雪ノ下雪乃は素直になりたい。   作:コウT

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雪ノ下雪乃は比企谷八幡が好き

 

 

 

 雪ノ下雪乃は比企谷八幡が好き。

 

 

 その気持ちを彼に伝えられればどんなに楽になれるのかといつも思っていた。彼と知り合ってからもうすぐ一年になる。最初は変な人だと思ってた。言ってる事が捻くれていてその考えが性格にも影響している。解決するために自分が傷つくことを躊躇わなくて、私は親友である由比ヶ浜さんと共に彼のやり方を否定したこともある。でも彼はそんなやり方をやめた。ある事がきっかけで彼は自分の本心を私達に教えてくれた。その事で奉仕部は元通り、いや、それ以上の関係になるきっかけになったのだ。

 そして私自身の問題に対しても彼等は協力してくれた。その結果母と姉に自分が考えていることを伝える事が出来た。姉は最後まで理解しようとしてくれなかったが構わない。

 

 

 そんな中、私の中で好きという感情が芽生えたのだ。その好きである気持ちを伝える相手はきっとそんな気持ちなんて知らない、私だって初めは彼の事を嫌ってたのかもしれないし。でも彼の事を知っていく内に私はどんどんと惹かれていった。

 

 

 誰にも取られたくない。由比ヶ浜さんにも、一色さんにも。

 私は他の誰よりも比企谷八幡の事が好きだと思ってると自信持って言いたい。

 

 

× × ×

 

 

「うす」

「やっはろー! ゆきのん」

「こんにちは、二人共。さっそく紅茶を淹れましょうか」

 

 今日もいつも通り奉仕部に顔を出す。早いものでもう3月になり、今日は終業式である。先日、卒業式が行われ、先輩であるめぐりんことめぐり先輩を送ったばっかなので何だか学校も広く感じる。

 

「それにしても今日も部活やるなんて思わなかったな」

「今日は春休みの連絡だから来てもらったのよ、まああなたの場合何も予定ないのだから活動には全て参加できると思うけど」

「ちょっとー? 俺の予定勝手に決めないでくれるー?」

 

 これでも受験生になるので予備校という予定がある。スカラシップを狙っていることを忘れたのかお前ら。

 

「私もそんなに予定ないから平気だよー! 予定と言っても優美子達と遊ぶぐらいだし」

「そう。なら全員大丈夫のようね」

 

 どうやら俺の予定無視のままこのまま進むようだ。これが多数決社会か、日本という国は本当に多数決大好きだよね。少数派の意見はねじ伏せられるから恐ろしい恐ろしい。

 そんな多数決の提案者、雪ノ下は紅茶を淹れたカップと俺専用の湯のみを手に持ってテーブルに持って来た。

 

 

「はい、どうぞ」

「わーい、いつもありがと!ゆきのん!」

「べ、別にお礼なんて……」

 

 

 うん、嬉しいんだよな。わかる。だが、動揺して俺の湯のみから紅茶をこぼすのはやめてくれ。

 

「あ!ごめんなさい、すぐに淹れ直すわ」

「ああ、悪い」

 

 悪いね、ほんと。なんだかんだ部室に来るたびに淹れてくれる雪ノ下には感謝してる。俺なんかにも淹れてくれるのだから。

 いやーただで飲む紅茶は美味いな、うん。

 

「次回から料金制にしようかしら」

「だから心読むのやめろ」

 

 そんでもっていきなり目の前に立つのもやめろ。ビビるわ。

 

「働かざる者食うべからずと言うでしょう。この場合飲むべからずだけど」

「おい待て。俺が学校に行ってるという時点ですでに働いてると行ってもいいぞ。授業中はクラスの空間や人間関係に耐え、放課後は生徒会とかいう人を理不尽な理由で労働させる機関で毎日労働もしてる」

「色々矛盾してるわね……あなたクラスにいても存在する認識されないから空間や人間関係に耐える必要性はないし、生徒会もあなたが彼女に甘いからつけ込まれるのよ」

 

確かに……一理あるな。てかいつのまにかいつも通り罵倒されてね? これ。

 

「ははは……まあ確かにみんなヒッキーのこと気づ……興味ないだろうし」

 

 苦笑いしながら話す由比ヶ浜さん? 最近お前も中々酷いこと言ってるからね?

