転生青年は行くのさ、ハイスクールD×D!   作:倉木遊佐

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主人公はゲスなんかじゃない…はず。
今回で大体の人はクロスキャラを察せることでしょう(´ー`)


あくまで一日常

 ガタガタと僅かに揺れる車内。冥界を駆け巡る列車の一つ、その3両目にアステリオは居た。

 二週間ほど前に届いた現魔王サーゼクス・ルシファーからの会合への招待にあずかり、彼は魔王領へと向かう列車に乗った次第である。言うまでもなく、彼の眷属も全員揃っている。

 だが、彼には納得のいかないことがあった。

 

「おい。何故軍服を着ていない」

 

 彼の軍服に対する意識はかなり高い。なにせ眷属全員分の軍服を自らの手で作成し、手渡すほどだ。

 こめかみを震わせながら彼は自身の眷属ーー正しくはその服装ーーを睨む。

 一番の古株で、彼に女王(クイーン)の駒を与えられたテトは、トランプのクラブのマークが目立つマリンキャップを目元を隠さない程度に被り、半袖シャツと半ズボンの上に赤色のパーカーを着ている。

 テトの普段着、言うなれば『ゲーセン帰りの少年』スタイルだろうか。

 

「普段着で会合に参加するのはどうかと思うのだが?」

「それを言うなら、君のソレだって普段着じゃないか」

 

 おっしゃる通りだ。しかし、お前のよりは列記とした正装である。と申したい彼だったが、深くため息を吐くことでその気持ちを誤魔化す。アステリオ・オリアクスという男は元より、テトにたいして強く出れない。

 そこでアステリオはターゲットを他の眷属達に変更する。

 どこぞの制服×3に、白衣、神父服はまだマシな部類だ。軍服こそ至高。

 とんがり帽つきの魔女服、薔薇が点在する改造ドレス、中華民族の改造装束×2。これらは流石にTPOに反しているのではないか。やはり軍服は最強。

 そんなことを考える彼が現魔王の一人、セラフォルー・レヴィアタンの普段着を知らないのは言うまでもないことだった。

 視線が自分に向いているのを感じたのか、魔女服の少女がアステリオの方へ振り向いた。

 

「アステリオ、一応言いますがこれは我が一族の正装ですからね」

「コスプレの間違いじゃないのかい?」

「それを言うならあなたもでしょう。悪魔の会合に神父服で行くとか正気ですか?」

「だとしても、僕の方がまだ正装としてまかり通っている」

 

 あまり豊かではない胸を張り宣言した少女に、神父服の男が茶々を入れる。この二人が彼の『僧侶(ビショップ)』なのだが、見ての通り絶妙に仲が悪い。

 お互い炎に関する魔術・魔法を使うから直ぐに仲良くなるだろう、と思っていたアステリオも、今では目を逸らす始末である。

 

「ねぇ、アステリオ。これはちょっとやばいと思うんだけど」

「進言。耶倶矢の言う通り、このままだと列車が吹き飛びます」

 

 どれぐらい目を背けていただろうか、同じ制服を着ている双子が慄きながらも話しかけてきたことによって彼は現状をやっと確認した。

 

「ーーうるさいですよ、エセ神父」

「口を閉じようか、爆裂ジャンキー」

「……皆は?」

「無論。とっくに車両の隅へ退避してます」

 

 アステリオの眼の前では、少女が杖を構え、男がルーン文字が書かれたプレートを構えていた。

 どこをどう見ても戦闘態勢にしか見えない状況に、一周回って冷静なままのアステリオは双子の片割れに全員の生存確認をする。この時、もう一方の少女は皆が避難している隅へと駆け出していた。

 

「夕弦、協力を頼めるか?俺があいつらの気をひくから拘束してくれ」

「快諾。アステリオからの頼みならば」

「すまないな」

 

 逃げ遅れた己と逃走していく耶倶矢の後ろ姿に呆れを向けながらも、隣に立つ少女の協力を取り付けた彼は立ち上がり、絶賛威圧感放出中の二人へと近づく。

 

