雪ノ下雪乃は素直になりたい。   作:コウT

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雪ノ下雪乃は素直になりたい。

 ―去年彼女達がステージに立った時もこんな気持ちだったんだろうか。

 

 

 葉山が挨拶を始め、観客の熱狂は一層盛り上がっている。

 ボーカルの俺は特に言うことも無いので葉山のメンバー紹介の際も小さく頭を下げただけだ。観客の反応は微妙だったが予想通り。

 

「それじゃあこれでトリだから、みんな盛り上げてくれよな」

 

 葉山の声に反応して、会場の熱気はヒートアップ。あとで近所から苦情がくるんじゃないかと心配するレベル。でも俺が集中しなきゃいけないのは目の前の事だ。

 ぐるっと見渡す。葉山達の演奏は二曲で、一曲目に俺は出ない。その為舞台裏に下がって、その様子を見守る。

 演奏している曲は数年前に流行ったバンド活動している大学生の青春映画の主題歌の曲で俺もかなり聞いていた。あれからもう数年経ったんだなと思うと同時に今でもこんなに人気なんだなと圧倒された気持ちになった。

 そしてすぐに出番はやってきた。

 

「比企谷、準備はいいか?」

「・・・・・・ああ。いつでもいい」

 

 メンバーは変わって、俺、ベース葉山、ギター戸部、ドラム海老名さんと珍しい組み合わせになった。ただ戸部は嬉しそうだった。まだすきなのか、こいつ・・・・・・。まあ人の事は言えないか。

 葉山からマイクを手渡され、受け取るとすっと息を吸った。そして優しく吐いて、もう一度口を開く。

 

「えーなんだ。次の曲入る前に一つだけ宣言しときたいことがある」

 

 なんだなんだー!と声が上がる。こういう文化祭ではオーディエンスが勝手に盛り上げてくれるから、こちらから雰囲気などを作る必要はない。

 高杉がそうしたのなら、こちらもそれを利用させてもらうだけだ。

 今更俺の悪評高い噂を知らない奴はいない。ならこの事も全校生徒に知ってもらおうと思う。

 ステージの真ん中に立ち、ぐるっと辺りを見渡して、そしてはちきれんばかりの大声で、

 

「お前ら、よく聞けー!」

 

 と、声を上げる。

 

 

「奉仕部三年の!比企谷八幡は!」

 

 もう恥ずかしさとか関係ない。

 

「同じ奉仕部三年の雪ノ下雪乃の事が!」

 

 だから素直に言えばいいだけ。

 

「大好きだ!もう大好きって言葉じゃ表せないくらい大好きだ!」

 

 多分あの時から。

 雪ノ下が自分を変えようとした三年の始まり―。

 

「高杉が告白する?ふざけんな!だったら、その前に俺が告白してやる!」

 

 それから色々あって、お互いありのままで―素直でいようと努力した。

 

 

「雪ノ下!俺は頼りない人間だし、姑息なやり方で依頼をこなすときもあるし、時には思ったことも言えない時だってあるし、カッコよくねえよ」

 

 

 友達と後輩から―妹からだって慕われていた。

 

 

「それでもお前と誰かが付き合っているって事実を認めたくねえ。そんな未来見たくもねえ」

 

 何より信じることができる相手を好きになれた。

 それはもう幸せと言っていいものだろう。

 

「だから雪ノ下。俺と付き合ってくれ!・・・・・・話は終わりだ」

 

 

 恥ずかしさを紛らわすように葉山に目配せするとすぐに他の二人も気を引き締めた表情になり、演奏が始まった。

 観客はなんだかわからないといった表情でぽかーんとしていたが演奏が始まるとすぐに盛り上がってくれた。

 歌う曲はずっと昔のアニメのエンディング。それをバンドverにアレンジしたものだ。

 カラオケでも歌ったことがあるので曲の感じは耳に残っていたし、歌詞も覚えていた。だから昨日の今日でも完璧とは言わないが合わせるのはそんなに難しくなかった。

 

 ―演奏が終了した。

 

「い、以上で有志バンドの演奏を終わります」

 

