雪ノ下雪乃は素直になりたい。   作:コウT

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それでもはっきりさせたいこと Ⅱ

 

 

「少し足伸ばしても大丈夫?」

「大丈夫だけど……どこに行くんだ?」

「内緒」

 

 と、行先を教えない彼女は笑っていた。学校から出た後、電車に乗って東京方面へと向かい、途中で別の路線に乗り換えて数分。夏と冬に行われる大きいイベントの最寄り駅を通り過ぎたところで俺達は降りた。

 

「……台場?」

「うん! お台場だよ!」

 

 

 いやそんな自信満々に言われてもね……。千葉とは違って、まさに都会とも言うべき近代感がある。ゆりかもめとかまさにそうだろ? 千葉にもモノレールあるけどさ。

 

「で、どこ行くんだ?」

「えーとね、こっち!」

 

 手を引かれて連れて行かれた場所はお台場でも有名なテーマパークで室内にあるらしいドラマや映画をモチーフとしたアトラクションやお馴染みのゲームセンター。その他限定カフェ等があり、平日だと言うのに人もそこそこいる。というか……。

 

「なんか……カップルが多いような……」

「あれ? 言わなかったっけ? 今日カップルデーでチケット代が安くなってるんだよ」

 

 あ、そうなのね。だから俺を連れてきたと……。つまり今日はこいつの彼氏(仮)みたいなことになってるのか。

 

「んーじゃあね……まずはここ!」

 

 と、由比ヶ浜が指を指した先は室内コースターの一つ。何でも回転するタイプのコースターらしいが季節やイベントによって仕様が変わるらしく、毎回楽しむことができるそうだ。

 幸い人がいるとは言っても平日。列に並ぶもすぐに乗り場が見えてくる。

 

 

「そういえば前にランド行った時も思ったけど、ヒッキーってこういうの平気だよね」

「小町がこういうの好きだから遊びに行かされた時に二人で乗ることが多くてな。だからいつの間にか慣れてた」

「ふーん……ランドと言えば前にみんなで行った時、ゆきのんと二人で乗ったんだよね」

「あ、ああ」

 

 あれ? その話したっけ? 雪ノ下が話したのか?

 

 

「あ、ほら次だよ」

「おう」

 

 二列の座席なので先に乗ると由比ヶ浜が続いて乗ってくる。動き出すと音楽と共に辺り一面が光り出して進んでいく。スピードはゆっくりなのでここは周りの景色を楽しむといったところか。

 

「ねえヒッキー」

「ん?」

「…….なんでもなーい。へへ」

 

 彼女の笑った笑顔を見れたのは急にスピードが速くなる直前のほんの一瞬だったがそれでもいきなり笑った彼女の笑顔は何故か嬉しい。

 

「あー楽しかった」

「少し……回り過ぎじゃね?」

 

 

 気持ち悪くならない方がおかしいと思うこれ。後半ずっと回ってしかもスピードがどんどん速くなっていくのはまずいだろ。こういう系アトラクションは苦手だと俺のプロフィールがまた一つ更新されたな。

 

「大丈夫? 休む?」

「いや……大丈夫だ。で、次はどうすんだ?」

「うーんそうだな……じゃあ次はあっちかな」

 

 上の階に上がってて適当に進むと推理系のアトラクションを見つけ、そこに並ぶことにした。どうやら部屋がいくつかあるらしく、部屋ごとに問題を出され、正解できれば進み、間違ってればその場で失格というゲームだった。

 思った以上に並んでおり、なかなか進まない。ので由比ヶ浜に声をかけてみる。

 

「そーいえばお前夏休みってどうすんだ?」

「え!?……あーな、夏休みね」

「あ、うん。聞いちゃまずいかったか?」

「いや! 別に! 何かヒッキーがそういうこと聞いてくるの珍しいからびっくりしちゃって」

 

 まあそりゃあな。人の予定に興味ない人だし。ただあまりにも暇で、真っ先に思いついたのが夏休みだったからな。

 

「うーんとね、一応夏期講習に行く予定……ぐらいかな。今のところは」

「三浦達と遊びに行かないのか?」

「みんな勉強で忙しいって。姫菜も色々何かお盆近くの時期にイベントがあるらしくて忙しいんだって」

 

 間違いなく隣の駅にあるあそこのイベントですね、はい。もうそんな時期かー材木座にまた頼まないとな。

 

「だから今のところはないかな。ヒッキーは?」

「俺も夏期講習ぐらいかな」

 

 本当は雪ノ下とどっか行かないか話しているのだがそれは黙っておこう。何か色々聞かれそうだし。

 すると由比ヶ浜が何か思いついたかのか口を開いた。

 

「そしたらさ……みんなで旅行行かない?」

「みんな?」

「私とヒッキーとゆきのんで!」

「……えーと待て。色々問題あるだろ?」

「何が?」

 

 いや何がってあーた。

 

「まず女二人、男一人で旅行行くこと。それにこの夏の時期に旅行は親から簡単に許可貰えるわけないだろ? あとお金もそんなにないし……」

「ヒッキーいても平気だよ? むしろいてくれたほうが何か会った時頼りになるし。それにママからは思い出作りなさいって言われてるから大丈夫だし、お金は……何とかするし」

「うーん……つかそれって日帰り?」

「えー! 泊まりで行こうよ?」

「……部屋が二つ必要になるんだが」

「何で? 一つあればいいでしょ?」

 

 だから着替えとか寝る時とかどうすんだよ。まあこの子の場合平然と着替えそうだし、俺が隣にいても寝そうだけど。んでその様子を見てると雪ノ下から睨まれ、朝まで外に放り出されるところまで想像できる。

