雪ノ下雪乃は素直になりたい。   作:コウT

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 偽りの自分を演じ続ける雪乃に八幡も由比ヶ浜も困惑し始める。だが物事は決して正しい方向へと行かず、少しずつ間違って方へと進んで行っていた。




偽物の自分

 

 

「ねえーなんで無視するのー?」

 午前の授業終わり、昼休み。ようやく授業終わって一息つけるはずなのだが、残念ながら一息はつけず、むしろその反対で少々苛々している。

 もちろん原因は目の前の机に座っている女の子である。

 

「なんでかなー、なんか私悪いことしたかなー」

 

 そう言って雪ノ下は自分の髪をくるくると指に巻いている。いやお前の髪ストレート過ぎて何か巻きにくそうだし、髪痛みますよ?

 雪ノ下の謎の変貌から1週間、あれから彼女は変わる様子がなく、むしろどんどんとエスカレートしてるように見える。

 またこういう休み時間には俺の元へ来て、話に来るもんだから、周りから注目も浴びる。雪ノ下の変貌ぶりは学校中を大騒ぎにさせ、毎日のように彼女を見にクラスに訪れる生徒が後を絶えない。何より驚きなのがそれに対して雪ノ下は嫌な顔一つせず、見に来た生徒に対して笑みを浮かべているのだ。最初にそれを見た時は手元のマッ缶を落として、こぼしていることに気付くのに三十秒くらいかかった。おかげで制服に着いた染みが取れない。

 こうして雪ノ下が休み時間の度にここに来るおかげでクラスの連中からはひそひそと陰口を言われている。

 

「あの雪ノ下さんが……一体なんで?」

「あの二人なんかあったの? 比企谷君と仲いいのは知ってたけど」

「くっ! 何故我にSSRが出ないのだ……もう10連!」

 

 そういやお前は初めから興味なさそうだったな。あとで理由を聞いてみよう。

 

「あ、ねーねー比企谷君。今度の休みにさー」

「あの……ちょっといいかな?」

 

 どこかで聞き覚えのある声がするので、声のする方に振り向くと葉山が立っていた。そーいえばこいつも同じクラスだっけ。

 

「比企谷、少しいいか?」

「この状況でどこかに行けると思うなら、お前の目は節穴か?」

 

 と、雪ノ下の方を見ると俺の腕を強く掴んでいる。こいつこんなに強かったのか。

 

「じ、じゃあ放課後に」

「ごめんね、隼人君。放課後は部活あるから時間ないの? また今度にしてもらえるかな?」

 

 と、雪ノ下は葉山に微笑んだ。それはもう今まで見たことないほどに。そして教室には数秒間の沈黙が訪れたが、すぐに破られ、驚愕の声で騒がしくなる。てか俺も何が起きたのかわからない。こいつが葉山の事を名前で呼ぶって……見ろ、三浦なんか口を開けて唖然としてるぞ。尚、葉山本人はすでに放心状態らしく何も聞こえていない様子だった。

 

「何でみんな驚いてるんだろうね?」

 

 そう言って、雪ノ下は首を傾げる。だから可愛いからやめろって!

 

 

× × ×

 

 

「本当にどうしたんだろうね、ゆきのん」

「いくら何でもあれはおかしすぎる。本当にあいつは雪ノ下なのか?」

「それはちゃんと確認したよ! 誕生日とか自分のクラスとか家族構成とか!」

「調べれば分かりやすそうなものばかりだな」

 

 放課後になり、いつも通り俺達は部室へと向かっている。

 本当に今の雪ノ下雪乃は本物ではなく偽物なんじゃないかと疑うレベルなのだ。1年近くの付き合いなので雪ノ下がどういう人間なのかを少なからず、知っているつもりである。だからこそ、今回の変貌にはいくら彼女と親しい間柄と言えど、驚きを隠せない。

 ただよくよく考えてみれば、別に悪いことではないような気はする。あの雪ノ下が周囲に優しくして、笑顔を気軽に向けられる女の子になったのだ。それは彼女自身の成長と捉えてもいいような気はする。

