雪ノ下雪乃は素直になりたい。   作:コウT

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明るい道と暗い道

 

「・・・・・・はぁ」

「その・・・・・・ごめんなさい」

 

 

 文化祭初日。奉仕部の部室には雪ノ下、由比ヶ浜、一色、そして俺が現在先程起きたとある事件について、落ち着こうということで集まっている。

 あまりにも唐突過ぎて、誰も止めらない事件だった。

 

「高杉は?」

「多分実行委員会本部にいると思います。呼びますか?」

「いや。呼んだところであいつの方が立場は上だ。だからさっきの事を中止にするのは難しいだろうな」

 

 

 話は数十分前に遡る。

 

 

× × ×

 

 

体育館のアリーナでバタバタと響く足音が無数に聞こえてくる。体育館内の生徒のざわめく雰囲気は去年とまるで変わっていない。

 オープニングセレモニーまでこぎつけた今日。文化祭もいよいよ本番だ。

 あれから急ピッチで進めた結果、何とか落ち着くところに落ち着いたという形になり、無事に開催することができた。

 そして今回はアリーナの踊場から全体の様子を眺めて、問題なければインカムで連絡する。

 

『こちら問題なし、どうぞ』

 

 そしてもちろん。

 

『了解、では始めます』

 

 雪ノ下もいる。ついでに言うなら、由比ヶ浜もタイムキーパでスタンばっている。

 

 

「みなさーん!盛り上がる準備はーおっけーですかー?」

「うおおおおおおおおおっ!」

 

 オーディエンスの熱気も相変わらずだ。去年のめぐり先輩みたいなコール&レスポンスはないが一色も一色で、生徒達を上手く乗せている。

 

「それでは続いて、文化祭実行委員長の挨拶です」

 

 アナウンスと共にスポットライトに照らされながら、ステージ中央に歩いてくる高杉は去年の相模と違って、余裕の表情を浮かべている。

 

「皆さん、こんにちは。文化祭実行委員長の高杉です。まあ挨拶と言っても、長くなるのはみんな嫌だと思うのでお知らせだけお伝えします」

 

 すぐさまインカム上で驚愕の声が聞こえてくる。

 

『雪ノ下です。お知らせがあるとは聞いていません。どういうことですか?』

『こちら舞台裏です。私達も誰も聞いていません』

『こちらPAです。私達も聞いていません』

『こ、こちらタイム・・・・・・なんとか! こっちもわからないそうです』

 

 由比ヶ浜の声を最後にインカムからは声が聞こえなくなる。

今回のオープニングセレモニーの流れの打ち合わせではお知らせの予定なんて高杉からは聞いていない。つまりあいつの独断でやっているということだ。

 再び雪ノ下の声が響く。

 

『副委員長。聞こえますか?』

『はい』

『あなたは委員長からこのお知らせについて、聞いてますか?』

『ええ。皆さんを驚かせようということで黙ってました。すいません』

『勝手な事をされては困ります。全体の流れに支障が出てしまうと』

 

 と、言いかけたところでステージ上にいる高杉が口を開いた。

 

「お知らせというのは今回の文化祭のエンディングセレモニーです。今年からエンディングセレモニーの後に後夜祭をやることになっているのはご存じだと思います? そこでその後夜祭で一つ催し物をしようと考えています」

 

 オーディエンスのざわめきが再び響く。興味を引くには十分な事だろう。

 

「キャンプファイヤーに有志バンドの演奏。その二つ以外にもう一つ主張タイムみたいなものを設けようと思います。まあ簡単に言うなら、告白タイムみたいなものですよ。定番かもしれませんがこういうイベントにはもってこいだと思いません?」

 

 観衆からはあちらこちらで賛同の声が聞こえてきて、やがて盛り上がりへと変わっていく。

 

『これ以上は看過できません。すぐにやめさせてください』

『し、しかし』

『責任は私がとりますから』

 

