戦国BASARAの佐助を、AOGの至高の一人として突っ込んでみた!   作:水城大地

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佐助さんの分身が、どれだけ便利かと言う話。
そして、ウルベルトさんから見た佐助さんについて。




霊廟前でのやり取りと、ウルベルトの心中

佐助の分身が、霊廟の中を確認しに入ってから、そろそろ五分が過ぎようとしていた。

 

佐助本人が何も言わないから、霊廟の中で何が起こっているのか、モモンガたちには良く解らない。

念の為に、霊廟の前に陣取って奥を覗き込んではみるものの、薄っすらとした明かりに照らされている霊廟内の様子は確認し難い為に、中の状況は余り確認出来ないと言っていいだろう。

一応、佐助の分身が奥に入ってから戦闘している様子は窺えないし、問題はなさそうだと思っていた時だった。

 

するりと、佐助の分身がこちらに戻ってきたのは。

 

「中の方を確認してきたけど、あれなら大丈夫でしょ。

特に、何もなかったし。

一応、念の為に【闇婆沙羅】も使って索敵したけど、罠も含めて問題なかったから。

問題の【アヴァターラ】も、俺様が持ってる指輪に反応する事なかったから、宝物殿内の罠そのものが一時的に機能停止してるのか、全面停止してるのかは、ちょっと判断に迷う所だけどね。」

 

色々と確認して来たらしい言葉に、全員は一先ずこのまま中に入れる事だけは確定した事にかんして、ホッと胸を撫で下ろす。

ただ……宝物殿内の罠とかが全て機能していないとすると、将来的に見て色々と問題がある事が増えてくるのは、ほぼ確実だった。

むしろ、ここを拠点として動くにしても、ここを一旦何らかの形で封印して動くにしても、現段階では情報が少な過ぎるだろう。

 

一先ず、先の事は奥にある世界級(ワールド)アイテムを回収してからの話になるだろうが。

 

取り敢えず、だ。

佐助の分身が偵察してくれたお陰で、霊廟内の移動に関しては安全な事は確認出来た。

後は、サクサク回収のために行動するだけなのだが……ここから先に進むにしても、最初の予定通りそれぞれの入り口に対して、何体かの召喚モンスターを置いておく必要があるだろう。

この場合、連絡用に素早いシャドーデーモンをウルベルトが受け持ち、壁役としてモモンガがデスナイトを呼ぶと言う事で、佐助の分身が戻るのを待つ間に合意が済んでいた。

パンドラズ・アクターには、他にもアイテム関連の鑑定などが待ち構えているので、一先ず召喚関連に関しては温存する事で話し合いも済んでいる。

と言うか、既に必要なモンスターに関しては、この場に召喚して配置済みだった。

 

「では、この中の安全も確認出来た事ですし、世界級(ワールド)アイテムと装備を取りに行きましょうか。」

 

全員の顔を見渡し、そう切り出したモモンガの言葉に誰もが同意する。

何時までも、のんびりしている時間はないのだ。

とにかく、確実に安全に休める場所としての活動拠点を確保する為にも、霊廟でのアイテム回収は短い時間で済ませた方がいいだろう。

 

「……一つ、みんなに提案があるんだけど、いいかな?

もし、みんなが構わないなら俺様の分身をもう一体召喚して、ウルベルトさん以外の装備はその分身たちに回収させないか?