「また君か……そう何度も同じ手を食らうと思ってるのか?」

「積年の恨みを晴らすまで鎮圧されるわけにはいきません。貴方がその剣に触れた瞬間に私の爆裂魔法が火を噴きますよ!」

「いい加減仲良くなってくれ。此方もこの様な手段はとりたくはない」

 

 互いに威嚇し合っている二人も、視界に入ってきた彼に鬱陶しそうなものを見る様な目と自身の得物を向ける。異様な程にシンクロしている二人の行動に、本当は仲が良いのではないかと勘ぐるアステリオ。それは希望的観測に過ぎないが。

 じっくりと彼らと目を合わせた後、激しく好戦的に燃え盛っている二対の眼を相手に深い溜息(本日五回目)を吐き、腰に吊るしているレイピアへ手を伸ばす。

「はっ!?」と二人が正気を疑うかの様に声を上げ、獲物を構える。冗談で済まさないあたり、正気ではないのは間違いなくこの二人だ。

 だがそれでも少しは常識が残っているのか、あくまでアステリオが剣に触れるまで待つ算段らしい。

 

(そこが甘いな。中途半端に善心を持っているやつほど搦め手には弱いんだよ)

 

 腹の内と表情の差が激しい彼が言えることなのかはさておき、彼は心のうちで笑いを堪えながらマントに隠された左手を出した。それは即興で作られた、伏兵への合図。

 その瞬間、アステリオの動向に気を取られていた二人の背後を先端に刃がついている鎖(ペンドゥラム)が襲いかかる。

 二人が気づいた時には彼らの首に巻きつき、一ヶ所にまとめられる寸前。

 

「無情。浅はかです」

「ちょっ、ぐびっ!」

「まってくばっ!」

 

 無慈悲に鎖を引っ張り、二人の僧侶の呼吸を止める橙色の髪の少女ーーついさっきアステリオが協力を頼んだ戦車(ルーク)である。

 二、三秒締め続けた後に鎖を緩める夕弦に、危険性の低下を察知し戻ってきた白衣の男が心配した口調で声を掛けた。

 

「これ、生きてるのか?」

「安堵。心臓は動いてます」

「リーダーも無茶なことを。見た感じ、後遺症も残ることはないだろ」

「それは良かった。テロ紛いの喧嘩をするアホにはいい薬となるだろう。ついでに監視を頼む」

「またか……」

 

 わざとらしく胸をなでおろす夕弦。

 その横で気絶した二人を軽く調べていた青いタータンチェックのネクタイが目立つ少女にアステリオが監視を命じる。嫌そうな顔をする◼︎◼︎だが、本当に嫌なら無言で逃げてもおかしくはない。

 他の奴らもこれぐらいマトモだったら……と、これまでの眷属達の所業を思い出す彼の耳に、扉を開く音が届いた。誰か入ってきた様だ。

 

「あのー、何かありましたか?」

「あぁ、車掌さん。少し騒いでいたものがいてな。申し訳ない」

 

 ビクビクしながら扉から顔を出した者の姿を見て、車掌だと気づいたアステリオは軽く礼をして謝罪する。大方不審に思った他の乗客が知らせたのだろう。車掌はアステリオのその態度を見て、「そんな、解決したのなら問題ありません!」と顔を上げる様に頼む。侯爵家の次期当主に謝罪させたというだけで、どんな目に合うことか。

 そこら辺の事情もしっかり学習しているアステリオは厄介ごとにしないため、わざとやっている。

 

「で、では失礼しますね」

「他の乗客にもすまないと伝えてくれるとありがたい。ご迷惑をおかけした」

「ええ、それではっ!」

 

 顔を赤くして急いで顔を引っ込めた車掌に、面倒なことにならずに済んで良かったと思いながら、彼の挙動に違和感を覚えたアステリオ。

 

「ーー失念。霊装のままでした」

「……過ぎたことは仕方ない。直ぐに着替えろ」

 

 ボンテージに近しい戦闘服を纏っている彼女を見て、気絶している二人以外の一行は自分たちの風評の低下を察したのだった。





ナイト
◼︎ ◼︎◼︎
マテリアル1『暗殺者の一族』

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