える様子の無い炎にゾッとする。こんな炎が一度でも身体に取り着いてしまえば後は灰になるまで燃えるのみ。

 

何よりも炎の向こう側で踊り続ける3つの人影を見ると、その心強さに少しだけ安堵した。

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

一体どうすれば赤い飛竜を倒せる、或いはその奥まで進めるのか。

このままではジリ貧もいい所、何か手を打たないと何れ殺される。その考えは全員が共通なのかアルトリウスも心なしか剣の振りが早い。

 

ここら辺で何かをしないと、そう思っても手が打たないとなるとやる事も分からなかった。

 

「何か手はないんですか!?」

 

そう、マシュの声が辺りに響いて行くが。そんな物があればとっくに使っているだろう。

 

「鱗を抜ければ私に任せて欲しいが、鱗を抜けん!」

 

アルトリウスが堂々とそんな宣言をするが、私の持つ雷のロングソードも余り役に立っていないのが現状。

 

ーーーーだけど手が無いわけでは無かった。

アルトリウスと視線が交差する。

 

「博打になるけど!?」

「問題ない!」

 

頼もしい言葉だった、その返事で心が決まる。

 

「三十秒持ちこたえて!」

「任された!」

 

その言葉でマシュと代わる様に戦線を離脱して立花の所まで後退する。

持ち替えていた弓をソウルに戻してタリスマンを握る。

 

1つだけ確実に飛竜の鱗を抜く方法は奇跡の使用。

だけど私が雷の槍を打てなかったのをちゃんと覚えている、無いなら他所から持ってくる。基本的な考えだろう。

 

指輪を入れ換える、緑花の紋が刻まれた指輪が白いソウルへと戻されると。その代わりに金色の指輪が1つ嵌る。

 

都を追い出されたもう1つの太陽、長子を信仰する者達の付ける太陽の信徒達のもう1つの形。

今も何処かで私達を見ているであろう彼の太陽が私に力を与える事を祈って左手を空に掲げる。

 

何処かから吹いた風が身体を撫でて、耳の奥で小さく鐘の音が聞こえた気がした。

 

 

 

ーーー行ける。

 

何処か感覚的に確信すると、ユックリとその言霊を紡がせていく。

今の私が物語を高速で紡ぐ事はしない、それで発動する確信が持てなかったのもある。

 

バチリ、小さく弾けた雷の音が聞こえて左腕を雷が覆う。

 

物語が進んで行くのと同期して雷が形を形成していき、私の額に汗が浮かび上がる頃には1つの形へと昇華されていく。

それは槍、投擲に特化され全てを貫く事を理想とした雷の槍。

 

「・・・凄い」

 

隣で呟かれた言葉に、こんなものでは無いのだと自慢してあげたくなってしまうが今の私ではこれが限界だ。

 

大きく足を前に踏み出して力を込める。

 

「我等が頭上に輝ける太陽の、加護があらん事をおぉおおおおおおおおっ!!!」

 

光が弾けた。

雷が手から離れると同時に鳴り響く轟雷の音が駆け抜け、飛竜の胸元を抉る様に着弾する。

 

ーオオオオオオオオオオオォォォ!!?!!

 

初めてのダメージに飛竜が仰け反る。雷の槍の真骨頂は相手の体内にさえその雷を届かせる事。

 

これで私の役目は果たせた。

こんなに真剣に奇跡を使用したのは初めての事かも知れない、昔なら奇跡は使えて当たり前だと思っていたものだけど、いざ使用出来なくなるとこんなにも必死になる物かと驚いている。

 

まあ、後の事はアルトリウスがどうにでもしてくれるだろう。

出来ない事は言わないだろう。

 

 

「おお、お、おぉおおおおおおおおっ!!!」

 

 

なんと言う力か。

雷の槍が当たった所へと寸分違わず大剣を捻じ込むと、気合の雄叫びと共に鱗に阻まれながらも横へと大剣を振り切る。

人間になってもその剛力は健在、容易くとまでは行かないもののあんな事が出来るのは彼位な物だ。

 

そのまま両手持ちの大剣で飛竜の顔を横殴りにしてアルトリウスとキアランが走り出して、私も今の内に走り出す。

今の攻撃の前に私とアルトリウスが判断したのは飛竜を無視しての前進、それには飛竜を怯ませる少しのダメージが必要になる。

今のはそれで、怯んだ隙に私達は走り出す。

 

ーーー但し立花を置いてだった。

 

マシュはアルトリウスとキアランを見て直ぐに走り出していたが、立花は私達に着いてこれない。

 

何が悪かったかと言うと、私が悪かったのだろう。

私の頭の中では立花も一緒に離脱できると踏んでいたのだが、私の頭の中での話しだ。

それに反応できても、身体のスペックが足りなかったのだ。

 

「ーーー先輩っ!」

 

マシュが足を止める前に私は反転して既に立花を担いでいる。

 

ーGUOOOOOO!!

