「いやー美味かった。次は東京支店の方にも行ってみるか」
「そうですね」
ラーメンを食べ終えた俺達は店を出て、駐車場にいる。無様なところを見せてしまったようで本当に恥ずかしい。しかし不思議と悪い気分じゃないのでまあいいかなと思ってる。
「さて……ここからもう一人増えるんだがいいか?」
「もう一人?」
「君がこれから動くなら力になってくれる奴だよ」
そう言って車の方に先生は顔を向けたので俺も続いて向くと、先程乗った先生の愛車のスポーツカー。その車の前には見覚えがある顔が立っていたが正直いきなりこの人とエンカウントは心の準備ができていない。
「静ちゃん、おっそーい」
「すまんすまん。替え玉を4つも頼んでしまってな」
「そんなに美味しかったの?私も今度行こうかなー」
そう言って微笑んでるのはもちろんこの人、雪ノ下陽乃だ。先日告げられた言葉が脳裏に浮かび、思わず目を逸らしてしまう。
「さて。私はコーヒーを買ってくるから二人はここで待っててくれ」
「え!? ちょ」
静止する前に平塚先生は自販機の方へと行ってしまった。後をついていこうと思ったが今そんなことをすればこの人に今後会わせる顔がない。というより言うなら今しかない。
「あの……雪ノ下さん」
俺の声に反応することなく、彼女はそっぽを向いていた。が、あんなことを言われたんだからこんなの予想範囲内だ。そのまま続けて俺は精一杯謝罪の言葉を述べる。
「本当にすいませんでした!」
声と共に大きく頭を下げる。土下座にしとけばよかったかな? でもふざけてると思われるかもしれないしなー。いや大魔王相手なら土下座でもふざけてるレベルかもしれん。
しかしそんな予想とは裏腹に俺の謝罪の様子を見た雪ノ下さんはようやく俺の方を見て、ニコっと笑った。
「……うん、もういいかな。よく言えました」
「え?」
顔を上げると微笑んだ雪ノ下さんがいた。
「君があのままでいるなら本当に私は雪乃ちゃんに関わらせないようにするつもりだった。でもちゃんと自分のことを反省できてるならおっけーね」
もしかして最初からこのつもりで……。相変わらず何を考えているか読めないけどそれでもこの人なりに俺の事を気遣ってくれたいたんだと思う。だからあんな厳しい言葉を送ってくれたんだろうし。
「でもそれを言う相手は私じゃないからね。ちゃんと本人にも言ってよ?」
「もちろんそのつもりです」
「ならよろしい」
さすが雪ノ下陽乃。あなどれない人だ。
「で、比企谷君。さっそくで悪いんだけどこの人知ってる?」
そう言って雪ノ下さんは自分の携帯を俺に見せてきた。その画面には動画サイトが開かれているが……これってどこかで見たような気がする。
「そのケヤキって人。総武高校の人なんだよね?」
「らしいですね……」
「私なりに色々調べたんだけどどうも雪乃ちゃん。その人の動画を見て、ああなったんだよね」
「へえ……え?」
あの雪ノ下がこんな恋愛動画を? 絶対こういうの信じなさそうなのに?
どう考えても想像がつかない……。
「よっぽど比企谷君の事が好きだったんだね!」
「……何も言えません」
俺の為にこんなものまで見ていたと思うと申し訳なさを感じてくる。いやこういうことしなくても素のままでいいと思うよ?
