雪ノ下雪乃は素直になりたい。   作:コウT

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雪ノ下雪乃は遅かった。

 

「もう終わりにしましょうか」

「そうだね」

「ああ」

 

 時刻はすでに午後6時。今日も依頼人は来ることなく奉仕部の部員はそれぞれ本を読んだり、携帯をいじったりと各自好きな事をしていた。ただ変わったことはある。それは雪ノ下が俺の隣の席ではなく、前の定位置に戻っていること。原因は考えなくてもわかることだがあからさまに離れられると変に違和感を感じてしまう。それは俺だけじゃなく由比ヶ浜もだった。最初に俺達が離れているのを見て、驚いていた。それに聞いた話では今日は教室に来なかったようだし、口調も何だか前に戻ってる気がする。

 

「じゃあ私は鍵戻すから。比企谷君と由比ヶ浜さんは先に帰ってて」

「うん。じゃあまたねゆきのん」

「ええ。また明日」

 

 鞄を持って、教室を出るとまだ外は夕暮れで少し明るかった。雪ノ下はすたすたと歩いてそのまま職員室の方へと消えていき、由比ヶ浜と俺はお互い黙ったまま昇降口へと向かって行く。

 

「ねえヒッキー」

「なんだ」

「……ゆきのん、普通に戻ってたよね?」

「まあ……戻ってたな」

 

 普通という表現がおかしく感じるがそれほどまでに変貌した方の雪ノ下は違った。外面の雪ノ下は雪ノ下さんのように誰にでも接することができる人辺りの良さと笑顔。それでいて人を誘惑する魅力的な言葉遣い。

 でもその雪ノ下雪乃は元に戻った。完璧主義者であり完全無欠。その優れた美しさには誰も目を引かれる。そして彼女には嘘や欺瞞はない。何故なら彼女が嘘や欺瞞と言ったものを嫌っているからであり、思っていることを正直に述べる女の子で少しコミニケーション不足なところがあるが彼女自身の信念を曲げない強い女の子、それが雪ノ下雪乃であり、俺が憧れた人その人だ。そんな彼女が嘘偽りな外面を辞めて、元に戻ったのならそれは喜ぶことであり、あの雪ノ下ともう会えないからと残念に思うことはしてはならない。

 

「あのさ……こないだゆきのんと休みの日に……会ったんだよね?」

 

 震えた声で聞いてくる由比ヶ浜の表情にいつも明るさはない。暗い表情で俺の顔色を伺う世に彼女は俺に問いを投げてくる。

 

「……ゆきのんと何かあったんだよね……それ……聞いちゃ駄目かな?」

 

 思わず立ち止まり由比ヶ浜の顔をじっと見る。ぐっと手に力を込め、まじまじとこちらを見つめる瞳。緊張感がこちらにも伝わってくるぐらい彼女は真剣だった。

 けどごめんな、由比ヶ浜。

 

「……悪い。それは言えない」

「……そっか」

 

 誰もいない廊下で呟かれたその一言は重く響く。別に信用してないから言えないとかではない。ただ怖かったから。どんなに優しい由比ヶ浜も俺が雪ノ下を押し倒したという事実を受け入れて、話を聞いてくれるか不安だったから。長く付き合ってきたからこそ俺は言いたくなかった。何故なら俺にとって、いや雪ノ下にとっても由比ヶ浜結衣の存在は重要でありそして大切な友人だと思っているからだ。

 

「ごめんね、変なこと聞いて」

「いや、帰ろうぜ」

「うん」

 

 再び歩き出した俺達の足取りは重く、昇降口まで一言も話すことはなかった。昇降口を出て、由比ヶ浜にじゃあと言って俺達は別れた。

 駐輪場へと行き我が愛車のところへ足を向かわせていると自転車の前に見覚えあるぴょんと毛を立てている女の子がいる。こんな可愛いやつ俺が知る限り全世界で一人しかいない。

 

「何してんだ」

「あ、お兄ちゃん! そろそろ終わる時間かなーって思って待ってたのですよ」

 

 

 おお……お兄ちゃんを待っててくれるとはできた妹だ。小町の頭に手をのせて、ぽんぽんと叩く。嬉しいのかにこっと笑顔になる。何この生き物。家に持って帰って飼いたい。持ち帰るんだけどねこれから。

