灰の大狼は騎士と会う   作:鹿島修一

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ダークソウル
第1話


ある日、俺は狼になっていた。

 

小さな灰色の狼になり、周りの群れの者は俺の事をまるで迫害するかの様に責め立てた。身体が小さいからだ、周りの狼は俺の様に小さくなく、大きい身体をしている。

俺はきっと、自然界に生き残れない。生存できない、だから俺に吠え立てる彼等の気持ちも分かる。俺なんかを群れに置いとけば、他の者がきっと犠牲になるかも知れない。

 

それに、俺はなんで狼なんてなっているのだろうと考える俺には何かが合わなかったのかもしれない。人間と過ごしていたいんだろう。

 

 

俺は雪の降る寒い時に群れを飛び出して行った、俺には居場所が無くて、1人だけ仲間外れは嫌だった。それなら、1人になるしか無いと思いついた俺は駆け出した。

人の世を見たいから、人間の時の記憶を見ていたいから。

 

 

走って走って、走り続けた。俺の身体では狩りが出来ず食うものが無くても走った。腹を空かして、懸命に走ると俺は一つの街道に辿り着いた。

これを辿っていけば人の居る所に着ける、そう考えて走って、俺は変な集団を見つけた。

 

一つの馬車を囲む様にして何人かの骸骨の様な鎧の人達が馬車を襲っていたのだ。

あんな鎧を着ている者が人を襲うのもそうだが、それ以上に俺は骸骨の剣士達に恐れをなしていた。まるで深淵を垣間見た様な気分に陥る。

 

怖く無いと言えば嘘になった、それを騙す様にして喉を限界まで開いて俺は雪の中を吠えた。

 

届け、何処までも俺の遠吠えよ、誰か俺に気が付いてくれとそんな願いを持って吠えて俺は骸骨の剣士達に襲い掛かった。

 

 

だったの数刻だけで俺の身体は限界に来て、雪の中に沈み込んだ。

俺は全ての剣を避けきり、身体に外傷は無いのだが腹が減った。動けない、それだけの理由で身体を雪に着けて剣士達を見上げる。

笑っている様な顔をしているのは分かった嘲笑だろう、そんなに馬鹿らしいのか人を助けるのが?

 

狼が人を助けてはいけないなんて、無いだろう。

 

何処か遠くを眺める様にして剣が振りかざされて、大地が振動した。

身体を揺らす振動は大きくなっていって、俺は群青のマントの騎士を見た。

 

顔も見えぬ騎士なのに、何処か怒っている様だ。

馬車を一瞥して、俺の事を見ると、騎士は駆けた。

俺よりも早く大地を蹴って進み、剣士達を切り裂いていく。大剣が剣をへし折って、盾が身体を粉砕する事もあれば剣が切り裂いた事もあった。

 

アッサリと幕を閉じた死闘は無傷の青い騎士が制した。

 

 

よお、遅かったな。馬車の人は生きて無いよ。

そう言った意味の言葉を口にしようとしても、俺の口は話してはくれない。小さく狼の鳴き声が漏れるだけ、フーと鼻息が漏れるのは俺が嘆息をついたからだった。まさか人に言葉を伝えるのが此処まで大切だとは気付かなかった、この騎士は人では無いのだろうけどな。

3メートルも有りそうな巨躯の騎士なんて人間には見えないだろう、少なくとも俺には人間には見えないな。

 

「馬車を、護ろうとしたのか?」

「クフー」

 

何を今更、それともこの身体の小さな狼が一匹で馬車を如何にか出来るとでも思っているのか。騎士は俺が剣士にやられそうな所を見ているだろうに。

まあ、狼の言葉なんて理解できるなんて思わないけどさ。

 

「そうか、良く頑張ってくれたな・・・」

 

どうせ俺が何を言おうとした事も分からない癖に、勝手に解釈をする。でもそれで良い、俺は狼であんたは騎士なんだから。

 

「狼が群れから離れるとは。行く当ても無さそうだな、私が引き取っても良い物だろうか?」

 

王はなんと言うかとブツブツ独り言を呟く騎士に連れて行ってくれるなら頼みたいとばかりに力無くその鎧に包まれた腕を舐める。うえ、変な味だ。

 

「むっ?君も連れて行って欲しいのか?・・・まあ、構わないだろう」

 

そう言うと騎士は俺を抱え上げると、寒く無い様にとマントに俺を包んでくれた。爪を立てない様に大人しく丸まり、別に寒くは無いのだがと思いながら。

俺は何処か暖かいマントの中で目を閉じて眠りについた。何より人工的な暖かさが久し振りでそれを感じていたかった。

 

 

 

 

気が付けば俺は暖かな木々の生える庭の様な所で目を覚ました。

周りを見渡せば近くには大きな城がそびえ立ち、俺の事を遠目から眺める銀色の騎士達の姿も見える。

 

「あれか、アルトリウス様が連れ帰った狼とは?」

「ああ、何でもダークレイス共から馬車を護る為に闘ったらしい」

「素晴らしい狼だな」

 

どうやら銀の騎士達は俺の噂をしているらしい、それにしても一体何をどう説明すれば俺がそんな勇敢な狼の様な話になるのか。俺は群れから逃げて人に会いたかっただけなのに。

 

まあでも、こうやって人の会話の聞こえる喧噪とまでは行かないまでもそういった空間に居ることが俺の心を落ち着かせてくれる。どうしたら良いかは分からないが、仮初めとは言え飼い主にあたるアルトリウスとやらを待っていよう。変に動き回って斬られても溜まったものでは無い。

 

 

「どれだ、アルトリウス?」

「あの狼だ」

 

噂をすれば何とやら庭にはアルトリウスと呼ばれた騎士に続いて黄金の鎧を纏った騎士も連れていた。

 

「小さくは無いか?俺は勇敢な狼と聞いたが?」

「小さくとも勇敢だ、そうだろ?」

 

なんだ、どう反応すれば良いのだ。

取り敢えず鳴いとくかと元気に吠えてみればアルトリウスの方は満足したのかどうだと黄金に身体を向けた。

 

「う、うむ?まあ、良いのではないか。王からは許可は貰った様だ、裏庭なら使っても良いと言われたのだから俺は構わん」

「うむ、オーンスタインも分かってくれたかこの者の勇敢さを」

 

あー、アルトリウスは少しばかり天然入っているんだな。でも何処か完璧とは離れていて俺は好感が持てた。

 

「それで、この狼の名はなんと言う?」

「・・・決めてなかったな。お前は何が良い?」

「お前・・・、狼は喋らんぞ?」

 

名前、そう言えば名前か。

ーーー俺は何時も低い地位にある者だ、群れから離れて剣士にも負けた。でも納得はしていない、それは俺が幼い故だ、何も分からないからだ。だからいつか大きくなる事を願った。

 

「む、何処に行くのだ?」

「お前に呆れたのだろう」

 

トコトコと草が生える所では無く、爪でも刻める土の所まで行くと爪を立てた。

 

俺の名前は”Sif”

高く飛び立つ者、この小さな身体を大きくして躍動する者。

だからこそシフ、それがきっと俺に一番相応しい名前だと感じた。アルトリウス、貴方に救われた恩は必ず返す。

何年かかろうとも、俺に言葉を話す人の世に連れ出してくれた事も含めて。

初めて俺に優しくしてくれたから、必ずだ。

 


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