戦国BASARAの佐助を、AOGの至高の一人として突っ込んでみた!   作:水城大地

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続きが出来たので、投稿させて貰う事にしました。
暫く、だらだらとこんな感じの話が続きます。


俺様たち四人が、余裕で生活出来るパンドラの自室って…ねぇ

霊廟から出た面々は、最初にいた霊廟の前室に変化がないのを確認して安堵の息を吐く。

自分達が、霊廟内に居る間に侵入して来るものはいなかったのだから、安堵するのは当然だろう。

現時点では、宝物殿の最奥部とも言うべきこのエリアが飛ばされたここがどこなのか、まだ何も確認していない状態なのだ。

 

この世界の住人の強さが判らない以上、敵対する行為は控えたかった。

 

とは言え、この場所の外の通路に陳列されているだろう、伝説級のアイテムの回収はしておきたい。

モモンガ達には言ってないが、佐助はこの世界に飛ばされたと気付いた瞬間、真っ先に分身を通路の途切れた場所に飛ばしていた。

目的は、通路への敵の進入を防ぎつつ、こちらに敵の接近を報せる罠を仕掛ける事。

その目的は、何事もなく無事に達成されていて、佐助たちが霊廟内に行っている間も罠が起動した形跡もない。

そこまでしておいて、モモンガたちに霊廟前の前室の入り口を全て召喚モンスターで固めさせたのは、罠だけで敵の侵入が防げなかった時の壁役が欲しかったから。

 

この辺りも含めて、モモンガたちに話しておくべきだろう。

 

≪……これは、緊急避難的な意味合いがあったから、今の俺様がモモンガの大将たちを守るために出来る事の一つとして、大将たちには言わずにこっそりと単独で罠を仕掛けたけど、通路にある伝説級のアイテムや装備の回収する必要性を踏まえて話しておく方が良いよね。

とは言え、仕掛けた罠はあくまでも前世の記憶をもとにして構築した単純なものばかりなんだけどさ。

もちろん、ちょっとばかり【闇婆沙羅】を使用して見分けが出来なくしてあるけれど、それ以外は特に魔法やスキルを使用していないし。

だからこそ、大量に作成しても俺様自身のMPやHPには影響が出なかった訳だし、独断専行した事も含めて謝れば許して貰えると思う。

……思うけど、さっきの事を考えるとお説教は必須かなぁ……≫

 

そう思った途端、佐助は少しだけ口元に笑みを浮かべていた。

正直、説教されると判っている状況で笑うのはどうかと思ったが、それも全部心配しているからと言う彼らの気持ちの裏返しだと思うと、どことなくくすぐったい気持ちになって、無意識のうちに笑みが浮かんでしまったのだ。

本当に、小さく口の端を上げた程度にしか笑みを浮かべなかったのに、目敏くそれを見付けたモモンガが声を掛けてくる。

 

「佐助さん、何かいい事があったんですか?

それとも、何か気付いた事でも?」

 

様子を伺うような声で尋ねるモモンガに、霊廟から回収した仲間の装備を前にどう管理した方が良いのか、パンドラズ・アクターと話しながら横眼でこちらを見ているウルベルト。

パンドラズ・アクターも、時折視線を向けてくる事からこちらの様子を気にしているのが丸わかり出し、そこに何か問題があったのかと言う心配の色が見える。

どれも、自分の事を気にしてくれているのが良く判って、何処か気恥ずかしい気持ちを抱きながら、佐助はゆっくりと口を開いた。

 

「……実はさ、みんなに黙ってたんだけど……」

 

そうして、素直に通路の分断された部分の罠に関して佐助が告白した瞬間、予想通り三人がかり(そう、僕として控える筈のパンドラズ・アクターすら、苦言を呈してきたのである)で説教をされてしまったのだった。

 

***********

 

「……全く、佐助さんは独断専行過ぎます!

