戦国BASARAの佐助を、AOGの至高の一人として突っ込んでみた! 作:水城大地
一話分、完成したので乗せておきます。
霊廟の中は、静かだった。
外の控えの間よりも薄暗く、どこか幻想的な雰囲気を醸し出している。
目的の場所は、霊廟の中でも少し奥に配置されたウルベルトのアヴァターラだ。
他の仲間の装備は、佐助の分身が行う話になっているのだから、サクサクとスルーして先へと進む。
暫く進めば、目的であるウルベルトのアヴァターラに辿り着いた。
少し不格好なそれは、モモンガが自分の手元にあるウルベルトの画像データを元に、何とか作り出したものである。
それを始めて目にするウルベルトも、造形に対して何か文句を言う様子はない。
元々、モモンガの不器用さはギルメンの中でも定評があった話だ。
それでも、色々と試行錯誤して作っただろう、仲間のアヴァターラに対して、文句を言うのはおかしいだろう。
不満があるなら、モモンガを残して【ユグドラシル】を辞めなければ良かったのだ。
そうすれば、こんな風にモモンガがアヴァターラを作る事もなかっただろう。
ウルベルトも、その事が良く判っているから文句なんて言うつもりはない様子だった。
≪まぁ……文句を言った瞬間に、俺様が一撃でウルベルトの旦那を沈めてやるつもりだったけどね。
モモンガの大将が、どんな気持ちでアレを作ったのか、それを察せられない奴には天罰(物理)は当たり前でしょ。≫
そんな風に考えていた事をおくびにも出さず、佐助は飄々とした様子でウルベルトのアヴァターラの台座へと一足で飛び上がり、慣れた手付きで装備を剥ぎ取ってはモモンガ目掛けて投げ下ろしてく。
こうして、佐助が台座に上がってサクサク回収すると言う段取りも、この霊廟の中に入る前の打ち合わせで決めておいた事であり、受け取った装備をモモンガがウルベルトに手渡してその場で身に着けていく事で、無駄にワンクッション置く時間を減らしていた。
それこそ、流れるような作業で装備を身に着け終えたウルベルトは、寸分の狂いもない位にぴっちりと己の装備を着こなしている。
「……改めてこうしてみても、やっぱりウルベルトさんのその姿は格好いいですよね。」
モモンガが預かりこの霊廟に収めていた、神器級以外の装備も揃えて万全の姿になったウルベルトは、確かに彼が目指していた【悪の魔法詠唱者】としての格好良さを際立たせていた。
だからこそ、モモンガが久し振りにその姿を間近に見て感嘆の声を漏らす様子にも、否定するつもりはない。
それに、言われたウルベルトの方がどこか照れながらも誇らしげな様子を見れば、佐助にも文句はないのだ。
佐助が見たかったのは、こうして仲間と楽しげに笑い合っているモモンガの姿なのだから。
佐助の横では、最後尾にいたパンドラズ・アクターも、ウルベルトの最強装備を纏った姿を目にして、感動したような顔をしている。
と言っても、あくまでも彼が醸し出す雰囲気からそう察しているだけで、実際に見える彼の顔は変化のない埴輪そのものでしかないのだが。
パンドラズ・アクターの場合、目を大きく見開いたとか目が座ったとかなど、目元の形の僅かな変化かないと、顔を見ただけではその感情を読み取れない。
これに関しては、創造主であるモモンガから見ても同じ状況らしいのだが、それでも漂わせている雰囲気から何となく微妙に理解出来る事もあるらしく、それで対応しているのだとか。
ぶっちゃけ、それ相応の外見を作らなかったのはモモンガ自身なので、彼がそれなりに対応出来ている状況なら、佐助はそれに対して何か言うつもりはない。
と言うか、多分今のままの姿で外に出る事は出来ないだろうと、何となく佐助の第六感が告げている。
多分、俺たちが今どこにいるのかその辺りが最終的に鍵になるだろうが、それでもこの感は外れていないだろう。
冷静に考えれば、判る話だ。
どんな世界に飛ばされたとしても、人の姿をしているよりも異形の姿をしている方が、好感度を得難い事の方が多いのである。
もちろん、最初から異形と人間種と仲良く過ごしている世界もあるから、一概には言えないかもしれない。
だが……それでもアンデットのモモンガをあっさりと受け入れてくれるかどうかとなれば、実に簡単だ。
普通に考えれば、アンデットは魔物として討伐される対象として見られているだろう。