 だが、どうやらゆっくりしてるのもここまでのようで部室のドアが開かれた。

 

「せーんぱい! さ、さ、今日も行きますよ」

「さも当然のように連れて行こうとするな。いつから俺は生徒会役員になった?」

「やだなー先輩は私のど……奴隷に決まってるじゃないですかー」

 

 言っちゃったよ。とうとう奴隷って言い切ったよ。さすがにこれには雪ノ下もこめかみに手を抑えてため息をつく。由比ヶ浜も苦笑いしながらこちらを見ている。

 

「一色さん? 最近あなた比企谷君に頼りすぎなのでは?」

「えーでも先輩だってー私と一緒にいたいらしいですしーそれに先輩いれば早く終わりますし」

 

 そう言うと一色は俺に向けてウィンクしてくる。いや知らん。まず一緒にいたいも何もお前が俺を拉致ってるからね?

 

「で、でも! そろそろヒッキーも受験勉強で忙しくなるし」

「でもー先輩がー私をー生徒会長にー」

「わざとらしく言うな。わかったわかった」

 

 もう諦めますよ……。どーせ今日もギリギリまでこき使われて、「じゃあ先輩! 家までよろしくです」と自宅までの送って帰宅したら今度は由比ヶ浜からの電話であいつが眠くなるまでトークタイムだ。ちなみに電話に出ないと次の日がとんでもなく面倒なことになるので出ないといけない。教室で変なこと言うのやめようね? ほんと。

 

「てなわけで悪いが」

「なら私達も行くわ。そちらの方が早く終わるし」

「あ、いいのか?」

「さすがに可哀想と思っただけよ。それに一色さんと二人きりにさせたらあなた何するかわからないし」

 

 左様ですか……。まあ一人でも多い方が早く終わるし、手伝ってくれるのは雪ノ下達だ。なんだかんだ事務能力は高いのでサクッとこなしてみせるだろう。

 

「んーまあたまにはいいかなー。んじゃ先輩方よろしく」

「邪魔するぞ」

 

 一色の言葉を遮るように入ってきたのは当然平塚先生だ。雪ノ下ももう諦めたのかノックをとは言わない。いや生徒に諦められるって中々だぞ、おい。

 

「取り込み中悪いがちょっと書類の仕分け作業を手伝って欲しいんだが大丈夫か?」

「その……私達今から生徒会の手伝いに」

 

 由比ヶ浜が申し訳なさそうに答える。しかし生徒会長の方はニコニコしながら口を開いた。

 

「あ、そーいうことなら大丈夫ですよ! 先輩一人いればいいんで!」

「そうか? ならすまないが雪ノ下、由比ヶ浜。お願いしてもいいか?」

 

 うん、知ってた。平塚先生来た時点で察したよ。早々に諦めたからね、もう。

 しかし何故なのか目の前の2人も落ち込んでいる様子だった。

 

「終わったらヒッキーと遊びに行こうと思ったのに……ずるいよ、いろはちゃんだけ.……」

 

 なんかブツブツ言ってるが聞き取れん。雪ノ下も何か様子だ。何で?

 

「じゃあせんぱい! 早く行きますよ!」

「へいへい、じゃあ悪いが今日もこれで抜けるわ」

「ええ……わかったわ」

 

 心なしか雪ノ下の声に覇気を感じない。いつもならこういう時、「あなたは備品なのだからさっさと仕事を終えて、こちらの仕事の為に働きなさい、いいわね?」と脅迫じみたことを言ってくるが何も言わない。

 何も言ってこないと逆に怖いんだが……。

 

「あ、そ・れ・と。先輩、今日も帰り遅くなるのでい・え・ま・で送ってくださいね」

 

 何故か知らんが一色はニコニコと笑いながら、雪ノ下達の方に向かって言い出した。いやそういうこというのやめようね? また変に揉めたらめんどいし。

 

「ほら早く行くぞ」

「はーい」

 

 とりあえずさっさと退散退散と。そのまま部室を後にして生徒会室へ向かう。出る際になんか雪ノ下と由比ヶ浜がぶつぶつ言ってたがまあ気にしないことにしよう。

 

 

× × ×

 

 

「むぅ……何かいろはちゃんに少しだけイラっときたかも」

「不思議と私も同じ気持ちだわ……。でも何故一色さん、私達に向けて言ったのかしら?」

 

 誤魔化すように言ってみる。本当は理由なんてわかってるのに。

 

「ゆきのん、わかってるくせに嘘つくのはよくないよ? いろはちゃんはあれだよ、えーと……挑戦してきたんだよ! 私達に」

「そうね。でもそれは由比ヶ浜さんだけなんじゃ」

「嘘つかないの! ゆきのんも素直にならないとダメだよ! 多分私達の気持ち気付いたらきっと距離置いちゃうだろうし……」

 

 知ってる。彼の事だからきっと告白する舞台に呼ぶこともできない。今の関係より先に行ってしまえばきっと彼は距離を取る。それだけは嫌だ、彼と離れるなんて絶対に避けたい。

 

「……青春してるんだな、君達は」

 