まぁ、状況的にすっかり通路の装備アイテムなど一切の事を忘れていたのは事実ですし、それに関しては感謝するべきなんでしょうけど。

これからは、ちゃんと相談してから動いてくださいね。

事後報告する場合でも、こんなに間を開けないで下さい。

佐助さん一人に無理をさせて、もし何かあったら……それこそ、俺たちは後悔してもしたらいないんですから。」

 

安全が確保されている事が確定した、霊廟前の前室のソファに座りながら、ぷりぷりと未だに怒っているのはモモンガだ。

その横では、ウルベルトが佐助の分身が書き起こしたこちらに来ている通路の配置図を前に、どの辺りにどのアイテムが残っているのか、パンドラズ・アクターと検証している。

佐助本人はと言えば、モモンガの座っているソファの前の床に正座させられ、がっつりと反省するように促されている最中だった。

予想以上に、モモンガに心配をかけて怒らせてしまった事を反省しつつ、佐助はモモンガに漸く許しを得てソファに移動する。

そして、テーブルの上に広げられていたこちら側に来ていた通路を確認して、眉を思い切り潜めた。

 

「……思っていたより、こっちに来ているエリアは多いけど、武器庫と防具庫が多いわりに消費アイテム系やデータクリスタルを始めとする素材系がかなり少ないねぇ。

これだと、それこそどれだけ各自のアイテム所有数が問題になってくると俺様は思うんだけど……その辺りは、パンドラの部屋の安全を確認して、最悪籠城が出来る場所を確保してからになるのかな?」

 

広範囲である事は、罠を仕掛けさせに向かわせた時点で把握していたが、その内容までは確認していなかった事を少しだけ悔やむ。

重要性が高いアイテムは、その時に回収すると言う方法もあったのに、すっかりそれが頭から抜け落ちていた事実に気付いたからだ。

とは言え、佐助的には単純なものだからこそ効果的な罠を仕掛けたつもりなので、そう簡単に抜けてくる者は居ないだろう。

 

罠の内容を話した時、ウルベルトもモモンガも、【えげつない】と言わんばかりに、それは嫌そうな顔をしていたのだから。

             

それはさておき。

佐助の言葉に、それまで図面を見ていたウルベルトやパンドラズ・アクターはもちろん、佐助の説教をしていたモモンガも考える素振りを見せる。

多分、アイテム等の補充が予想よりも少ないことから、今後の行動をどうするべきなのか考える部分が多くあったからだ。

アイテムの補充が出来るか出来ないかは、自分達がどんな状況に置かれているのか解っていない時点で割と重要な案件だから、余計に考える部分があるのだろう。

 

佐助だって、自分達が居る場所の情報の少なさには、いい加減神経を尖らせているのだから。

 

暫く沈黙が続いた後、口を開いたのはパンドラズ・アクターだった。

少しだけ躊躇いを見せた後、被っていた軍帽に手を掛けながらそれまで考えていた事を纏め上げたらしい。

スッと、視線を落としてから顔を上げて全員に向き直ってから口を開いた。

 

「では、やはり私の自室へまず向かうべきでしょう。

モモンガ様を始めとした、至高の御方々から頂いた品々はもちろんですが、モモンガ様が未鑑定の状態ではある者のレアだろうと言うアイテムを取り敢えず収納しておく場所として、使用していたエリアもありますし。

他にも、モモンガ様が個人的に【課金ガチャ】なるもので獲得したと思われる、中位から高位ランクのアイテムも収納してある場所もございますので、其方の内容も確認しておくべきかと。

出来れば、宝物殿の武器庫などの通路の収蔵品は使用しない方向で、話を進められるべきだと具申いたします。

こちらの世界では、あれら行為のアイテムは再入手できない可能性が高いと、その考えて今後の行動を進めておかなくては、本当に必要な際に既に手元になくて困る事態にもなりかねません。

もちろん、御方々の生命等を脅かす事態ならば、消耗する事を承知の上で使用なさることに反対するつもりはございませんが。

どちらにせよ、私の自室には通路の伝説級のアイテムよりも下位のアイテムが多数眠ってるのは間違いないのですから、私の部屋へ入り安全の確認と残りの通路のアイテムの回収が済み次第、私はそちらの整理に当たらせていただきたく願います。」

 

迷う暇があれば、行動をするべきだと主張するパンドラズ・アクターに、全員が苦笑を浮かべた。

確かに、安全な籠城可能な拠点の確保が済めば、次に必要なのは手持ちの物資の確認とこの世界の情報の収集だと言っていいだろう。

パンドラズ・アクター自身が、「自分が外に出ての情報収集する」と言い出さないのは、自分よりも索敵や情報収集に優れた佐助の影分身が居るからだ。

もちろん、パンドラズ・アクター自身の本音の部分としては、危険な事は自分が請け負うべきと言う考えもあるのだろうが、それでも最初の段階で単独行動を禁止されている時点で、同じ事を口にするつもりはないらしい。

何より、今までの様に割と簡単にアイテムが手に入らない可能性もある状況下において、どれだけ使える物があるのか初期の段階で確認しておくのは、当然の行動だった。

 