 だが問題は何故そのようになってしまったのかということだ。考えられるとしたらこの春休み期間に彼女が何かあったのかということだろう。

 そうこう考えるうちに部室の前まで来ていたので一度深呼吸をして部室の扉を開く。

 さて今日もこの穏やかな空間で本を読みながら適当に、

 

「比企谷君おつかれさまー! 今、紅茶入れるからちょっと待っててねー!」

 

 過ごせるはずがなかった……。

 

「ゆきのーん、私もいるよー? おーい」

 

 由比ヶ浜が扉から入ってきて手を挙げるも雪ノ下は紅茶を入れるのに集中して聞こえていない様子だった。いつもならお前が最初に挨拶されるもんな。

 ふと机の方に目をやると見慣れた顔の女の子が俺を見て、安堵の表情を浮かべている。一色いろはだ。

 

「先輩……ちょっとこっちへ」

 

 言われるがままに一色のそばに行くと、一色は声のトーンを小さくして口を開いた。

 

「あれどうゆうことですか? 雪ノ下先輩に何したんですか? 私、どういう顔で接していいかわからないですよ!」

「いや俺が何かした前提で話すなよ……知らねえよ。俺らも久々に会ったらあれだから驚いてる」

「そうなんですか? でもこんな雪ノ下先輩見たことないですよ、私」

「俺もだよ。つかここにいるやつ全員が見たことねえよ」

 

 一色は小さくため息を吐く。大丈夫、慣れてないのはお前だけじゃないから。

 

「楽しそうだね。何話してるのー?」

 

 ふといつの間にか紅茶を入れ終わった雪ノ下が後ろに立っていた。やばい! 何か殺気を感じる! 一色も怯えているのかひいと小さく声をこぼしている。

 

「い、いえ。なんでもないです……」

「そっか。じゃあ紅茶淹れたから席に座ってー」

 

 とりあえず一色とはまたあとで話そう。俺はいつもの定位置に座る。この奉仕部の定位置にも変化があり、雪ノ下の定位置にあった椅子がいつの間にか俺の左横に移動していた。

 

「はい、どうぞ」

 

 と、雪ノ下は俺の目の前に紅茶を置いて、隣の椅子に座ると嬉しそうに俺を眺めている。……飲みにくいんだけど。

 

「ゆ、ゆきのーん。やっぱりその位置おかしくない?」

「そ、そうですよ! やっぱり雪ノ下先輩はここが似合うというか……」

 

 と、一色は前の定位置を指差す。ここが似合うって何か言い方失礼だぞ、一色。すると雪ノ下は二人の方を向いてこほんと軽く咳払いして口を開く。

 

「別に私がどこにいようとかまわないでしょ? 私は比企谷君の近くにいたいの。悪い?」

 

 怖っ! 何その悪そうな笑顔! 雪ノ下さんでもそんな顔見たことないぞ! 

 さらに雪ノ下はぎゅっと俺の左腕を取り、ぎゅっと抱くように体を寄せる。

 へ? ゆ、雪ノ下さん? あ、あなた何を…..。

 

「まあ私がこうしたいからなんだけどね」

 

 そう言って楽しそうに微笑む雪ノ下。だが教室内の空気は一気に凍りつき、やがて由比ヶ浜、一色が俺の事を冷ややかな目で見る。

 

「ヒッキー? 何で嫌そうじゃないの?」

「いやこれは……」

「せんぱーい? どうして振り払わないんですか?」

「だからこいつの力が強くて……」

 

 言い訳をするも二人は聞いてくれない。すると由比ヶ浜と一色が立ち上がって、椅子を持ってこちらに向かってくる。やめろ! そんなもんで殴られたらさすがに致命傷になるぞ俺。だが二人共殴るわけではなく、俺の右横に並べるように椅子を置いて座った。そしてじーっと俺の方を見つめている。その顔怖いよ……どしたの君達?