 しかし高杉の方が早かった。

 

「でもさすがにいくらそういう場を作っても、恥ずかしいと思う人がいると思います。なので・・・・・・まずはここで僕は主張します」

 

 観衆からはどよめきと期待の声が広がり、ステージ中央に一気に視線は集まっている。

 無論観衆だけではなく、実行委員も全員ステージを見ていた。

 

「まず僕は昔、動画投稿をしてましたっ!今でいうユーチューバーみたいなものかな? 顔を隠してたけど、まあバレてたよねー」

 

 観衆からの笑い声が聞こえてくる。だが高杉はしかし、と付け加えて、

 

「そんな動画投稿をしている時に一人の女性の相談にのってました。あ、一応こうみえて、恋愛講座みたいな動画を投稿してたんですよ。何より驚いたのがその人は僕の好きな人だったんですよね」

 

 ようやく俺は我に戻り、マイクに向けて、口を開く。

 

『すぐにやめさせろ。教員から早く終わらせるように苦情が来てる』

 

 もちろん俺の周りには誰もいないが高杉の話はまぎれもない雪ノ下の事だ。

 プライベートな事を大勢の前で話すとかいくらなんでもシャレにならない。すぐにやめさせようと思ったがインカムからは誰の連絡も来ない。

 

「相談していくうちに僕はもう一度この人の事を好きでいたいって思ったんです。そしたら偶然にも文化祭実行委員で彼女とまた会えることができました」

 

 「くそが」

 

 急いで駆け出して、舞台裏へと急ぐ。もう誰も動かないなら、俺がいくしかない。

 しかし間に合うはずもなかった。

 

「だから僕はもう一度この人に告白しようと思って、今回の企画を立ち上げました。だからここに宣言しますっ! 僕は後夜祭で・・・・・・雪ノ下雪乃さんに告白します!」

 

 その言葉を聞いて、俺の足が止まった。

 

 

× × ×

 

 

 と、いう経緯だ。

 あれから会場は異常な盛り上がりを見せた。すでに全校生徒に「高杉が雪ノ下に告白する」というイベントを知られている。

 無論目の前の雪ノ下もさすがにこればっかりはいつもみたいに怒ることもできず、ため息を吐いていた。

 

「どうしますかね・・・・・・」

「いやっ!どうするもこうするも告白の場に行かなきゃいいだけじゃん!ねえっ!?」

「そ、そうね・・・・・・。別に行く必要ないんだし」

 

 由比ヶ浜に賛同するように弱った声で答える雪ノ下。

 けどそれでは解決にならない。

 

「だめだ。すでに全校生徒に高杉の告白は知れ渡っている。もし告白の場にいなければ、逃げたと思われるだろうから今後の学校生活で変にからかってくる奴が出てこないとも限らない」

 

 もう高杉の計算通りだった。こうすることで無理矢理雪ノ下を公衆の面前に引き出させる。いくら周囲を寄せ付けない雰囲気を漂わせているとはいえど、告白イベントなんていうイベントをすっぽかしたとなれば、彼女に対する周囲の評価は決していいままで終わるとは思えない。

 

「それにまあ・・・・・・高杉って一応イケメンの部類に入るだろ? そんな奴と雪ノ下だ。端から見ればお似合いだろうし、何より断らせることができない雰囲気だ」

「・・・・・あーあ、本当に高杉うざいですねっ!」

 

 一色が足をバタつかせている。ここでゴネても何も始まらない。

 

「ヒッキー、何か手はないの?」

「・・・・・・今のとこは、な」

「・・・・・・とりあえずみんな仕事に戻りましょう。ここで話していても、何も解決しないわ」

 

 そう言って雪ノ下が立ち上がって、教室から出て行く。

 俺も出ようとするが他の二人は下を向いたまま、動こうとしない。

 

「・・・・・・まあなんとかなるから心配すんな」

 