【ユグドラシル】では、普通に【プレイヤー】が選択出来るキャラクターだったが、異世界で自分からアンデットになろうなんて考える者なんてそうそう居ない筈だ。
だとすれば、モモンガの姿を見ただけで敵対行動を示す可能性が高い。
そして、そんな事になればウルベルトもパンドラズ・アクターも、黙ってはいないだろう。
もちろん、佐助だってモモンガに敵対するつもりなら、相手が誰だろうが容赦するつもりはない。
つまり、だ。
出来るだけ穏便に行動するつもりなら、人の姿になるのは必須案件だと言っていいのである。
佐助本人は、【天狐】と言う種族であることもあり、スキルの【変幻自在】を使えば幾らでも好きな姿になれるので、ほぼ問題はない。
確か、ウルベルトも【人化】関連の魔法を一つ、必要に迫られて取っていた筈だ。
モモンガも、その気になれば幻影魔法が使えた筈だし、確か佐助が持っている【人化】のアイテムを使えば問題ないだろう。
この四人の中で、実はパンドラズ・アクターが一番問題だった。
パンドラズ・アクターの種族は、【
その気になれば、幾らでも人間の外見を取れると思われるかもしれないが、パンドラの様に四十五の枠のうち四十一を使用している場合は、微妙に話が違ってくる。
一時的に姿を変えているだけなら、それこそ幾らでも人間の姿になるのは可能だろうが、今回の場合は違う。
これから先、人前に出る時はずっと使用するが居そうだと考えれば、早々使える物が無い。
元々、パンドラズ・アクターはナザリックの宝物殿領域守護者として、外に出る事を想定されていなかった為に、二重の影として素の姿をそのまま基本外装に指定してしまったからだ。
つまり、これから改めて外装を設定してやらないと、パンドラズ・アクターを人前に出すのは難しいだろう。
「……さ……さん、佐助さん!
俺の声、聞こえてますか!?」
肩を叩かれつつ、そんな風に問い掛けてきたのはウルベルトだ。
どうやら、つい自分の考えに意識を向け過ぎていたせいで、モモンガたちが移動しようと声を掛けていた事に気付かなかったらしい。
何処か、心配そうにこちらの顔を覗き込むウルベルトに、佐助は慌てて手を振った。
「いやー……ウルベルトの旦那が装備を身に着けている間に、ちょっとだけのつもりでこれからの事を考えていたら、ついつい深く自分の思考に嵌っちゃってたみたい。
余計な心配かけて、済まなかったね旦那方。」
両手を合わせて、申し訳なさそうに頭を下げれば、ウルベルトもモモンガもホッとしたような顔をする。
どうやら、彼らに余計な心配をかけ過ぎてしまったらしい。
「もう、まだ安全な場所を確保していないんですから、そう言うのは後にしてくださいね、佐助さん。
入り口付近で、みんなの装備を回収する為に別行動させてる影分身に、問題が起きたんじゃないかって心配したし警戒もしたんですから!」
ピッと人差し指を立て、ぷりぷりと怒りながら駄目だしするモモンガに対して、佐助がちょっとだけふざけた様に拝む仕種を見せれば、横からウルベルトが頭目掛けて軽くチョップを入れつつ突っ込む。
「……ちょっとは反省してください、佐助さん。
まだ、何がどうなっているのか色々と確認不足の状況下で、佐助さん一人だけ負担が大きいんじゃないかって、真面目に心配しているんですから。」
正直、戦士職の佐助にとって魔法職のウルベルトの攻撃などほぼダメージを与えるものではないが、その言葉と合わせて聞けば思わず申し訳なくなる。
今佐助が考えていた事は、みんなで話し合って決めればいい事であり、佐助一人が気を揉む話じゃない。
それなのに、色々と考え過ぎた結果として彼らを心配させていたのだとしたら、これは反省するべきだろう。
「……ごめんね、みんな。
俺様、ちょーっと考えが先走ってた。
もう少し、冷静にならなきゃいけないのに。
そうだよね、今、こうしてこの場にいるのは俺様一人じゃないんだから、皆で話し合うべき事なのに……」
流石に、自分だけが先の事に気を回しすぎていた事に気付き、佐助はしょんぼりと肩を落とした。
別に、佐助はモモンガやウルベルト、そしてパンドラズ・アクターの事を信用していない訳じゃない。
それでも、先回りして色々と考えてしまったのは、佐助自身の【リアル】での仕事柄と言うべきだろうか。