装備回収と、世界級(ワールド)アイテムの回収とで二手に分かれた方が、多分効率が良いと思うんだよね。

時間が無いって事で急ぐなら、その方が絶対早いでしょ。

まぁ、【アヴァターラ】に身に付けさせてる装備の方が、どう考えても数が多いんだから、回収は世界級(ワールド)アイテムの方が先に終わると思うけど、それでもそこから残りを一気に回収した方が、全員で同時に掛かるより多分早いんじゃないかなって、俺様的には思う訳よ。

もちろん、一つくらい分身を増やしたとしても、俺様には特に負担はないからね!」

 

霊廟に向けて歩き出す寸前、佐助からそんな提案をされた事でモモンガたちの足が止まる。

最初の予定では、佐助の分身も装備を取り外す際の荷物持ちとして、このまま同行させる予定ではあった。

だが、確かに今の佐助の提案の方が効率は確実にいいだろう。

ウルベルトの装備は、霊廟でも中ほどに設置されている。

入り口付近の仲間の装備を、佐助の分身たちに任せる事が出来れば、ウルベルトの装備を回収した後にサクサクと世界級(ワールド)アイテムの回収に向かう事が可能だった。

 

「……あー、その方が確かに効率は良いですし、お願いしても良いですか?

佐助さんの分身は、霊廟の入り口から【アヴァターラ】の装備の回収をしてもらって、その間に俺達はウルベルトさんの装備を回収、そのまま奥の世界級(ワールド)アイテム回収に向かうと言う事で。

ウルベルトさんも、それで構わないですよね?」

 

佐助に同意しつつ、ウルベルトに確認を取るモモンガに、ウルベルトは苦笑しつつ頷いた。

ウルベルトからも同意を得られた事で、佐助は迷わす分身をもう一つ増やし、それらに指示を出す。

元々、【アヴァターラ】に飾られている装備アイテムは、全部神器級と言う貴重なものが多い。

だから、装備アイテムに関する取り扱い知識を、それぞれの分身に額を合わせる事で直接伝播して、共有化させているのだ。

 

「それじゃ、お前たちは先に霊廟に入って入り口から一体ずつ丁寧に装備を剥がしてくれ。

俺達はウルベルトの旦那の装備を取ったら、そのまま奥に向かって世界級アイテムを回収、その後に反対側から回収を始めるから。」

 

自分の分身達に、テキパキと指示を出している佐助を見ながら、ウルベルトは少しだけ思考の海に沈んでいた。

 

正直言って、ウルベルトは色々と佐助の使う【闇婆沙羅】については思う所もあるし、佐助本人にも言いたい事は沢山ある。

もし、こんな現状で余裕があまりない状況でなければ、切々と本人に【そのあり得なさ】について、文句を言っていただろうという自覚も、ウルベルトには十分あった。

なんと言っても、実際に【リアル】で佐助から【闇婆沙羅】を使われた事があるだけに、その思いは多分このメンバーの中で一番強いだろう。

 

だが……ウルベルトは佐助本人が嫌いかと問われれば、出会った時点ではどちらかと言うと友人として好きな部類に入っていたのだ。

 

ウルベルトは、【ユグドラシル】でモモンガと佐助が始めて顔を会わせた時に、PKに圧されていた佐助を一緒に救出に入ったメンバーの一人だった。

そもそも、始めて一月経っていない初心者レベルでありながら、レベル差を無視した強さでPKを撃退して単独でプレイしている異形種プレイヤーの噂を聞き付けて来たのはウルベルトである。

実際に彼が活動しているエリアに行ってみて、PKの襲撃から佐助の事を助けて見れば、中々見どころのあるプレイヤーだと思ったのも嘘ではない。

クランに誘ってみたが、色々と忙しいらしく【滅多にログインが出来ないから】と、申し訳なさそうに断られた時は、仲間になれない事が惜しいとすら思っていた。

だから、彼がギルドになった後にモモンガさんに誘われて加入したいと聞いた時だって、一も二もなく推挙者として名を連ねるのを了承したのだ。

彼が仲間になれば、微妙にギルド内での不協和音を発生させるウルベルトとたっちの関係も、ウルベルトと同じような立場のモモンガと佐助の二人によって調整されて、もっと楽しく遊べると思っていたから。

そう、ウルベルトは佐助も自分たち側の人間だと思っていたからこそ、彼に親しみを感じる友人の枠に収めていたのだ。

 