「で、ここからが問題なんだけど。昨日雪乃ちゃんが寝た時にこっそり携帯を見たんだよね」
姉としてそれどうなんだろうと思うが置いとくとしよう。
「ここ最近そのケヤキって人と親密に連絡取ってたみたいでさー比企谷君のことを誘惑しようとしたのもその人のアドバイスっぽいんだよね」
思わず冷や汗が流れる。誘惑ってつまり……あの事だよな。完全にバレてるよな。
目の前の雪ノ下さんは面白がるようにニヤニヤしながら笑っている。
「まあその辺はまた後日詳しく聞くとしてー」
「絶対言わないんで」
あんなこと言えるかボケ。
「何かさ……そのケヤキって人ちょっと怖いんだよね。ネット上でしか会ってないはずなのに雪乃ちゃんの名前を知ってたし。それにだんだん雪乃ちゃんが精神的に不安になってきているところを付け込んで、うまく近づこうとしていたし。まあ精神的に不安なのはわかるけど警戒心なくしちゃうのは雪乃ちゃんも甘いなー」
「……そのケヤキの正体を探ればいいんですか?」
「察しが良くて助かるよ。一応どういう人かは確認しておこうと思っててさ」
確認だけで済ますつもりはないんだろうなと思うがここまでの話を聞くと俺も気になる。こいつのことは生徒会室で一色が紹介してたから若干覚えている程度と総武高校の人がやっているということだ。総武の人間、全員を洗うとなると結構難しい。もっと他に情報がないと……いや待て。
「このケヤキって人物……雪ノ下の事を知ってるんですよね?」
「恐らくね。メールでの会話だけで名前がわかるってことは」
そうなると一番可能性が低い一年生はパス。まだ入学してそんな経っていないし、一年生に騒がれるようなことはしてはいないはずだから雪ノ下の名前を知る奴は少ないはず。
となると二年生か三年生になる。ただ雪ノ下に近づこうとしていることから考えるとこいつは雪ノ下に何らかの好意をもっていることを考えれば、そのあたりから調べれば何かわかるかもしれない。
なんて考えてると携帯が鳴る。俺のではない。雪ノ下さんの携帯だ。
「あ、隼人からだ。雪乃ちゃんの様子を見に行ってきてと頼まれたんだ。もしもしー?」
こういう交友関係に詳しいのは恐らく由比ヶ浜とか一色に聞くしかないが……やっぱりきちんと謝るのが先だよな。雪ノ下の事もあるがそっちのこともあるし、問題は山積みだ。
『うん、それで?……わかった。とりあえず隼人は何人か集めて雪乃ちゃんを探して。なんかわかったら連絡して。それじゃあ』
雪ノ下さんは携帯を下ろすと、ふうと息を吐いて言った。
「……雪乃ちゃんが家から消えたって」
× × ×
雪ノ下の失踪発覚からすでに2時間が経過している。俺と雪ノ下さんと平塚先生はバラバラに別れて探すも全く見つからない。
先程連絡があり、葉山も由比ヶ浜や一色、他にも三浦や戸部、海老名さん等に協力をお願いして捜索しているが全く見つからないという。俺も人数が欲しいと考え、戸塚に材木座、それに小町と川崎達にもお願いして探してもらっている。
あいつがいきそうなところ……全然想像がつかない。普段は休みの日も家にいるらしいので外には出ない。出るとしたら由比ヶ浜が遊びに誘ったりする時だ。しかしその辺はすでに由比ヶ浜が探したらしい。
俺もとりあえず駅前辺りにいるんじゃないかと思い、駅付近まで来てみたが見つからない。どこに行ったんだよ……。
「なんだ。来てたんだ」
ふと声が聞こえるので視線を変えると見覚えのあるポニーテール。大丈夫だ、もう名前は覚えてるから、川越さん。
「先にあんたが探してたんだ。じゃあ探しても意味ないか」
川越じゃなかった、川崎はため息を吐き、携帯を取り出すといじり始めた。どこかに連絡をしているのだろうか。
てか待て。こいつもこう見えて噂話とかは詳しかったような……もしかして知ってるかもしれない。
「ちょっと聞きたいことあるんだけどいいか?」
「あん?」
いや質問しただけでそんな威嚇するような態度はやめて! 怖いから怖いから。
「最近雪ノ下に好意を持ってるつーか……雪ノ下の事を好きっていってるやつを知らないか?」
「……好意っつーか告白したやつなら知ってるよ」
「教えてくれ! それ誰なんだ?」
思わず顔を近づけてしまった。川崎は少し顔が赤くなるもそっぽを向いて答える。
「3月ぐらいかな……前のクラスの女子が帰ろうとしていた時に昇降口近くの階段で告白現場を見たんだって。でもあっさりフラれたらしくてさ……男子の方は凄い悔しそうな顔をしていたらしいけど」
「そいつ名前わかるか?」
「えーと……確か高杉だっけ?」
高杉か……たかすぎ……すぎ……スギ?
確かあの動画の投稿者はケヤキだよな……。ケヤキとスギ……。
無理矢理こじつけたような感じだが可能性としては0ではない。
「俺、ちょっと雪ノ下さんと合流するから引き続き探してくれ! 情報ありがとな! 愛してるぜ川崎!」
そう言い捨てて走り出す。雪ノ下さんは確かこの近くで探していたと連絡があったからまだいるはずだ。急いで会わないと。
ふと後ろから聞き覚えのある物凄い絶叫が聞こえた気がするが何かあったのだろうか。
お読みいただきありがとうございました。
ペース的にはこんなところですかね。
このペースで行くと最新刊発売前には終わる予定なので
次のシリーズはそこからですかね。
今後共少しでもお読み頂けたら幸いです。
では