 司会役の生徒が慌てるように終わりの言葉を言った。

 生徒達も先程俺の宣言に話題を戻し、ざわついている様子だった。

 

「まあこんなもんだろ」

 

 高杉みたいにみんなからの応援なんていらない。

 そもそも応援してもらわないと告白できないなんてその程度の想いなんだよ、と笑いながら言ってやりたい。

 そう思い、ステージを後にしようとすると舞台裏口から誰かが入ってきた。

 思わず、その場に立ち止まり、そいつの顔をじっと見つめる。

 

 

「全校生徒の前で告白なんてまた黒歴史が増えるわね」

「黒歴史だろうが歴史は歴史だ。残した方が後世にも伝わるってもんだろ」

 

 そう答えると呆れたように雪ノ下雪乃は笑った。

 

 

「葉山君、マイクはある?」

「ああ、はい」

 

 準備をしていたのか葉山は手に持っていたマイクを雪ノ下に手渡す。

 他の三人は空気を読んでだろうか、舞台裏にひっそりと姿を消して、残ったのは俺と雪ノ下だけ。

 見守るのは全校生徒。

 

 

「比企谷君、先程の返事なのだけれども」

 

 

 マイクに向かって話す声は大きく響く。

 まじかよ、全校生徒の前で告白OKとかぼっちのすることじゃないな。もうリア充いやそれ以上の存在だろ、これ。神?

 

 しかしそう浮かれていたのは一瞬のことで、

 

 

「ごめんなさい、あなたと付き合えません」

 

 と、雪ノ下は全校生徒の前で俺の告白を断った。

 

「へ?」

「あなたとは付き合えないって言ったのよ」

「は?へ?」

 

 もう頭の中が真っ白だった。

 高杉が腹を抱えて、大笑いする声が聞こえてきそうだ。

 ああ・・・・・・恥のかき損だろ、これ。

 そう思った矢先だった。

 

 

「・・・・・・今は、ね」

「へ?」

「どうしても私と付き合いたければ卒業までに一日一回教室まで来て、私に告白しなさい。学校がある間は毎日よ」

 

 得意げに笑う雪ノ下の提案に一気に観客が盛り上がった。

 時刻は予定していた告白タイムにさしかかり、これ以上俺達に時間を取られるのはまずい。すぐに場所を変えようと口を開こうとしたが、

 

「とりあえずもう一度私の前で告白しなさい」

 

 と、期待した眼差しを向けられた。

 

「お前・・・・・・さすがに嘘だよな?」

「私が嘘つくように見える?」

 

 もうお手上げです。

 そんなわけで皆さん、もう一度お聞きください。

 

 

「雪ノ下雪乃さん・・・・・・好きです。付き合って下さい」

「嫌です」

 

 

 こんな公開処刑をあと百日くらいやるのか・・・・・・。

 

 

× × ×

 

 

 

 桜の花びらが舞い、冬の寒さも消えて、温かくなってきた三月。

 先程卒業式が終わり、奉仕部部室には部員一同で、俺達の送別会が開かれていた。

 

「そういえば次の部長って誰がなるんすかね?」

 

 ふと川崎弟である大志が呟いた。

 

「そういえば決めてなかったわね。小町さんでいいかしら?」

「え!?そんなあっさり決めていいんですか?」

「元々前から候補としては決めていたから。先生もそれでいいですよね?」

「ああ、比企谷妹なら上手くやれるだろう。兄と違ってな」

 

 なんか最後まで非難されてる気がするがまあ俺にはちょうどいいもんだ。

 

 

 一応文化祭後の話をするとあれから俺は毎日のように雪ノ下のクラスへ行き、クラスメイトの温かい目で見守られながら、告白する毎日を送っている。時には動画を撮られ、SNS上に流されるなどして日本中どころか世界中に知れ渡りそうになった。

 しかもその度に雪ノ下はというと、

 

「そう、ごめんなさい」

 

 と、楽しそうに振る。

 それの繰り返しになる。しかも適当に告白すると「そう、その程度の愛だったのね」と不機嫌になるのだから、扱いには困ったもんだよ。

 けどそれも今日で終わりである。

 