もしかしたら、【前世】の影響も出ている可能性はあるが、その辺りは一先ず考えないことにして、だ。
どうやら、ウルベルトも装備をきちんと元の物に変えられたようだし、そろそろ先を急ぐべきだろう。
「……さて、佐助さんも心配は要らないようですし、先に進みましょうか。
ウルベルトさんの準備も出来ましたし。
余りモタモタいると、佐助さんの分身に追い付かれてしまいかねませんから。」
同じ事を考えていたのか、モモンガがスッと視線を世界級アイテムのある方に向けつつ、促すように声を掛ける。
それに頷くと、全員で世界級アイテムのある場所へと走り出したのだった。
*********
「………やはり、一つ足りませんね……」
まるで追いかけっこをするかのように、全員で駆け込んだ世界級アイテムの管理室で、思わぬ問題が一つ発覚していた。
仲間と共に、【ユグドラシル】で様々な冒険や戦闘をする事によって得た、この場所に収めて置いた筈の世界級アイテムの数が、どうしても一つ足りないのだ。
と言うか、この部屋に来た時点で、一つ欠けている状態なのがすぐに見て分かった。
何せ、誰の目で見ても判り易いように、きれいに並べて展示してあったのだ。
その状態で、一つ欠ければその場所が陳列台を残して開いている状態になる訳で。
もちろん、今回の宝物殿の一部だけの転移によって、陳列してあった台座から転がり落ちた可能性もあった。
だからこそ、全員で部屋中を探して回ったのだが……やはり、答えは【どこにも無い】だったのである。
この事実を前に、この場に居た四人全員で顔を突き合わせると、お互いに何か知っていないか情報を擦り合わせ始めた。
「まぁ……ここに入るには、【リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン】が無ければ無理だし、ギルメンの誰かが持ち出したって事で間違いないでしょうね。」
そう口に出して、状況を一つ明確にしたのはウルベルトだ。
確かに、現状では彼の言う通りなのだろう。
持ち出されたのは、広域範囲攻撃が出来て対物体最強の力を持つ
だが……既に引退したかそれ同然のギルメンが、【ナザリック地下大墳墓】を維持していたモモンガにも無断で、仲間と共に集めた世界級アイテムを勝手に持ち出していると言う事実が、佐助には何よりも不快で仕方がなかった。
そもそも、世界級アイテムを宝物殿の外に持ち出すなら、例え少数になっていたとしても、残っている面々からの承諾を得るべきだろう。
少なくても、ギルド長のモモンガに一言断りが有って然るべきだ。
だが、この場で世界級アイテムがなくて慌てふためくモモンガの様子を見れば、断りもなく持ち出したのは間違いなくて。
「……全く、一体誰でしょうかね、こんなふざけた真似をしでかしたのは。」
ついつい、怒りで声に力が籠る。
そんな佐助を宥めるように、その肩を軽く叩いたのはモモンガだった。
本当は、モモンガとて勝手をされた事に怒りを感じてもおかしくないのだが、佐助の方が先に怒ってしまったので、冷静に状況を判断出来てしまったのだろう。
「佐助さんの言いたい事も判りますが、今更怒ってもどうする事も出来ないですよね。
ナザリック内に残っているかどうかと言う事も、現状では確認が出来ませんし。
一応、パンドラに宝物殿へ出入りしたメンバーが誰なのか、確認を取る事なら出来ますが……」
視線を、それまで向けていた佐助から横に居たパンドラズ・アクターに移動させるモモンガの動きに合わせ、他の二人の視線も彼に向かう。
全員の視線を受け、パンドラズ・アクターは困惑したように顎に手を当てると、少しだけ考える素振りを見せる。
そして、答えに思い当たった所で口元に手を置くと、小さく頷いてから口を開いた。
「そうですね……モモンガ様も含め、宝物殿の奥の間にお越しになられた方は、ここ数か月はいらっしゃいません。
宝物殿の入り口と言うべき表の間の方には、度々金貨を補充にお越しになっていらっしゃったことは存じ上げておりますが……私とは顔を合わせる事無く御帰りになられていましたからね。
先程、モモンガ様たちが揃っていらっしゃる前にこの宝物殿にお越しになられたのは……半年ほど前でしょうか。
そう、タブラ・スマラグディナ様が突然ふらりと現れ、私に指輪を預けてこの霊廟奥の間に立ち入られていらっしゃいます。