このメンバーの中で、アイテム管理に一番詳しいのは他の誰でもないパンドラズ・アクターなのだから。

 

パンドラズ・アクターの主張は、先程の佐助の言葉にも繋がるものだったので、モモンガもウルベルトも反対意見はないようだった。

むしろ、今後の事を考えるなら、確かにどれもきちんとしておくべき案件である。

そうして、パンドラズ・アクターの自室に向かうことが確定した。

 

******

 

パンドラズ・アクターの部屋への入り口を開くには、割と複雑な手続きが必要だった。

元々、王座の間のアルベドと同じく、自室を持たない設定になる筈だったのを、モモンガさんが課金して部屋を増設したと言う経緯がある。

だからこそ、隠し部屋のような仕様になってしまったのだ。

とは言え、この状況下では隠し部屋仕様なのは悪くない籠城先になるので、文句はないのだが。

 

「はい、鍵はこれで開きましたよ。」

 

扉を開けたのは、本来の部屋の主であるパンドラズ・アクターではなく、それらを設定したモモンガである。

何故、彼が扉を出現させて開けたのかと言えば、自分が知っているシステムと変化が無いかの確認の意味も兼ねてのテスト作業として、この扉が選ばれたからである。

モモンガ自身から、「この場所の創造主として、色々と設定に変化があればその差が見分けられるだろうから」と、パンドラズ・アクターを押し退けての主張をされた為、今回は彼の主張に譲った形になった。

今までの流れから考えても、この宝物殿内なら危険は少ないだろうと、そう判断された結果でもある。

 

扉の中に広がっていたのは、様々な書物が詰め込まれた書棚とアイテムを整備する為の様々な道具が並べられた道具棚、そして書棚を背後に控えた大きな執務机と椅子が並べられた書斎空間だった。

もちろん、部屋の中にあるのはそれだけではない。

余り見苦しくない程度に、部屋の書棚の前やら道具棚の前にも幾つかの箱が並べられていて、そこから幾つかのアイテムが顔を覗かせていた。

それらを一瞥した後、モモンガは慣れた様子で一つの呪文を口にする。

 

「……敵感知……」

 

部屋全体に向けてそれを掛けるが、どこからも反応は見られなかった。

遅れて反応があった時の事も考え、念の為に暫く待ったのだが……やはり、こちらに敵意を向けそうな存在はいないらしい。

それでも、そう言うものを隠せるアイテムなどを使用されていると困るので、先陣を切って部屋の中に入ったのは、佐助の影分身だった。

ざっと部屋の中を歩いて回って、彼自身の探知能力で何も感じないのを確認し、モモンガたちの方に振り返る。

 

「これなら、部屋の中に入っても大丈夫でしょ。

……少なくても、この部屋には何もいないみたいだからね。」

 

影分身が、佐助と同じ声で話すのを不思議な感じで聞きながら、モモンガたちは書斎部分へと入っていく。

一応、出入り口を閉めずにすぐに退出が出来るように影分身を入り口の守りに残し、改めて部屋の様子を見た。

どうやら、ここは主にパンドラズ・アクターの仕事部屋として、様々なアイテムの定期点検や磨き出し、そして材勢管理データの管理用に使用されているらしい。

そんな風に、彼らが部屋の中を探索するのを横目で見ながら、パンドラズ・アクターが真っ先に移動したのは執務机の前だった。

素早く手で触れると、丁寧にスライドさせるような動きを左右に何度か繰り返していく。

十数かいそれを繰り返し、最後に机の中央部分に出来た黒い空白部分に触れると、机の天板全体が揺らぎ……次の瞬間、そこに現れたのは宝物殿を始めとしたナザリック全体の資金運営管理画面だった。

 

但し、現在確認が出来ている宝物殿の奥殿を示す部分以外は、全て【NO DATA】と表示されていたのだが。

 

天板に表示された画面を見て、パンドラズ・アクターはやっぱりと納得したように首を竦めた。

状況的に、罠そのものが停止している時点で確認出来ない可能性が高い事は理解していたが、それでも自分の目で確認しなくてはいられなかったのだろう。

佐助やウルベルトは、この場所にこんな仕組みがあるとは思わず、興味深くそれを見詰めている。

逆に、この執務机の仕組みを知っていたモモンガは、苦笑しつつパンドラズ・アクターの肩を叩いた。

 