 まあ行きたいか行きたくないかで言えば……行きたいし、由比ヶ浜もさっきから上目使いでこっち見てるし……。

 

「駄目?」

「……雪ノ下と相談して決めてくれ」

 

 親父達に何て言おうかな…….。少なくとも小町は早めに気付かれるだろうから俺の口から先に言っといた方が変に疑われずに済むかもしれないし。

 

「あ、ヒッキー次だよ」

 

 

 いつの間にか順番が来ていたのでそのまま中に入る。それにしても旅行かぁ……はぁ……。

 

 

× × ×

 

 

 

「うーん楽しかった!」

「あ、ああ……疲れた」

 

 

 久々に遊んだせいか結構疲れた。てかあんなにアトラクション回ってもにこにこしているこいつは本当に何者……。

 

「さてと……ヒッキーまだ時間は平気?」

「ああ。てかお前こそ平気なのか?」

「ママから許可もらってるから遅くなっても大丈夫だよー」

 

 娘に優しいんだな、どの家も。息子には厳しいけどね。

 時刻は夜八時を回っており、ここから家に帰るには遅くとも九時には出ないといけない。

 

 

「じゃあヒッキー……最後に付き合ってほしいところあるんだけど?」

「いいぞ。どこいけばいい?」

「こっちこっち」

 

 再び由比ヶ浜につれてかれ、歩いていくと砂浜にたどりついた。ちょうど先程のテーマパークから目と鼻の先にある場所なのですぐに着いた。進んでいくとベンチを見つけたので並んで座った。座ったところで視界に入ってきたのは東京湾と光っている遊覧船と都心の夜景が一望できた。綺麗な景色だがあの光の先には未だに家に帰れない社畜がいると思うと何だか複雑な気持ちになる。

 

 

「今日はありがとね」

「へ?」

「いやさ……急に誘ったのに来てくれて」

「いや俺も暇だったし……カップルデーとやらが今日だったのが悪いんだし。まあ俺じゃなくてもよかったかもしれないけど」

「ううん。私は……ヒッキーと一緒がよかったよ。他の人とじゃなくて、ヒッキーと一緒に来たかったから誘ったんだよ?」

 

 お互いの視線は真っ直ぐ向いていて、互いを向き合うことはない。きっと表情を見たら色々思ってしまうことがあるだろうから。

 

「最近さ……ゆきのんといて楽しそうだよね」

「……ああ」

「この間もさ、二人で一緒にカフェいるところ見たし、小町ちゃんに聞いたらヒッキーがゆきのんの家に泊まりに行ってるって言ってたし」

「……ああ」

「……好きなの? ゆきのんのこと」

「……はっきりとは言えない。でも好きか嫌いかで言えば……好きかもしれない」

「そっか」

 

 諦めがついたような声でふうとため息を吐いた彼女は立ち上がると俺の前に立ち、えへへとさっきまで見せた笑顔を見せて、口を開いた。

 

「ヒッキー」

「何だ?」

「……聞いてほしいことがあるんだけどいいかな?」

「ああ」

 

 座って聞くのは失礼だ。立ち上がって由比ヶ浜の横に立ち、彼女の方を見る。彼女の表情はだんだんと無理に笑顔を作っていて、今にも泣き出しそうな表情で見てるこっちが辛い。でも目を逸らしてはいけない。これから彼女が言おうとしていることは想像がつく。

 だからそれをしっかりと聞かなきゃいけない。

「あのね……」

 

 息を飲んで、覚悟を決める。俺が言う訳じゃないのになんでこんなに緊張しているんだろうか。きっとそれは相手がこいつだから。由比ヶ浜結衣だから緊張を隠せないんだと思う。

 

 

「私はヒッキーのことが......ううん。比企谷八幡君の事が好きです。私と付き合ってくれますか?」

 

 

 

 そして緩やかな笑顔を見せた。その笑顔は信頼や友情、感謝、そしてずっとずっと思ってきた想いを秘めた笑顔でこんなにも可愛いんだと心から思う。

 由比ヶ浜結衣は可愛い女の子で明るい女の子だ。けどそんなの当たり前の事で今までちゃんと意識したことはなかったけどこんなにも可愛い女の子だったんだと。一緒に過ごしてきた部員はこんなに可愛い女の子だったんだと。

 そんな可愛い彼女を振る男なんて本当に馬鹿だと思うし、見る目がないっていうレベルじゃないと思う。女に興味がないか……他に好きな人がいるかのどっちかだ。

 だから俺は素直に思ったことを口にした。

 

 

「ありがとう。お前からそういうふうに思ってくれてたのはびっくりだし、なんつーか……嬉しい」

「ありがと。じゃあヒッキー聞かせて」

 

 言わなきゃ駄目なのか? 

 その言葉を言い出せない。この答えから逃げ出したい。でも彼女は、

 

「もうわかってる。わかってるから早く言って……ね?」

 

 覚悟を決めていたのだ。だから俺が逃げ出すわけには行かない。

 はっきりさせなきゃいけないからだ。

 

「……ごめん」

「……あーあ。失恋しちゃった。自分で告白なんて初めてだから緊張して言ったのにフラれちゃったなー」

 

 あははと笑っている彼女が無理してしゃべっているのも知ってる。知ってるけど俺が声をかければきっと余計に傷つけちゃうから。

 

 

「ちなみにさ……もう一度聞いていい?」

「……何だ」

「ゆきのんの事好き?」

 

 

 

 

「……好きだ」

 

 

 

 

 

 






報告のみですが俺ガイルの発売が延期ということで少し話が伸びることになりました。
今後共温かい目でお読み頂ければ幸いです。

では

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