 

「お、お前ら何で移動したんだ?」

 

 と、質問すると二人共ニコっと笑って、同時に口を開く。

 

「「私達もこうしたいから(です)」」

 

 そう言って、二人共右腕を取り、ぎゅっと体を近づけてくる。あ、あの…..本当にここは違う意味での奉仕部になってしまったのか? 

 

「べ、別にヒッキーのためにこうしているからとかじゃないからね! ゆきのんだけだと可哀想だから仕方なくやってるの! 仕方なくね!」

「そうですよ! 私も先輩がこうやって女の子と触れ合う機会なんてないと思ったから、仕方なくしてあげてるんです! 別に先輩を好きだからとかそういうわけじゃないですからね!」

 

 いやそんな顔を真っ赤にして言われてもねぇ……。

 しかし左隣の彼女はそんな二人を見てふふと笑っていた。

 

「私の真似事しかできないのね。ま、さすがにこれはできないと思うけど」

 

 と、雪ノ下が言い終えた瞬間、雪ノ下の顔が迫ってきて頬に何かが触れる感触がした。

 

「どう? できるかしら?」

 

 えーと……すいません雪ノ下さん。あなた今、何しました? 

 何か反対側の二人はさっきより顔を真っ赤にして、口を開けたままぽかーんとしてるし。

 そんな時、教室のドアが勢いよく開いた。

 

「失礼、ちょっと比企谷に仕事を……ほう。比企谷、随分と楽しそうだな」

「い、いや! 先生これは誤解です! 違うんです!」

 

 そんな俺の弁明は届かず、我が顧問は笑顔でこちらに迫ってくる。きっと俺は恐怖の表情を浮かべていただろう……。

 

 

 × × ×

 

 

 家に着いて、リビングに入ると、近くのソファーに腰を下ろした。

 今日は一日疲れたけどでもあの二人より確実に一歩進んだはず。最初は比企谷君を前にあんな外面を見せるのは恥ずかしかったけど、でも前よりかは確実に距離は縮んでいる。

彼がああいうふうに照れたりする顔を見れるのは嬉しい。前の私だったら絶対ああいうふうにできないのだから。

 でもこれで終わりじゃない。まだまだ偽物の私は未完成だ。完成するにはもっと彼に向いてもらえるような私がいい。一色さんみたいな人懐っこさや姉さんみたいな笑顔を私は何とか自分のものにしようと頑張った。最も練習してて気付いたのは、一色さんみたいにあざとすぎるのは却って駄目だと思うから少し控えめで、それでいて人懐っこさを少しは出す。それには笑顔は必須だけど姉さんみたいな外面の笑顔じゃ彼に見破られてしまう。

けど私自身も彼と由比ヶ浜さんや一色さんぐらいにしか笑顔になることなんてない。

だから私は笑顔を二つ作ることにした。彼に向けられる笑顔と他人に向けられる笑顔を。彼に向けられる笑顔は私が素で出てしまう笑顔だから偽りではない。けどそれ以外の人に対しては姉さんみたいな作り笑いでいい。ただ彼の前でやると姉さんみたいに嫌がられてしまうかもしれないから今日みたいに教室で振りまくのはやめよう。次からは少し微笑する程度で構わない。

 私は立ち上がって姿見の前に立つ。

 

「……比企谷君。今日の私はどうだった? 早くあなたの口から好きって言ってね。ずっと……ずっと待ってるから」

 

 誰に向けるわけでもないのに私は笑みを浮かべていた。

 

 

 

 




 今回も読んでくださりありがとうございました。
 しばらくこんな感じの展開ですね。

 さてついに発表されましたね、12巻。
 これが最終巻かどうかはわかりませんが内容によっては俺ガイルの二次創作に変化が出てくると思います。

 その為今の11巻の段階で出来る内容を今のうちに終わらせたいということで一応このシリーズも発売日4月18日までには終わらせたいと思いますので少し更新速度を速めます。
 

 今後共おつきあい頂ければ幸いです。それでは。



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