「お前が、先程から何かにつけて自室に向かいたがったのは、これを確認したかったと言うのも一つの理由なんだろうって事は、何となく分かってたんだ。

今、ここで表示されているのは、宝物殿内にある資金運営管理室のデータを転送したものだし。

元々、この部屋は資金運営状況の報告書を作る為にあるって設定で作り込んだ場所だから、この手の仕掛けも用意してあったんだよな、うん。

だけど……こうして資金管理画面を見る事が出来ない事が確定した事で、完全に別の場所に分断されているのは間違いない訳か……」

 

画面を覗き込みながら、状況を確認していくモモンガに対して、パンドラズ・アクターはそれまでたっていた場所を譲りながら同意するように頷いた。

これで、僅かなりとも繋がりがある可能性は完全になくなった事は確認出来たのだから、それだけで【良し】とするべきなのかもしれない。

同じ様に、反対側から画面を覗き込んでいたウルベルトが、スルリと指先で画面上にある第七階層の一角にある【赤熱神殿】を示す辺りを優しく撫でる。

そこが、彼の作ったNPCであるデミウルゴスが居る場所だから、ついその名前に反応してしまったのだろうとモモンガと佐助は当たりを付けたものの、それを敢えて口にする事はなかった。

逆に、佐助は改めてナザリック全体を図面として見た事で興味を引かれたのか、階層ごとに名前と要所を確認しながら何度も頷いている。

彼自身、他のギルメンのNPCの作成には協力をしたものの、一人だけで作り上げたNPCは存在していない。

仕事の関係上、ギルメンが揃っていた頃はログインが不定期だった佐助は、【ログインする時間を確保するのがギリギリでNPCを制作している時間まで取れない】と辞退したからだ。

そんな事から、自作と断言出来るNPCを持たない佐助は、ウルベルトのようにナザリックの中に強く執着する存在はいないらしい。

 

まぁ、自作のNPCが居たとしても、ウルベルトの様に執着したかと言われると、佐助の性格的に微妙なのだが。

 

それはさておき。

パンドラズ・アクターの行動によって、ここが完全にナザリックから分断されている事だけは確定したので、これからの行動の指針はある程度絞る事が出来るだろう。

もちろん、まだはっきりと話し合った訳じゃないから、あくまでも佐助の予想であり確定じゃないのだが、モモンガの性格とウルベルトの今の様子から考えて、ナザリックを探すのは第一条件に上がる筈だ。

モモンガは、仲間と共に作り出したナザリックとその場に居るだろうNPC、そして自分達のようにこの世界に転移してきた仲間が居ないか、気にしているだろう。

もしかしたら、自分達と入れ違いに円卓の間に現れて、そのままナザリックと共に転移している可能性だって、全くない訳じゃない。

 

そう考えるならば、モモンガがナザリックに戻る事を視野に入れて行動する事を主張するつもりなのは、ほぼ間違いなかった。

 

ウルベルトは、確実に自分が作り出した最高傑作である第七階層守護者である悪魔のデミウルゴスに、絶対に会いたいと思っているだろう。

何せ、目の前でモモンガの作ったパンドラズ・アクターが、自分の意思で行動している姿を目にしたのだ。

彼の性格なら、デミウルゴスが自分の意思で動く姿を見たいと思わない筈がない。

 

だからこそ、彼もナザリックへ戻る事を前提とした行動を主張するだろうと、簡単に予測がついた。

 

パンドラズ・アクターは、二人ほど戻る理由はない気が、佐助にはしていた。

彼にとって、モモンガやウルベルト、そして佐助が側に居るこの状況で、焦る理由はそこまで大きくないだろう。

もちろん、宝物殿領域守護者として、分断されているこの状況に対して何も思わない訳ではない。

 

だが、自分の創造主であるモモンガがいて、その親友のウルベルトと仲間の佐助が側に居るのを前にしたら、優先順位はモモンガ達に置かれてもおかしくないのだ。

 

そして佐助は、ナザリックに戻るかどうかに関して問われたら、パンドラズ・アクターと似たような感覚だと答えるだろう。

佐助の優先順位は、第一にギルド長であるモモンガだ。

その次に、この場に居るウルベルトが来て、その下にパンドラズ・アクターと続いていく。

これは、モモンガの事を自分が仕える相手として佐助が認識しているからであり、次にウルベルトがくるのはモモンガが親友として大事にしているからだ。

パンドラズ・アクターが、他のギルメンではなくそのすぐ下に来るのは、モモンガを一人にしたギルメンよりも彼が楽しげに作り出したNPCとして、自我を持った現時点では息子的な立場と認識したからに過ぎない。