霊廟から戻られた後、すぐに転移していかれましたが……そう言えば、普段とはどこか雰囲気が違っていらっしゃった様にも思えます。
何度も、霊廟の方を振り返っては首を振られていらっしゃいました。
私としては、あの霊廟の中にある【アヴァターラ】をご覧になられたからかと思っておりましたが……」
パンドラズ・アクターの証言と、最後にこの宝物殿に立ち入ったと言う状況的に考えるなら、世界級アイテムを持ち出したのは、ほぼ間違いなくタブラ・スマラグディナだろう。
そこで、ふとある事をウルベルトは思い出したらしい。
片手で帽子を手に取り、もう片方の手で軽く頭を掻き回しながら、頭が痛そうに呻くような声を上げる。
「確か……タブラさんは、守護者統括で王座の間の守護者でもあるアルベドに持ち出された
防御特化であるが故に、攻撃方面ではコキュートスやセバスなど他の僕に劣るからと言う理由で。
元々、アルベドの請け負う主な役割は、王座の間におけるモモンガさんの盾役なんだがなぁ……」
ウルベルトの言葉に、モモンガも佐助もかつてタブラ・スマラグディナが、この件をギルドの議案に出して、多数決で却下された一件を思い出していた。
そもそも、モモンガが世界級アイテムを個人所持しているのだって、ギルドメンバーから承認されたからこそ。
幾ら、ナザリックの守護者統括と言う立場に据えていたとしても、NPCに世界級アイテムを所持させるのを許可するのは難しいだろう。
それこそ、ナザリック内の転移機能を管理する【桜花聖域】の領域守護者のように、その特殊性から世界級アイテムを所持させているのとは、話が違うのだから。
とにかく、これで
パンドラズ・アクターに与えた能力から考えれば、隠密行動に特化した弐式炎雷が相手でも、発見可能な索敵能力を持つのだ。
そんな彼の目を逃れて、宝物殿内に侵入して世界級アイテムを持ち出す事が可能なのはギルメンには居ないし、弐式炎雷以上に隠密スピード特化した実力者のプレイヤーなど、ほぼ居ないだろう。
なので、タブラ・スマラグディナの名が上がり、持ち出す動機もしっかりある時点で、ほぼ確定案件だと考えて良いだろう、と佐助は幾つもの情報から正解と思しき答えを導き出す。
「あー……そんな事、言ってましたっけ……
そう考えると、タブラさんが持ち出してアルベドに装備させてる可能性が高い、と言う事になるのかな?
確かに、ここ一年位は【リアル】の方が忙しくなってて、俺様もモモンガの大将とナザリックの維持をする為の狩をしに行く以外は、短い時間を円卓の間で話して過ごして終わりだったっけ。
王座の間も、宝物殿の奥の間も確認している余裕なんて欠片も無かったから、こうしてタブラさんが勝手に持ち出してる事実すら気付けなかったもんねぇ。
でもまぁ、ナザリック内にある事がほぼ確定出来たって事で【良し】としますか。
もし、これでナザリックから勝手に持ち出して売り払ったとかだったら、タブラさんの事を軽く絞めてやらにゃダメだって思ってたからね!」
ニィッと口の端を上げながらそう告げると、モモンガとウルベルトの視線がそっと横に逸らされる。
どうやら、今まで仲間である彼らに見せていなかった、【リアル】での佐助の獲物を狙う笑みを見せてしまっていたらしい。
一先ず、足りない世界級アイテムの行方に関しては、ある程度まで推測出来たのでそろそろ移動しないと、予定が狂うと思った時である。
それまで、別行動をしていた佐助の分身の二人が、入り口からひょっこりと顔を覗かせたのは。
「どうやら、思っていた以上にここで時間を使ってしまったようですね。
彼らが、こうしてここまでやって来たと言う事は、既に【アヴァターラ】の装備の回収は全て終わったと考えるべきでしょう。
では、霊廟の外に移動しましょうか。」
モモンガの言葉に、誰もが同意するように頷くと、もう一度だけアイテムの回収し忘れが無いか確認しながら、霊廟の中を移動し始めたのだった。
と言う感じで、彼らは【真なる無】が宝物殿内から持ち出されている事実を知りました。
この話だと、王座の間に言ってませんから、当然アルベドが装備している姿も見てないんですよねぇ。
なので、それに関するやり取りが発生するのは当然だと思ってこうなりました。