タイトル考えてくれた方はありがとうございます。
もう少し纏まったらタイトルも変えてみようかなと思います。
ぐだ子ちゃんは人を惹きつけるのが得意だね。
「ぷぎゅぅ!!」
そんな空気が抜けた様な声と共に地面に放り捨てられた私は手足を触って顔を触り。
この時ばかりは神に感謝した。
「生きてる、私行きてる!」
太陽に向かって吠える少女の上に、もう一度黒い影が飛び出し。
「先輩避けてくださいぃいいぃぃぃ!?!」
「ーーーーーっ!?」
声にならない絶叫と共に立花はマシュと一緒に大地に転がった。
そして少し経つと更に影が飛び出して、軽い声と共に着地を決めたリンクスの前には頭を抑えて悶える立花と、その立花に何やら叫んでいるマシュの姿が其処にはあった。
一瞬にして賑やかになってしまった雰囲気に流されながらも、何とも言えない表情で2人を見るリンクスは少しだけ顔を綻ばせた。
そう言えばこんな風に馬鹿な事をロードランでやっている人を見るのは初めてかも知れない。
そん事を思っていた彼女は2人を急かすでも無くて懐かしそうにその姿を見ていた。
そんな事を傍目に現状を確認しに行く。
祭祀場の右側、教会へと続く昇降機が稼働していない所を見るに一先ずは教会に目的地を定めてみる。
墓場の方は今の所行く必要が無いから意味が無い。
火継ぎの秘技は覚えているし、無くしていない。
それに息の臭いヘビが出て来ていない事を見るに鐘を鳴らしてもいない様だ。
やはり私の知っているロードランではあるけど違う。アノール・ロンドで授かった大杯の効果である篝火の転送も出来ない。
祭祀場にあった筈の篝火は沈黙し、火防女の姿も見えない。
一体何があってこんな事になっているのかは分からない、でも身体の中にあった膨大なソウルは消失している。
一体世界に何が起きたのか、いやーーー元々この世界なんて異常だらけだ。
今更何を考えてるんだと思い、確認を終わらせて2人と合流しに行く。
「凄いね、このカラス?」
「すいません。私の知識ではこの生物に該当する様な生き物はいないです」
ーーーかつてあんな事をした人間がいただろうか?
「…なに、してるの?」
「あ、今この生き物を触ってみようかなって」
マシュちゃんに抱えられながら崩れた壁の上で羽を休める大鴉の翼に手を伸ばした。
おっかなびっくりと差し出された指先が黒塗りの翼を捉えて、チョンと触れる。
「お、おおーーー!?」
「どうですか、先輩」
そんな事を呆れながらも見ている私は特に何もしない。あの大鴉はそんな事では人に手を出さないと知っている。
一番初めにこの地にやって来た時、あの大鴉に向けて矢を撃ったことがある。
「ーーー普通の羽みたいだね」
「……そうでしたか」
触って満足したのか壁の上からスンナリと降りてくる2人を眺めると好奇心旺盛だなと思う。そんな私は好奇心なんて投げ捨てた物だ、宝箱を開けたら喰われるなんて事を味わえば嫌でも不思議な物には触れたくなくなる。
「2人ともどうするの。私はこの先まで進んでいくけど?」
「どうしますか、先輩」
「とりあえずロマンと連絡をーーーー。反応しないね」
「そうみたいです」
2人以外にもこの地に来た人物がいるのか、そのロマンと呼ばれた人物は一体何者なのか。
連絡と言う事は遠距離からでも言葉を伝える事が出来るのだろうか、音送りの魔術の改良でもしたのだろう。
そう考えると、ロマンと言う人物はそれは高名な魔術師なはずなのだけれど聞いた事も無かった。
「私達も一緒で大丈夫かな?」
「別に大丈夫だよ」
「それでは、御一緒させていただきます」
今更教会まで1人や2人連れて行くのなんて慣れた物だった。
同じ様な境遇の不死達と手を取りあった事を覚えている。名も知らぬ不死達と歩いたのは今も鮮明に記憶の中にある。
「それじゃあ、私について来て」
歩き出すその脚は何処か軽い。
少なくともおっかなびっくりと歩く事は無い、何せロードランの全域を旅したのだから。
後ろに続く2人もいる。
少なくとも格好悪い所は見せたく無かった。
ーーーーーー
「やはり、私達以外にも誰かいるのでしょうか?」
「多分ね」
下水道を通って城下町の方に出て見れば、予想していた様な亡者達の姿は見えなかった。
正確には姿形はあるのだけれど、その全てが何者かによって倒され復活する前の状態で倒れている事だ。
倒れている亡者達を見ると、その傷が刃物だという事が分かる。