 

そんな感じのメンバーだから、最終的にはナザリックに戻る意思は明確にあるが、それよりも現状の確認と安全の確保が優先されてしまうのは仕方がない話だった。

 

ざっくりとだが、そんな風に自分も含めた考察をしながら、佐助は影分身の片方を呼び寄せた。

ここから先の部屋に進むのは、今呼び寄せたこの影分身と佐助たちだけのつもりだ。

もう一体は、警戒体制のままこの場に残す。

そうする事によって、安全が確認されたここの場所の確保をさせておく予定なのだ。

もちろん、これは今からモモンガ達に話す予定だった。

先程、独断専行で叱られたばかりなのに、勝手に影分身を残したりはしない。

 

「モモンガの大将、ウルベルトの旦那、そしてパンドラ。

そろそろここから移動しないか?

今は、この先何があるか判らない状況下なんだ。

こうして、安全が確認された場所に居るのも良いけど、アイテム確保の為にも先を急いだ方が良いと、俺様は思う訳よ。

この部屋に関しては、俺様の影分身を一人置いておけば良いさ。

それなら、万が一の事態が起きた時にも対応可能だしね。」

 

書斎の中を探索し始めた面々に、佐助はそう声を掛ける。

今回は、行動する前にちゃんと相談したので、モモンガもウルベルトも文句はないらしい。

むしろ、その方が確実だろうと納得した様子で軽く頷くと、移動の為に奥に続くドアへと集まっていく。

パンドラズ・アクターは、少しだけこの場所に何か心残りがある素振りを見せるのだか、佐助の言葉にこの場は従ってくれるようだった。

そんな事を考えつつ、佐助は側に来た分身にこの場での待機と、万が一敵が宝物殿内に侵入して来た時に、こちらへの伝達とこの場の死守を命じておく。

 

「それじゃ、佐助さんの方の指示も終わったみたいですし、そろそろこの扉の奥のプライベートエリアに移動しまそうか。」

 

モモンガの言葉によって、四人は移動を始めたのだった。

 

********

 

佐助の分身を先頭に、パンドラズ・アクターのプライベートエリアを全て探索したのだが、特に何も問題はない事が判明した。

部屋の区画は、書斎から繋がるリビングから寝室、バスルーム、クローゼットルームやキッチンなど、それぞれの場所に直接移動できるような造りになっているのを確認して、ほぼここだけで生活可能な空間が出来ていた。

これなら、確かにパンドラズ・アクターの生活空間は、外に頼らずとも宝物殿の中だけですべて済ませて澄ませてしまえるだろう。

むしろ、至れり尽くせりの環境を前に、本気で驚く位である。

初めて入る、パンドラズ・アクターのプライベートエリアの豪華さに目を細めているのは、ウルベルトと佐助だ。

まさか、ここまできっちりと作り込んでいるとは思わなかったのだ。

 

「……確かに、これなら籠城する場所としては文句なしだね。」

 

佐助などは、寝室に備え付けられていたアメリカンサイズのキングベッドを見て、思わず苦笑してしまった位だが、この状況下ではかなりありがたかった。

あの広さのベッドがあるなら、ベッドで同時に二人……いや、ちょっときついのを覚悟すれば三人雑魚寝して休息を取る事も可能だろう。

リビングの三人掛けのカウチソファだって、あれだけゆったりしたサイズなら十分寝られるだけの広さがあるし、キッチンがカウンター仕様で、そのまま向かい合わせで三人までなら座って食事が出来る状態なのも、実にありがたい作りだと言ってよかった。

 

本当に、これだけきっちり何でもそろっているのを見ると、第九階層にある佐助の自室よりも設備的には充実しているのではないだろうか?