だからこそ、佐助の仕事の内容が、自分が敵だと認識している富裕層の番犬だと言う事を知って、余計に言い様の無い不快さを覚えてしまっただけで。

 

しかし、改めて冷静に佐助の立場になって考えてみれば、生きるためにはそれも仕方がなかった事位、ウルベルトにだって解る。

あの世界で、幼いころから戦闘能力が高くそれを生活の基盤に置くのなら、軍人になるか富裕層の番犬のような存在になるしかない。

特に、佐助はウルベルトやモモンガよりも早くに親を亡くしている。

普通なら、その時点で佐助の未来はかなり暗いものになっていた筈だった。

 

だが……実際にそうならなかったのは、かなり無理をしていた両親が残しただろう貯蓄分があったのと、佐助自身の生まれつきの身体能力の高さから、小学校を卒業したら警備会社へ就職する事を条件に、卒業までの学資を会社側から受けていたからである。

 

その話を、ナザリックで佐助と同じ忍者を選択してた弐式炎雷から又聞きの様に聞いた時、ウルベルトの胸に苦いものが込み上げていた。

事情を何も知らず、勝手な思い込みで佐助への態度を邪険なものにしていた、自分の浅はかさと愚かさに、だ。

そう……ウルベルトは、佐助の仕事を偶然話題に出て知ってから、彼の事をたっちと同じ位蛇蝎の様に嫌ってしまっていた。

 

敵に与する相手を、友人の枠に入れてしまっていた事を、無かった事にするために。

 

ウルベルトが憎いと思い、普通の貧民層でも避けるだろう富裕層の番犬なんて仕事を、どうして佐助が選んだのか考えもしなかったくせに、だ。

既に、ギルド内でウルベルトは佐助の事をたっち同様にあからさまに嫌う態度を見せていたから、今更最初の頃の様に仲良く出来るとは思えなかった。

佐助本人は、割とそんなに気にしている様子は見れなかったが、周囲が気にしてたっちと同様に余程の事情が無ければ一緒に戦闘する状況にはもっていかない状況だった事もあって、二人だけで話す機会にも恵まれなかった。

 

その結果、ウルベルトと佐助の仲は冷え切ったままウルベルトがログイン出来なくなるまで続いていたのである。

 

ウルベルトは、当時の事を振り返ってこう思う。

もし、もう少し自分から佐助と話すようにしていれば、彼との関係は変わったんじゃないか、と。

確かに、自分にとって憎い富裕層の番犬として警備会社の警備員が、佐助の仕事だった。

その事実は、本人が認めているのだから変わらないだろう。

しかし、だ。

その仕事に、本人が望んでついているかどうかなんて、佐助自身に聞いてみないと判らないじゃないか。

 

現に……佐助の場合、守ってくれる親も親戚もないまま、今の仕事先に青田買いの様に借金を背負わされていたから、そこに就職する以外にどうする事も出来なかっただけなのだ。

 

多分、本人にその事を尋ねれば、笑って【そんな事ないよ、ウルベルトの旦那】と言われるだろう。

それ位、今の自分の仕事に関して佐助本人が開き直っている事を、ウルベルトはここに連れて来られる前の会話によって知っている。

自分の家だと佐助が言った、あのベッドと端末以外は生活するのに必要な数日分の着替えがあるだけの、本当に何もないがらんどうの部屋で。

彼が、あっさりとそんな環境の中で【仕方がない】と開き直れた理由には、先程打ち明けられた【前世の記憶】も絡んでいるだろう事位、ウルベルトにだってすぐに想像は出来た。

 

彼の前世が、戦国時代を生きていた本物の忍びだったとすれば、むしろ【リアル】で警備会社に勤めてテロリストの始末をするのに抵抗が無いのも、むしろ納得がいく話なのだ。

 

前世も現世も、佐助が血なまぐさい環境で生きているのには変わらないが、それでも現世の方がまだ自由があったからこそ、彼は自分の意思で【ユグドラシル】をプレイし始め、ウルベルトやモモンガと知り合う事が出来たのである。