 そう言って、少しは落ち着かせようとした。が、

 

「ううん。違うんだ、ヒッキー」

「は?」

「私ね・・・・・・本当のこと言えば、もしゆきのんが高杉君と付き合うことになったら、ヒッキーともう一度やり直せるかなってちょっと思っちゃったんだ」

 

 由比ヶ浜の言葉に足を止めて、じっと見つめる。

 その由比ヶ浜に続き、一色も口を開く。

 

「私も・・・・・・どうしてもまだ先輩の事を諦めきれてないから、全く思っていないと言えば、嘘になります」

 

 部室の空気はどんよりと変わり、出るに出れなくなった。

 由比ヶ浜も一色も夏に色々あった・・・・・・というか告白してきた二人だ。もちろん大切な二人だし、信用できる相手だがあくまで俺は彼女達を友達、後輩ということで見ている。

 俺の中で彼女というポジションは雪ノ下雪乃以外いないのだ。

 

「その・・・・・・悪いけど」

「わかってるよ! でもさ・・・・・・こういうの初めてだからわからないんだよ。好きな人の事をどうやって諦めたらいいか。それにヒッキーの事を好きでいる限りゆきのんともどうしていいかわからないし・・・・・・」

「昔みたいに戻れないってことか?」

 

 

 その問いに二人は黙っていた。顔を頷くこともしない。

 

「とりあえず時間だ。俺は一回クラスの方に戻るわ」

 

 それだけ言って、教室を後にした。

 好きな人を諦めることができない。俺には今まで経験してこなかったことだ。折本の時は告白したことで人を信用する事、誰かを好きになることに対して、恐怖が生まれた。だからきっぱりと諦めることが出来た。

 現状俺達の関係は俺と雪ノ下が一応付き合っている状態で、由比ヶ浜と一色は友達と後輩。でもこれはあくまで俺からみての関係図で、彼女達から見れば、全然違う関係図となっている可能性はある。

 しかしそれを知ることはできない。それより高杉だ。雪ノ下を引きずり出すことにほぼ成功したんだから、あとはもう告白するだけだ。こういうイベントではその場の雰囲気に乗ることが大事だが後少ない学校生活を少しでも彼女にとってはいいものにしたいと考えるなら今回の件は何とかしなければいけない。

 だが・・・・・・どうしたらいいか全く考えが浮かばなかった。

 

 

× × ×

 

 

「ねえいろはちゃん」

「何です? 結衣先輩。ちなみに私は反対ですよ」

「え? 何が?」

「告白イベントに参加して、先輩に告白するなんてそんなことをして、先輩がどういう気持ちになるかわかりますよね?」

「・・・・・・知ってるよ。でもさ・・・・・・女の子なんだから仕方ないじゃん! 付き合うなら・・・・・・好きな人とかいいじゃん」

「わかってますよ・・・・・・私だってそうですよ。でも雪ノ下先輩と先輩を悲しませたくはないです・・・・・・でも欲を言えば、私だってもう一度チャンスが欲しいですよ」

 

 

 ずるい子だなぁ、私は。

 でもヒッキー。好きなんだよ、本当に。

 ゆきのんよりもいろはちゃんよりも大好きだって言いたい。

 そして何よりあなたから「好き」って言ってもらいたいんだよ、ヒッキー。

 




お久しぶりです。
仕事が忙しすぎて、あまりにもこちらに投稿できず仕舞いでした。
pixivの方では少し活動してたんですけど色々やってたら、かなり後回しになってしまいました。読んで頂いてる読者の皆さん、すいません。
さてこのシリーズももう終わりが見えてきました。
あともう少しお付き合い頂ければ幸いです。

それと宣伝ですが今年のコミックマーケット92に出ることになりました。
知り合いと協力して、イラスト&SS本を作る予定なので確実に決まり次第宣伝させて頂きます。
今後共よろしくお願いします。では

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