鋭利な物で裂かれた物から大剣で腹を胸を1突きされた様な物もある。
大剣を使っていた知り合いはジークマイヤーしか知らないが、彼はこの様な戦い方をしない。突きでは無くて大体が振り下ろす様な物だった筈だ。
兎に角、少なくとも私達以外にも誰かがこのロードランにいる事は分かった。それも地の利に詳しい人がだ。
「誰もいないんだね」
「…此処にマトモな人間はいないよ」
立花が不思議そうに言うのは、誰もが初めはそう思うものだった。
この街に誰か人がいないのだろうかと、私もそう思った。
「建物は残っているのに?」
「やっぱりもう少し話そうか。落ち着ける所に行こう」
本当に何処までも人間なのだろう。立花は、本当にこのロードランという場所が分からないんだ。
マシュも街を見る眼には寂しさがあった。
この2人は人間なんだもんね。人と話が出来て、嬲られた事も無い。
橋の下にある、元々は篝火のあった場所に腰を下ろす。
祭祀場の篝火が消えていた事で予想はしていたが、やはり此処の篝火の火も消えていた。もしかするとこの先の篝火も全部消えているのかも知れないと思うと、手持ちのエスト瓶に手を触れる。
量からして後10回、それだけしか私の回復手段は無い。
「あの、その瓶の中の物はなんでしょうか?」
不思議そうに聞いてくるマシュに少しだけ笑みが出てしまう。
「これはエスト瓶だよ。不死はこの瓶の中身を飲んで身体を回復させるんだ」
そう言って2人にも見やすい様に瓶を持ち上げて戻す。
この瓶は騎士から貰った物だ、それに失くしたら私の生命線も途切れてしまうので直ぐにソウルに変換して戻す。
「エストの事は良いでしょう。それよりも先に言っておくけどね、この先マトモな人に会えると思っているなら諦めた方が良いよ?」
「それは不死人しかいないからですか?」
そんな理由ならどんなに良いだろうか。
「此処は不死の行き着く場所。あの不死院、牢屋を出た君達なら分かるかも知れないけど。あんな所に長く閉じ込められた人が正気を保っていられると思うのかな?食事は存在しない、餓死すればまた牢屋の中で復活する。そんな事を繰り返した者達が果たして、正気な物なのかな?」
勿論、例外は存在するのだけれど。そう言った人を助ける事の出来る人達は不思議とロードランでは長生きしない。
出会った者達は皆、何処かで生き絶える。
果たして私も正気なのか分からない。火継ぎを行なった私がまたロードランにいるのも、正気では無くて夢なのかも知れない。
そう考えると何処からが正気で、何処までが異常なのかすらも分からない。私は果たして正気と言えるのかな?
「でも、リンクスは正気だよ?」
「ーーーー」
その言葉で身体が固まる。
「正気?私の何処を見てそう言ったのかな?」
「だって、リンクスは私達に優しくしてくれたでしょ?」
信じられない言葉だ。酷い事を言ってくれる人だ。
「あ、あれ?どうしよう、私変な事言っちゃったかな」
「すいません。私も分かりません……」
同じ不死とは言え、躊躇いなくその胸に剣を突き立てられる私が優しいなんて。
亡者になった知り合いを、殺せてしまう私が優しいだなんて。
かつて、背中を預けた狼を殺してしまったこの私を優しいと呼ぶなんて。
そんな私を、正気と言ってくれる人がいるなんて思わなかった。
誰も彼もがこう言う、結局何時かは狂うのだと。心に身を任せた方が楽なんだと言う。
だからだろうか、ロードランに居て正面から優しいなんて言われたのが堪らなく、こころに響いてくる。
ふと、擦り切れて亡くなった筈の遠い過去の残滓を思い出させる。昔の私は、騎士だったのかも知れない。
最初から鎧を持っていた、行なった事は恐らく人の為を思った行動だった。
無意識にそう動いてしまっていたのかも知れない。
「そうなんだ、私はまだーーーー」
過去の事をちゃんと覚えていたのか。
そう思うと、心なしか今までの道程よりも何かが軽くなった気がした。
「行こうか、忠告も終わったしね。先に進もう」
「あの、大丈夫なんですか?」
「うん。だから行こうーーー」
君達は私がきっと護ってみせる。
そう心の中で言ってみると、ふと剣が軽くなった気がする。
ーーーーーーーーー
「キアラン。アレは今の私では無理なのではないか?」
「何を言ってる馬鹿者」
橋の向こう、赤い翼竜を眺める2つの影。
大剣を担いだ騎士と、小柄な女性。
梯子を通してすぐ近くに、それは心強い味方はいるのだった。