 

いやしかし、重い。人間一人抱えると途端に動きが悪くなってしまう。

ハベルの指輪を着けていてもマトモに走れた物では無い、それに後ろから飛竜の牙が迫っている。

 

「ーーーほっ」

 

何とも軽い声で立花だけを門の奥に投げ出すとマシュが受け止めるのが見えて、手振りでアルトリウスへと自分の意思を示すと。

 

アルトリウスは直ぐにレバーを下ろして門を閉鎖、ブレスを危惧して壊れた祭壇の方へとマシュと立花を抱えて退避してくれた。

 

勿論、閉められた門の外には私の姿と飛竜がいる。

 

 

「ーーーいぎぁ!?」

 

 

バキリと左腕から鎧の砕ける音と共に激痛が襲い、地面に赤い液体を撒き散らす。

 

ガシャン!

 

バランスを崩して門に頭から打つかって身体が沈む、太陽を隠す様に飛竜の頭が直ぐそこにあった。

 

 

「まあ、上出来だったーーーー」

 

 

その次の時には上半身が無くなって下半身と右腕が地面に転がり、白い粒子となって大気に溶けていった。

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

私の目の前で、リンクスが死んでいった。

何の合図も無く行われた作戦は私が足を引っ張った事でリンクスが代わりに死んだ。

 

「私の言えた事では無いが、余り気にしない方が良い」

 

それはとても酷い言葉だ、私がただの一般人なのは分かっているし理解もしている。でも今回は完全に自分が悪かったんだ。

 

作戦を察する事が出来ず、走るのが遅れてしまった事だ。

 

 

「・・・いや、私も何回かリンクス殿の事は殺した事があるんだがな」

「ーーーーはっ?」

 

 

いやいや、何を言っているんだアルトリウスは。

殺したりなんかしたら今はいないだろう、そんな悪い冗談の様な事を言うのは辞めて欲しい。

 

「嘘ではないぞ?とても曖昧な数になるが確かニ桁以上は私の手で殺している」

 

「う、む。なんだ、罪悪感はあるのだがあの状況では感謝もしている。しかしーーー」

 

 

その後、数分に渡る必死なアルトリウスの言葉によりリンクスが不死人と呼ばれる事を思い出しました。

 

 

 

ぼっ、ボボボーーー

 

 

 

壊れた祭壇から見える門の中、捻れた剣が突き刺さる火の着かない篝火が急に燃え上がると、揺らめく火が奥に人影が出現した。

 

「リンクスさん?」

 

燃え上がった火が幻の様に消えていき、ぴくりとリンクスが動き出した。

 

不思議そうに捻れた剣を見つめると、剣に向かって自分の手を翳す。首を傾げながら何度かその動作を繰り返してから辺りを見渡すと、私と目があった。

 

「えっと・・・」

 

リンクスは困った様に兜を取ると曖昧な表情で私の事を見る。

まるで知っているのに知らないみたいな感じに。

 

 

「君とそっちの片目隠れてる女の子の名前だけ綺麗に抜けてるんだ、悪いんだけど名前を教えてくれないかな?」

「ーーーーはえっ?」

 

 

衝撃的な言葉を投げかけられて、呆然と立ち尽くしてしまう。

 

「ごめんね。過程は覚えてるけど名前がどうしても思い出せなく」

 

呆然とする私を余所に言い訳の様な物を並べて行くリンクスに知らない間に涙が溢れていく。

 

「本当にごめんね。私達不死は死ぬ度に記憶が飛んでいくから・・・」

 

それはなんて、悲しいのだろうか。

そうやって死ぬ度にリンクスは記憶を無くしていくのかと。

ハッと、最初に名前を聞いた時の事を思い出した。自分の名前が分からなくなるとサラリと告げられた時だ、あの時は流してしまったが今なら分かってしまう。

死んで死んで、繰り返して行く内に名前さえも忘れてしまうのかと思うと悲しくなってくる。

そしてその内、誰も分からなくなってしまうのかと。

 

 

なんて、救われないんだろう。

 

 

「私は、藤丸立花」

「マシュ・キリエライトです」

 

「立花とマシュ。立花とマシュ。うん、ちゃんと覚えたーーー改めてよろしくね」

 

 

改めてリンクスの手を取ると、私は決意を決めた。

 

「あっ、私の名前ってーーー」

「リンクス。貴女の名前はリンクスだよ!」

「ーーーありがとう、立花」

 

私だけは彼女の名前をずっと覚えていようって決めた。

 

 

 




倒せなさそうなら無視する。
攻略の基本です

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。