【ユグドラシル】での佐助は、自由奔放でありながら仲間を守る為になら本当に手段を択ばない、そんなプレイヤーだった。

忍者を選んでおきながら、戦場に出れば【忍ばない忍者】として名を馳せたのだって、佐助がそうしたいと思って動けるのは【ユグドラシル】の中だけだったからだ。

 

【リアル】での佐助は、何があっても富裕層に従う事を強制され、上からの命令以外で動く事は絶対に出来ない立場だったのだから。

 

それなのに、自分の意思ではどうにもならない、佐助の抱える事情を考えもせず、詰まらない事に拘って自分から疎遠になったのはウルベルトの方だ。

リアルの一件だって、冷静に考えれば佐助は本来ならテロリスト全てを処分しなければいけなかった筈。

それなのに、その中にウルベルトの姿を確認した事で、その命令を無視してウルベルトの事を助けている事は、どう考えても違反行為だ。

 

もし、それを上層部に知られたら、佐助本人が処分対象にならないだろうか?

 

そう考えれば、かなり危険な賭けをしてまで、佐助はウルベルトを助けてくれた事になる。

本人にすれば、【モモンガへの礼儀を果たさせる為】という目的があったからこその行動だろうが、今後の生活を考えるなら、無理をするべき事じゃなかったと、助けられた側のウルベルトですら思えるのに。

 

それでも……もし、佐助が己の立場を無視してウルベルトを助けてくれた理由の中に、少しでも友情を感じてくれていたのなら……嬉しいと思うのは、少し単純すぎるだろうか?

 

《……最初に邪険にしたのも俺なら、俺の方から歩み寄るのが、正しいよな?

とは言っても、あれで佐助さんはマイペースで、こちらの邪険な態度をさらりと流せるタイプだからなぁ。

こっちが気にし過ぎてるだけで、向こうはそんなに気にしてない気もする……

それでも、やっぱり助けられた礼は言うべきだよな。

これからは、お互いに協力体制で動くんだし。》

 

そう思いはするものの、実際にはその場でウルベルトの口から言葉は出なかった。

別に、今までの自分の態度を振り返ると、バツが悪すぎたとかではない。

事情を知らないモモンガと、【リアル】を知らないパンドラズ・アクターの前で、この話をしても良いとは思えなかったからだ。

特に、モモンガの前でこの話をするつもりは、今のウルベルトにはない。

もし話すとしたら、それは佐助との話が済んでからだろう。

 

彼は、ウルベルトと佐助が【リアル】で本当に殺し合う所だったのだと、無理に知る必要はないのだから。

 

「……ウルベルト様、どうかなさいましたか?

何か、気になることがまだございましたでしょうか?」

 

そんな風に、己の思考に潜り込んでいたウルベルトに、声を掛けたのはパンドラズ・アクターだった。

佐助とモモンガは、少し先に進んだ霊廟の入り口前に立って、動かないウルベルトを心配そうに見ている。

多分、二人が入り口前まで移動しているのは、ウルベルトがついて来るものだと思って、普通に移動を開始していたからだろう。

それに対して、最後尾を任されたパンドラズ・アクターは、立ったまま動かないウルベルトに気付いて、何かまだ不安要素が残っていたのかと、声を掛けてくれたのだ。

その状況に気付いたウルベルトは、目の前で首を傾げるパンドラズ・アクターの肩を軽く叩いてから苦笑した。

 

「いや……少しだけ、考え事をしていただけだ。

心配させて済まなかったな、パンドラ。」

 

そんな風に笑い掛けつつ、ウルベルトはモモンガたちが待つ霊廟の入口へと足を向けた。

 

 

 




余り話は進んでいないけど、ウルベルトさんが佐助の事をどう思っていたのか、その辺りをちょっとだけ掘り下げてみた。



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