 

そんな事を考えつつ、安全確保が済んだリビングでパンドラズ・アクターがお茶を入れてくれるのを待っていた。

本来なら、安全確保が出来た時点で次の打ち合わせに入るべきなのだろうが、流石に色々とあり過ぎて一旦休憩すべきだと言う意見が採用されたのである。

パンドラズ・アクターのキッチンには、とても一人暮らし様とは思えないパンドリールームが併設されていて、きっちりと食品のストックがされているとのことだった。

しかも、それらの食品を収納する棚そのものに魔法処理がされていて、それぞれ食品の種類ごとの棚の中にある限り、腐敗などの心配は一切ないらしい。

 

それを聞いて、本気でこのパンドラズ・アクターの自室エリアは籠城が可能な仕様だと、佐助は思わずにはいられなかった。

 

今回提供されるのは、【ユグドラシル】では単純な嗜好品と言うだけではなく、集中力と知力アップ効果のバフが付くブレンドハーブティで、使用されたハーブは四種類。

タイム、マリーゴールド、レモンバーベナ、ローズマリーのブレンドだと、用意し始めた時点でパンドラズ・アクターから聞いている。

今回の休憩は、一旦情報を纏める前のリラックスタイムではあるが、同時に次の行動の為に色々と疲れた精神の回復も目的なので、パンドラズ・アクターがこのハーブティの選んだのは間違いじゃない。

それらのハーブを、手慣れた手付きでブレンドしてポットにお湯を注いでいくパンドラズ・アクターの姿は、とても様になっていた。

ウルベルトなど、優雅さすら見えるパンドラズ・アクターの動きを、目を細めながら見ている様子から察するに、デミウルゴスにも同じ事が出来ないか、考えているのかもしれない。

 

「皆様、どうぞお待たせいたしました。

お茶請けとして、チョコレートとプレーンの二種類のフィナンシェをご用意させていただいております。

こちらも、是非ご賞味くださいませ。」

 

ハーブティを用意する前にした押し問答の末、モモンガの横に座る事を漸く納得させる事が出来たパンドラズ・アクターによって、そう言いながら丁寧にテーブルの上に並べられたハーブティを各自で手に取ると、まずはその香りを楽しむ事にした。

用意されたお茶請けのフィナンシェも、精神疲労回復効果などが見込まれるバフが付いていて、ちゃんと考えて用意されたのが見て取れる。

目の前に用意された、それこそ食欲を誘う香りに目を細めつつ、最初にお茶を口にしたのは佐助だった。

これは、単純に前世の記憶によって毒見役的な意識が働いたからに過ぎないのだが、それに関して誰も気付いていないので咎められる事はない。

どちらかと言うと、この中で一番回復が必要だと思われているのは佐助だったので、最初にお茶を飲んだりお茶請けを食べたりした事に安堵している雰囲気すらあった。

 

「うん、どれも美味しいもんだね。

流石はパンドラ、こういう事をさせても卒が無いもんだねぇ。」

 

ハーブティを一口飲み、お茶請けのフィナンシェを一つ取ってモグモグと食べながら褒める佐助の言葉に、パンドラズ・アクターはスッと頭を下げた。

その様子は、どう見ても嬉しげである。

二人のやり取りを見つつ、モモンガとウルベルトも佐助と同じようにハーブティを口にして……次の瞬間、モモンガに思わぬ惨事が訪れた。

いや、ある意味予測すべき事態だと言うべきだろう。

 

全身が骸骨であるオーバーロードとなった時点で、モモンガが飲食不能だと言う事は。

 

口に含んだハーブティが、顎の骨からそのまま膝の上に零れ落ちる姿を見て、慌ててタオルを取り出すパンドラズ・アクターの正面に座ったウルベルトも、その横に座ってモグモグと二つ目のフィナンシェを食べていた佐助も、すっかりその事を忘れていたと言わんばかりに顔に手を当てる。

当の本人であるモモンガすら、自分が飲食不能だと言う事を考えもしなかったと、パンドラズ・アクターが取り出したタオルで膝を拭いつつ、【失敗した】と言わんばかりに片手で顔を抑えているのだから、用意した側のパンドラズ・アクターを責めるのは筋違いだろう。

しかし、だ。

パンドラズ・アクターは、この状況を前にしてそうは思わなかったらしい。

むしろ、自分の失態を責めるかのようにそれまで座っていた場所から床に移動して正座すると、叱責の言葉を待つ体制になる。

パンドラズ・アクターが、自分が叱責を受けると思った瞬間に床の上で正座したのは、先程モモンガたちが佐助の説教をする場面を見ていたからだ。

 

ある意味、お茶を飲みながら休憩するだけの筈の時間が、予想外に混乱した状況を招いたのだった。

 

 




という訳で、パンドラさんの自室に入りました。
次は、もうちょっとだけ話が進むと……良いなぁ。
後、今回出てきた彼の部屋の見取り図をざっくりと描いてみました。

ただ、鉛筆書きなので見難い場所もあるかもしれませんが、それはご容赦くださいませ。

パンドラ自室見取り図
【挿絵表示】

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