 

「ん」

「ん?」

「ここにいるってことはどうせ乗るんだろ? 前の籠に入れるから鞄貸せ」

「さすがお兄ちゃん! ではでは」

 

 そう言って小町は荷台に乗り始める。まだ学校なんだけどここ。

 まあ今日は色々あったな。早く帰ってご飯食べて風呂入って、材木座から貰った同人誌を読むとしよう。

 そう思い俺はそのまま自転車を押し始めた。鞄の中に入っている携帯の振動にこの時は気付かず、一色からのメールに気付いたのは家に着いてからだった。

 

 

× × ×

 

 

「ただいま……」

 

 今日も意味がなく言ってしまった。返事なんて返ってくるわけないのに。でも近いうちに比企谷君と付き合うことになったらもしかしたら同棲とかすることになるかもしれない。そうすれば「おかえり」って言ってもらえる日が来るかもしれない。その為にもそろそろ次のステップに進まないと。

 ソファーに座って鞄にしまってある携帯を取り出してメールボックスを確認する。受信数1件。差出人はケヤキさん。

 

『お疲れ様。今日も色々大変だったね。でも彼が意識してるってことはあとちょっとだよ。もう少しで夢が叶うんだから頑張ろう』

 

 本当に優しい人……。どこの誰かもわからない相手にこんな優しく接してくれるなんて本当に感謝しかない。今回の件が終わったら一度会って話してみたい。こんなたくさん助言できるのだからきっと今までたくさん恋をしてきたんだろう。そのお話を聞いてみたい。きっと私には想像もつかないようなことばっかなのだろう。

 そしてもし比企谷君が駄目だった時には……。

 いや駄目だ。顔もわからない相手にそんな事を考えるなんて。この人はあくまで私が困ってるから助けてくれるだけの人なんだ。私が好きになった男性は比企谷君、ただ一人。それ以外の男の人なんか……興味はない。

 返信文を作成して送信ボタンを押す。他愛もないお礼の言葉だ。そんな事しか言えないのだから。数分してすぐに返信は返ってきた。

 

『きっと不安はあると思うけど頑張って。もし失敗した時は俺でいいならずっと慰めるからさ』

 

 本当どうしてここまで言ってくれるんだろう。携帯を閉じて小さくため息をする。

 明日。明日言おう。もうこれ以上は待てない。早すぎると思うかもしれないけどこれ以上は私を応援してくれるケヤキさんに申し訳ない。

 それに私は早く比企谷君に自分の思いを伝えたい。好きと言いたい。だから明日だ。

 明日……終わりにしよう。だから待っててね……比企谷君。

 

 

× × ×

 

 

 翌日。私はいつもより早く学校へと向かっていた。比企谷君に告白すると思うといてもたってもいられなくなって来てしまった。まだ彼は来てないのに。

 でもすぐに彼に会いたいから。会って自分の口で好きと言いたいから。今まで思ってたことを彼に伝えたいから。

 とりあえず教室に荷物を置いたら彼の教室を行って彼を待とう。放課後まで待っていたらおかしくなりそうだし。通用門を通り、昇降口へ行こうとすると視界の端に女の子が映った。それが知らない人なら無視できたけど知っている相手だった。一色さん。

 こんな朝早くから何故彼女が? 生徒会は今の時期特に仕事はないはずだ……。まだ時間はある、ちょっと様子を見に行くくらいなら大丈夫なはずだ。私は彼女に気付かれないように後を追った。

 後をつけていくと彼女が体育倉庫前で足を止めた。当然こんな朝早くから体育倉庫の周りには人はいないだろう。そう思っていたが体育倉庫前には人がいるが見える。それも二人。

 一人は見たことない相手だがもう一人の顔を見て私は思わず声をあげそうになった。そしてその直後だった。

 

 

「一色……お前の事が好きだ。俺と付き合ってほしい」

 

 

 ……何を言ってるのかわからなかった。

 




久々の投稿です。

今日は小町の誕生日ということでピクシブの方でも
小町SSを載せていますのでもしピクシブでも
俺ガイルSSをご覧の方は私の作品を見ましたら
少しでも見て頂けましたら幸いです。


では

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