「あ、ジュースがないや。ごめん、お兄ちゃん。ちょっと買ってきて」

「卒業生をこき使うのかよ」

「てっきりお兄ちゃんは留年すると思ってたからさ」

 

 小町は笑顔でそう言った。こいつ・・・・・・。

 

「あ、申し訳ないんですけど雪乃さんも一緒にいってもらっていいですか?」

「え?」

 

 雪ノ下が呆気に取られていたがその場にいた全員が笑みを浮かべながら、雪ノ下を見つめていた。

 はぁ・・・・・・そういうことか。

 

「わかったわ。少し待ってて」

「はーい、お願いします」

「あ、ヒッキー。アイスも買ってきてー」

「せんぱーい、ついでにケーキも」

「比企谷。缶ビールも頼んだ」

 

 

 お前ら頼みすぎだろ、俺の財布に金があると思っているのか。

 つか最後のは駄目だろ・・・・・・。

 そう思いながら、俺と雪ノ下は特別棟から教室棟へと移る。

 

 

「先に寄りたいところがあるんだけどいいか?」

「ええ」

 

 どこに寄るかなんて今更聞くのは野暮すぎる。

 行先はJ組、雪ノ下の教室だ。もう生徒達は馴染みの教室からそれぞれ後にしたらしく

誰もいなかった。

 

 

「今日で終わりだな」

「まさか毎日続けられるとは思わなかったわ。やっぱりあなたってマゾ?」

「ちげーよ。本当・・・・・・この二年間お前から安らぎの言葉をもらったことがないな」

「言ったでしょう、私は嘘をつかないって」

 

 知っている。知ってるけど時には人に優しくすることも覚えようね?大学生終わったら、社会人になるんだから。

 

 

 ―さてそれじゃあやりますか。

 

「雪ノ下」

「何?」

 

 窓から外を眺めていた彼女はくるっと振り返る。ちょうど風が流れて来て、気持ちいい。

 桜の花びらもまるで場を作りに来たのか何枚か入ってくる。

 

 

「お前の事が好きだ。俺と付き合ってほしい」

「・・・・・・そう。それじゃあ私も一言」

 

 そう言って一歩ずつ俺の元へ近づいていき、俺の目の前で止まった。

 そしてニコっと笑顔を見せて、

 

「好きよ、比企谷君。私とずっと一緒にいてくれる?」

「ああ」

 

 それから俺達は素直に―その場でキスをした。

 

 

 




最期まで読んでくださり、ありがとうございました。
途中からあとがきもなんて書けばいいかわからず、放置気味でしたが
今回で終わりなので少しだけ書かせていただきます。

まず今回の作品を読んで下さり、ありがとうございました。
そして約半年近くも作品に付き合ってくださり、本当にありがとうございました。
元々pixivでもストーリー物を一つ作っており、そちらも半年近くかかったのでちょうど同じくらいですね。

本来ならばカラオケで雪乃と八幡との話し合いで一区切りつける予定でしたがもう少しだけ書いてみたいと思い、話を続けてみました。
書き始めてから、色々なご意見を頂いて、考え悩む事が増えました。まだまだ私が原作を理解できていないんだなと思うところもたくさんありました。その節はコメントにて感想を頂き、ありがとうございました。

こうして終わってみて、改めて評価を見るとちょうど半分くらいです。
この投稿後上がるかもしれないし、下がるかもしれませんがこれが今の私の実力です。
ここからどれくらい上がれるかは多分これから先も書き続けていけばわかると思います。
でも評価をもらう以前にまずは自分の好きなものがかけるか。
私の中でそれを大事にしながら、いつもSSを書いているのでこれからもその気持ちを忘れずに頑張っていこうと思うので
どうぞよろしくお願いします。

しばらくは夏コミ原稿があり、色んな人からダメ出しを食らう予定なので投稿はありませんが終わったら、今度は新しい物語を考えてみようと思います。

最期までお読み頂き、ありがとうございました。

では


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