 寂しそうに平塚先生は呟く。そういえば比企谷君と一色さんのやり取りですっかり忘れてた。

 

「はぁ、書類持ってくるから待っててくれ」

 

 心なしか何やら落ち込んでる様子で教室を出て行った 。先生、ごめんなさいね。

 正直、書類の仕分けなんか放り投げて、早く生徒会室に行きたい。比企谷君と一色さんが二人きりの空間を作っていると考えると居ても立っても居られないがそれは隣にいる彼女も同じのようだった。由比ヶ浜さんは不安そうに携帯の画面を見つめている。恐らく彼に連絡しようとしてるのだろうが文面が思い浮かばないんだろう。

 由比ヶ浜さんに一色さん。二人共彼を好きな気持ちを隠そうとせず、少しでも彼に近付こうとしている。

 でも私はできない。素直になって、彼と色んなことをしたい。遊んだりもしたいしたくさん話したりもしたい。

 

 比企谷君、あなたが好き。好きなのにどうして......あなたは気付いてくれないの?

 

 

× × ×

 

 

 あれから仕分け作業を始めたが由比ヶ浜さんがミスをして、書類がめちゃくちゃになったりしたので思いの外時間がかかってしまった。

 私はいつものように鍵を返しに職員室に向かってる。結局今日も生徒会室に行くことは出来なかった。仕事が終わらなかったのだから仕方ない。

 職員室に行き、鍵を返すと由比ヶ浜さんの待っている昇降口を目指す。いつも先に帰ってていいと言ってるがいつも待っててくれてるので申し訳ない気持ちになる。私は急ぎ足で向かう。

 ふと昇降口に繋がる階段に誰かが立っているのが見える。

 

「雪ノ下さん」

 

 思わず顔を上げて、彼の顔を見る。どこかで見た顔だが忘れてしまった。

 

「雪ノ下さん、部活お疲れ様」

「……あなたは?」

「高杉っていうんだけど今、ちょっといいかな?」

 

 なんとなくわかってしまった。このような出来事は今まで何度も会ってきたからこういう時の勘はいつも以上に冴える。

 

「ごめんなさい、悪いけど友人を待たせてるから」

「あ、そのすぐ終わるから。少しだけでいいからさ? ね?」

 

私は小さくため息を吐く。仕方ない、さっさと終わらせよう。

 

「雪ノ下さん、俺と付き合って」

「ごめんなさい、無理です」

 

あまりにもバッサリ言うものなので目の前の彼も唖然としている。しかしはっきり言っとかないと彼も諦めがつかないだろう。

 

「私、今は部活で忙しいしそれにあなたのことをよく知らないし知る気もないから付き合えないから。それじゃ」

「ちょ、ちょっと待ってよ! そんなんじゃ納得できないって」

「あなたが納得できなくてもしてもらわないと困るのよ。正直こういうの迷惑なのだけど」

 

私の言葉に彼は黙ってしまう。全く随分時間を無駄にしてしまった。私は駆け足で階段を降りてく。

 

「やっぱり比企谷のことが好きなのか?」

 

後ろから降りかかってきた言葉に思わず足が止まってしまった。振り返ると彼は悔しそうな表情しながら私を見下ろしていた。

 

「みんな言ってるよ、比企谷なんかがいるのに雪ノ下さんと由比ヶ浜さんが奉仕部を辞めないのは比企谷のことが好きなんじゃないかって」

 

 反論しようと思ってもすぐに言葉が出てこない。彼の言ってることに動揺しているの?

 そんなはずがない。今までもくだらない噂は数多くあったが無視してきた。第一私達のことを知らない第三者に言われる筋合いはない。大きなお世話だし迷惑。

 私は彼の方を向いて口を開いた。

 

「そんな噂を信じてる時点でまず無理ね。私達のことを知りもしないで勝手なことを言わないで。それとどんなに頑張ってもあなたと付き合うなんてありえないから」

 

 言い終えると私は再び歩き出す。彼は驚いているようだったが食い下がることなくこちらを見つめていた。

 

「じゃあ何でそんなに必死に否定してるんだ? 焦ってるんだろ? 本当のことを言われて」

「勝手に言ってなさい」

 

 これ以上相手にするだけで無駄だ。早く由比ヶ浜さんの所に行かないと。

 私は再び駆け足で彼女の元へと向かった。彼は私の方を見つめていたがもう関わることはないのだ。というよりこちらから関わりたくない。

 男性で興味を持ち、私と関わりを持ち続けて欲しいと思うのは一人だけなのだから。

 

 

 




久々の投稿です。


のんびり投稿してくので
よろしくお願いします。

前の夢シリーズはpixivで完結したので
こちらも順次更新していきます。

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